若手の成長に驚く(長文)

前回の日記の続きです。授業研究は若手がT1でおこなうTTの授業でした。小学6年生の算数の割合、全体の何倍になるかを考えて解く課題でした。

授業者は、本時で使う何倍の何倍の考え方を導入で復習しました。「今日は○○さんに特別におこずかいをあげよう」と言って、子どもたちに「えっ」と思わせ、引き付けます。子どもたちはとても楽しそうに授業者の次の言葉を待ちます。授業者と子どもたちの人間関係がよいことがよくわかります。続いて、△△さんには○○さんの2倍、□□さんには△△さんの3倍あげるとして、□□さんは○○さんの何倍になるかを聞きました。具体的に○○さんに1000円あげたら、△△さんはいくら、□□さんはいくらと2倍の3倍は2×3倍になることを確認しました。授業者は余計な説明はせずに、できるだけ子どもたちの発言で進めようとしていました。子どもたちは発言者の方をしっかり向いて聞いています。形だけでなく、しっかり聞こうとしています。丁寧な導入で時間がかかったように思っていたのですが、3分しか経っていません。子どもがたくさん発言していても、授業者の説明が少なかったので時間がかかっていないのです。授業者の余分な言葉を減らすことが子どもの活動量を保障することにつながることがよくわかります。簡潔でポイントを押さえた導入でした。
続いて、授業者は「全体の何倍にあたるかを考えて、問題を解こう」とめあてを口頭で言ってから、ノートに書くように指示します。指示と同時に板書を始めるのですが、多くの子どもが板書を見ないで書いています。授業者の言葉を頭に記憶して書いたのです。授業者よりも早く書き終る子どももいます。全員書き終るまでにほとんど時間がかかりません。よく鍛えられています。

教科書の問題を読んで、わかっていること、知りたいことを確認します。わかっていることは全体の面積が1000m2、全体の2/5が広場、広場の1/10が砂場。求めるのは砂場の面積です。
全体の2/5は全体の2/5倍、広場の1/10は1/10倍であることを押さえながら、「全体→2/5倍→広場→1/10倍→砂場」と関係図をつくり、自力解決に入りました。
子どもたちは説明を聞いている間はノートを写しません。問題を解く時は、ほとんどの子どもが板書を見ないで関係図を書いています。しっかりと理解していることがよくわかります。先ほどのめあてを写すこともそうですが、聞いたことをしっかり頭の中に入れようとする子どもたちに育っているように思います。また、問題文を印刷して配り、ノートに貼らせることでムダな時間を省いています。時間に余裕ができることが影響しているのでしょうか、どの子どもをていねいに図や式を書いています。ノート指導もしっかりされていると感じました。
子どもたちは、「広場、砂場と順番に計算する」「1つの式で連続してかけ算をする」「2/5×1/10を計算して全体の何倍になるかを求めてから計算する」といろいろな解き方をしていました。机間指導で、授業者が何人かの子どもと話しています。できた子どもに説明をさせているのです。一方T2は手の着いていない子どもの個別指導に時間をかけています。2人とも全体を見ている時間が少ないことが気になります。
できたところで、ノートを間においてペアで説明を聞き合うように指示しました。子どもたちは、頭を寄せ合って指で関係図を指しながら聞き合っていました。子ども同士の関係のよさがよくわかります。しかし、いろいろな解き方があるのですから、それを子ども同士で評価したり、自分と違っていればそれをノートに書くといったことをするとよかったように思います。説明できたことで満足しているようにも見えました。

子どもを指名して、説明をさせます。ここでも子どもたちは友だちの話をよく聞いています。1人説明が終わると、同じように考えた人を指名して、また説明させます。子どもの説明は足りない言葉や、わかりにくいところもありますが、授業者は受容の言葉以外は余分なことを言いません。そのため、友だちの発言をしっかり聞かなければわからなくなります。1回でわからなくても、次の説明を聞けばいいので集中力は切れません。同じように考えた子どもは、自分が説明をすることになるかもしれないので、しっかり聞きます。発表した子どもも、自分の説明と比べるのか、ちゃんと友だちの発言を聞いていました。ただ、よくできる子どもが3回目の説明の時には集中を切らしていたのが気になりました。2回聞いて、もう理解できたからいいと思ったのでしょう。同じ考えの人だけをつなぐのではなく、「○○さんの説明、納得した?まだ、納得していない人がいるみたいだけど、○○さんの考えを説明してくれる?」と違う考えの人をつなぐことも必要です。特によくできる子どもには、「自分はできたからいい」ではなく、他者の考えを理解し説明できるようになることや、友だちが納得できる説明を求めることが大切です。先ほどのよくできる子どもは、ペアで相談する場面で、自分のペアの子が指名されてうまく説明できた時にとてもよい笑顔を見せました。自分の説明が役に立ったことがうれしいのです。
授業者は子どもの言葉で授業を進めようと、自分の言葉を非常に少なくしていました。これはとても大切なことです。しかし、何人かの子どもに発言させるだけでは、必ずしも考えが整理されたり、深まったりするわけではありません。「ちょっと待って、今言ってくれたこと、みんな納得した?」と確認し、「納得できていない人がいるみたいだね。どういうことかもう少し詳しく聞かせてくれる」と切り返したり、「納得した人と手を挙げてくれた人、どういうことか説明してくれる」とつないだりすることが必要になります。また、発言を比較して、「○○さんの説明と違うところがあったね」「足してくれたことがあったね」と違いを取り上げて考えを深めることも大切です。次の課題が見えてきたように思います。

関係図を使って説明をしたあと、面積図に2/5とその1/10を書き込み、砂場の面積が全体の2/5×1/10倍になることを確認しました。面積図で表わすだけの活動です。なぜここで面積図を取り上げるのかよくわかりません。授業者は教科書に書いてあるから取り上げただけで、自身がなぜ教科書が面積図を扱うのかがわかっていなかったようです。
2/5が2/5倍だからと関係図に書き込むことで、何倍の何倍を計算すれば全体の何倍かがわかるというのは、かけ算の性質から考えたことです。分数で表わされる割合では、感覚的に納得できない子どももいるのです。実際に1000÷2/5÷1/10とした子どももいました。計算した結果がおかしくなるので、かけ算に直しましたが、今一つ腑に落ちていません。そこで、面積図が橋渡しをするのです。面積図はこの面積の問題の半抽象的な図になります。全体の2/5である広場とその1/10になる砂場を面積図に表わすと、分数のかけ算の説明の図と同じものができます。ここがポイントです。そのことに気づかせると、砂場は全体の(2/5×1/10)が出てきます。当然教科書の図は(2/5×1/10)「倍」とはなっていません。割合のままで扱っています。面積図と関係図を比較してみることで、関係図の結果も納得のいくものになります。そのために教科書は面積の問題で考えさせたのです。面積図は関係図を納得するために取り上げたのであって、あくまでも関係図が主なのです。このことは、次の図書館の本の割合の問題で、ヒントとして書かれているのが関係図だけで、面積図がないことからもわかると思います。
また、授業者は2/5×1/10で1/25倍になると、「全体」の1/25倍とは言いません。めあてでも使っているのに、「全体」という言葉が落ちてしまっていました。割合がどうなるかを考えるのですから、「全体」に対してどうであるかは重要です。面積図では特に全体を押さえることで、割合を意識させやすくなります。算数では、「何の」何倍、「何の」何分のいくつというように、「何の」にあたる部分(基準、元になる量)を明確にしておくことが大切です。このことを常に意識してほしいと思います。

一見地味で目立ちませんが、T2の動きが印象に残りました。授業者と阿吽の呼吸で、子どもの発言を板書します。ここは発言が終わるまで待ってから、ここはすぐにとタイミングを計っています。また、発言をよく聞いて余分なものをつけ足しません。図書館の本の割合の問題で、発表した子どもが、「関係図で童話は全体の3/10、日本の童話は童話の3/5」と説明しました。関係図なので「倍」をつけ足したいところですが、子どもの言った通りそのまま板書しました。「同じように考えた人」と次に指名された子どもは「倍」をつけて説明しました。ここで、違いを取り上げれば板書を活かすことができたのですが、授業者は気づきませんでした。ちょっと残念な場面でした。

子どもの言葉を大切にして授業を進めていたのですが、最後は、「全体の何倍になるかを考えると・・・」と授業者がまとめてしまいました。ここまで、子どもの発言にこだわったのですから、なんとか子どもにまとめさせたいところでした。とはいえ、「全体」を落としていたので、子どもにまとめさせようとすると苦しい展開になったことは予想されます。難しいところです。

教材研究や教科書の理解、切り返しやつなぎなど、課題はたくさん浮き彫りになりましたが、授業規律のよさや、教師と子ども、子ども同士の人間関係のよさ、子どもの言葉を活かし教師の説明を減らすといった素晴らしい点がたくさんありました。昨年度初めて授業を見せてもらった時から比べると長足の進歩です。この学校の若手は、切磋琢磨しながら急速に進歩しています。また、それを支えるベテランも着実に進歩しています。当然学校全体がとてもよい状態になっています。このことは授業検討会の様子からもわかります。

授業検討会はグループを活用した「3+1授業検討法」で行われましたが、みなさんとてもよい表情で楽しそうに授業について話しています。とくに若手が生き生きと話し合いをまとめているのでが印象的です。全体での発表も私がここにいる必要がないのではないかと思うほどしっかりしたものでした。私が指摘しようと思ったよいところについては、見事に焦点化されていました。また、改善点については、みなさん面積図の扱いをどうすればよいのか悩まれたようでした。この授業で見るべきところを皆さんでしっかりとらえていました。
私からは、なぜ授業規律が上手くできているかといった、子どもたちのよさをつくり上げているものと、面積図の扱いについてお話ししました。そして最後に校長からもリクエストのあった机間指導について授業者に質問しながら説明をしました。
授業者が机間指導中に子どもに説明をさせていたのは、指名して発表させるためのリハーサルということでした。しかし、ペアであれだけ話せるのですからペア活動を充実させた方がよいと思います。ただ、説明し合うのではなく、よくわからないところを聞き直す、どこがよかったかを伝えるといったことでブラッシュアップすればいいのです。常に全体を見ることを意識して、困っている子ども、動きが止まった子どもへの対応を中心にすべきでしょう。対応と言っても、個別指導をするということではありません。「ここを見てごらん」「これは何を表わしている」と固まっている子どもが動き出せるような短い言葉をかける、「友だちに聞いてごらん」と子ども同士をつなぐというなことをするのです。特に声かけは、子どものつまづきに合わせて、どんな言葉をかければよいかを事前にしっかり教材研究をしておく必要があります。個別指導をするよりも教科力が問われると思います。授業技術が上がっていくにつれて教材研究の重要度が増していくのです。

この学校のアドバイスを始めてまだ2年にもなりませんが、皆さんがとても素直に授業改善に取り組んでいて、その成果が既にたくさん出ています。とてもうれしく思います。また、先生方が真剣に授業に取り組んでいるので、私が学ぶこともそれだけ多くなります。このような学校に出会えたことをとても感謝しています。来年度も続けてアドバイスをさせていただくことになりました。この学校がどのように進化していくかとても楽しみです。
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