グループを活用した「3+1授業検討法」の研究

先週末は、愛される学校づくり研究会でした。今回は、グループを活用した「3+1授業検討法」(楽しく授業研究をしよう【第4回】グループを活用した「3+1授業検討法」参照)で算数の授業研究をおこないました。グループの話し合いでよいところ3つ、改善点を1つまとめるというものです

授業は小学校5年生対象としたもので、子ども役8名で模擬授業をおこないました。
授業はいきなり「くじ引きをします」から始まりました。子どもたちに2桁の数を思い浮かべさせますが、条件があります。22や33はダメなのです。「どういう数かわかる?」と問いかけると、「数字が同じ」と出てきます。授業者は肯定しますが、他の子どもに確認せずに、「他の言い方はない」と聞き返します。「11の倍数」が出てきました。どうやら授業者は倍数で答えてほしかったようです。一言確認して、もう1つ条件を出しました。20とか30もダメなのです。子ども役は、今度は最初から「10の倍数」と答えました。授業者はそうですねとすぐに授業を先に進めていきました。典型的な1問1答の授業です。子どもが問いを考える時間も、答を理解する時間も与えずに進めてしまいます。
子ども役は授業者が倍数で言ってほしいのだろうと考えて答えたのでしょう。その考えが正しかったことは、「1の位の数字が0」という答を引き出そうとしなかったことからわかります。しかし各桁の数字を意識することも規則性を見つけることでは大切です。たとえば「123」「234」といった数は、倍数ではグルーピングできません。どちらかの考え方が優れているというわけではないのです。授業者は子ども役の説明に明確な価値づけや評価はしていません。だからこそ余計に授業者が考える答探しになってしまうのです。

全員起立させて、数を決めた子ども役から座らせます。子どもの状態を把握し、素早い決定をうながすよい方法です。代表に箱からカードを取り出させ、その数「27」と一致したかを問います。一致した子ども役がいました。「当たり。素晴らしい、すごい確率」とほめます。ここで確率という数学用語を使っています。まだ定義もしていない小学校の5年生であれば、あまり使わない方がいい言葉でしょう。
「当たり」といいましたが、どうもそうではないようです。授業者は思い浮かべた数を「ガッタンピー」してくださいと指示しました。子ども役は何のことかわかりません。一人の子ども役が「わかりません」と声を上げました。わからないと言えるのはよいことだと評価します。子どもが「わからない」と言う必然をつくり、言わせることで評価する。教師の望むよい行動を広げるためにほめる場面を意図的につくるという上手い方法です。
「ガッタン」とは1位の数と10位の数を入れ替えた数をつくること、「ピー」とはできた数と元の数の大きい方から他方を引くことと説明します。「ガッタンピー」の練習を先ほどの「27」を使って具体的におこないます。全員で「ガッタン」して「72」。「ピー」して「72−27」で「45」と「ガッタンピー」の確認をします。
自分の思い浮かべた数を「ガッタンピー」して「27」になったか問います。どうやら「ガッタンピー」した数がくじで引いた「27」になればよいということらしいのですが、子どもたちには明確になっていません。くじで引かれた数で「ガッタンピー」の練習をしたので余計に混乱します。どの数も「27」にならなかったので、「ガッタンピー」して「27」になる数をつくらせます。ミステリーツアーになってきました。子ども役は指示されたことに素直に取り組みますが、何のためにやっているのかはわかりません。「ガッタンピー」して「27」になる数を発表させていき、「52−25=27」「63−36=27」・・・とカードを貼っていきます。
発表させた後、「何か面白いもの見えない?」と問いかけます。「面白い」という言葉では何を言われているのかよくわからない子ども役がいます。1人だけ手を挙げてくれました。ここで、1人だけわかるのではいけないからと、「ひとことヒント」を言うように指示しました。「位の数を比べると・・・」と言いかけた時に、授業者は「比べる」でさえぎりました。しかし、何を言っているのかなかなかわかりません。わからない子どものために、追加のヒントを求めます。引かれる数の大小順にカードを並べ替えて、わかるかどうかたずねます。自分の考えを持つというより、教師の求める答探しの様相を帯びてきました。
「左側と反対側に同じ数が並ぶ」とぼけてくれた子ども役がいました。数字を入れ替えて引いているのですから、当たり前です。どうさばくかと思ったのですが、授業者はスルーしました。授業者の意図はともかく、子どもたちは求める答以外は認められないと感じてしまいます。ますます声は出なくなります。「わかった人いますか」という問いかけをするのですが、ここは「○○さんの気づいたこと」と付け加えるべきです。いつの間にか最初に気づいた子どもの考えをわかろうとする活動から、答をわかる(探す)活動にすり替わっていました。

この後、「ガッタンピー」したらどんな数になるか、規則性を見つけさせようとしますが、そもそもなぜそうすることが必要なのかわからないまま進んでいきます。行き詰った時に、気づいたことを隣同士で相談することで動きが生まれました。ここで、授業者は「見えてきたこと」「キーワード」という言葉を使います。焦点化されていくはずのところが、微妙に言葉を変えることでまた拡散してしまいます。授業者は同じことを言い変えているつもりかもしれませんが、子どもにとっては求められているものが変わったように感じて戸惑ってしまうのです。
9の段というキーワードがでたあと、9の段を書き出しますが、最初に応えた子ども役が81はないと指摘します。授業者は「81はないかな」と受け止めて「81」を「(81)」と書きましたが、それで終わりです。この発言に対する評価はありませんし、活かす場面もありませんでした。子どもからすると、教師にとって都合のよいものしか取り上げられないのだと感じます。
「どうしたら当たりくじをみつけることができる」という最後の発問もよくわからないものです。子どもからすると、「当たりくじをみつける」ということに何の意味があるかわかりません。最後まで、この活動が何のためのものかわからないままでした。

この授業を受けてグループで授業検討をおこないました。各グループからの発表は、「ガッタンピー」という言葉を使うことによる興味づけや「ひとことヒント」で参加度を上げたこと、「隣同士」で相談といった子どもをかかわらせる活動をよいところとして評価するものでした。一方改善点としては、課題が何かよくわからなかったという点に集中しました。改善点を1つに絞ることで細かい指摘ではなく、もっとも本質的なところがクローズアップされました。数を指定することのよさが出たように思います。

続いてグループを活用した「3+1授業検討法」の検討をおこないました。
この授業検討会は参加者にとっては視点が広がるよいものだが、授業者にとってはどうなのだろうかという「授業検討会は誰ためのものか」という話題。そもそも授業検討会で授業力がついた経験はないという意見。「3+1検討法」の検討は、予想外の展開を見せました。詳細は、7月22日(月)公開の、「楽しく授業研究をしよう」【第5回】グループを活用した「3+1授業検討法」はどう活かすで。
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