教師は子どもの発言を復唱しない方がいい?

「教師が子どもの発言を復唱するとよいですよ」というアドバイスをすると、「子どもが教師の発言を聞けばよいので、友だちの発言を聞かなくなるのでは」と質問されることあります。実際に「教師は子どもの発言を復唱しないように」と指導している地区もあります。本当のところはどうなのでしょうか?

まず大前提となるのが、教師が子どもの発言を復唱するときには、子どもの発言をできるだけそのまま復唱することです。例え間違いや不完全な答えでも、そのまま復唱することで、子どもは教師が自分を認めてくれたと感じるのです。復唱することの意味は教師が子どもを認めているという安心感を教室に作ることです。
ところが、教師は子どもが間違いのときには無視したり、逆に期待した答えに近いことを言ってくれると、今度はどんどん自分の言いたいことを足してしまいます。

「観察していてどんなことに気づいた。Aさん」
「泡が出た」
「他にはない」
「Bさん」
「白くなった」
「そうだよね。Bさんが言ってくれたように、石灰水の中に通すと白く濁ったよね」

これではAさんは「自分はダメだったんだ」と思いますし、Bさんも「あれ、自分の言ったことと違う。間違っていたのかな」と不安になります。自己有用感を持てませんし、教師との関係も作られません。
また、まわりの子は先生の言ったことが正しいと思うので、Bさんの発言を認めなくなります。

「観察していてどんなことに気づいた。Aさん」
「泡が出た」
「なるほど、泡が出たんだ」
「それってどこから出たの」
「ガラス管から」
「ガラス管からでたんだ。ガラス管から泡が出たときに気づいたことない」
「うーん」
「いいよ。じゃあ誰かAさんの代わりに答えてくれるかな。Bさん」
「白くなった」
「白くなったんだ。何が白くなった」
「石灰水」
「なるほど、石灰水が白くなったんだ」
「Aさん、どう」
「うん、思いだした。水が白くなった」
「そうだよね。水が・・・白くなった」
「石灰水が・・・」
「石灰水が白くなったんだ」
「じゃあ、AさんとBさんが言ってくれたことまとめてくれる人」

このように、子どもの言葉をそのまま復唱しながら、深めていくやり取りをすれば、子どもも達成感を持てますし、まわりの子も教師の言葉に反応しながら、友だちがどう答えるかを真剣に聞くようになります。

もちろん、いつも教師が復唱するのではなく、他の子に復唱させたり、評価させたりするなど、友だちの発言を聞く価値を持たせる工夫も必要になります。
教師と子どもの関係をつくるのに、子どもの発言を教師が「そのまま」復唱することは有効なことです。一律に「いい」「悪い」ではなく、学級の状況に応じて、教師が意図的に復唱を活用していただければと思います。

子どもが友だちの発言を聞かない理由

授業を参観していると、子どもが友だちの発言を聞いていないと感じることがよくあります。友だちの発言中も教師の方を向いていて、その内容に反応しない。教師が他の子どもの発言を求めると、ちゃんと反応する。授業には参加しているのに、友だちの発言は聞こうとしない。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。

このような授業に共通して感じるのは、子どもが友だちの発言を聞く必然性がないということです。

子どもの発言を受けて、「はい、正解」「いいですね」と言って、教師が一人で説明をする。
教師の求める答えでなければ「他には」とその発言は無視して次に行く。

このような進め方ですと、友だちの話を聞かなくても教師の発言を注意して聞いている方がよくわかるし効率的です。説明の後に要点を教師が板書してくれるのであれば、教師の話も聞く必要がありません。板書を写すことに専念すればよいのです。

では、聞く必然性はどうやって作ればよいのでしょうか。基本は子どもの発言できるだけ生かすことです。

「Aさんの説明を聞いて、なるほどと思った? 思った人、どこでなるほどと思ったか教えてくれる」

「Aさんの説明で納得した? よくわからない人もいるみたいだね。だれか、Aさんのかわりに、Aさんの考えを説明してくれる」

このように、子どもの発言を他の子どもにつないでいくようにするとよいでしょう。
また、友だちの発言を聞いていないと答えられない質問をすることも、聞く姿勢を作るためには有効です。

「今、Aさんがとてもいいこと言ってくれたけど、Bさんもう一度言ってくれる」
「わかりません」
「よく聞いてなかった? もったいなかったね。悪いけどAさんもう一度言ってくれる」
「・・・です」
「Aさんありがとう。Bさん言ってくれる」
「・・・です」
「Bさん、よく聞けたね」

このような場面では、友だちの発言を聞いていたことをきちんと評価することも忘れないようにしてください。

子どもが友だちの発言を聞かないのは、実は教師がそのことをちゃんと子どもに求めていないからなのです。

「みんな」という言葉は要注意

授業を参観していると、「みんなよく頑張ったね」「みんな分かった?」と、「みんな」を主語にした言葉をよく耳にします。この「みんな」という言葉にはちょっと注意が必要です。

「みんな」という言葉は、教師が子ども一人ひとりをきちんと見ていなくても使える言葉です。また、子ども一人ひとりの行動や理解は異なりますが、それらを「みんな」で代表させてしまうと、子どもがきちんと自分を評価できなくなったり、自分を主張できなくなったりします。

例えば、「みんな頑張ったね」と教師が言う時は、具体的に誰が何を頑張ったか、本当に一人残らず頑張っていたかを確認していないことがよくあります。子どももなんとなくほめられてうれしいのですが、きちんと自己評価できません。

「○○をやった人、手を挙げて」
「全員手が挙がったね。みんな頑張ったね」

このように、具体的に問いかけ、子どもが自己評価できることを大切にするとよいと思います。
ただ、全員の手が挙がらない時は、挙がらない子をきちんとケアする必要があります。

「A君は手が挙がらなかったけど、どういうことかな」
「あまり○○はちゃんとやらなかった」
「そうか、やらなかったか。でも、先生は、A君は△△をやって頑張ったと思うよ」
「みんな頑張ったね」

また、「みんな分かった」と聞いて、子どもが「はい」と元気よく返事を返してくれても、本当に全員分かったとは限りません。確かに大多数の子どもがわかっているのかもしれませんが、その陰には少数の分からない子がいることも多いのです。
「みんな」という言葉は、その中に入らない子どもを切り捨てる言葉にもなってしまいます。

教師が学級に語りかける時に便利な「みんな」という言葉ですが、その使い方には注意してほしいと思います。

テンションが上がる理由

教師が意図しないのに子どもたちのテンションが上がってしまう場面に出会うことがあります。その理由が分からないのでなかなかコントロールすることもできません。意図して子どもたちのテンションをよい状態に保つためにも、子どもたちのテンションが上がる理由を考えてみたいと思います。

子どもは友だちや教師に認められたいと思っています。教師と子どもの関係がよい学級では特に教師に認めてもらおうと積極的に挙手をして指名されたいと願います。その一方で、間違えたり、自分の考えを否定されたりすることには臆病で、自信がないとなかなか挙手もできません。したがって「分かる」「できる」こと、「自信を持つ」ことは子どものテンションを上げる要因の一つです。

また、間違いや自分の考えを否定される心配が無い状況であれば、安心して気軽に発表できるので、テンションが上がりやすくなります。教師と子ども、子ども同士が互いの考えを認めあえる学級であれば、どのような発言でも否定されることが無いので、当然テンションは上がります。このような学級では互いの発言を真剣に聞く姿勢ができているのでテンションが上がりすぎることもなく、程よいテンションが保たれます。

もう一つ気軽に発表できる要因があります。それは「無責任」です。根拠や理由を問われないのであれば、真剣に考える必要がありませんし、何を言っても言いっぱなしで済みます。「無責任」に発言できる状況であれば、簡単にテンションが上がります。クイズはその典型です。テンションを簡単に上げる手段としてよくつかわれますが、根拠や理由を問わずに続けているとテンションがどんどん上がっておさまりがつかなくなります。

テンションが上がりすぎていると感じる時は、「無責任」な発言や活動が許される状況になっていないかを意識してください。教師が根拠を必要としない問いかけをしていたり、子どもの発言や行動に対してその理由を問い返さなかったりしていることが原因であることがよくあります。テンションが上がる要因を意識して、適度なテンションを保てるよう工夫してください。

テンションを上げすぎない

教師の質問に子どもたちが次々に勢いよく挙手をし、指名された子どもが元気よく答える。
一見すると活発な授業場面ですが、往々にして子どもたちのテンションが上がりすぎていることあります。テンションが上がりすぎることの何が問題なのでしょうか?

まず、子どものテンションが上がると積極的になりますが、同時に受容的でなくなります。押しのけて発言しようとしたり、友だちの発言を聞かなくなったり、否定的になります。

指名されようと大きな声を出したり、目立つ動きをして教師の気を引こうとする。
友だちの発言が終わるとすぐに挙手をする。(相手の発言をきちんと受け止めていれば、その言葉を受け止めるための時間が必要です。挙手するまでに少し間が空くはずです)
友だちの発言を間違いだと判断した瞬間に、発言が終わらないうちに「はい」と挙手をしたり、「違ってる」と大きな声で指摘したりする。

こういう状態では、教室全体で共に学ぶ姿勢が崩れてしまいます。

そして、子どもたちのテンションが上がるとそれにつれて教師のテンションも上がってしまいます。子どもの大きな声を押さえようと教師の声が大きくなり、教師の注意がテンションの高い子どもにばかりにいってしまいます。テンションの高い子どもと教師だけで授業が進み、そのテンションについていけない子どもはどんどん冷めていき、授業に参加しなくなります。教師もそういう子どもたちを見逃しやすくなります。

子どもたちに活気のない授業では困りますが、子どもたちのテンションが上がりすぎることにも注意が必要です。

子どもの発言を引き出すには

学年が上がるにつれ、「子どもが意見を言わない」、「挙手しない」という声をよく耳にします。本当にそうなのでしょうか。

子どもの発表に対して、教師は「正解」や「自分に都合のよい意見」を期待しています。そのため、そうでない意見は無視したり、自分に都合がよいように子どもの意見を勝手に変えたりします。
正解以外は評価されないのでは、正解であると自信があるとき以外は発言できません。また、何を言っても、最後は教師が自分で言いたいことをまとめると気づけば、あえて自分が間違いかもしれない意見を言う必要はないと思います。
負の経験を積んでいくことで、子どもは発言しなくなるのです。

では、どうすればよいのでしょう。まず、どのよう発言でも認めることです。正解でも、不正解でも「はい、正解」「違うよ」などと言わずに認めるのです。

「・・・だと思います」
「なるほど、・・・だと考えたんだ」

では、正解、不正解を教師が判断せずにどうやって子どもに判断させるのでしょうか。一問一答にせずに、何人にも聞けばよいのです。
教師が正解と言わなければ、何人にでも聞けます。最低3人に聞くようにしてほしいと思っています。3人とも正解であれば、「みんな同じようだけどいいかな」と確認して終わればよいのです。
もし、異なる答えが出たなら、

「Aさんと違う考えだね」
「Aさんはどう思う」

このように、子ども同士をつなげばよいのです。多くの場合、間違えた子は再度確認すると、自分で間違いを訂正します。

「あっ違っていた。・・・です」
「なるほど、・・・なんだ。自分の考えを訂正できるのはいいことだね」

このように、訂正できることをポジティブに評価します。
どうしても、異なった答えが収束しないときは、まわりと相談させたりしながら、できるだけ子どもたちの力で解決するようにします。

大切なことは、何を言っても受け止めてもらえる。例え間違いでも、意見を言うことに価値がある。自分の意見がみんなの役に立った。このように子どもが感じられるような対応を心掛けることです。

まず全員を動かす

授業で「分からない人は手を挙げて」というように、子どもに何らかの動きをさせることで評価をする場面がよくあります。子どもが手を挙げないので大丈夫だと思ったら、かなりの数の子どもが理解できていなかったということはよくあります。分かっていない子はなかなか自分ができないこと表明しづらいものです。そのため、動かなかったり、動くまでに時間がかかったりします。何か行動を起こさせるにはかなりのエネルギーが必要なのです。

そこで、こういうときは、まず全員を一斉に動かします。そのあと、分かった人はもとの状態に戻るように指示します。

「全員手を挙げて。挙がったね」
「では、分かった人は手を下して」

「全員一度立ってみよう」
「分かった人は席に座って」

このやり方ですと、最初の行動は全員同じ行動なので、無理なく動かせます。次の行動は、明確に意思表示できる子以外はすぐには動きません。はっきりと分かっていると言えない子は、しばらくしてから動き出します。このときの子どもの反応速度や動き方を見ることで学級全体の理解の状態がよくわかります。

知識から考えることへどうつなぐか

知識は教えるか、調べるしかありません。知識の確認は覚えているかいないかです。では、そこから考えることにつなげるにはどんな方法があるでしょうか?

「・・・はどういう意味ですか? わからない人は辞書で調べて」
「・・・という意味です」
「では、この言葉を使って短文を作ってみましょう」

「仕事の定義を言ってください」
「力×力の方向に動いた距離です」
「では、この場合の仕事はどうなるだろう」

このように、具体例作ったり、具体的に利用することで、知識をもとに考えることへとつながっていきます。知識を教えたり確認する場面では、具体化とペアにすることが大切です。

切り返しの言葉

子どもの発言は言葉足らずだったり、根拠がはっきりしないことが多いと思います。発言内容を明確にしたり、考えを深めたりするためにはどのような言葉を選べばよいのでしょうか?

よく耳にするのは、「なぜ」(Why)という切り返しです。理想の授業は、教師が「なぜ」と聞き、子どもがそれに応えるものだと思います。しかし、大人でも正面切って「なぜ」と問われると言葉に詰まってしまいます。きちんとした根拠をもった発言を求められているように感じるからです。

言葉足らずの発言から言葉を引き出すには、明確な説明を求めるのではなく、緩やかな聞き方が有効です。

「それって、どういうこと」(What)

こういう聞き方をすれば、子どもとしては何を言ってもいいので、言葉を引き出しやすくなります。そのうえで、足された内容について、具体的に問い返してあげればよいのです。

「なるほど、それはどこで分かったの?」(Where)
「どうやって気づいたの?」(How)

例えば、国語で
「主人公は、・・・と考えたのだと思います」
「それは、本文のどこでわかったの?」

調べ学習で
「・・・ということが分かりました」
「どうやって分かったの?」

子どもの考えを明確にし、深めるためには根拠を問うことが大切です。「Where」や「How」で聞くことで、視点が明確になり、子どもの考えが整理されるのです。

「Why」ではなく、「What」「Where」「How」で聞くことを意識してみてください。
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