「授業で活かすICTセミナー」で大いに学ぶ(その4)

昨日の日記の続きです。

小牧市立小牧中学校校長玉置崇先生の講演です。お会いして教育談義をすることはよくありますが、講演の形でお話を聞くのは久しぶりです。また、セミナー前日のご自身のブログで「授業の本質に迫る話と模擬授業を試みたい」と語っておられました。否が応でも期待は高まります。

玉置先生の講演は小話で場を柔らかくすることから始まるのが常です。ところが、この日はいきなり本題に入ります。私の講評が入ったことで講演時間が短くなったことに加え、参加者が集中していて自身のテンションも高まっていたことが、ウォーミングアップなしの全開スタートにつながったようです。

最近よく話される、「講義=その時間で一番大切なことを教師が言う」「授業=その時間で一番大切なことを子どもが言う」から始まり、子どもが出力することの大切さを伝えます。
よく言われる、実物投影機やフラッシュ型教材などの活用に関しては、このセミナーの参加者であればよく理解されているし、先ほどの3本の模擬授業で十分伝わっていると判断されたのでしょう。子どもが考えるための道具としてのICT活用についての話に絞られました。

自身の失敗談を通じて、課題は子どもにとって必然性のあるものでなければならないことを伝えます。これは、ICTの活用だけでなく、どのような授業にも共通のことです。ICTの活用を例にすべての授業に共通の本質に迫っていきます。
そして、玉置先生の大きな転機となった授業、実は私にとってもそうだったのですが「当たるのはどこ?」の話をされました(その内容は玉置先生のホームページで)。コンピュータのソフトを操作しながら情報を集め、問題解決に向けて子どもたちは実に多様なアプローチを見せてくれました。互いの思考過程を共有することで、私たちの予想以上に子どもたちは学び合ってくれました。圧巻は、誤差の問題について子どもたちから出てきた疑問を、子どもたち自身で解決した場面でした。説明した女生徒の姿と自然に沸き起こった拍手を今でも鮮明に思い出すことができます。今から20年前のことでした。今でも色褪せない実践だと思います。

続いて模擬授業に入ります。「☆☆☆をそろえよう」というソフトを使った授業です。以前につくったものをExcelで作り直したものです。1〜100までの整数を画面上の表に入力して、ある条件を満たせば☆が出現するというソフトです。連続して☆を3つ揃えるのが課題です。
急遽アシスタントとして私がソフトの入力を引き受けることになりました。おかげで、正面から参加者の様子を見ることができました。順番に好きな数を言ってもらいます。「13」に続いて、次の方は「33」と言われました。画面には何の変化も起きません。そこで玉置先生は、「何か考えて決めていますね」と意図的に数を入れたことを評価しました。子どもの発言に対して数学的な価値づけを意識するのが玉置流です。この後、「53」「73」と続きました。☆が出ていないのに20ずつ増やしています。このことについて帰りの電車の中で玉置先生と話しました。「子どもなら、☆が出なければすぐに別のことをしようとするのに、参加者はなぜ同じ規則で数を入れようとしたのだろうか?」と疑問を述べられました。私の推測は、2人目が「33」と意図を持って値を入れたことを評価したので、それが正解へのヒントだと考えたというものです。玉置先生は、意図を持つことを価値づけしたのですが、規則そのものを評価したと考えたのでしょう。日ごろの授業で、直接答につながるような発言を評価していて、メタな考えを評価することはしていないのだと思われます。とても、面白い場面でした。
最初の問題は偶数であれば☆が出るというものでした。次の問題に移ります。今度は、ランダムに値を入れます。なかなか☆が続きません。玉置先生は、子ども役の発言を数学的に価値づけしていきます。「あなたはこういうことを考えて数をいれたんだね」と評価することで、次の子どももその視点を意識します。こういう授業を続ければ、「今○○さんはどんなことを考えてこの数を入れたかわかる」といった問いかけで、子ども自身で価値づけできるようになっていきます。参加者はなかなか戦略的に値を入れることをしません。子どもであれば、すぐに1から順番に入れようとするのですが、大人は頭が固いのかもしれません。1から順番に入れていくと簡単に規則が見つかります。答を見つけようとソフトを操作することが子ども自身で数学的な見方・考え方に気づいていくことにつながるのです。「等差数列(子どもからは出ませんが)」「3の倍数に2を足したもの」「3で割って余りが2」「2から3ずつ増える」・・・数学的にも多様な言葉が引き出されます。これがこのソフトの魅力です。また、先ほどの偶数の場合であれば、「2」「12」「22」で☆をそろえる子どもも出てきます。自信を持って答えると、それだけじゃないという反論に出合います。必要条件や十分条件を考える必然性も出てきます。参加者は子どもの立場で経験することで、玉置先生が授業を通じて子どもたちにつけたい力を理解してくださったと思います。

この日紹介された3つの実践すべてに私はかかわっていました。私自身が玉置先生とのかかわりを通じてたくさんのことを学ばせていただいていることをあらためて感謝しました。
当時は、玉置先生を含む何人かの先生方と定期的にソフトづくりをしていました。深夜遅くまで議論していて行き着くところは、「この教材の本質は何だろう。いや教科の、授業の本質とは」ということでした。この日の講演を「授業の本質に迫る」とブログで語られたことの原点をここにあったのだろうと想像しました。
講演で紹介された実践は、今よく言われている「普段使い」の、「手軽」なICT活用とは少し方向は違うかもしれません。しかし、あえてこの実践を紹介したことに、もう一歩進んで授業の本質に迫るようなICT活用を目指してほしいという思いを感じました。

しかし、感動ばかりしていられません。休む間もなく私の講評です。玉置先生の話を受けてどう展開すればいいのしょうか。玉置先生が話の中で触れられた「子どもの発言の価値づけ」を意識してそれぞれの授業をどのように進めればより素晴らしいものになるか、いくつかの視点で話をさせていただきました。
中村先生の算数の模擬授業については、子どもを認める・ほめるに関して、特に「○つけ」では一部の子どもだけほめるのではなく、全員をしっかりほめること。子どもの発言の受けに関して、「長さに注目したんだ」「三角形を探したんだ」「角に気づいたんだ」といった算数・数学的な価値づけをするとよいことをお話ししました。
南先生の国語の模擬授業については、指示をスクリーンに映すよさに関連して、スクリーンに映しつづけるのか消すのかという判断が大切なこと。子どもの活動に関して、目的や目標を明確にすることで評価や価値づけができることをお話ししました。
楠本先生の理科の模擬授業については、実物を使ったよさに関連して、理科での実験観察は課題解決を意識して、何をすれば解決できるのかを子どもが考える必要があること。ワークシートに関して、子どもが育つにつれ、指示や話型といった情報が少ないもの、最終的には単なる1枚の紙になっていくことが理想であること。ワークシートをデジタルで保存するなら、子どもが自身の成長に気づくきっかけとして活用してほしいことをお話ししました。

20分の中で話を詰め込んだので、参加者に理解いただけたか甚だ心もとないものでしたが、参加者が非常に集中して聞いていただけことをとてもうれしく思いました。
玉置先生のブログには、「大西さんの総括は、いつも以上に厳しい。こんなに斬られたのは、3人とも初めてではないだろうか」と書かれてしまいました。玉置先生がそういうのですから、かなり辛口に感じられたのでしょうか。反省です。

セミナー終了後、楠本先生があいさつに来てくれました。お話を聞くと私の指摘したことは実際の授業ではかなりできていたようでした。20分の模擬授業にまとめようとしたため、そこを省略してしまったようです。失礼なコメントをしてしまいました。それにもかかわらず、玉置先生と私に対して「清々しい気持ちです」と礼を言ってくださいました。この言葉に救われたと同時に、この姿勢であれば今後ますます成長されるだろうと、ぜひもう一度授業を見せていただく機会を得たいとおもいました。

セミナー終了後、懇親会にも参加させていただきました。楽しいお話とおいしい料理・お酒に大満足です。一参加者として勉強させていただくつもりだったのが、思わぬ素晴らしい時間を過ごさせていただきました。三重教育工学研究会の皆様に大いに刺激を受けたことと温かいもてなしに大感謝です。
帰りの電車では再び玉置先生と教育談義。最後まで本当に充実した素晴らしい1日でした。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30