子どもの発言量を増やす

教師が質問するとなかなか口を開いてくれない子どもも、友だちから聞かれると一生懸命答えようとします。このことから子どもの発言量を増やすことを考えてみたいと思います。

基本的に教師は答えを知っている人です。ある意味教室では絶対者です。その教師に答えを問われるということは、自分の発言を間違っているかどうか高いところか判定されることになります。間違いと言われたくないので、どうしても発言しづらくなります。よほど答えに自信がない限りプレッシャーがかかってくるのです。
一方友だちは、対等な関係なので意見が言いやすいのです。ですからペアやグループで相談することは子どもの発言を増やすための確実な方法なのです。

このとき注意しなければいけないのは、友だちの発言に否定的なことを言わない雰囲気をつくることです。互いに認め合える状態は子どもたちだけではつくれません。教師が子どもとの日ごろのやり取りの中で受容的な態度を取っていることが大切です。子どもは教師の鏡なのです。
また、できる子がグループ全体を仕切ってしまわないような注意も必要です。できる子が絶対者になってしまうと、他の子は引いてしまいます。できる子ほど待てる、聞ける力をつけてほしいのです。
司会などの役割は決めずに、話すことより聞くことが大切であると常に伝え、相手の顔を見て、うなずきながら聞くことなどを指導することが大切です。

では、全体指導の場で発言を増やすにはどうすればよいのでしょうか。
子どもの発言を引き出すにはで述べたことのほか、正解、不正解を判断しない問いかけが有効です。

「考えたことを教えて」
「○○と思った」
「なるほど、同じように考えた人いるかな。ああ何人かいるね」
「それで、そのあとどうなった」
・・・

「どんなことをやってみた」
「△△をやってみた」
「なるほど、それでどんなことがわかった」
・・・

子どもの発言量を増やすためには、安心して話せる状況が必要です。教師と子ども、子ども同士、いずれの場合も否定的な言葉がでない、互いの発言を聞き合える受容的な雰囲気作りを心掛けてほしいと思います。

答え合わせをどうする

問題を解いた後は答え合わせをするのが普通ですが、漫然と正解の確認をしているだけのこともよくあります。答え合わせは何を意識すべきなのかを考えてみたいと思います。

まず一番に意識してほしいのは、どのようにすればできなかった子どもができるようになるのかということです。

知識の確認や復習の問題は覚えているかどうかの問題なので、正解を示せばよいように思います。しかし、単に正解を示してそれを写させてもその知識は定着しません。既習事項であれば教科書やノートに答えがあるはずですから、自分で調べればよいのです。もし答え確認したければ、まずどこで習ったか、どこに書いてあるかを発表させて自分で確認させるのです。こうすることで、より定着を図ることができます。

「今から復習をしよう。どうしてもわからなかったら教科書やノートを見ていいからね」
・・・
「これはどこでやったか教えてくれる」
「○○です」
「わからなかった人、見つかったかな」

教科書や資料を調べるような問題も同様に、答えでなくどこで見つけたかを発表させればよいのです。

では、知識ではなく、考え方や途中が大切な問題の場合はどうでしょう。
子どもに正解を言わせて教師、または子どもが説明するパターンが多いと思います。答えや説明を板書することも多いはずです。このとき、これが正解ということを先に示すと、正解した子どもは安心して集中力をなくします。一方間違っていた子どもは、きちんと正解をノートに写したいので、説明を聞くよりは板書を写すことの方に意識がいってしまいます。正解した子もできなかった子もきちんと参加して学びあえるようにする必要があります。

「Aさん、考えを教えて」
「・・・」
「なるほどね。Aさんと考えが似ているという人いる? じゃあBさんの考えを聞かせて」
「・・・」
「なるほど。二人の考えを聞いて納得した人」
「じゃあCさん黒板に書いてくれるかな。みんなは自分でノートに書いてね」
・・・

このように、正解した子どもの活躍の場を増やすと同時に、できなかった子が友だちの考えを聞いて再度挑戦できるような時間を確保することがポイントです。できていない子どもが多いようであれば、いきなり答え合わせをせず、途中で一旦作業を止めて、ヒントになることを子どもから引き出しておくことも有効です。また、板書は答えだけでなく、答えを導くための過程や視点が残されていることが大切です。正解だけが書かれたノートを見てもできるようにはならないからです。

正解を示して説明すればできるようになるわけではありません。答え合わせは、できた子どもを活躍させながら、どういう活動を加えればできなかった子ができるようになるかを工夫してほしいと思います。

メモを取る

授業中に子どもがメモを取る姿を見ることがほとんどありません。教師が大切なことを板書してくれるので、それを写しておけば困らないからです。
しかし、子どもたちに自分で整理し、まとめる力をつけるためにはメモを取る力をつけることが必要です。子どもたちにメモをとる力をつけるためにどのようにすればよいのでしょうか。

まずメモをとる必然性を作る必要があります。いろいろな考えや意見を発表させてその結果をまとめていく。このような作業ではメモを取ることは大切になります。
しかし、突然メモを取るように言ってもすぐにできるわけではありません。そこで、黒板を使って教師がメモをとります。

「今の意見、ここがよかったね。メモしておこう」

「今の意見を聞いて、なるほどと思ったところはどこか聞かせて」
「○○です」
「ありがとう。ここにメモしておくね」

このメモを使ってまとめていくことで、メモの取り方とその使い方を教えていくのです。
メモの取り方がわかってくれば、今度は子どもにメモをとらせるようにします。

「友だちの意見を聞いて、大切なことはメモしてね」
・・・
「どんなことをメモしたか聞かせて。なるほどと思ったらメモに付け加えていいよ」
・・・

ここで発表されたメモの内容を板書して全体でまとめの作業に入ってもいいですし、個人やグループでまとめの作業をして発表させるのもいいでしょう。

いつも教師が整理してまとめた板書を写すのではなく、自分で整理する力をつけることは大切です。メモを取る力をつけることはそのための第一歩なのです。

言語活動を支える力をつける

指導要領の改定で、言語活動の充実が言われるようになりました。言語活動にはコミュニケーションと言語化による思考の整理・深化という2つの側面があると思います。ここで、忘れてはならないのが子どもたちの語彙力です。いくら理解しようとしても、いくら伝えたいことがあっても言葉の意味がわからなければ話になりません。語彙力をつけるためにどのようなことに気をつければよいのでしょうか。

国語の時間にあらかじめわからない言葉の意味を調べることがあります。子どもたちは辞書で調べた言葉をノートにきちんと写しています。にもかかわらず、その言葉が使われている文の意味が理解できないことがよくあります。なぜこんなことが起こるのでしょう。
これは、子どもたちがもとの文に戻って言葉の意味を理解しようとせず、単に辞書に書かれていることを写しているからなのです。言葉によっては複数の意味が辞書に載っていますが、どの意味で使われているのかを考えずに最初に書いてある説明を写していることもあります。これでは語彙力はつきません。一問一答の「○○はどういう意味ですか」には答えられても、実際に使うことはできないのです。

わからない言葉に出会ったときには、前後関係からどういう意味か想像し、そのうえで調べることが大切です。こうすることで、その使われ方も含めて理解できます。ですから、わからない言葉に線を引いて、後からまとめて調べたり、教師があらかじめワークシートに言葉を書きだして調べさせるようなやり方は、必ず本文に戻って意味を確認するというステップを入れる必要があります。

語彙力をつけるためには、生きた言葉に出会うことです。教師は子どもたちにわかる言葉で話すことをいつも意識しています。しかし、時には子どもたちが知らない言葉であってもその場面にふさわしい言葉を選んで使うことが大切です。子どもたちがその状況から言葉の意味を自然に理解できることもよくあります。あとから教師が説明したり、時には話を中断して辞書を引かせることもよいでしょう。国語の時間だけでなく、すべての時間で子どもたちの語彙力を高めることを意識してほしいと思います。

オープンカンニングの発想

フラッシュカードを使って、一斉に発音練習をする。教師の後に続いて全員で音読する。学級全体で一斉に同じことをする場面がよくあります。このような場面では、基本的に全員が答えられる、参加できるような活動であることが多いように思います。
ところが予定と違ってぱらぱらとしか反応が返ってこないため、教師が戸惑ってしまうのを目にすることがあります。どのように対応すればよいのでしょうか?

例えば英語で問いかけて、答えがほとんど返ってこなかったような場合、教師がやさしい言葉に言い換えたり、質問を日本語に変えたりします。
こういう対応をすると、

「今の質問はわからなくてもよかったんだ」
「わからないときは教師がフォローしてくれる」

と思ってしまいます。
また、真剣に考えている子どもは情報が増えるのでかえって混乱することもあります。

こういうときは、ゆっくりと同じ質問を繰り返します。ほんの数人でも正しく答えてくれれば、教師は大きくうなずきこの答えでよいことを示します。もし違っていれば、ゆっくり首を横にふってもう一度考えることを促します。これを何度か繰り返すとだんだん声が大きくなり最後には全員がきちんと答えるようになります。そこで、次に進めばよいのです。

問題に関するヒントを与えるよりは、考えることに集中させる、まわりの声に耳を傾けさせることの方が効果的です。友だちの答えを聞いて、ああこう答えればいいんだとわかれば、教師に教えられたのではなく自分で解決したと思います。
一斉に活動させる場面では、このオープンカンニングの発想をうまく使ってほしいと思います。

後だしじゃんけんをしない

資料をもとに考えさせる場面で、用意した資料を全部見せずに、決定的な資料は教師が解説する時の根拠としてとっておくことがあります。見せないことで、子どもたちの考えが広がることをねらっているのですが、実際にはどうなのでしょうか。

社会科の授業の例です。明治政府が基盤を固めていく過程の学習で、鉄道敷設の苦労から当時の政府の状況を考えさせる場面です。
教師は、鉄道の路線図や錦絵を資料として与え、子どもたちから鉄道が海を通っていること気づかせました。そこで、「なぜ、わざわざ海を走らせたのか」と質問をして、グループで考えさせました。

景色がいいから
鉄道を通す場所がなかった
土地を買収できなかった
・・・

いろいろな意見が出ますが、そこから先へは進みません。資料集には根拠となる資料がなかったし、また他の資料を探す手段も用意されていなかったのです。

グループ活動の後、話し合いの結果を発表させますが、発表を聞いて「なるほど」「そういう考えもある」とは思っても、結論づけることはできません。そこで教師が、明治政府の信用や威光がないため、土地を売ってもらえなかった。そのために海を通した。資金もないため、鉄道敷設のために外国から借金をしたことを解説し、最後に、当時の海沿いの土地の写真を資料として見せました。海沿いに小さな家がたくさん建っている写真です。この写真を見れば土地を買収する必要があることが一目でわかるすばらしい資料です。授業者は苦労してこの資料を見つけたそうです。ですから最後に子どもたちを納得させる資料として使いたかったのでしょう。

子どもたちは、納得するというより、

「えっ、そんな資料があるなら先に見せてくれればよかったのに」

と釈然としない様子でした。後だしじゃんけんをされたような気持ちになったのでしょう。

しかし、子どもたちにその資料を与えていればどうだったでしょう。買収できなかったことにすぐに気づき、本時の目標である当時の明治政府の状況を考えることに自然につながったはずです。
最初から与えては考えが広まらないと思うのであれば、途中で子どもたちに「どんな資料がほしい」と聞いてやればよいでしょう。そこで、「じゃあ、こんな資料があるけどどうかな」といって与えればよいのです。

教師だけが根拠となる資料を持っていて、それを根拠として解説されると、せっかく子どもたちが自分で考えようとしていても、最後は教師の説明を聞けばいいのだと受身になってしまいます。
必要な資料は子どもたちに与えて話し合い、子どもと一緒に結論にたどりつくようにしてほしいと思います。

必然性のある場面をどうつくる

子どもの学習意欲を高めるための大切な要素として、学ぶ必然性があります。学ぶことが役に立つ、必要であると感じれば、当然一生懸命課題に取り組むからです。では、学ぶ必然性のある場面をつくるには、どういうことを意識すればよいのでしょうか。

基本はゴールが明確であることです。ゴールにたどり着くために必要であることが学ぶ必然性につながります。

色の塗り方を工夫して絵を描くことを考えてみましょう。「今日は○○の絵を描く」だけではゴールはまだ明確ではありません。今までの子どもの作品を見せる、その絵のよさを子どもが感じる、あんな絵が描きたいと思う。こういう過程が必要になります。その過程で「色の塗り方に工夫がされている」ということに気づかせればよいのです。

次に意識したいのは、学んだこととそれを活かす場面はできるだけ近接させるということです。

先ほどの絵の例で、下絵を描いてから色を塗る作業に入るのであれば、色の塗り方の工夫を具体的に考えさせるのは、下絵を描いた後がよいということです。
下絵も描いていない状態で自分がどんな絵を描くかも明確でなければ、先輩の作品を見て色の塗り方の工夫について考えても、その必要性をあまり感じません。「さあ今からどんな風に色を塗ろう」と思っているときであれば、先輩の工夫から学ぶことに必然性があります。

「下絵が描けた人は、色を塗ってもらいます。塗り始める前にもう一度先輩の作品を見て、ここがいいなと思うところがあったら真似していいからね。どんなところを真似したかあとで教えてね」

このような指示を出すことで、集中して先輩の絵から学びます。

子どもたちが学ぶ必然性をどうすればより感じることができるか意識して、授業をつくっていただきたいと思います。

一人ひとりの活動量を確保する

挙手をした子どもを教師が指名する。子どもの発言を受けて次の発問をする。この連続で進む授業は、子どもが活躍するよい授業に思えます。ところが、実際に発言しているこどもはごく一部に限られていて、他の多くの子どもは受身であったり、全く話についていけてなかったりします。貴重な授業時間を無駄にしています。授業では、一人ひとりの活動量をきちんと確保する必要があるのです。

一人ひとりが話を聞いて考えていれば、それはきちんと活動していることになります。しかし、そればかりでは集中力が続きません。自分の考えを発言したり、主体的に参加する必要があります。しかし、全体の場では、同時に一人しか発言できません。子どもたちが主体的に活動するには効率が悪いのです。

個人作業をそのための時間ととらえることもできますが、わからないとそこで止まってしまいますし、自分の考えを外化してそれに対する他者の考えを聞くこともできません。活動の幅が狭いのです。

・個人作業でも、わからなければ友だちに聞く。聞かれたらきちんと説明する。
・考えを隣同士で言いあう。周りの人と相談する。
・グループで相談する。

このような時間を取り入れることで一人ひとりの活動量が確保でき、授業の密度が上がります。子どもたち一人ひとりに目を向け、きちんと活動できているかを意識するようにしてほしいと思います。
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