1年間を見通した学級づくり、授業づくりの本

画像1 画像1
私が小学校の授業のことを考える時にいつも参考にしているのが、今年の4月から「授業と学び研究所」のフェローとなられた、元豊田市の小学校校長の和田裕枝先生の授業です。
その和田先生がこの度「学級づくりカレンダーをもとに創るわくわく算数授業」という本を出されました。

和田先生の授業をはじめて見たのは、今から10年以上も前のことです。2学期だったのですが、「こんな曖昧な発問で子どもが答えられるわけがない。あれ、どうして子どもたちは次々に答えるのだろうか?」と疑問が次々にわきこりました。どうしても子どもの目線で授業を見たいと思い、たまたま一番後ろの子どもが欠席していたので、その座席にずうずうしく座って見続けました。素晴らしいテンポで子どもたちがどんどん発言し、子どもの言葉で授業は進んで行きます。小学生がここまでできるのかと驚きました。「この授業は結果であって、4月に何をしているのかが問題だ」「きっとこういうことをしているはずだ」といった、「子どもたちの素晴らしい姿」と「その姿をこのようにしてつくったのでないかという予想」を、これまでにないほどメモしていました。
この後、直接お話を聞く機会や4月の授業を参観する機会をつくっていただき、小学生がどこまで育つのかという可能性と、どう育てればよいのかという具体的な方法について深く学ぶことができました。和田先生との出会いがなければ、小学校での授業経験のない私が、小学校で授業アドバイスをすることはなかったのではないかと思います。

1学期の終わりになっても一つひとつ細かく指示を出している学級によく出会います。この時期であれば、もう教師の指示はほとんど必要なくなっているはずです。指示してできるようになれば、指示をしなくても、ワークシートを配ればすぐに名前を書き、めあてを板書すればすぐに写せるようになっていなければなりません。
和田先生の素晴らしいところは、1年間を見通して子どもをしっかりと育てていることです。この時期までに子どもをどういう風に育てたいかが明確で、そのためにどうかかわるべきかが具体的になっているのです。「学級づくりカレンダーをもとに創るわくわく算数授業」では、私が和田先生から学んだ1年を見通した学級づくりが、「学級づくりカレンダー」としてわかりやすく具体的に記されています。「あの時この本が手元にあれば、あれほど悩まずに済んだのに」と、ちょっと恨めしい思いです。

また、「子どもの言葉を活かす」ことを目指している先生にたくさん出会いますが、実現はそれほど簡単ではありません。この本には、「子どもが主体的に発言をし、その発言がつながって考えが深まる」という、「子どもの言葉を活かす」授業をつくるための、教材研究のやり方や授業の進め方が、算数の授業を具体例にしてわかりやすく書かれています。和田先生は「主体的・対話的で深い学び」をすでに実現されていたのです。この本を読んで、私がいかに和田先生から影響を受けているのかをあらためて実感しました。

多くの先生に読んでいただきたい本なのですが、残念ながら一般の書店では手に入らないようです。愛知教育大学の生協に問い合わせてほしいとのことでした。私が授業アドバイスさせていただいている学校であれば、事前に連絡いただければ訪問日にお届けします。
一人でも多くの先生の手元にこの本が届くことを願っています。

国語教師以外にも読んでほしい本

画像1 画像1
私が国語の授業を見る時に必ず意識する先生がお二人います。野口芳宏先生と伊藤彰敏先生です。このお二人なら「この言葉をどのように受けるだろうか?」「この場面ではどのような発問をされるだろうか?」といつも心の中で問いかけながら見ています。国語の授業に対する私の基礎をつくっていただいた方たちです。そのお一人の伊藤彰敏先生が、明治図書から「国語嫌いな生徒の学習意欲を高める!中学校国語科授業の腕を磨く指導技術50」というご本を出されました。

伊藤彰敏先生とは学校現場やいろいろな会でご一緒させていただくことが多く、その度に多くのことを学ばせていただき、また、自分の未熟さに気づかされています。何気なく見える指導技術も、そこに至るまでの多くの研究、研鑽と、それを支える子どもたちへの強い思いがあってのことです。
かつて伊藤先生の授業を見た時、指導案では想定されていなかった本文中の言葉を子どもが発言したことがありました。伊藤先生はその子どもの言葉を活かして予定とは違う流れで見事に授業を進められました。授業後どうして瞬間的に授業の流れを切り変えることができたのかをたずねたところ、一言「教材研究です」と言って本文のコピーを貼り合わせて巻紙のようにしたものを見せてくださいました。そこには、重要な言葉に線が引かれ、文や段落の関係が線で結ばれ、色々なポイントがびっしりと書き込まれていました。その子どもが答えた言葉にもしっかりと線が引かれ、全体との関係がわかるようになっていました。これだけの教材研究をしていたから、この言葉からでも授業をつくれると判断し流れを変えることができたのでしょう。

この本には、この教材研究の方法についてもしっかりと書かれています。しかし、これを読んで、私にはそこまではとても無理だとしり込みしてしまう方もいるかもしれません。もちろん、だれもが最初からそこまでできるわけではありません。伊藤先生も若いころは今とは全く違った授業をされていたそうです。焦らず、一歩ずつ授業を改善していけばよいのです。この本を読むことで、そのための視点や姿勢が見えてくると思います。どういう視点で授業をつくればいいのだろうか、子どもに寄り添って授業をつくるとはどういうことだろうかということが行間からにじみ出ているのです。
伊藤先生の授業技術をまねることで授業はよくなると思いますが、たとえ自分のやり方にこだわったとしても、この視点や姿勢を身に付けることで、自ずと授業の質は上がっていくと思います。

また、今流行りのアクティブ・ラーニングという視点から見ると、伊藤先生の授業は古いタイプに見えるかもしれません。しかし、形だけペアやグループの活動をしてもそれは活動しているだけで、子どもたちが深い学びをしているわけではありません。教えるべきこと、考えるための材料、深い学びを生み出すための課題といったことがきちんと準備されていて初めて深い学びが成り立つのです。アクティブ・ラーニングという言葉は新しいかもしれませんが、子どもたちがアクティブで深い学びが成立している授業は、この言葉が言われる以前からたくさんありました。子どもたちがかかわる必然性のある場面では、ペアやグループの活動も取り入れられていました。伊藤先生の授業には、アクティブ・ラーニングの原点というべき考え方がその根底にしっかりとあります。形だけのアクティブ・ラーニングではなく、真のアクティブ・ラーニングを考えるきっかけを私に与えてくれました。

中学校の国語の先生だけでなく、小学校の先生にも、高等学校の国語の先生にも、いやすべての先生方に是非読んでいただきたい書籍です。きっと自分の授業を改善するきっかけを得られると思います。
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30