幾何ツールの研究会で学ぶ

先月、幾何ツールを使った中学校数学の授業研究会で、検討会の司会を務めてきました。
この授業研究会の特徴は、一度授業を行って検討会をした後、それを受けてもう一度別の学級で修正した授業をすることです。授業者にとってはとても厳しい授業研究会です。

今回の課題は平行四辺形をもとにある条件でつくった三角形が、その平行四辺形を変形するとどんな形になるかを考えるものです。その時の平行四辺形はどのような条件なのかを求め、最終的にはそれを説明するというものでした。
iPad上で動く幾何ツールを使って平行四辺形の形を変えて、どのような三角形ができるか調べることができます。4人1台のiPadを使って授業は進みました。
授業者は子どもたちを受容することを非常に意識していました。笑顔を絶やさないようにしていることが感じられました。

最初の授業では、課題となる図と条件の説明の時間をあまりとらずにすぐにiPadでのグループ活動になりました。子どもたちは、作業を始めますが取り敢えず動かす子ども、それをぼんやりと見ている子どもが多く、まだ会話は生まれません。何か見つかった子どもは意識的に動かし始めますが、一部の子どもだけで進んでいきます。iPadについているスタンド兼用のカバーのせいでしょうか、子どもたちはiPadを立てて使っています。そのため4人が同時に操作したり画面を見ることがやりにくくなっていることがその原因かもしれません。
多くの子どもたちは、平行四辺形を正方形にしたり、長方形にしたりしてできる三角形がどのような形かを考えます。続いて、逆に二等辺三角形や正三角形をつくろうとしますが、平行四辺形の中にある要素に注目してみるといった戦略的な動きはなかなか出てきません。数学的な視点を意識できていませんでした。途中で動きの止まっているグループ、ある三角形になる条件を一部の子どもだけで追究しているグループと状態がバラバラになっていました。
グループ活動を止めて、発表に移ります。平行四辺形がどんな形の時にどんな三角形になったかの発表をするのですが、子どもたちの視線が気になります。黒板に映しだされた説明の画面に向かう子ども、手元のiPadで確認する子ども、発表は無視して自分たちの追究を続けている子ども、バラバラなのです。手元に道具があるのですからそれを使って確認したくなる気持ちもわかります。自分たちも知っている結論を聞くことよりも、自らの追究を続けたくなるのも道理です。授業者がこの場面で子どもたちをどうしたかったのかが問われる場面でした。自分たちで確認させたいのならば、手元のiPadでそうなるか確認するように指示をすべきでしょう。黒板に注目させたければiPadを閉じさせるべきです。自分たちの追究を続けているグループに対しては、見つけた結果をもとに次にどのような課題を考えることになるのか、授業の展開の見通しを持たせるべきでした。
どんな時に○○三角形ができるか、条件をもっと明確にしてほしいと授業者が子どもたちに問いかけます。しかし、子どもたちにとってはどんな三角形がつくれるかが課題だったので、考える必然性が今一つありませんでした。幾何ツールを使って試行錯誤している場面から、いきなり数学的な説明を求められたのでついていけなかったのです。「iPadを使わずに、○○三角形になるような、平行四辺形を描いてくれる?」といった別の課題とした方がよかったのかもしれません。
この課題を通じてどのような数学的な力をつけたいのかが、よく伝わらない授業になってしまいました。

最初の検討会では、次の授業に向けて今回の授業の課題や疑問点が出されました。導入における課題の提示といった「授業の進め方」、グループにおける子どものかかわり方といった「グループの問題」、幾何ツールが数学的な力をつけることにつながったかいった「課題と幾何ツールの使い方」などが話題になりました。「グループの問題」については、グループの動きがどうあるべきか、教師がどうかかわるべきかに対する考えは、いろいろあります。「課題と幾何ツールの使い方」も子どもに自由に使わせて課題を見つけさせるといった使い方もあれば、授業者のねらいに沿って課題把握や課題解決の見通しを持たせるといった使い方もあります。ここで大切なことは、どれが正解かを見つけることではなく互いの考えを聞きながら参加者や授業者がどのように判断するかです。そのための材料は、参加者の皆さんの積極的な発言のおかげでたくさん出てきたと思います。しかし、授業者がそれらすべてを消化するには、時間は少し足りなかったように思います。

2回目の授業は、課題そのものは変えずに、課題提示の場面で条件をていねいに説明しました。理由も考えてほしいことを強調しましたが、子どもたちは今一つピンときていないようでした。初めにすぐにわかる例で理由の説明までやって見せてもよかったのかもしれません。
今回は早めに発表をしましたが、その時の子どもたちの動きは前回の授業とあまり大きな変化はありませんでした。自分たちの追究を続けるグループも目立ちます。中には、友だちの発表を受けて動き出す子どももいます。見つけたことを次々に発表するのではなく、取り上げたものについて、その場で追究させた方がよかったのかもしれません。
授業者は、子どもたちの追究を深めることを意識していました。共有した課題を再度考えさせる時間を取ります。この時、幾何ツールを使っている子どもと紙で考える子どもとに分かれていました。面白い場面です。自分の手で図を描くことで条件等が見えてくることもあります。こういった子どもの動きの違いを「紙で考えていたけど、どういうこと?」と問いかけて話題にしても面白いかもしれません。
短い時間で課題そのものを変えるといった大きな変更は難しいものがあります。その中で、授業者は課題の提示や発表の取り上げ方、つなぎ方などを変えて、子どもの追究をより焦点化しようとしていたように思いました。

2回目の検討会では、課題と幾何ツールの使い方についてより多くの時間を割きました。今回の授業研究会の後、この課題を自分の視点で再構成して、授業をされた先生がいらっしゃいました。こういった報告を聞けるのはうれしいことです。参加された皆さんにとって刺激の多い研究会だったと思います。
主催している大学の先生と授業者だけでなく、この学校の数学科の先生方全員でこの研究会に向けて研究し本番に臨んでいただいています。全国各地からいろいろな方が参加されています。いろいろな立場の方が一堂に会して授業を考えることのよさを味わうことができる会です。今回も授業を見せていただき、司会という役割をいただくことで多くのことを学ぶことができました。このような機会をいただけたことに感謝です。
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