若手の成長とベテランの変化を感じる

小学校で、授業アドバイスと授業研究の助言をおこなってきました。昨年からおじゃましている学校です。学校全体によい授業規律が確立してきています。子どもたちが集中して学習に取り組んでいます。1年余りで学校がずいぶんよい方向に変わってきたように思います。先生方が素直に授業の改善に取り組んでいることと、教務主任が中心となって若手の授業に対するアドバイスやサポートがしっかりとされていることがその原動力でしょう。教務主任からは、日ごろの学級経営や授業の様子といった、授業アドバイスの対象の先生の情報を的確に提供していただけます。日ごろから先生方の授業を見ていることがよくわかります。

5年生担当の講師の先生の授業は、算数の平均の導入でした。グレープフルーツジュースをつくるために、何個グレープフルーツを買えばよいかという課題を子どもたちに与えます。子どもたちはその課題の意味するところをなかなか理解できません。授業者はどうしても自分が求める言葉を出させようと誘導する傾向があります。「今、・・・と言ってくれたけど、どういうことかわかる」「○○さんが言ってくれたこと、誰か説明してくれる?」と子どもの言葉を他の子どもにつなげていくことで、次第に考えが深まり、焦点化していきます。このことを意識してほしいと思います。
グレープフルーツを絞った量を色紙で表現したものを黒板に貼ります。その瞬間子どもたちの集中度が上がります。視覚に訴えることは効果的です。ここで、「ならす」という概念を教えます。きちんと用語を教えたのはとてもよいと思います。ただ、「ならす」を黒板で先生が操作して見せるのではなく、できるだけ子ども自身に操作活動をさせたいところです。「凸凹をなくす」「差を減らす」といった子どもの言葉で表現させた後、定義するのです。
途中で「おもしろタイム」という、時間を設けました。子どもたちの興味を引きそうな、お饅頭を題材にした課題です。子どもたちのテンションが上がります。ひとしきり盛り上がったのですが、本題に戻った時に子どもたちの集中力が下がりました。テンションを上げるとその反動が来ます。難しいところです。
授業者は、講師経験の長いベテランです。見せ方や伝え方の技術もたくさん持っているように思います。少し視点を変えて、子どもたちの言葉受け止めて、どうつなぐかといった、子どもたちの言葉を引き出し、活かすための技術を意識していただければ、大きく飛躍すると思いました。

4年生の理科の授業もベテランの先生でした。沸騰の実験の授業でした。この日の研究授業をする担任の学級です。子どもたちはとても集中して話を聞いています。
やかんを温めたらどうなるかを子どもに想像させます。何を答えていいのか子どもにはよくわからない問いでした。準備した絵のカードを使って子どもに答えさせます。やかんの口からでている湯気に着目した子どもがいました。説明がはっきりしないので授業者は本人にもう一度聞き直して確認しました。「湯気」という言葉が出てきたのですが、他の子どもには確認しません。授業者は、「沸騰しているということだね」と自分が出したかった「沸騰」という言葉に置き換えてしまいました。「沸騰」にこだわるのであれば、子どもたちから出させるようにしたいところです。「湯気がでるのは、どういう時?」「湯気がたくさん出ている時、やかんの中はどうなっている?」「ぐつぐつしていることをなんて言った?」というようにすることで、子どもから引き出すことができるはずです。授業を通じて1問1答が目立ちました。子どもから答えが出ると、それを受けて説明が続きます。子どもたちがよく聞いてくれるのでどうしてもしゃべりすぎるのです。
実験器具の説明は、実物を見せながらていねいにします。黒板に実験器具の一覧を示します。その一覧が線で仕切ってあります。この意味を子どもたちに問います。かなり無理のある問いです。1人の子どもが頑張って説明しようとしますが、なかなか要領を得ません。授業者は近いと評価しますが、結局自分で危険なものとそうでないものとに分けていることを説明しました。子どもの発言は活かされませんでした。その後ひとしきり、なぜ危険かを説明し注意をするように指示します。危険な器具に注意をさせたければ、「この実験器具の中で、取り扱いに注意をしなければいけない物を選んでください。その理由も教えてね」というように、子どもの課題にしてしまえばいいのです。そうすることで、どの子どもも危険な物を意識し、取扱いに注意をしてくれるはずです。
実験の手順をていねいに説明するのですが、一方的に説明をするだけで確認をしません。また手順そのものはどこにも記録されません。休み時間の後実験に入るのですが、どれだけ子どもに定着しているのか心配です。また、手順は説明されるのですが、実験の目的は明確にはされません。子どもの視点で、もう一度授業を見直してほしいと思いました。

2年目の先生の授業は、6年生の算数でした。円柱の体積の公式の場面です。
授業規律がとてもしっかりしていることに驚きました。授業者が何も言わなくても子どもたちは発表者の方に体を向けます。発表が終わるとすぐに授業者の方に体を戻します。授業者がめあてを口頭で説明して板書をし始めると、すぐにノートに写しだします。授業者がめあてを書き終る前に写し終る子どもが何人もいました。これにはちょっと驚きました。授業者は指示らしい指示をしません。笑顔で子どもたちにうなずいているだけです。子どもたちをしっかり育てていることがわかります。
角柱の体積の復習で、数人しか挙手しない場面がありました。つい挙手している子どもを指名したくなるところですが、となり同士で確認をさせました。子どもたちは、しっかりとかかわり合えていました。
円柱の体積の求め方を子どもに考えさせます。子どもからは、「底面積×高さ」が出てきます。そこで根拠を子どもに聞きます。「底面と上と途中も同じ」という説明が出ました。授業者はこの意見を全体で共有しようとします。他の子どもに何といったか復唱させますが、なかなか言うことができません。うなずいて励ましたりします。子どもが安心して参加できることを大切にしています。もう一度、最初の子どもに発言をしてもらったりもします。これ以外にも、「まわりの子助けてあげて」と助けを求めるといった方法も有効です。しかし、ここで子どもが復唱できなかった理由は、言っていることがよくわからなかったことが原因だと思われます。「底面と上と途中も同じってどういうこと」と、まず聞き返したかったところです。「上って何」「途中ってどういうこと」とどこを(底面と平行に)切っても同じ形であることをはっきりさせるのです。そうすることで、他の子どもも共有しやすくなります。「今、○○さんが言ってくれたことわかる人?」「あなたの言葉で説明してくれる」と他の子どもにつなぐといったやり方もあります。別の言葉で説明させることでだんだん明確になっていくので、全体に広がっていくのです。
授業者はこの言葉を全体に広げようとしたのですが、最終的にはこの考えを使わずに、用意してあった円柱の中に角柱を入れた図で説明を始めました。せっかくつなごうとした子どもの言葉が切れてしまいました。
角柱も円柱も底面と平行に切ると同じ形です。このことを使って、円柱の中にピッタリ入る角柱をつくることができる説明をしてもよかったかもしれません。
とはいえ、2年目の先生の学級とは思えないほど、子どもたちはよい姿を見せてくれました。ここからは、日々の教材研究がとても大切になってきます。子どもたちと教材をどのようにつなぐかを考えて授業をつくっていってほしいと思います。

ベテランの6年生の担任の授業は、算数のきまりを使って問題を解く場面でした。
何とか子どもたち全員に自分で解かせたいという強い思いを感じる授業でした。
子どもたちに表から気づいたことを発表させます。子どもから「売上高が増える」という言葉が出てきました。「売上高に気づいた人?」と確認します。続いて、売上高が20円ずつ増えることを押さえていったのですが、売上高に注目するよさを、できれば子どもたちに評価させたいところです。「売上高を5300円にしたいから」と言った言葉を引き出したいのです。ここで注意したいのは、関数的な見方を大切にしたい教材ですので、何とともなって売上高が増えるのかを明確にしておくことです。「120円のノート」が「1冊増える」ごとに、「売上高」が「20円増える」という関数的な関係を大切にするのです。
友だちの発言をうまく復唱できなかった子どもがいました。「助けてあげて」と他の子どもにつなぎます。このときまわりの子どもに助けてもらって自分で言えるのが理想です。ところが授業者は他の子どもを指名し、その子が自分の言葉で説明しました。このままで終われば、助けてもらったことにはなりません。指名された子どもに活躍の機会を与えただけです。しかし、授業者は、答えられなかった子どもにもう一度言わせました。失敗で終わらせないよい対応です。今度は答えることができました。
問題に取り組みますが途中で行き詰っている子どもがいます。そこでいったん作業を止めて、発表させます。300÷20という式が出てきます。ここで「300はどこからきました」と問い返します。数に対して、「どこからきたか」を問うのは子どもから説明を引き出すよい方法です。「5300から5000を引いた」と答えてくれました。ここで、もう一息、「5300は何?」「5000って何?」と聞いてもよかったかもしれません。ここから一気に説明に入るのかとも思いましたが、もう一度子どもたちに戻しました。何とか子どもたちに自力で答えにたどり着かせようという姿勢の現れです。手が止まっていた子どもも手が動き出しました。時間的には苦しかったのですが、子どもたちは答にたどり着くことができました。振り返りでは1人を残して「わかった」と書いていたそうです。その1人も自力で答にはたどり着いていたそうです。

若手の成長も素晴らしいのですが、ベテランでも変わろうとしていることがわかります。子どもたちと接する姿勢がとてもよくなっています。いよいよ学校としては次の段階が見えてきました。授業規律ができ、子どもと教師、子ども同士の関係ができてくれば、教科内容をいかに定着させるか、学力をつけるかです。今後の展開が楽しみです。

授業研究については、明日の日記で。
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