「授業で活かすICTセミナー」で大いに学ぶ(その1)

先週末は、三重県教育工学研究会に主催の「授業で活かすICTセミナー」に参加しました。3本の模擬授業と解説、それに小牧市立小牧中学校の玉置崇校長の講演という興味深いプログラムに、個人的に申し込んだのです。ところが参加申し込みに私の名前を見つけた古くからの知り合いでもある研究会の会長とこの研究会のメンバーで愛される学校づくり研究会の仲間でもある方から、登壇をお願いされてしまいました。玉置先生の講演を20分削るだけの価値ある話をできるかどうか自信はありませんでしたが、私自身の勉強の機会だととらえお引き受けしました。

会場までは、玉置先生と名古屋から電車で向かいました。車中、授業づくりや授業アドバイスについて話をしているうちに気がつけば目的地の津。この時間だけでも参加した価値がありました(まだ参加していないって!)。駅での出迎えから、開始時間まで細かい気配りで接待していただきました。その間スタッフの皆さんは本当にいきいきとよく動いておられました。これだけの会を自主的に運営できる力に驚きました。自ら学ぼうとする意志とそして楽しもうというエネルギーを感じます。

開始前に、若いスタッフから声をかけていただきました。面識のない方です。この日記の愛読者で、授業づくりの参考にしていただいているということです。実践する中で、グループ活動をどこで止めるべきか悩んでいると質問をいただきました。その内容は子どもたちを活かすことを意識して実践しているからこその悩みでした。とても楽しくアドバイスをさせていただきました。その時、そばにいたこの日の模擬授業者もしっかり聞いていてくださるのに気付きました。この学ぶ意欲には感心しました。こんなメンバーがたくさんいる研究会の質の高さが感じられます。セミナー開始前にテンションが上がっていきます。こんなことはそれほどあることではありません。

セミナーのトップバッターは会長である、三重県大紀町立錦小学校校長中村武弘先生です。会長自ら範を示し模擬授業に挑戦するという姿勢は、上に立つべきものの手本となるものです。
授業は小学校3年生の算数、二等辺三角形の導入の場面でした。実物投影機を使って、教科書の図を大きく映します。この時点で授業者の「特別なことをしなくてもICT機器は活かせるんだよ。ただ、どう使うかを意識してね」というメッセージを感じました。
図は円の中に、中心を頂点とした半径を2辺とする2つの三角形が描かれているものでした。2つの三角形の辺は色を変えてあり、中心の点には「中心」と書かれていました。発問は「図を見て何でもいいから気がついたことをノートに書く」です。「何でもいい」という言葉は、どんな意見でも大丈夫だよ、先生が受け止めるからというメッセージです。この後の子ども役とのやり取りが想像できます。しかし、「何でもいい」は子どもにとっては、何を答えたらいいのか悩む問いでもあります。日ごろから視点を育てていないと答えにくいものです。また、教科書には図の説明で「円」という言葉があります。あえてこのことを言っていないということは、「円」という子どもの言葉も活かそうとするのではないかと想像しました。どのように展開するか興味津々です。

子ども役が作業をしている間、机間指導をします。一部の子ども役には「なるほど」と、また、ある子ども役には「いいね」と声をかけます。この違いが私には気になりました。「なるほど」は受容の言葉です。それに対して「いいね」は称賛の言葉です。すべてどちらかであればよいのですが、「なるほど」と言われた子どもは評価されたと感じない可能性があります。授業者は志水廣先生の○つけ法を意識されたのだと思いますが、そうであれば、全員に肯定的な声かけをする必要があります。声をかけられなかった、受容はされたが称賛はされなかった。こういうことが起こらないように気をつける必要があります。また、残り何分というような言葉が必要以上に多かったような気がします。全体に伝えるべき情報はいったん止めて伝えるべきです。そうでない情報はできるだけ控えた方が子どもたちの集中を乱しません。

いよいよ発表です。指名された子ども役は、前に出て図を使って説明しようとしました。その態度を「積極的」と授業者はほめました。ほめることはもちろんよいことなのですが、ここは算数のとしての価値もほめたいところです。図を使って説明しようとすることの価値づけをしてほしかったのです。発表者は、「円だから半径が等しい、2つの辺が等しいから、二等辺三角形」ということを指で図を示しながら説明します。ここで、発表をほめた後、もう一度今言ってくれたことを説明するように他の子ども役に指名しました。しかし、話し言葉ですからムダな言葉もあります。それを復唱することはそれほど簡単ではありません。実際に子ども役はすぐには言うことはできませんでしたし、「円だから」という言葉を落としました。残念ながら授業者はそのことを見過ごしました。他の子どもの話を聞くことを大切にする姿勢は素晴らしいのですが、そのための足場をつくってあげる必要があります。まず、全員が発表者の言葉を共有する必要があります。発表の後、「いいこと言ってくれたね。まだよくわかっていない人もいるようだから(挙手で確認をしてもいい)、もう一度言ってくれるかな」と再度聞く機会をつくります。そして、今度は、一言一言を区切りながら確認します。「円だから」「なるほど円なんだ。みんな円だってわかった。それで」「半径だから等しい」「半径だから等しいんだ。半径は図のどこ?」といったように、まず発表者の考えを図も使い、時には本人や他の子どもに問いかけながら、理解する場面をつくるのです。その上で、他の子どもに聞けばより多くの子どもが共有できます。このような場面は、大きく映すというICT機器のよさが活かされるところです。今注目している三角形部分だけに拡大することで、よりわかりやすくなったと思います。

授業者は、どの子ども役の発言も肯定的に受け止めます。しかし、「意外な意見」という言葉を使うことがありました。この言葉も要注意です。授業者に想定している意見があるということです。子どもは「あっ、外した」と考えるかもしれません。こういう経験を何度もすると教師の求める答は何だろうと「教師の求める答探し」をするようになってしまいます。「すごい意見だな。こんな意見が出たことがない。素晴らしい。でも、3年生では扱えないから、5(?)年生になったら考えよう」といった対応をすると子どもは納得してくれます。

子ども役から意見を一通り聞いたあと、「二等辺三角形は他にはないか」と問いかけます。「気づいたこと」ことから「二等辺三角形」に視点が移っています。子どもの発表からここに話題が移る必然性が求められます。また、今まで図そのものから気づいたことを発表していましたが、新たな二等辺三角形を見つけるには図に線を描きこむ必要があります。ルールが変わったのです。このことを明確にしないと子どもは困ってしまいます。「二等辺三角形を見つけてくれた人が何人もいるね。今日は二等辺三角形の勉強をするんだけれど、図の中にもっと二等辺三角形を見つけてくれるかな。線を1本だけ足していいからね」というように新たな課題として、少し考える時間をとる必要があるでしょう。「他にはない」と迫られても、子どもは考えられないのです。

説明の時に子ども役が「円」と言う言葉を使わなかったが、「円の半径」と授業者が付け加えた場面がありました。「半径。何の?」と子ども自身につけ足させるようにしたいところです。
また、子どもの発言に対して「いい言葉」という評価をしたのですが、それがどの言葉で、どのようにいいか具体的にしませんでした。これでは、せっかく評価しても共有できません。「いい言葉を言ってくれたね。先生はどの言葉をいいと思ったかわかる?」「この言葉がいいってどういうことかわかる?」というように子どもに考えさせるとよいでしょう。

最後に、二等辺三角形になる理由を説明する場面がありました。子ども役は「半径だから2つの辺が等しい」と説明したのですが、授業者は「どの辺のこと」と聞き返します。あえて、等しくない2辺を示したりするのですが、どうでしょう。子どもの説明をより明確にさせるために、物わかりの悪い教師になることはとても大切です。しかし、この場面では「半径」と言っているのです。であれば、「半径ってどこ?」と聞き返すべきです。そうでなければ、せっかく「半径」という算数用語を使って説明していることが死んでしまいます。

子どもを受容して活躍させたい。そういう思いに溢れている授業でした。いつも言っていることですが、だからこそ、たくさんのことに気づけ学べるのです。指摘の多さはその裏返しです。

続いてアドバイザーの元津市立倭小学校校長中林則孝先生の「ツッコミ」です。アドバイザーと机には貼ってありながら、ツッコミ役と紹介するところがこのセミナーの姿勢を表わしています。内輪の予定調和の解説ではなく、ツッコムことで授業者の考えを引き出し、より深く学ぼうということです。中林先生のツッコミは、その期待通りのものでした。
まず、授業者の机間指導でのしゃべりの多さを指摘します。子どもの集中を乱さない方がいいということです。それに対して、授業者は本人に聞こえるような声かけと、大きな声を使い分けていると主張します。オープンカンニングの発想です。時間がなくてそれ以上話題にできなかったので、私の講評の場でこのことについてお話することにしました。
また、ただ大きく見せるのではなく、MAX拡大を利用することも指摘されました。ここぞというところでは、MAX拡大を使うべきということです。これも納得できます。
実物投影機がなくて使えないという先生は自腹で買うべきだという主張もなるほど思いました。「道具を自腹で揃えない大工さんはいない」という言葉には説得力がありました。
いつもの中林先生らしい、明確なツッコミです。思わず何度も手をたたきそうになりました。
「ここまでツッコムか」と、スタートからわくわくするセッションでした。次の模擬授業がますます楽しみになりました。

この続きは明日の日記で。
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