体育の授業研究で子どもを見ることの大切さを考える

昨日の日記の続きです。体育の授業研究は男子のダンスの授業でした。授業者は2年目の先生です。EXILEの音楽に合わせて規定のダンスを踊ります。

子どもたちの始めの挨拶の声は大きいのですが、子どもの体は静止しません。大きな声とは言っても、全員がしっかりと出しているわけではありません。一部の子どもがテンションを上げているのです。また、挨拶の場面に限らず、活動のけじめがはっきりしていないことが気になります。まだ子どもが聞く態勢ができていないのに話し始めます。授業者の話は聞いているのですが、顔が上がらない子どもが目立ちます。授業者は子どもたちに自分と目線を合わせることを求めていないのです。体育では指示を徹底することが特に求められます。徹底しないと事故につながります。子どもたちときちんとコミュニケーションを取ることを意識してほしいと思います。

この日の目標はリズムよくダンスをすることと伝えます。「リズムよく」というのは感覚的でわかりにくい目標です。これが具体的どのようなことか、子どもたちが理解している必要があります。前時までに説明したのかもしれませんが、この日の目標ですから、確認する必要はあるでしょう。「リズムよく」を子どもたちの言葉で説明させてみる。いくつかの例を見せて、どれがより「リズムよく」なっているかを言わせる。そういう場面が必要です。また、自分の姿を見ることはできないので、自分が「リズムよく」やれているのかどうかは判断できません。自己評価ができないのです。子ども同士で評価し合う、ビデオなどを利用するといった工夫が必要です。

これまで覚えたダンスを全体で復習します。授業者は子どもたちに背を向けて踊ります。子どもたちに向いて踊ると動きが逆になって混乱することが理由です。しかし、何よりも子どもを見ることが大切です。教師が逆の振り付けで踊れるように練習することが必要かもしれません。それが難しければ、代表の子どもに前で躍らせておいて、自分は全体を見るというのもよいでしょう。代表の子どもと一緒に1小節踊っては振り向くといったやり方もあります。いずれにしても子どもたちを見る工夫をしてほしいと思います。
子どもたちを見るという点で、非常に残念なことがありました。理由はわかりませんが、振り付けを覚えていない子どもがいました。まわりを見ながらできるところは何とかやろうとしますが、わからなくなると止まってしまいます。しかし、授業者はその子どもに気づかず支援をしませんでした。続いてグループでの練習になりましたが、やはりついていけません。自分から「教えて」と仲間に教えてもらうこともできません。まわりの子どもは自分たちがやることに夢中でかかわろうとしません。結局その子どもは途中で参加することあきらめて見学者のところへ行ってしまいました。授業者はこの一連の動きに気づいていませんでした。確かにすべての子どもの動きを把握することはできないかもしれません。だからこそ、グループ活動を活かして、互いに助け合うことをきちんと指導しておかなければなりません。ここにこの学年の抱えている問題が見えてきます。子どもたちが孤立した友だちにかかわり合おうとしないのです。子どもが悪いのではないのです。子ども同士をつなぐような動きを教師がきちんとできていないのです。そのため、学級に居場所のない子どもができてしまうのです。
見学者のところに行った子どもは、友だちのやっている様子を見ています。グループの代表が次の振り付けを教えてもらっているところも後ろから見ています。本当はみんなと一緒に踊りたいのです。その様子を見ていると辛いものがありました。
見学者の扱いも気になります。何も指示されずにただ座っているだけです。グループの代表が振り付けを教わっている間、残った子どもたちで練習をします。CDを操作するといったことでもいいので役割を与えて、仲間とかかわらせたいところです。

振り付けを全体ではなくグループから2人ずつ代表を集めて教え、彼らをグループの教師役にします。効率はかえって悪いのですが子ども同士のかかわり合いをつくろうという考えです。振り付けのパートごとに代表を交代してすべての子どもに教師役を経験させます。よい発想だと思いますが、代表の子どもはなかなかうまく教えられません。2人の役割を決めるなど、教え方を指導することが必要かもしれません。最初の段階で、上手く教えられたグループを紹介して、教え方を共有する方法もあります。授業者が指導せずにただやらせる場面が目立ちます。
代表を集めて教える時も、残った子どもに対する指示だけして、すぐに隅で教え始めます。残った子どもたちはすぐには動きません。それでも、音楽が鳴ると練習を始めます。しかし、何を意識して活動するのか指示がないので、ただやっているだけです。子どもたちを見ていると雑にやっている者も目立ちます。練習中にかえって下手になるグループもありました。ここは、指導者がいないので、グループで向かい合って動きを確認するといった、子ども同士が互いにかかわりあう活動をさせる必要があります。また、子どもたちが動き出すまできちんと見守って、それから代表の指導に入るべきでしょう。

授業全体として、活動することばかりで子どもが振り返ったり、評価したりする場面が全くありません。子どもは音楽に合わせて体を動かして楽しいようですが、それではこの授業の成果としては不十分です。目標としている「リズムよく」を達成することが意識されていません。また、グループでやるということは、個人では味わえない楽しさを感じさせる必要があります。動きがそろった時の楽しさは、グループでなければ味わえないものです。そのこともあまり考えられていませんでした。しっかりと練習ができているグループ、上手いグループ、上手くなった子どもに脚光を浴びさせることも必要です。
授業を構成する大切な要素がこぼれ落ちていました。今回はダンスという危険の少ない単元でしたが、子どもたちをきちんと把握しコントロールすることを意識しないと、種目によっては大きな事故が起きる可能性を否定できません。このことは、体育の教師として、経験が少ないからといって許されることではありません。とにかく子どもを見ること、見守ることを意識してほしいと思います。

この日は要請訪問で体育の教科指導員の方が助言をしてくださいました。さすがに専門家です。目標設定や伝え方、考える場面の設定など、体育の授業での大切なポイントを的確に指導されました。体育の専門でない私にとって、とても参考になる資料もいただくことができました。よい学びをさせていただきました。ありがとうございました。
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