子どもの姿が多忙感を充実感に変える

私立の中高等学校で授業参観とアドバイスを行ってきました。高校1年生のオリエンテーション合宿が終わった直後で、今年度初めての訪問です。子どもたちがどのような姿か楽しみです。

今年度から英語は科として高校1年生でGDMに取り組んでいます。昨年秋にGDMに出会ってわずか半年です。この行動力には感心します。まだまだ手探り状態だと思いますが、そのスタートをまず見せていただきました。新1年生であることを差し引いても子どもの状態はとても素晴らしいものでした。私と校長が教室に入ってもだれも見向きもしません。素晴らしい集中力を発揮していました。わかりたい、そのためにはしっかり聞かなければという子どもの気持ちが伝わってきます。英語が苦手だったという子どもも、もう一度学びなおそうという気持ちになっています。よいスタートを切っていますが、学級によって子どもの表情に差があります。子どもの質の問題と言うよりも、授業者の受容の仕方、ほめ方の違いに原因があるように思います。GDMでは、子どもはオウムや九官鳥のよう授業者の言葉をそのまま繰り返すことはしません。必ずその”situation”に応じて文をつくる必要があります。そのため、子どもたちは、すぐに自信を持って大きな声で答えられるわけではありません。「そそう、それでいいよ」というメッセージを、子どもによくわかるように大きな動作で示す必要があります。また、一部分でも言えたら、「大丈夫、そこまであっているよ」ということを伝えることも大切です。こういったことを何度も繰り返して、「できた」「大丈夫」という達成感を子どもに持たせるのです。子どもたちにちゃんとできているよということをどれだけわかりやすく伝えることができたのかの差が子どもたちの表情の差につながっていたように思います。

子どもから言葉が出てこない時の対応も、もう少し工夫する必要があります。例えば、全体での練習の時には言葉が出なくても待つのです。何人もいますから、少し待てばだれかが声を出してくれるはずです。そこで大きくうなずいて自信を与えて最後まで言わせるのです。「OK」のサインを送り、もう一度やらせれば今度はより大きな声になります。他の子ども、その子どものまねをして言えるようになるはずです。全員が言えるようになるまでこうしてくりかえすのです。個人やペアを指名した時はちょっと違います。わからなかったり混乱したりしていると待ってあげても苦しいだけです。少し待って苦しい状況と判断したなら、別の動きをします。ちょっと待たせて、他の子どもを指名して同じ”situation”でやらせ、その後で、もう一度最初からやり直させる。または、これまでやった基本の練習をもう一度最初からやって、この課題に再挑戦させます。他に指名した子どもも上手くできなければ、それまでの学習が定着していないのですから、全体でもう一度練習すればいいのです。

また、わかりやすいジェスチャーも課題です。例えば地図を”This is a map.”と教える時に、ただ地図を指してはいけません。子どもたちには、地図を指しているのか、それとも地図の中のある国を指しているのかわからないからです。地図を示すのなら、手で地図のまわりをなぞってから言う必要があります。ある国を示すのなら、指先で国境をなぞればいいのです。子どもたちに言葉以外のストレスは与えないようにすることが大切です。”situation”を示す時の動作も注意が必要です。”I have a ball in my hand.”の”situation”を示すことを考えてみましょう。GDMでは日本語を経由せずダイレクトに英語にします。いくつかの物の中から”ball”を選んで手で握るのですが、これを一連の動きですぐに手の中にボールがある状態にして英語にさせようとすると、子どもの思考が追いつきません。一つひとつの動作をちょっと止めて、子どもの思考が追いつくのを待つ必要があります。まず、選ぼうとしている様子を見せてから、”ball”を取り上げます。何か物を選ぼうとしているなとわかっているので物に意識がいき、すぐに「あっ、”ball”だ」と言葉になるのです。その”ball”をいったん広げた手のひら上にのせて”on” “hand”と考えさせます。この状態からゆっくり手を握れば、今度は”in“となります。動作を止めながら行うことで、一つずつ英語で考える余裕ができます。そこで、教師は”I have a ball in my hand.”と言うのです。
先生方のスキルが決して低いのではありません。きちんとやっているからこそ、足りないところが見えてくるのです。まだ本格的に始めて数回で、こういったことを指摘できるのは、基本的なことがきちんとできている証拠です。

リスニングをグループの隊形で行う場面がありました。授業者は、机をピッタリつけるように指示しています。離れている子どものところに行ってきちんとつけさせます。グループ活動のポイントがよくわかっていると感心しました。リスニングは聞き取れない子どもにとって、正解を教えられてもわかった感はありません。そこで、聞き取れたことをグループで確認させます。中には”rule”?、”role”?、”law”?で意見が分かれているグループもあります。子どもたちは額を寄せて話しています。じゃあ、もう一度聞いてみようとCDのスイッチを入れた途端、声はぴたりと止んで一斉に集中しました。かなりの子どもが聞き取れたようです。候補を意識することでしっかりと聞けるのです。子どもたちに正解を言わせると、空欄の部分の単語ではなく、文全体を読み上げます。GDMでは常に文で話します。そのよい影響が出たのだろうと授業者は話していました。

授業者の一人は、GDMで授業をするとむちゃくちゃ疲れると言っていました。教師がしゃべる量は他の授業と比べてむしろ少ないぐらいです。子どもたちだけで活動したり、作業したりする時間も結構あります。なのに、疲れるのです。その理由は、子どもを見て、「口を開けているように見えるが、ちゃんと声を出していないな。個別に指名しようか?」「あれ、子どもがよくわかっていないようだ。構成の順番を間違えたかな?もう一つ別の活動を入れよう」「手が動いていない子はいるかな?どこでつまずいているのか確認しよう」と、常に子どもの状況に応じて対応を考え続ける必要があるからです。自分の言いたいことをしゃべり続ける授業の方がはるかに楽なのです。また、GDMのために準備するプリントやアイテムもたくさんあります。週末は100均でいろいろなグッズを買ったりしているようです。個人ではとてもやりきることはできないでしょう。GDMがなかなか普及しない理由の一つがそこにあります。しかし、この学校では英語科がチームとして取り組んでいます。互いに準備の分担もできます。わからないところや困ったことを共有して、一緒に考えることができます。GDMに限らず、チームでの取り組みが先生方の授業力を上げる鍵になっていると思います。
GDMに取り組んだために、英語科の先生は今まで以上に忙しくなっています。しかし、表情は楽しそうです。それは、子どもたちが一生懸命に英語の授業に取り組んでくれているからです。チームで取り組むことで負担感が減り、子どもたちの姿が多忙感を充実感に変えてくれるのです。
今後、こういったチームでの取り組みがこの学校に広がることを願っています。一人でも多くの先生に充実感を感じてもらえるように、お手伝いをしていきたいと思っています。

学校の様子や、この日見た数学の授業については次回の日記で。
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