他学年の教科書を見る

自腹を切っても全学年の教科書を買えとよく言われます。今指導している内容が他の学年ではどのように扱われているかを知ることがとても大切だからです。

学校では、同じ領域の内容を何度も分けて学習します。これから学習する内容と関係する他の学年の教科書を横に並べてじっくり読み比べることで、共通していること、違っていること、新しく教えることが明確になります。共通のことは、基本となるものですから、復習・練習などを通じて確実に定着させる。違っていることはその違いを明確にして混乱させないようにする。新しく教えることはなぜそのような考えが必要になるのか、次の学年とどのようにつながるかを意識して押さえるべきポイントを明確にする。こういったことを意識します。また、校種が違うと互いの教科書は意識しないと見ることができません。小学校6年や中学校1年であれば、互いの教科書も確認しておくことが大切です。

算数・数学の関数領域の例です。
小学校でも中学校でも表を利用しています。変化の様子を見るのに表はとても便利な道具で、ずっと使い続けるものであることがよくわかります。したがって、表から何がわかるか、どんなよさがあるかしっかりと子どもたちが理解している必要があります。そのためにどんな活動をすればよいか考えることが教材研究です。
また、小学校の表と中学校での表を比べると違いに気づくはずです。小学校では値ごとに区切りの縦線が引かれますが、中学校では縦線がありません。この違いの意味がわからなければ、押さえるべきポイントがわからなくなってしまいます。小学校で扱うものは、離散量(自然数など)なので1の次は2と必ず隣の数がはっきりします。中学校では連続量(実数など)なので隣の数を明確に決めることができません。それが理由で縦線を引いていないのです。ですから、表に値を入れるとき「1の次に何が入る」といった発問が大切になります。小学校では、「2」となるところが、中学校では、「本当に2?」と聞き返すことで、連続性を意識させ、グラフの点がつながることにつなげていくわけです。

他学年の教科書を比較しながら読み込んでいくことで、子どもたちはどのようなことを積み重ねているのか、それはこの先どのように発展していくのかが理解できます。自ずと授業でのポイントが明確になっていきます。すべての教科書を購入するのが難しくても、必要なところを都度コピーすることはできるはずです。いろいろな資料を探すよりまずは身近な教科書をうまく活用してほしいと思います。

発問や指示を具体性のレベルで整理する

教材研究では、発問や指示とそれに続く子どもたちの活動を考えることが大切な要素です。ここで、意識してほしいことは、個々の教材で考える前に、期待する子どもたちの活動を引き出すための基本となる発問や指示を具体性のレベルに分けて整理しておくことです。
例えば「・・・を考えよう」という発問は教師にとっては期待する活動が明確でも、子どもにとっては抽象的で何をすればよいかわかりにくいことがよくあります。抽象度が高いのです。

例えば、社会科などでよくつかわれる、資料から「わかること、気づくこと」という発問を考えてみましょう。ただ漠然と資料を見ていてもなかなか気づくことはできません。何か基準となるものがあって、それと比較することで初めていろいろなことに気がつきます。したがって、基準の対象を明確にすることで、発問を具体的にできます。「『・・・と比べて、』わかること、気づくこと」とすればよいのです。「・・・と比べて、『同じもの、違うもの』は何」とすれば比較の視点をより具体的にできます。また、変則として、期待する活動をしなければゴールにたどり着かない発問というのもあります。この例であれば、「どちらが・・・だろう」と聞くことで比較を促し、その根拠を問うことで、「わかること、気づくこと」を引き出すのです。

「考えよう」→「特徴は・・・」→「いいところ、悪いところは・・・」
「・・・について調べよう」→「何を使って調べるといい」→「・・・を使って・・・」
「問題を解こう」→「気づくことは何」→「似た問題はないかな」→「前にやったこの問題の解き方覚えている」→「・・・を使って解いてみよう」
「観察しよう」→「何に注目する」、「何と比べる」→「・・・に注目して」、「・・・と比較して」
・・・

具体的あればいいのではありません。抽象的で多様な考えを引き出す発問はある意味理想です。しかし、そこに至るまでには、基本となる活動をたくさん経験しなければなりません。子どもの状態や教材によって使い分けるのです。
また、教材ごとにどのレベルの発問や指示を使うか考えることは、子どもに期待する活動を明確にすることでもあります。日ごろよく使う発問や指示を、期待する活動ごとに具体性のレベルで整理しておくことで、教材研究の幅が広がります。

前提となる力を考える

教材研究をおこなう時に意識してほしいことの一つに、前提となる力を考えることがあります。

例えば、小数の学習であれば整数の計算ができる。数直線の意味がわかっている。・・・
必要となる知識や技能、考え方などの力が身についていなければ、いくら子どもたちがその時間に積極的に学習に取り組んでもつまずいてしまいます。
そうならないためには、1時間の授業を進めるにあたって必要な最低限の力を考え、子どもたちに定着しているか確認し、状況に応じて対応する必要があります。
授業の最初に復習の形で確認する。事前に簡単なテストをする。・・・
確認するだけで、思い出すこともよくあります。その上で、不十分だと判断した場合にどうするかを考えておかなければなりません。
一部の子どもであれば、授業とは別の形でフォローする。全体であれば、時間をとってまとめて復習をする。進め方を工夫して、ポイントポイントで少しずつ復習の場面をつくる。・・・

教材研究をするときは、どうしても新たに学習する事項に目がいきがちです。しかし、前提となっている力が身についていないといくら工夫した授業をしてもなかなか身につきません。前提となる力をちょっと確認する、復習することで、子どもたちはスムーズに新しい学習内容に向かうことができます。前提となる力は教材の表面をなぞっても見えてきません。意識して読み取ろうとしてほしいと思います。

基本のスタイルを持つ

若い先生には、教材研究を進めるにあたって、まず基本となる授業の進め方のスタイルを持つことをお話しします。
この基本のスタイルについては大きく2つあります。

一つは教科としての1時間の授業の大まかな流れです。
算数であれば、
授業の初めに、計算練習をする。前時の復習をおこなう。本時の課題を知る。全体で課題を把握する。個別に(グループで)課題に取り組む。意見を交換する。課題を解決する。問題演習をする。・・・
といったものです。
もちろん必ず毎時間同じである必要はありませんが、こうした基本の流れを持っていると、教材に対して何を考えるかの視点はっきりします。

もう一つは、教材の領域、種類ごとの基本のスタイルです。
国語の説明文であれば、
筆者の考え、その根拠、具体例等を抜き出す。その関係を図に示して整理する。全体を要約する。・・・
といったものです。
その上で、その具体的なやり方を整理しておきます。具体的なものを持っていなければ、絵に描いた餅になってしまうからです。

例えば、抜き出すやり方であれば、

まず考えだけに線を引き、次にその根拠を探す。
文を読みながら、一文ずつ何に該当するか色分けして線を引く。
ワークシートにそれぞれを抜き書きする。
・・・

といったいくつかのやり方と、子どもに要求される力、よさなどのそれぞれの特徴を明確にしておくのです。やり方の特徴と、個々の教材の難易度、子どもたちの力とのバランスを考えることで、教材をどう扱えばよいか見えてきます。

教科ごとの流れ。算数・数学の図形、理科の実験、社会科の調べ学習、英語の会話、体育の鉄棒・・・、といった領域ごとのながれ。それぞれの基本のスタイルを持つことは、教師の教材研究を効率的にしてくれます。また、子どもにとっても何をどのように取り組めばよいかがわかりやすく、安心して課題に取り組むことができるというメリットがあります。

とはいえ、経験の浅い先生方にとって、いきなり多くの領域のスタイルを持つことは大変厳しいと思います。日々の教材研究で、目先の教材にとらわれるのではなく、この領域の基本のスタイルは何かを意識することで、一つずつ増やしてほしいと思います。この積み重ねが数年後には大きな力となるのです。

子どもの活動から考える

教材研究を始める第一歩は、目の前にある教材は子どもにどんな力をつけるためにあるのか、このことをきちんと考えることです。そこをはっきりさせずに、どんな発問をするのか、説明をするのか、活動をさせるのかといった各論に入っても迷路に迷い込んでしまいます。その上で、その力がついたということは、子どもがどんな場面で何ができればよいかを明確にします。問題を解ける。発問に対して、答えられる。あることがらを説明できる。できるだけ具体的にします。

つぎに、子どもたちがそうなるためにどのような活動をする必要があるかを考えます。どんな説明をするかという教師の活動ではなく、子どもの活動です。教師が説明することも必要です。その場合、その説明に続いてどんな活動をさせるか考えてみます。説明した事を使って問題を解かせる。説明を理解するために友だち同士で説明させる。・・・

そこで、その活動に子どもたちがうまく取り組めるようにするために、教師はどのような働きかけをするとよいのかを考えます。教師の説明はついては、ここでもう一度見直します。友だち同士説明させるなら、発問を工夫して子どもが自身で気づけるようにできないか。問題を解かせるなら、問題を解く過程で気づかせることはできないかと考えます。

例えば、国語の物語の教材を考えてみます。天気が主人公の気持ちを表していることから、読み取りをする場面を考えてみましょう。
教師が、天気が変化していることから、これは主人公の気持ちを表していると説明する。そこで、ではそれぞれどんな気持か考えてみようと発問する。
この流れに対して、子どもが天気から主人公の気持ちを考えるのであれば、子どもがそこに気づくような発問や流れはないかと考えます。「天気」がキーなので、「天気」に注目させることはできないか。そこで、「この段落と前の段落で何が違う」といった発問を考えます。
子どもから「天気」も「主人公の気持ち」も出てきたら最高ですが、「天気」しか出ないことも考えます。「天気」は一旦置いておいて、2つの段落での「主人公の気持ち」を考えさせる。「主人公の気持ちはどう」と問いかける。というように発問を考えていきます。
この流れが正解ということではありません。最終的に、この流れより最初の方がよいという判断をすることもあると思います。教材を使って学ぶのは子どもです。子どもは活動することで、学んでいきます。大切なのは、教材を使う子どもの活動をどうすればよりよいものにできるかという視点で考えることです。教師の活動の合間に子どもの活動があるのではなく、子どもの活動の合間に、教師が何をするかという発想を持ってほしいと思います。

教材研究の前に

若い先生から、教材研究をどうやればいいのかわからないということをよく聞かれます。どのレベルから話をすればよいか迷うこともよくあります。一つひとつの教材についてどのようにして授業の流れをつくるのか、そのための資料や参考になるものの見つけ方なのか、そもそも授業の作り方なのか。
実は具体的に教材研究について話す前に、次のようなことを先生に問いかけたりお願いしたりします。

例えば国語であれば、「物語は子どもにどんな力つける教材、説明文は、詩は、文法は」といったように、教材のカテゴリーごとの大きなねらいを明確にすることです。ときには、「国語ってどんな力をつけるの、社会は」と教科の意義を聞くこともあります。この教材観・教科観というものがしっかりしていないと、一つひとつの教材に対して何を大切すればよいのか、教材のどこに注目すればよいのかはっきりしないからです。

また、多くの教科で学年ごとに同じカテゴリーの内容を学習します。子どもの成長にともない何が新たに加わっていくのか、何が必要なくなっていくのか、何が変わらないのか。このことをしっかり意識するようにお願いします。
新たに加わるということは、その内容に取り組めるベースがその時点でできているはずだということです。そのベースはいつどのようにして身についているのか考える必要があります。
変わらないものはその教科の根幹をなすものです。つねにそのことが身についているか問い続ける必要があります。
こういったことを意識することで、大切にすること、こだわりすぎないことが明確になります。
小学校であれば6年生までの教科書を一度は目を通しておくこと、特に高学年であれば、中学校の内容も、中学校であれば、小学校高学年の内容と高校の内容も把握しておく必要があります。

とはいえ、すぐにしっかりした教材観・教科観をもったり、広い視点での教科内容の把握ができるようになるわけではありません。日々の教材研究に取り組む中で、個々の教材が子どもにどのような力をつけることをねらっているのか、それが過去の学習内容や、これからの学習内容とどうかかわっているのかを常に問いかけることで身につけていってほしいと思います。
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