停滞から次の一歩を踏み出すために

ありがたいことに継続的にアドバイザーとしてかかわっている学校がたくさんあります。学校によっても差がありますが、多くの学校は数年でよい変化が見られます。早いところは1年ほどで見違えるように変わります。しかし、そこから順調によい方向への変化が続くことがなかなか難しいように感じます。私の力不足を感じるところですが、よい状態を維持することが精一杯となることがよくあるのです。このことについて、自身の反省を含めて少し述べたいと思います

学校がよい方向へ素早く変わる条件は、目指す授業での子どもの姿が学校で共有されている、そしてそのための手段が具体的になっていることです。目指す姿が明確でなければ、取り組みへのエネルギーがわきません。具体的に何をやればいいのかわからなければ変りようがありません。学校全体で「○○をする」という行動目標に取り組むことが大切になります。

では、うまくいった学校が停滞してしまう原因は何でしょう。
1つは、当面の目標が達成されたあと次の目指す姿が描けないことがあります。苦しい状況にあった学校ほど、その状況から脱すると「これでいいじゃない」「苦労してここまで来たから、これ以上頑張らなくても・・・」となってしまうのです。
もう1つは、人の入れ替わりです。新しく来られた先生は目指す姿ができているところからのスタートです。どのようなことに取り組んできたかも知りません。また、このことが大切だと聞かされても、できている状態であるとその必然性を感じません。以前からの先生が地道な取り組みを続けていても、新しく来られた方は素直にやろうとしていただけないのです。
こういったことが原因で、今まで学校全体で取り組めていたことも一部の先生しかやらなくなり、先生や学級によって子どもの見せる姿がバラバラになってしまいます。次のステップに進むどころか、現状維持するのも難しくなってしまうのです。

このような状態からもう一歩前へ進むために必用なことは何でしょう。
年度当初に、今まで学校として目指してきたものが何であるかと、その実現のためにどのような取り組みをしていたのかを確認する。次に今年度目指すものをはっきりと示す。たとえ昨年度までと同じであったとしても、その理由も含めて再度明確にする。そして、学校全体で何に取り組むかを具体的に示す。新しいことだけでなく、継続すべきこともやってきたことだからと軽く扱わずにその価値を再度共有し、そのことの上に次があることを明確に伝える。
このようなことが必要だと思われます。今までの取り組みの価値づけと共有の上で次への一歩を提示するのです。
年度当初にこのようなことをするためには、この時期から準備をしなければいけません。特に、次の目指す姿はトップの強いリーダーシップがなければ、なかなか描くことができません。
私の反省は、このことを学校任せにしてきてきちんと伝えていなかったことです。2月には今年度最後の訪問をする学校がいくつかあります。次年度に向けて今何が必要なのかを共有したいと思っています。

堀裕嗣先生の講演で考える

本年度第6回の教師力アップセミナーに参加してきました。札幌市立北白石中学校の堀裕嗣先生の講演です。「教師力アップの極意」という演題で、力量形成系のお話が中心でした。

堀先生は、「教師力=スキル×キャラクター×チーム力」と定義しました。キャラクターというのは、一人ひとりの個性ということです。必ずしも人間的に優れている必要はありません。それぞれの個性を活かすことができればいいのです。このことは、チーム力と関係してきます。厳しい先生、優しい先生、面白い先生、いろいろな先生がいて、互いにチームとして補い合うことが大切だということです。自分のキャラクターに合った役割を演じればいいのです。学年の中に1人突出した力を持った先生が1人で突っ走ると、まわりの先生が迷惑をする。いくらスキルがあって、子どもたちの人気があったとしても、チームとして一緒にやって、いろいろと教えてくれないとまわりにとってはマイナスの存在になってしまう。チームという発想が大切だということです。私も、チーム力ということは学校経営の視点で大切にしていますが、教師力として考えたことはあまりなかったので新鮮でした。

堀先生のおっしゃることと同じかどうかはわかりませんが、このことに関して思い出すことがあります。私はそんな突出した力を持っていたわけではありませんが、当時の先輩から「君の授業の影で多くの先生が犠牲になっている」ということを言われたことがありました。自分としては子どもたちに学力をつけるために一生懸命に授業をし、かつ工夫もしていたのに、そのように言われたことはとても心外でした。他の先生の力がないだけでないか。そのようにも思いました。しかし先輩が伝えたかったことは、「私が頑張ることで、私の授業でエネルギーを使い切った子どもたちが、他の授業では集中力を失くす」「私の教科の勉強が大変なので、他の教科の手を抜く」、そういうことでした。その時の私は、自分の教科の結果だけを出せればいいという独りよがりだったのです。それからは、自分がかかわる学級については、他の教科とのバランスを意識するようになりました。

キャリアアップを考える時、スキルは自分のキャラクターにあったものを身につけることが大事であると話されます。私は、他の先生の授業から学ぶのに、「芸」に騙されるなとよく言います。ベテランや名人と呼ばれる方の授業には思わず真似をしたくなるような素晴らしいスキルがあります。しかし、それはその先生の個性(キャラクター)と結びついた、「芸」ともいえるものであることが多いのです。そのまま真似しても、まずうまくはいきません。そうではなく、その「芸」の中にある普遍的なものを見つけることが大切です。いろいろな方の素晴らしい授業を見せていただく機会が多いのですが、一見すると全く異なるように見えるスキルでも、根っこは同じであることが多いのです。素晴らしい授業は本質的に共通部分がたくさんあるのです。

スキルを身につけることは大切であるが、それに加えて「ネットワーク」が必要だということを言われます。1人でできることは限られています。1人で手に負えないときには他者の助けを借りることは大切です。そのためには人脈が必要なのです。
そしてもう1つ大切なのは、「人柄の良さ」ということです。本当によい必要はない。子どもや親に人柄が良いと思われることが大切だというのです。相手に聞いてもらえるかどうかは、正しいことを言ったかどうかではなく、人柄がいいかどうかで決まる。この人が言うことだから聞こうという気になるかどうかなのです。
このことについても、思うところがあります。生徒指導が上手い先生には共通点があるのです。子どもを厳しく指導しますが、日ごろは笑顔で子どもたちと接し、子どもたちを認め、子どもたちをよくほめるのです。子どもたちとの人間関係をしっかりとつくっているから厳しい指導にも子どもたちは従うのです。「キャリア=スキル+ネットワーク+人柄の良さ」という堀先生の定義に納得です。

堀先生は、教師に求められる資質は次のようなものだと考えられています。

第一にいつも笑顔でいること。
自分が大人になった姿を想像した時に、希望あふれるイメージを持たせたい。そのためには、子どもたちのまわりに、いつも笑顔、上機嫌で互いに仲のよい大人がいることが大切だと主張されます。子どもたちと先生が一緒に笑い合う瞬間をつくることが大切なのです。
子どもたちが自分の将来を明るいものと思えなければ、大人になることを拒絶します。刹那的な行動に走ります。こんな大人になりたいという手本が子どもたちのまわりにいることが大切になります。私は、地域の方に、大人になるのは素晴らしいことだと子どもたちに思わせるような大人であってほしいとお願いします。堀先生のお話に、そのことと通じるものを感じました。

第二に孤独に耐える力をもつこと。
子どもたちに損をさせないために、孤独に陥ることを恐れずに主張すべきことを主張するということです。損をさせないという言葉には、すこし引っかかるものがありますが、「子どものために」と置き換えれば納得のいくことです。

第三に無駄を大切にすること。
教師の仕事は、ムダになることがたくさんある。やんちゃな子どもの指導は98%がムダに終わる。でもやり続けなければならない。子どもたちと馬鹿げたビデオをつくること自体には何の意味もない、ムダなことに見える。しかし、学年の雰囲気づくりに役立っている。発案者が堀先生だということは、子どもたちは皆知っている。だから、厳しい指導をしても「仕方がない」と思ってくれる。正しいことを言ったかどうかではなく、誰が言ったかの「誰」になることが大切になるのです。

第四に必要なときに馬鹿になれること。
自分がバカになれるかどうかは、相手との関係で決まる。バカになれるということは、相手と仲がいいということ。そういう集団を目指さなければならない。つまらない自意識や、過剰な自意識から解放され、自分を相対化することで、相手との位置関係を正しく認識できる。そうすることで、対立しても落としどころを見つけることができるということです。

第五にいつでも変われること。いまを壊し、新しい自分になることを恐れないこと。
教師は、現状維持が好き。外圧がないと変わろうとしない。そういう殻を破ることが大切だということです。

続いて、現在の学年をどのように運営しているか、これらのことと関連づけながら具体的に話されました。面白いエピソードをたくさん聞くことができました。堀先生は少人数でのコミュニケーションを大切にされています。このことも、とても印象的でした。相手に応じたコミュニケーションを考えると少人数での対応になることは納得がいきます。コミュニケーションの場を作るための工夫もとても参考になるものでした。堀先生と同じことはなかなかできませんが、その考え方を自分に取り入れることはできます。

今回は教師力アップの入り口のお話しでしたが、その根底にあるものに思いをいたらせると、考えさせられることがたくさんありました。よい勉強の機会をいただけたことに感謝します。

反転授業について考える

ICTを活用した反転授業が話題になっています。
家庭で事前にビデオを見て予習し、学校ではその学習をもとに、問題を解いたり、個別指導をしたり、わからないことを教え合ったりするというものです。わからない子どもはビデオを何度も見直すことができるので、自分の理解のペースに応じた勉強ができる。学校では、講義をしないので、できない子どもに教師が個別指導をすることができ、問題演習の時間も確保できる。

何かを期待させる新しい発想に思えるのですが、根本的に引っかかることがあります。ビデオの授業はできの悪い一斉授業と同じく、一方的に教えるものです。もちろん思考を促す場面や問いかけなどはあるでしょうが、基本は子どもの状況にかかわらず一方的なものにならざるを得ません。もちろん何度も見ることでわかるよさはありますが、そのような授業で子どもが理解できるのであれば、教室で同じ講義をすればよいということです。いやいや、理解できない子どももいるかもしれないが、講義の時間がない分、学校で理解できない子どもに対応する時間を確保できるからよいのだという反論も聞こえてきそうです。その根底にあるのは、時間をかければ子どもに力をつけることができるという発想です。何度も述べていますが、小規模の学校では個別指導の時間が多く取れます。だからといって決して学力が高いという結果は出ていません。たとえ講義の時間がゼロになっても、教師が個別指導で何とかできることは限られています。かけた時間よりもその内容が問われるのが授業なのです。

また、一方的に教師が教えて、その内容を演習するのが授業だという発想も感じられます。例えば分数の割り算の考え方は教師が教えることなのでしょうか。そうではなく、割り算の意味、分数の意味をもとに子どもが自分たちで考えながら理解していくことが重要だと思います。知識として一方的に与えるようなものではないと考えます。
もちろん教えなければならないことはたくさんありますが、1時間の学習で一番大切な内容は、子どもたちの手で見つけていくことが大切だと思います。となれば、反転授業で予習をするのはいったいどんな内容になるのでしょうか。子どもは常に受け身で教えられるだけの存在になるのでしょうか。子どもを目の前にしての授業でも、全員に考えさせ、理解させることはとても難しいと感じています。反転授業で考える力をつけることはできるのでしょうか。

このような疑問や不安がたくさんわいてきます。まだまだ始まったばかり(日本では)の試みに対してネガティブなことを言うのは、あまりほめられた態度ではないことはよくわかっています。しかし、どうにも気になってしょうがないのです。私の考えていることなどは織り込み済みで、素晴らしいものがつくられつつあるのかもしれません。実際のところを見せていただく機会を得たのち、再度話題にしたいと思います。

家庭学習について考える

子どもたちに家庭学習の習慣がついていないということがよく言われます。保護者からは家庭学習をさせるために宿題をだしてほしいという声が聞こえてきます。家では勉強しないので塾に行かせるという家庭もあります。一方教師は、宿題という形ではなく、自分で予習や復習、学校の授業以外の学習に取り組んでほしいと願っています。家庭学習の問題はどのように考えればいいのでしょうか。

こうすればうまくいくというものはないと思いますが、一番の問題は子どもたちにとって家庭での学習が楽しくない、勉強は苦痛だと思っていることではないでしょうか。少なくとも携帯ゲームなどよりは魅力のないものだということです。与えられた作業を受け身でこなすことが学習であるならば、それも致し方のないことのように思います。宿題をたくさん出しても、受け身の時間が増えるだけで、勉強嫌いを増やすことになりかねません。教師はそのことを知っているので、宿題を出すことにはあまり積極的にならないのです。とはいえ、何も課題を与えなければ子どもたちは家庭で学習をしないので、算数や漢字のドリルや問題集を与えて宿題にしたり、自主的な学習課題としたりします。たとえ自主的であっても、結局は与えられた課題をこなすことには変わりありません。学習が楽しいものにはなかなかならないのです。

では、学習を楽しくするにはどのようなことが必要なのでしょうか。1つは自ら興味を持って取り組むことです。興味を持ってより深い知識を得たり、自分で課題を解決したりすることが学ぶ楽しさにつながります。そのためには、日ごろの授業の学習課題が子どもたちに興味を持たせるようなものであることが必要です。もっと知りたい、もっと学びたいという気持ちにさせることが求められます。ここで問題になるのは、子どもたちが興味を持っても、どのようにすれば家庭で学べるかという学習の方法を知らないことです。せっかく授業で興味を持たせても、これでは家庭学習につながりません。その方法を教えることが必要になります。例えば理科や社会であれば、関連する資料や書籍を紹介する。算数であれば、発展的な課題を提示する。そして、何を使って、どのように学習するのかを具体的に伝えることをするのです。このようなことを教え続ければ、次第に自分なりの学習スタイルを見つけることができるようになります。
そして、もう1つ大切なことは、子どもの自主的な学習を評価することです。教室では意図的にそういう場面をつくるようにします。もちろん、保護者が家庭で評価することも大切です。自主的に取り組んだことが評価されることで、より学習意欲が高まります。評価されることで、学習がより楽しくなるのです。

家庭学習の習慣をつけることはそれほど簡単ではありません。ここで示したやり方をすればうまくいくという保証はありませんが、少なくとも「勉強しなさい」ではないアプローチを工夫してほしいと思います。
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