説得型の授業と納得型の授業

授業を考える視点の一つに、説得型と納得型があります。
説得型の授業は、教師が大切なことをわかりやすく子どもに伝えようとするものです。教師が考える結論を子どもたちが受け入れるように説得します。子どもたちは何が大切かを教師の言葉や板書から知ろうとします。何度も説明する、「ここが大切だ」と言う、大きく板書をする、文字の色を変える、枠で囲む、こういった情報から大切なことは何かを知ろうとします。教師の中には大切であることを伝えるために、「試験に出る」という言葉を使う方もいます。
一方の納得型の授業は、何が大切かを子どもたちに考えさせようとするものです。結論を教師が与えるのではなく、自分たちで考え納得することを目指します。教師は考えるための手段や材料を準備し、子どもたち自身で結論を導くための手助けをします。子どもたち自身で大切なことは何かを見つけるように働きかけます。授業のまとめを教師がするのはなく子どもにさせる。大切だと思うことを理由とともに子どもに発表させる。こういった場面が授業の中にあります。

どちらの授業が優れているのかは一概に言えません。例えば大学入試対策の予備校の授業では、質の高い説得型の授業が求められます。大学受験に合格するという目的のためには試験で効率的に点数が取れることが重要だからです。極論すれば、試験問題が事前にわかっていれば、答だけを教えればそれで目的は達成できるのです。それができるのなら、受験生にとっては最高の授業(講義)になります。自動車の運転免許の学科試験はそれに近いところがありますね。また、業務のために必要な知識や技術を素早く身につけるにも、この型の授業が効率的です。想定され得る、既知の課題を解決する力つけるのには有効な授業法です。しかし、想定外の事態には対応する力はつきません。「この問題の対策を立ててくれ」と仕事を頼んだところ、期限ぎりぎりになって、「いろいろと探しましたが、答えが見つかりません。どこを見ればわかりますか」という笑えない質問をした新入社員もいます。
では、納得型の授業はどうでしょう。試験でよい点をとるという観点では非効率なものに見えます。しかし、未知の課題に対して自分で答を見つける力、大切なことを見抜く力といった、まさに生きるための力を身につけるにはとても有効なものです。
企業の採用ではこの力を見極めるための方法を工夫しています。難関と言われる大学の中には、受験生が見たことのないパターンの問題を必ず出題するところもあります。問題の意味を理解できれば簡単に解けるのですが、解き方のパターンを覚えているだけの受験生にとっては難問に見えます。大きく点差がつく問題です。大学入試制度の改革でも総合的な力を測ることが模索されています。この力の大切さが社会的に認識されつつあるのです。

これからの社会は既定路線を進んでいくのではなく、未知の領域を開拓していくことが求められます。納得型の授業の必要性が高くなっています。先日の企業のインターンシップで出会った学生は、説得型の授業に特化されているように感じました(インターンシップで貴重な経験をする参照)。自分で課題を見つけて解決する力が不足しています。これを学生の能力の問題と責めるのは酷なように思います。説得型の授業にもっと出会っていれば、おそらくそれなりの力がついていたと思います。これは教育者の責任でもあるのです。

皆さんの授業は説得型でしょうか、それとも納得型でしょうか。説得型という方は、納得型の要素を授業に取り入れることも考えてみてほしいと思います。
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