用語や抽象的な概念を理解するための活動

子どもたちにとって、用語や抽象的な概念を言葉の定義だけから理解することはとても難しいことです。試験のために定義をそのまま覚える子どももいますが、それでは身についたとは言えません。本当に理解し活用できるようになるためにはどのような活動が必要なのでしょうか。

1つは具体例からその用語や概念の必要性に迫ることです。
たとえば、正三角形や二等辺三角形といった用語を教えるとき、いきなり定義から始めるのではなく、仲間分けから始めます。活動を通じて、いくつかのグループに分かれることに気づき、それぞれに特徴があることがわかります。これらを区別する必然性ができるので、用語を定義することが自然な流れとなります。子どもの視点で仲間分けの規則も見えているので、それを整理して用語を定義します。

ある学校で、野外活動にむけて、TPOを踏まえた行動をとることを考えさせる場面に出会いました。この時、TPOとは何かから始まっていたのですが、「時(Time)、場所(Place)、場合(Occasion)に応じたふさわしい服装(行動)を選ぶこと」といってもなかなかピンときません。「電車の中で友だちとおしゃべりするときはどんなことに気をつける?」「じゃあ、休み時間の教室では?」「何が違うのかな?」といった具体的な場面での行動を問いかけ、子どもたちが何を意識して行動を変えているかを取り上げます。自分たちが意識していることを整理していくことで「TPO」という考え方にたどり着けます。このようにすることで、自然に用語や考え方を理解することができるのです。

もう1つの方法は、逆に定義を具体的な場面に適用することです。
先ほどの三角形の例であれば、いろいろな三角形を提示してその名前を問います。ここで、大切なのは、ただ名前を言うだけでなくその根拠を示させることです。

「この三角形は何三角形? ○○さん」
「二等辺三角形です」
「理由は?」
「この辺とこの辺が同じだからです」
「何が同じなの?」
「長さ」
「もう一度言ってくれる」
「この辺とこの辺の長さが同じだから」
「同じだから?」
「二等辺三角形です」
「なるほど。だから二等辺三角形になるんだ」
「二等辺三角形ってどんな三角形のことだった? △△さん」
「2つの辺の長さが等しい三角形」
「なるほど、だからこの三角形は二等辺三角形になるんだ」
・・・

中学校の社会科で「ファシズム」の説明を求められた子どもが教科書をそのまま読んでいる場面に出合いました。「反民主主義、反自由主義を掲げる全体主義の政治」といった教科書の言葉を読むだけでは本当にわかっているかどうかは疑問です。こういう場合も、具体的にナチスやファシスト党のおこなったことを取り上げ、どれがファシズムと言えるものなのか、それはこの定義のどこがあてはまるかを考えさせることで、より理解が進みます。その上で、もう一度子どもの言葉で定義し直すと自分のものとなっていきます。抽象化された概念を具体に当てはめることで理解させ、自分の言葉で再構成するのです。

いずれにしても抽象と具体に関連をつけて行き来することがポイントとなります。具体例をもとに抽象化する、抽象的な概念を具体的な場面で活用する。このような活動を大切にしてほしいと思います。
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