小学校の算数の授業で考える(長文)

先日、昨年からおじゃましている小学校で算数の授業アドバイスと授業研究の助言をおこなってきました。

初めて担任を持った若手の授業は2年生の九九でした。フラッシュカードを使って九九の練習をします。子どもたちは一生懸命大きな声で練習をします。授業者は「大きな声」を評価基準にしているからです。大きな声を出していることを評価するので、子どもたちはますますテンションを上げていきます。大きな声を出させるのはなぜでしょうか。それは自信がないと大きな声が出ないので、自信を持てているかの確認です。しかし、一部の子どもの大きな声は、一つ間違えると声を出していない子どもや声の小さい子どもの声をかき消してしまいます。過度にテンションを上げることはマイナスなのです。フラッシュカードを使う時は、声の大きさだけに頼らず、どの子どももしっかり参加できているか口元を見ることが大切です。授業者はフラッシュカードを胸元に置いて、笑顔で子どもたちを見ています。とてもよい表情です。子どもたちが一生懸命頑張る理由がよくわかります。面白い子どもが一人いました。みんなが声を出している間、集中できずに本を読んだりしています。授業者の視線は縦に移動します。その後で少し横にずらしてまた縦に移動します。視線の移動が読めるのです。先ほどの子どもは見事にその視線の移動を読んで、自分に視線が来る時にはちゃんと声を出すのです。先生にはちゃんと見てもらいたいのです。視線は常に全体を見ることを意識してほしいと思います。また、子どもたちを見てはいるのですが、一人ひとりとしっかり視線を合わせていないと感じることが多くありました。子どもの集中力を高めるには、ただ見るだけでなく、一人ひとりに視線を送ることも大切なのです。このことを意識してほしいと思いました。
子どもたちは九九をしっかり言えているのですが、何度も同じ順番で繰り返させます。九九は大きな声で順番に言えるようになることがゴールではありません。3×4を見ればすぐに「さんしじゅうに」と出てくることが大切です。テンポを速くしていく。逆の順番にする。ランダムにする。ゴールを意識してフラッシュカードの提示に変化をつけることが必要になります。傍から見ていると、子どもたちが指示に従って活動してくれるのがうれしくて、何度も同じことやっているようにも見えます。
1学期はなかなか授業規律が保てなかったと聞きます。そのことを思うと今はとてもよい状態です。子どもたちがきちんと授業に集中できる状態をつくることができるようになったのですから、次のステップを目指してほしいと思います。

2年生のもう1つの学級は、今年異動してこられたベテランの担任です。
子どもの発言をしっかり受け止めようとしています。発言者も先生に聞いてもらおうと一生懸命に話します。しかし授業者の視線が発言者の方に固定されことが気になります。発言者も授業者の方を向いたままです。他の子どもたちは発言を聞こうと発言者の方を向くのですが、子どもたちの視線は交わりません。前に出て説明をする時でも、子どもたちの視線はしっかりと発表者を見ているのに、発表者は黒板の横で見てくれている授業者の方を向いて話します。ちょっともったいないと思いました。授業者が子ども同士をかかわらせることを意識して、「みんながしっかりと聞いてくれるから、みんなの方を向いて話そうね」と声をかけ、「しっかり聞いてくれているね」と聞く姿勢をほめることで、子ども同士によい関係をつくることができます。
子どもの発言を黒板に書きとめるはよいことなのですが、時々子どもの発言の途中に板書することがあります。すると、せっかく友だちの言葉を聞こうとして集中していた子どもたちの視線が、黒板に移動してしまうのです。発言が終わってから板書するようにしたいところです。
気になる子どもなのでしょう。一人だけ黒板の横に座席がつくられています。本人は先生との距離が近いので気に入っているようにも見えます。いろいろと先生に話しかけます。授業者は友だちの発表の時には無視をしましたが、その後で発言の機会を与えました。なかなか上手な対応だと思います。ただ、先ほどのこととも関係しますが、子ども同士のかかわりが持ちにくくなるので、どこかで次のステップに移行する必要があります。前の座席にして、その横に立って授業者が全体に話をするといった対応も考えてほしいと思いました。
この学校に異動していろいろ戸惑っていたようですが、授業を変えることを意識されています。ベテランにとってはなかなか難しいことなのですが、立派な姿勢だと思います。これからどのように変わっていかれるかとても楽しみです。

3年生のベテランの担任の授業は、二等辺三角形の角の性質でした。
授業者は常に明るく優しい表情で授業を進めます。子どもたちは先生の説明にとてもよく反応します。問いかけに「はい」と反応を返してくれる子どももいます。こういうよい反応があるのですから、それをもっと広げて授業に活かすとよいと思いました。「反応してくれたね。ありがとう」とほめて広げる。「今うなずいてくれたね。それってどういうこと」と指名して考えを聞く。こういう対応をすることで、子どもたちがより積極的に参加してくれるようになります。
二等辺三角形の角を調べることがこの日の活動のねらいであることを示してから、作図の説明に入ります。
底辺の長さ、1辺の長さを黒板の図で指示します。続いて残りの辺の長さを示します。ここは、二等辺三角形の定義の復習を兼ねて「これで描ける?」と問いかけてもよかったと思います。「描ける」といった子がいれば、「○○さんは描けるといったけど、その理由がわかる?」と問いかけ、二等辺三角形の定義をもう一度意識させるのです。
簡潔でわかりやすい指示で、こどもたちはすぐに作業に入ります。ここで、この図を使って角を調べることをもう一度押さえておきたいところでした。そうすることで、図を描き終った子どもの中から、どうやって調べるのか考えてくれる者が出てくるからです。もちろん、描き終ったあとの課題としてもいいでしょう。
描き終った後、子どもたちに角を調べるのにどうすればいいのか問いかけます。よい進め方です。子どもからは「もう一個つくる」という考え出ます。授業者はこの考えを活かしませんでしたが、ちょっともったいないと思いました。「もう一個つくるってどういうこと」と聞き返せば、「同じのをつくる」「重ねてみる」といったキーになる言葉が出てくるはずです。
「調べる」はどの教科でもよく出てくる用語です。このことの算数・数学的、図形領域における意味を意識させたい場面でもあります。「今から角を調べるんだけど、どうするの?」「それで何がわかるの」と問いかけることで、大きさが「同じ」かどうか「比べる」というキーワードを引き出すことができます。「同じ」だけでなく「違う」も引き出しておくと、次の正三角形の学習でこのことを活かして、二等辺三角形との違いを意識させることができます。
子どもから「切る」が出てきました。授業者の指示に従って、子どもたちは素早く切って比べ始めます。ここで、まず三角形のまわりを切り取っている子どもがいました。切り抜いてから、辺にそって切ろうというわけでしょう。その子どもに対して補助の先生が辺にそって切るように指示していました。子どもなりの考えを聞いてから判断してほしいところです。子どもに寄り添うことを意識してほしいと思います。
授業者は子どもが作業している時に、かなりの時間を作業が遅い子どもについていました。どうしても全体の様子を見ることができません。できれば補助の先生にお願いして、自分は全体の様子を見るようにしてほしいと思いました。実は、この子どもの隣の子どもはかなり早く作業を終えます。先生がいない時、心配そうに見守って時々声をかけています。この子どもを活かすことを考えてもよいと思いました。「助けてもらおう」「助けてね」とつなぐのです。この子どもに限らず、この学級の子どもはしっかりかかわり合えると感じました。
実物投影機を使って子どもたちに説明させます。同じように2つに折っているのですが、その説明がみんな違います。実に言葉が豊かです。「辺を合わせる」「角を合わせる」「真ん中で2つに折る」、見かけの結果は同じですが、すべて違う発想です。授業者が日ごろから子どもたちの言葉を受容しているので、結果にとらわれず自分の考えを発表できるのです。残念だったのは、この違いを二等辺三角形の定義や性質と結びつける教師の働きかけがなかったことです。「辺の長さが同じだからぴたり重なる」「真ん中で折ると同じ形になる」と対称性を意識した言葉を子どもから引き出しておきたいところでした。
子どもの反応や言葉が豊かなので、それを活かして授業を組み立てることを意識すれば、素晴らしい授業になっていくと思います。

3年生のもう一つの学級は、三角形の仲間分けの授業でした。長さを色で区別したひごを使って三角形をつくる場面でした。子どもたちに画面と同じ三角形ができたかを確認しながら進めています。三角形は向きがいろいろです。子どもたちに目で確認させますが、これでは算数としては不十分です。同じで三角形であることをどうやって確認するか考えさせることが必要です。赤が2本、緑が1本というように長さを抽象化した色を使って確認させることで、この後の仲間分けにつなげていくのです。
授業者は、「○cmが○本・・・のひごでできる三角形」と話型を使い、長さで三角形を規定します。これでは長さを抽象化して色に置き換えた意味がありません。何cmであるかが問題ではなく、同じ長さのものがあるかないかに着目せるために色を使ったのです。
実物投影機などを上手に使って工夫をした授業でした。だからこそ、教科書の意図を理解して授業をつくる必要があります。教材研究が大切であることをわかっていただけたらと思います。

特別支援が2学級あります。
1つ目の学級の担任はベテランの先生です。優しい表情で2人の子どもと接しています。九九の問題を頑張ってやっていたのですが、わからなくなったのでしょう、途中で集中力が切れた子どもがいました。授業者は答につながる九九の表を指さすのですが、集中力は戻りませんでした。一度その問題から離れて、できる問題、できた問題をやらせ、そこでしっかりほめてやる気を出させる。九九の表を読ませるといった目先を変える工夫が必要なのかもしれません。
もう1つの学級は、若手が担任でした。笑顔で子どもに指示をします。指示したことができるまで根気よく子どもに指示を出しつづけます。ずっと子どもにしゃべっているのです。なんとか子どもは指示に従ってくれるのですが、そこで次の場面へと移ってしまいます。指示したことができた時は、大いにほめることが必要です。よい行動を強化する視点を忘れてはいけません。
特別支援の子どもは言語処理が苦手な子どももいます。言葉が頭の中でガンガン響いてパニックを引き起こす子どももいます。指示を板書することで、処理する余裕ができるので落ち着いて指示に従えることもあります。また、視覚処理の方が得意な子どもは、図で示すことでよくわかることもあります。こればかりは一人ひとりの特性があります。いろいろと試しながら、子どもの特性を理解して対処を工夫することをお願いしました。

初めて担任を持った方、この学校に異動したばかりの方もいました。戸惑うこともたくさんあったと思いますが、前向きに子どもたちと向き合っていただけていると感じました。どの学級も子どもたちが落ち着いていたことが印象的でした。算数と言う視点でいえば、教材研究の大切さを感じる場面が多くありました。個人で考えるのではなく、学年で相談するといったチームで教材研究することが必要に思います。

授業研究については、明日の日記で。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30