事前に子どもの考えを知ることの落とし穴

子どもがどんな考えを持っているかを知るために、机間指導でチェックしたり、グループでの話し合いをそばで聞くことはよくあります。この後の全体での追究場面で生かすためです。最初にこの意見を出させて、次はこの子にあてて、最後はこの意見で締めよう。このような進め方のシナリオをつくることもよくあります。このこと自体は決して間違いではないのですが、注意してほしいことがいくつかあります。

教師が指名する時にあらかじめその子がどのような答えをするかわかっているため、子どもの発言が不完全でも教師は理解できてしまいます。しかし、他の子どもたちは初めて聞くのですから、教師よりも理解度は落ちます。子どもたちが発言を理解できず、考えが全体に広がっていないのに教師が次々指名して、教師の予定した結論に導いてしまうこともあります。教師はあらかじめシナリオをつくっているので、子どもの状況を把握することより、予定した通りに進めることを優先してしまうからです。

また、全体の場で出てきた意見を受けて考えが変わることもあります。当然、教師が予定していた意見を子どもが言ってくれないこともあります。そのようなとき、「ノートに書いたことを言って」と無理やり予定した発言を引きだそうとすると、子どもは自分が最初に発言したことを否定されたような気持ちになってしまいます。

事前に把握している子どもの考えにとらわれず、出てきた意見をきちんと子どもたちに広げて、子どもたちの反応に応じて、時には予定したシナリオを捨てることも必要です。事前に子どもたちの考えを知ることが悪いことではありません。それにとらわれず、子どもたちの状況に柔軟に対応することが大切なのです。

ほめることは難しい?

子どもたちをほめて伸ばすということが、よくいわれます。ところが、このほめることがうまくできない、ほめ方を教えてくれという相談がよくあります。中には、「悪いところばかりの子どもをどうやってほめるの?」と質問する方もいます。子どもたちをほめるには、難しいことなのでしょうか、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。

まず、ほめる観点が具体的であることが大切です。「積極的に取り組んでいる」ことをほめるのであれば、それがどのような子どもの姿でわかるのかを明確にすることです。そして、どのような場面で見られるかを明確にしておくことです。具体的な姿を意識して、その姿が見られる場面をつくることで、子どものよい姿を見つけることができるのです。見ようとしないと見られないのです。

また、教師の中に絶対的な基準があって、これができればほめるという発想だと、どうしても能力の高い子、よい子ばかりがほめられることになります。教師にはどうしても完璧を求める傾向があります。最終目標は高くてよいのですが、そこに足りないところを見つけて指摘するのではなく、出来たところまでをほめるのです。こうして、一人ひとりの成長したところ、できたことをほめるようにすればすべての子どもをほめることができます。

「Aさん、プリントが配られてすぐに名前を書いたね。えらいね」
「Bさん、すぐに鉛筆を持ったね。やる気があっていいね」

こんなことでも、普段なかなかできない子であれば、ほめていいのです。全員を同じ基準で見るのではなく、個人内相対評価をしてあげることが必要です。

教師が子どもたち一人ひとりのほめたい姿を明確にして、その姿を見ようとすれば、ほめることは難しくないはずです。

挙手の様子から何がわかる

授業中に子どもの挙手を求める場面がよくあります。勢いよく手が挙がる子、ゆっくりと手が挙がる子、まわりを見ながら手を挙げる子いろいろです。挙手の様子から何がわかるのでしょうか。そして、どのように対処すればよいのでしょうか。

勢いよく手が挙がるのは、自信のあるとき、指名されたいときです。大きな声を出したり、指名してもらおうとわざと目立つ行動を取ったりもします。子どもと教師の人間関係がよいと、子どもは正解して教師にほめてもらいたいのでこの傾向が強くなります。勢い余って指名されないのに答えてしまったりもします。他の子が答えると、「言われたー」とがっかりします。こういう状態を続けると、子どもと教師の関係はいいが、子ども同士の関係があまりよくない学級になってしまいます。
対応としては、一つの問いに対してできるだけたくさんの子どもを指名することです。教師が「正解」という言葉を言わない限り何人でも指名できます。

「Aさんはどう思った?」
「○○です」
「なるほど、○○と思ったんだ。Bさんは?」
「えっ。Aさんと同じですが・・・」
「もう一度言ってみて」
「○○です」
「なるほど、Aさんとおなじだね」
「Cさんは?」

このようにすれば、子どもは友だちと同じ考えでも指名して答えられるので、落ち着いて手を挙げるようになります。
また、同じ答えの人を確認したり、次に指名する子どもは根拠を聞くようにするのもよいでしょう。

「Aさんと同じ考えの人手を挙げて」
「Bさん。どのようにして考えた」
「△△です」
「なるほど、△△と考えたんだ。Aさん、Bさんの考えを聞いてどう思った」

このようにして、子ども同士をつなげていくと、子ども同士の関係もよくなっていきます。

友だちの発言の後、すぐに勢いよく手が挙がるのは、発言を聞こうとする気持より自分の意見を発表したい気持ちが強いときです。逆に手がゆっくり挙がるのは、友だちの発言をきちんと受け止めているときです。友だちの発言を聞くようにするには、友だちの発言を聞く必然性をつくることです。

「Aさんは○○と言ってくれたけど、それについてどう思う」
「Aさんは○○と言ってくれたけど、なるほどと思った人」
「Aさんは○○と言ってくれたけど、その理由を説明できる人」

教師が友だちの発言を聞く必然性をつくることで、自然に友だちの発言を聞くようになります。

まわりを見ながら挙手する子どもは自信のない子です。多くの子が手を挙げる中では、できないと思われたくないのでわかっていなくても手を挙げている場合もあります。正解以外が評価されない学級で起こりやすい状況です。
わからないことを積極的に評価する。不正解でも否定しないことが大切です。

「この問題よくわからない人手を挙げて」
「わからないことをはっきりできる人は偉いね。Aさんどこがわからない」
「□□がわかりません。なるほど、Aさんありがとう。じゃ□□をみんなで考えてみよう」
・・・
「Aさんのおかげでよく考えることができたね」

誰でもできないことから出発する、できないことができるための第一歩であることを子どもたちに伝えることが大切です。

ノートにはよい意見が書いてあるのになかなか挙手してくれない子には、机間指導の時に○をつけたり、よい意見だから発表するようにお願いしておきます。また、挙手だけに頼らず、教師が指名してもよいでしょう。

「いい意見だね。あとで発表してね」
「Aさんのノートにとてもいい意見が書いてあったんだけど、聞かせてくれる」

挙手の様子からも子どもたちのいろいろな状況がわかります。自分の学級の状況に応じて挙手の後の対応を工夫してみてください。

机間指導のポイント

子どもに作業をさせているとき、教師はまず間違いなく机間指導(支援)をします。ノートに○をつける、できない子の指導をする。なかには、漫然と子どもたちの間を散歩しているように見える方もいます。
机間指導とは何に注意をして何をすればよいのでしょうか?

机間指導は個別指導のチャンスでもありますが、大切なのは全体を把握することだと思います。まずは、全体を見回して支援が必要な子どもどのくらいいるかを確認します。数人であれば、すぐにその子たちのところへ行って、指示の確認や必要な支援を行います。もし、多くの子どもたちが手のつかない状態であれば、作業を中止させて全体で再度説明しなければなりません。
注意しなければいけないのは、一人の子どもにかかりきりになってしまわないことです。手詰まりになっている子に一生懸命に個人授業をしていると、全体の様子が見えません。他にも支援が必要な子がいるかもしれませんし、できてしまった子が遊んでいるかもしれません。子どもたちの間をまわって、個別に○をつけたり、アドバイスをしているときも必ず、移動の間に全体の様子を把握する必要があります。

では、できない子やつまずいている子を見つけたらどうすればよいのでしょう。大切なのは、事前に子どもたちがどのようなつまずきをするかを予測しそれに対する簡単なアドバイスや声掛けを考えておくことです。こうすることで、一人の子に多くの時間を割かずにすむわけです。このとき、わざと大きな声でアドバイスすると同じようなつまずきをしている子が自分で気づいてくれることもあります。また、すべて教師一人で対応しようとせずに、まわりと相談するように促すこともよい方法です。

机間指導では、できない子をきちんと指導しようとするのではなく、まずは、動きが止まっている子どもが動き出すためのきっかけを与えることと、子どもたちのつまずきの状態を把握し次の場面での指導に生かすための情報を集めることに注意するとよいと思います。

間違いは本人に修正させる

子どもの発言が間違っているときやおかしなものであったときの教師の対応は難しいものがあります。対応によっては、子どもがやる気をなくしてしまいます。どのようにすればいのでしょう。

例え間違いでも、否定から入ってはいけません。「違います」の一言でせっかくやる気で発言した子どもの意欲は無くなってしまいます。
また、否定はしなくても「他にない」とすぐに他の子に聞けば、「ああ、やっぱりダメだった」と思ってしまいます。
まずどんな答えでも認めることです。そのうえで、考えをもう一度整理させたり、深めさせる必要があります。時には、子どもの答えをそのまま復唱するだけで間違いに気づくこともあります。

「○○○だと思います」
「なるほど、○○○と考えたんだ。それってどういうことかな」
「△△△だから・・・。あれ、へんだな」

このように教師が聞き返すことが、子どもの考えの修正につながります。

他の子の意見を聞かせて、考えを修正させることも有効です。

「○○○だと思います」
「なるほど、Aさんは○○○と考えたんだ。Bさんはどう考えた」
「◎◎◎です」
「なるほど、Bさんは◎◎◎と考えたんだ。Cさんは」
「私も□□□だから、◎◎◎だと思います。なるほど、◎◎◎が多いけど、Aさんどう?」
「違ってた。○○○だ」
「どこで気づいた」
「Cさんの説明でわかった」
「そうか、Cさんの説明がよかったんだ。Cさんすごいね。それをよく聞いてわかったAさんもいいね」

教師が正解を押し付けたり、否定したりして考えを修正するのではなく、できるだけ教師と子ども、子ども同士の肯定的、受容的な関わりの中で、間違えた本人自身で修正することが理想です。簡単なことではありませんが、子どもの意欲を高めるためにも挑戦してほしいと思います。

「わかった」は禁句!?

授業中に教師がよく使う言葉に、「わかった」があります。

「この問題がわかった人?」
「わかったこと聞かせて」

このような使われ方をよく目にします。
私は、この「わかった」という言葉を「禁句」にしてくださいとお願いしています。
「わかった人」「わかったこと」と聞かれれば、わかった子しか挙手できません。常にわかっている子のペースで授業が進みます。手をかけなければいけない「わからない子」が参加できないまま進んでいきます。

「気づいたことや考えたことを聞かせて」
「わからないことを教えて」

と、できるだけどの子も参加しやすいように聞いてあげる必要があります。

また、説明の後に「わかった?」と聞かれると、子どもの立場では「わかりなさい」という強迫とも感じられます。

「Aさん答えて」
「わかりません」
「・・・だから、・・・だよね。だから答えはこうだね。Aさんわかった?」
「わかりました」

このように教師が一生懸命に説明してくれた後では、よくわからなくても「わかりません」となかなか言えないものです。子どもが立たされたままであれば、早く座って解放されたいのでなおさらです。

「わかりました」
「じゃあ、自分の言葉で説明してくれる」
「・・・」

このように、実際に確認するとわかっていないことがよくあります。しかし、教師の方も、ここで「わからない」と言われると授業が進まないのであえて確認をしないことも多いようです。その結果、教師の説明の後「わかった」と聞かれると、とりあえず子どもは「わかった」と答え、教師はそれ以上追及しないという、暗黙の不可侵条約が結ばれてしまうのです。

「わかった」結果ではなく、「わからない」こと「わかる」過程を大切にして、わからない子が参加できる授業にしていただきたいと思います。

授業後の質問は複数で

定期テスト前の中学・高校では、職員室前に質問に来る生徒の姿がたくさん見られます。こういった授業後の質問の場面も、子どもたちの人間関係を作り、学び合いをさせることに大いに役立ちます。

私は、授業に関する質問は、3〜4人の複数で来るように指導するとよいとお話しています。もちろん、一緒に質問する人が見つからなければ、1人でもよいとは伝えます。その理由には、

一緒に質問する友だちを探す時に、わかっている人に出会えばそこで教えてもらうことで子ども同士の学び合いで解決できる。

複数に対して説明すると、全員が理解できなくても、その中の一人でも理解できれば、その子に説明させることにより子ども同士で解決できる。

今、どの子とどの子の仲がよいといった、子ども同士の人間関係を知ることができる。また、どうしても一人でしか来られない子がいれば、その子は友だち関係がうまくいってない可能性があることを察知できる。

などがあります。

このようにすることで、子どもが友だちと聞きあったり、一緒に勉強したりする機会が増えていきます。
学び合いということがよく言われますが、授業時間内だけでなく、いろいろな場面で意識するとよいと思います。

時間を与えることの意味

子どもに問題を解かせたりワークシートなどの作業をさせたりしている時に、「まだできていない人がいるから、あと○分あげるね」と作業時間を延長する場面によく出会います。また、発問して子どもの手が挙がらない時に、「もう少し考えて」と待つ場面もよくあります。このように子どもに時間を与えることについて少し考えてみたいと思います。

「全員ができてほしい」
「少しでも多くの子どもに考えてほしい」

教師であればだれでもが願うことです。しかし、子どもに時間を与えればできるようになるのでしょうか? 与えられた時間、考え続けることができるのでしょうか?

例えば、与えられたプリントが終わらない子どもの状況を考えてみましょう。
計算が遅い、調べるのが遅いなど作業スピードの問題で時間が足りないのであれば、作業が遅い子には与えられた時間は有効です。ただし、作業が速い子にはその時間が無駄にならないような工夫が必要です。(参考:作業スピードの差をどう埋めるか)
注意が必要なのは、単に作業スピードの問題でない場合です。子どもは「時間が足りない」以外の理由で行き詰っているのですから、単に時間を与えるのではなく、その原因を取り除く必要あります。そのための手立てをせずに時間を延長しても、「できる子は与えられた時間遊んでいるだけ」「できなかった子は最後までできずに終わる」ことになり、結局時間の無駄になってしまいます。

この場合、子どもができない理由をきちんと判断して、必要に応じて友だちに聞くことを促したり、教科書等のどこを見るか具体的に指示する。一旦作業を止めて、見通しを全体で確認するなどした上で、時間を与えるようにする必要があります。

時間を与えることは、その時間が子どもにとって有用な時間になって初めて意味を持ちます。単に遊ぶ時間を増やす、手がつかないで苦しむ時間を増やさないようにしてください。

指示の後の子どもの動き

教師が課題や作業の指示を出した後の子どもの動きを見ていると、いろいろなことがわかります。

すぐに鉛筆を持って取り組もうとする時は、課題に対する意欲がある時、何をすればよいかというゴールが見えている時です。
実際の授業では、ここで子どもが止まってしまうことがあります。こういう時は、子どもが何をすればよいかよくわかっていないことが多いようです。周りの子に何をすればよいのかを聞く姿もよく見られます。

子どもがすぐに動き出さない時は、一旦作業を止めて、もう一度指示の内容をきちんと確認をする必要があります。

また、すぐに動き出しても、しばらくすると鉛筆を置いて動きが止まる時があります。これは、どうすればゴールにたどり着けるのか見通しが持てない時に多いようです。この状態がしばらく続くと、子どもは手遊びを始めたりして集中力を無くしてしまいます。
ここで注意しなければならないのは、単に集中するように個別に声をかけたり、できていないからといって作業時間を延長しないことです。見通しが持てないのですから、時間を与えてもなかなか解決できません。また、「わからない人はヒントを出すから聞いてね」と作業をさせたままで教師がヒントを出したりするのも、全体の集中を乱すのでよくありません。
ここは一旦作業を終了させて、全体で見通しの確認をする必要があります。
答えを発表するのではなく、最初の一手やヒントをできている子どもに発表させます。教師がヒントを出すと、できている子は分かっているので、聞く意欲を無くしてしまい、結果そのあと作業に戻っても、集中力を無くしたり、勝手に周りの子に教えてじゃまをしたりするようになるからです。

もう一つ注意して欲しいのが、できる子への指示です。できる子は早く終わるとすることが無いので、遊びだしたり、周りの子のじゃまをすることがあります。学級全体の集中力が落ちてきて、まだ途中の子も遊び始めてしまいます。手のつかない子は、できた子の存在がはっきりするので、プレッシャーを感じます。「できた人は、・・・をしましょう」と作業に入る前に指示をすることも忘れないようにしましょう。

指示の後の子どもの動きから、子どもの状況を把握して、「子どもに活動させているつもりが無駄な時間となってしまう」ことがないよう、素早く対処してください。
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