教材研究の大切さを考えさせられた授業(長文)

小学校で授業アドバイスを行ってきました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は若手を中心に4人の授業アドバイスを行ってきました。

6年生は算数の円の面積を方眼を使って求める場面でした。
前時は円の面積が半径を1辺とする正方形の面積の2倍より大きく4倍よりも小さいことを半径が10cmの円で学習しています。この復習から始めました。指名した子どもの発言を子どもたちはよく聞いています。発言が終わると、「いいと思います」とすぐに反応します。声がよく出ているのでよいように思えますが、よく見ると全員が声を出しているわけではありません。声を出していない子どもが気になります。同じ考えの子どもを何人も指名したり、ペアで確認したりと確認の仕方はいろいろあります。状況に応じて使い分けるようにするとよいでしょう。
授業者は発言をよく聞いています。発言者をよく見て受容しているのですが、他の子どもの聞いている様子を見ることができていません。子どもの反応をよく見て、次の対応を考えることが大切です。
本時のめあて「方眼を使って円のおよその面積を調べよう」を提示します。めあての「方眼を使って」にこだわり、方眼を使うとどんな便利なことがあるかを問いかけます。子どもからは長さがすぐにわかるということしか出てきません。前時の復習で半径を1辺とする正方形で面積を考えています。見ようによっては大きな方眼になっています。教科書は半径10cmの同じ大きさの円で考えているのですから、前時の図と方眼の図を同じ大きさで並べて見せると、方眼の数を数えることで面積がわかることに気づけると思います。
方眼を効率的に数えるにはどうすればいいかを問いかけます。授業者としては1/4で調べればいいことを期待していたのですが、子どもからは円の外側を数えるという意見が出てきます。これはまっとうな意見なのですが、授業者は評価をしません。円の半径を10cmにして、1cmの方眼に描いているのですから、中心から縦6cm、横8cmと縦8cm、横6cmのところを円周が通ります。直交する半径を2辺とし、どちらかを頂点とする長方形をつくると効率的に数えることができます。効率的というとこういったことがイメージされます。授業者の求める答を引き出そうと思うと、「円の中を全部数えなければいけない?」といった問いかけの方がよかったかもしれません。それでも、外側を数えるという意見は出てくると思います。それも活かせばいいのです。好きな方法で数えさせて結果が同じになることを確認すればいいのです。ただ、ワークシートが内部を数えるように作っていたので、困ったのかもしれません。ワークシートは考え方を固定するのでよくない面もあるのです。
結局1/4の図で数を数えることを指示して、「困ったことがあったら質問?」と問いかけますが、子どもからは反応がありません。そのまま作業に入りました。当然ですが、すぐに線がかかっている方眼をどう数えるのかで困ります。手が挙がりだします。そこで授業者は作業を止めて、手を挙げた子どもに困っていることを聞きます。同じように考えた人とつなぎ、課題を共有します。ここをていねいに進めているのはよいことです。しかし、この方眼をどう扱うとよいかと問いかけても答は出てきません。子どもは正確に面積を求めようとします。この部分の面積がわからないからどうしていいのかわからないのです。そこで、一旦円の一部がかかっている方眼を色塗りする作業をさせます。単なる作業にせず、意味を与えたいところでした。「まず、この一部分だけの方眼を区別するために、塗ってみよう」とし、「塗れたら、どう数えたらいいか図を見ながら考えてね」とするとよかったと思います。
ここで問題となるのは、ここまでにめあての「およそ」を一度も押さえていないことです。正確な値を求めることではなく、およその値を求めることを強調するのです。前時では半径を1辺とする正方形の面積の2倍から4倍とまでわかっています。「これだとよくわからないね、もう少し詳しい大きさがわからないだろうか?」として、「およそでいいから、もっと詳しい大きさを調べよう」とめあてを提示するのです。算数的には、「およそ」ともっと「詳しく」がこの時間のポイントになります。「およそ」で線がかかった方眼を半分の大きさとして考えてみる。「詳しく」で方眼をより細かくすれば正確な値に近づきそう。このことが、次の時間の円の面積の公式につながっていき、将来の微積分の学習への布石となるのです。「およそ」を強調して、この方眼をどうしようと問いかければ違った反応が返ったはずです。
指名した子どもが前の図に色を塗ります。同じかを問いかけると、ほんの一部分が欠けているだけの方眼を塗っていない子どもがいることがわかります。この扱いをどうするのかの判断には根拠が必要です。欠けているものを塗るという指示ですから、それからすると間違いです。しかし、塗らなかった子どもには理由があるはずです。それを聞いてあげてほしかったのです。そうすると、「少ししか欠けていないから」といった答が返ってくるはずです。そこで結論を出さずにその方眼を「?」として、方眼をどう数えるかを考えたあとで、その結論をもとにもう一度納得できる扱いを考えるとよかったでしょう。
どのように数えるとよいかを考えます。1つの方眼の面積に含まれないところと、他の方眼で、含まれているところが先ほどと同じくらいのものを合わせて約1cm2とするという意見が出ました。子どもたちはすぐに「いいです」といいます。ここは、「どう、それで上手くやれそう?」と問い返したいところです。実際には上手く組み合わせられない可能性があることに気づかせるのです。授業者は0.5 cm2より大きいか小さいで分けるといった考えから、1つを0.5cm2と考えるということを提示し、先ほどの2つをくっつけるやり方とどちらが簡単か問いかけます。全員が1つを0.5cm2方だと言ってはいないのですが、声が上がったのでそのまま進めました。全員に納得させてから進めたかったところです。
子どもたちの意見をもとに、「少し欠けているものもあれば、ほんの少ししかないものもある。合わせると一つ分になるものが結構あるね」とし、「およその大きさが知りたいから、できるだけ簡単なほうがいいね。どう考えればよさそう?」と「およそ」を強調して、子どもから「2つで1つ」という考えを引き出したいところです。ここで、「先ほどのほんの少し欠けているものも、上手く組み合わせることができそうだね」としておけば、ほんの少し欠けているものも仲間にした方がいいことに納得させることができると思います。
続いて、方眼を数えておよその面積を求めさせます。ここで授業者は面積の単位をつけて計算させます。この後、結論を円の半径を使ってまとめます。子どもたちに相似の概念がはっきりとできていないので、1辺が半径の正方形の面積の何倍としても論理に飛躍があります。ここは、最後まで方眼いくつ分で考えるべきなのです。最後に、方眼1つが1cm2であることを使って面積になおすのです。半径が違う円の面積はどう考えればいいのかを子どもたちに問いかけた時に、同じように分割すれば方眼の数は同じだという考えが出てきます。方眼の長さが円の半径の1/10であることから、半径と面積の関係を導くことができます。
前時の図と今回の図を比べてより詳しくなったことを確認し、もっと詳しく調べるにはどうすればいいのかを考えさせて、次時へつなげて終わりたいところでした。
子どもたちは、授業者との関係もよく、互いによくかかわり合えます。このことを活かしてどう発言をつなげていくかを意識すると授業はよくなると思います。
この日の算数の内容は、単純な作業に見えますが、実はとても大切な概念との出会いです。授業者がそこまで理解できないのは仕方がないのですが、教科書が半径10cmにこだわっている理由や1辺を半径とする正方形の面積を基準にしている意味は考えてほしいと思います。算数は答の出し方を教えるのは簡単ですが、概念や見方・考え方を身につけさせるのはとても難しい教科です。忙しい中、時間をつくるのは大変だとは思いますが、教科書をよく読み込んで、教材研究をていねいにしてほしいと思います。

5年生の社会科は主食である米がどこで作られているのか調べる場面でした。
飼育委員の子どもがなかなか帰ってきません。授業者は待っている間、前時の復習をしています。しばらくして飼育委員が戻ってきました。「飼育委員、お疲れさま」とねぎらいます。どうやら飼っていたうさぎが亡くなったようです。飼育委員の一人はちょっと落ち込んでいるようでしたが、授業者は下手に声をかけずにそっと見守っていました。よい対応だと思います。
この後すぐに授業の本題に移りました。挨拶もせずに待っていたのですから、「ここは全員がそろったから始めよう」と挨拶をしてみんなが待ってくれていたことを飼育委員に伝えたいところです。授業時間の途中で挨拶をすると他の学級の迷惑になると考えたのかもしれませんが、座ったまま姿勢を正して、礼だけでもするとよかったでしょう。
子どもたちが家から持ってきた米袋使って、そこに書かれている産地に注目させます。産地という用語を説明してきちんと言わせます。用語をきちんと教えることは大切なことです。ただ、産地を「お米が作られている場所」としてしまったのが残念でした。お米や農作物に限らず、物品が産出される場所です。農産物以外にも鉱物や工業製品などにも使われることを押さえておきたいところでした。
グループで白地図にそれぞれの米袋の産地をシールで貼ります。その結果を黒板に貼った白地図にグループの代表が貼っていきます。東北、北海道、新潟と愛知県、三重県に集中します。この地図を見て気づいたことをグループの代表に発表させます。授業者は子どもの発言をすぐに板書します。できれば、「同じことに気づいたグループ?」とつないだ後に板書するとよいでしょう。グループの発表は常にその日の代表がします。他の子どもが活躍する場面がありません。代表以外の子どもにもつなぐようにして、できるだけ全員が参加できるようにしてほしいと思います。
子どもたちからは北の方で米がとれるということがでてきます。「この地方の人が北の方で作られた米を食べているから、北の方で米がたくさん取れている」とは結論づけることはできません。愛知が多いこととの関連も考える必要があります。ここでは、「たくさん取れる」はまだ疑問でしかなのです。
「九州地方は取れない」という意見に対して、すぐに「授業者が本当に取れないのかな?」と返します。教師がすぐに返すのではなく、子どもたちに「どう?九州ではお米がとれないのかな?」と問い返すとよいでしょう。あくまでも疑問として残して、後で根拠を持って考えさせるのです。「岐阜や長野は山脈が多いので作っていない」という意見が出ます。間違ってはいますが地理的な根拠を持って意見を言っているので、そのことを評価したいところです。「土地の様子から作ってないのか考えてくれたんだね。こういう理由を言えることはとてもいいね。お米はどんなところでつくれるのかなあ?」と疑問の種も一緒にまいておくとよいでしょう。授業者は「米どころじゃないけど作っている」といった言葉を出します。根拠となる資料を提示せずに子どもに教えることは社会科としては慎むべきです。疑問として列挙するにとどめておくべきでしょう。
授業者は本当に多いか調べようと言って、結果を隠した米の生産量のベスト5の表を提示し、クイズとして子どもたちに問いかけます。調べようとは言っていますが、これでは与えられたものを見ているだけで根拠を持って考えているわけでも調べているわけでもありません。あまり意味のある時間ではありません。米の生産量と作付面積の地図を提示して、ベスト5を白地図に書き込み、グループで共通性を考えさせます。子どもたちは何かを調べたわけではありません。また、自分たちの食べている米の産地から考えた疑問を、資料をもとに解決しているわけではありません。疑問と言えば、「どこで作られているのか?」と「どういうところで作られているのか?」も微妙に違います。何を考えさせるのかがはっきりしないのです。長野県が米の生産高でベスト5に入っていることも触れられませんし、ベスト5をだけを意識するので、九州で米が作られていることの確認もされません。一つひとつの活動が分断されています。
最後に、教科書の「世界で米作りが盛んなところは赤道近くである」ことが書かれた資料を読ませて、どんな条件のところで米作りが盛んかを考えさせます。赤道の近くだから「暖か」という言葉が出ます。この言葉を「暑い」にまで変えたいところです。雨が多いといったことも出てきます。米作りと気候の関係に注目させて、先ほどの日本の米作りと比較したいところでしたが、子どもが疑問を持っているようには見えませんでした。一つひとつの活動を、子どもたちは指示に従って行っているだけで、つなげて考えていないのです。
どういうところで米が作られるのかを考えるのであれば、米袋を使ったところで、何が書いてあるかをたずね、その中に「品種」があることを確認するとよかったでしょう。ベスト5にこだわるのであれば、生産量の資料は昔の物と比較することも必要でしょう。その変化から品種改良が進んだ結果、寒い北の地方で米作りが盛んになったことがわかります。もちろん南の地方でも米をつくることができるのに、なぜそれほどつくられていないのかも疑問に持ってほしいことです。米作りに雨が必要というのであれば、雨温図を比較することも大切です。日本海側では米を作っている時に雨があまり降りませんが、水は大丈夫なのかと考えさせることもできます。地元のお米を食べていることから、流通の問題と地産地消を考えさせることもできます。子どもたちに疑問を持たせて考えさせることはたくさんあります。すべてを授業で扱うことはできませんが、子どもたちの疑問からでた、「知りたい」「考えたい」という意欲を大切にして授業をすすめるようにし、そのための発問や資料を工夫してほしいと思います。
授業者は笑顔で、子どもたち一人ひとりをよく見ています。子どもたちも積極的に「授業に参加しよう」「友だちとかかわろう」としています。だからこそ、教材研究がより大切になります。その上で、教師が用意した決められたレールの上を走らせるのではなく、子どもたちの疑問から出発し、子どもたち一緒に考えることを大切にしてほしいと思います。

この続きは明日の日記で。
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