小学校で、いろいろな課題と出会う(その1)

小学校を訪問しました。1学年1〜2学級の学校です。今回は全学級で授業アドバイスを行いました。

1年生の1つ目の学級は、ベテランの算数の授業でした。
大体において子どもたちをよくコントロールできているのですが、詰めが甘いことが気になります。指示を徹底しようとしているのですが、一部の子どもがまだ指示に従えていていないのに次の活動に移ってしまいます。机間指導でも、子どもたちができているかどうかのチェックをしているのですが、全員を把握はしていません。子どもを指名して前で答の発表をするのですが、結果が正解であることを確認して終わります。もし、机間指導で全員ができているのを確認していれば、あえてここで時間を取る必要はありません。一方、できていない子どもがいた場合、結果だけを示されても理解してできるようになりません。どうやって考えるのかを確認する必要があります。全員の状況を把握していれば、違う対応になったはずです。
序数の練習を一列ごとに行います。何番目かを指示して、子どもを起立させます。考え方の確認はしません。全員がほぼ理解しているのであれば、各列同時に立たせた方が活動量を増やすことができ、定着していない子どももまわりを見て理解できます。こういった工夫を意識してほしいと思いました。
何をすればいいのかはよく理解されている方なので、一つひとつを徹底することを意識すれば、すぐによい方向に向かうと思います。

1年生の2つ目の学級も算数の授業でした。
昨年と比べて子どもたちとの基本的な関係はよいように思えます。「なるほど」と子どもを受容することもできます。参加している子どもはよいのですが、そうでない子どもへの対応が課題です。
子どもたちは友だちの答に「賛成です」と反応します。このことは決して悪いことではないのですが、口を開いていない子どももいます。何となく友だちの声につられていっている子どももいます。口を開いていない子どもに対して「あなたはどう思う?」と問いかけたり、賛成と言っている子どもに説明を求めたりして、きちんと全員に参加を求める必要があります。
なかなか授業に参加しない子どもが一人目立ちました。ある場面で、その子どもも挙手をしました。指名するかどうかは別として、その子どもが参加したことを認めてあげたいところでした。その後のペアでの活動では、また参加しなくなりました。隣の子どもが参加するように働きかけますが、かかわろうとはしません。授業者は気づいていたのかもしれませんが、対応ができませんでした。全体への指示と確認で手一杯だったのかもしれません。少なくともこういった場合は、参加するように働きかけている子どもに声をかける必要があります。隣の子どものために困っていることを教師が理解していることを伝えて、かかわろうとしていることを評価することで、またかかわろうとしてくれます。教師が自分のことを見守ってくれることで安心感を持ちます。
授業の終わりのあいさつで、先ほどの参加しない子どもが起立しませんでした。授業者はみんなに待たせてその子どもを立たせようとするのですが、言うことを聞いてくれません。仕方なく、「あとで、先生と2人であいさつしよう。みんな待っててくれてありがとう」としました。この言葉だけを取り上げれば決して悪い対応ではないのですが、その子どものそばで言ったので、全員に顔を見て話せていません。表情も言葉も硬かったのが気になります。ここはぐっとこらえて、笑顔で全員に向かって「待っててくれてありがとう」と言いたいところでした。結論から言えば、授業の最後でその子どもとかかわろうとしたので、対応が難しくなっていたのです。確かに今はまだ全体との関係をつくる時なので、難しい子どもにかかわりすぎてはいけません。常に一人の子どもに注意を払い続けるわけにはいきませんが、どのタイミングでかかわろうかということは意識してほしいと思います。余裕がないのはわかりますが、だからこそ無理をしても笑顔をつくることをお願いしました。

2年生の1つ目の学級は、昨年まで特別支援学級を担当していた先生の道徳の授業でした。
素早い行動を取ることを、意識してしつけていることがわかります。子どもたちが指示に素早く従います。笑顔を絶やさず子どもをよく見ているので、よい関係がつくれています。一人の子どもが筆箱をどこに置こうかとごそごそしていました。授業者は一言「まわりを見てごらん」とだけ声をかけました。その子どもはまわりの子どもが落ち着いているのを見て、すぐに筆箱を所定の位置に置いて落ち着きました。その子どもは単に筆箱で遊んでいたのかもしれませんし、どこに置くルールだったかわからなかったのかもしれません。いずれにしても、友だちを見ることで自分で行動を正しました。注意をするのでなく、子ども自身に気づかせるよい対応でした。
子どもが発言すると他の子どもはその子どもの方を向きます。ところが発言者は授業者に向かって発言します。これはちょっと気になります。その子どもの発言に対して「今の意見、なるほどと思った?」「○○さんの考えをもう一度説明してくれる人?」と他の子どもにつないで、聞き手を意識させることが必要です。教師がしゃがんで視界から外れるといった方法もあります。
範読をしてから、登場人物の確認と内容を質問して整理します。子どもたちがそのことを意識して聞いていないと登場人物の名前などは出てきません。登場人物の関係や内容は、範読しながらリアルタイムで押さえると時間のムダが無くなります。
横はいりをした相手に対して、「蹴る」という発言がありました。授業者はその時の相手の気持ちを考えさせました。決して悪い問いかけではないのですが、「蹴る」というのは物理的な攻撃です。気持ちよりも、まずどうなるかを聞くべきだったと思います。相手がけがをするような危険な行動であることに気づかせることの方が大切なのです。

2年生のもう一つの学級は算数の授業でした。
数え棒を使って、17+4の計算を考える場面でした。前時までに、数え棒を使って17+3の計算の仕方を考えているのですが、その復習をきちんとしていなかったようです。子どもたちは、計算の仕方を考えるという指示に対して、何をしていいのかよくわかりません。数え棒をどう使うのかもよくわかっていません。もちろん、すぐにできている子どももいますが、数え棒を10の束とばら7、ばら4と分けて置くこともよくわからない子どもがたくさんいます。授業者は、個別に対応しようとしていますが、追いつきません。数え棒で遊んでいる子が目立ちます。また、わかっている子ども、早くやれている子どもは待ちきれず次第にごそごそし始めます。隣同士で確認するように指示しますが、何を確認すればいいのかよくわかりません。
子どもたちに考えさせる場面は、スモールステップを意識して組み立てる必要があります。まず、17と4を数え棒でつくることだけをさせて、その確認をします。ここで、10を束にすることをしっかりと押さえておきます。次に、4を足す時に10の束とばらの7とどちらに足すかを確認してから、いくつになるか考えさせればいいのです。7と4を足して11と考えてもいいですし、前時の学習をもとに、7と3で10の束ができると考えてもいいでしょう。こういったいくつかの考えを子どもから出させて、それを共有します。大切なのは、10の束をつくること、10の束を崩さないことです。この原則をしっかりと押さえておきます。
子どもの思考、つまずきを事前に予測してスモールステップを考えておくことが大切です。意図的に、いくつかのステップを一度にクリアさせる課題を出すのはよいのですが、子どもがそれをできなかった時は、一つひとつのスモールステップに戻る必要があります。どんな課題を提示しても、授業者はスモールステップを意識しておかなければなりません。
今回の授業で一番注意しなければならないことは、つまずいている子どもへの個別対応に追われ、できている子どもが放っておかれていたことです。こういった状況が続けば、できている子どもが勝手な行動をとるようになります。学級崩壊は、どちらかと言えばできる子どもが教師のコントロールから外れて起こすことが多いことを知っておいてほしいと思います。

3年生の授業は道徳でした。
NHKの番組を使っての授業ですが、こういった動画で授業をするのはなかなか難しいものがあります。登場人物の心理は独白などで語られます。子どもが想像する余地はあまりありません。また、子どもが結末を見てほっとしてしまうことも問題です。
今回の番組は、主人公が拾ったお金を届けるかどうかで悩んだ末に、警察に届けて褒美にチョコレートをもらうという結末です。子どもたちは、「チョコレートをもらったんだからおんなじだ」「得をした」「よかった」というような言葉を発します。褒美がもらえるかどうかは本質ではないのですが、ドキドキさせる演出なので、余計に褒美がもらえたことが子どもの印象に残ってしまったようです。
授業では、途中で主人公が悩んでいるところを見てどう思ったかを書かせますが、子どもたちはなかなか手が動きません。意識して見ていないとそのとき何を思ったかは思い出せません。しかも、結末を見てほっとした後です。その場面を見た時の気持ちに戻ることができないのです。動画は、紙の資料と違って、見終わった後もう一度確認することは難しくなります。漫然と見てしまうと、見落としてしまったり、思い出すことができなかったりします。事前に課題を与えておいてから視聴するといったことが必要です。また、主人公を見てどう思ったかでは、他人事です。なかなか子どもたちの内面に迫ることができません。しかも、主人公の気持ちは語られているので、「主人公はどんなことを考えたと思う?」といった問いかけもなかなか成立しません。その場面の手前で止めて問いかけることや、番組の構成にもよりますが、音声をカットして見せておいてから問いかけるといった工夫が必要になります。
子どもたちに考えさせるのであれば、番組中で主人公がお金を警察に届ける時に想像した、「本当は自分のものにしようとしたんじゃないの?」と責められる場面を活かして、「『チョコレートをもらえずに、自分のものにしようとしたんだろう』と責められたらどう?」という問いかけもあるでしょう。「教材ではハッピーエンドだけれど、そうではなく、うまくいかなくてもそのような行動をとるか?」「とるべきか?」というのは子どもたちを揺さぶるのによく使われる方法です。
動画はわかりやすく、子どもに興味を持たせるのによいのですが、道徳のように想像させることを大切にしたい時には、イメージが固定化されるので使いにくい面もあるのです。こういった特性を意識して利用してほしいと思います。

残りの学年については、明日の日記で。
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