授業力向上研修で学ぶ

市主催の授業力向上の研修会に講師として参加してきました。各小中学校から1〜数名が参加するもので、その代表が授業をおこない、その後検討会をするという形式です。授業は6年目の教師の小学校6年生の外国語活動の時間でした。

ALTを使わずに、担任一人で授業をおこなっています。中学校の英語の免許を持っているということなので、できて当然かもしれませんが、英語の特別な知識を必要としない授業を目指しているように感じました。学校での外国活動の推進役として頑張っておられるとのことです。きっと、どの先生でもできる授業を意識しているのだと思います。
全体でのあいさつの後、子どもたちが隣同士で ”How are you?” と聞き合います。この時、子どもたちは互いにしっかりと見あって話していました。決まりきったパターンではなく、できるだけ知っている言葉を使って答えようとしているのが印象的でした。給食の後にもかかわらず、”I’m hungry.” と答えた子どもがいました。それを聞き取った授業者はその子どもに、何と言ったかみんなの前でたずねました。よく子どもを観察していました。できれば、発表はペアの子どもに言わせたかったところです。受け側の子どもを活躍させたいのです。外国語活動は話すことが中心で、聞くこと、伝えることがおろそかになりやすいからです。
音声教材を上手に使って、リズミカルに会話の練習をさせます。子どもたちはとても意欲的に参加しています。苦手な子どももしっかりやろうとしています。こういう全員でする活動は、しっかり聞くことで苦手な子どもでも参加しやすくなります。せっかくですので、そういう子どもに対して「しっかり口が開いていたね」と評価したり、時には個人で言わせて「いいね」とほめたりすることで自信をつけさせるとよいでしょう。
ピクチャーカード(アイコン)をうまく使っています。”I want to”、”go to”、”eat”、…と、英文と共に絵で示したカードを貼って、練習をさせるのです。ここで、英文が併記されていることはどうなのか少し判断に悩みました。子どもが絵(situation)から言葉を連想するのでなく、英文を読んでしまったら意味がないからです。小学校では文字を読むことはあまりしないので、逆によいのかもしれませんが、中学校で似たことをするのであれば、注意したいところです。
授業は海外旅行に出かけるという situation でつくられています。子どもたちに本物の旅行パンフレットを持たせて、ページ当てゲームをおこないました。本物を使うだけで、子どもたちの意欲は違います。リアリティはとても大切です。”I want to see beautiful beaches.”、”I want to see Ayers Rock.”、…と授業者が説明し、子どもたちがどのページか当てます。指名された子どもが ”six nine” と答えました。授業者は「うーん、ちょっと・・・」と間違いを修正させようとします。こういう時は、”six nine?” とそのまま復唱すれば、自分で気づいて、”sixty nine” と修正すると思います。もし、気づかなくてもこの学級であればまわりの子どもが助けてくれると思います。正解のオーストラリアがどこにあるか確認します。この時、「日本の下」という言葉が出ました。授業者はそのまま「日本の下」という言葉を使って、地図で確かめました。外国語活動の授業ですが、こういう場面は社会科の学習を意識したいところです。「日本の下?」と聞き返し、「日本の南」という社会科の用語を使った言葉を子どもから引き出すのです。
子どもたちにこの日の活動を示す場面は、実際に子どもを前に出して確認しながら説明しました。よいやり方です。観光客、ツアーコンダクター、出国審査官の3つの役を3人の子どもに前でやってもらいます。面白かったのが、前に出た子どもがみんなの方を向かずに互いに向き合って演じたことです。授業者はみんなの方を向くように指導したのですが、話す相手を見るというとてもよい習慣がついているのですから、あえて修正する必要はなかったのではと思いました。逆に、よいところとしてほめてもよかったでしょう。全体を意識させたいのであれば、前に出ている子どもと他の子どもの組み合わせで確認すればいいと思います。まず前の子どもたちで一度やってもらいます。そのあと、たとえば観光客役の子どもにみんなの方を向かせ、ツアーコンダクター役を全員でやるのです。また、授業者は前で子どもが話している時は、サポートしようと一生懸命見守っていました。このことは大切なのですが、全体見ることをしませんでした。子どもたちが聞いている姿も見ることを意識してほしいと思います。
列ごとに、役割のローテーションを確認します。「いいですか」「はい」ではなく、一斉に言わせます。子どもたちが全員口を開いているか、しっかり確認していました。この確認であれば子どもたちが戸惑うことはないでしょう。予想通り、子どもたちはそれぞれの役の場所へ素早く移動し、役のネームプレートを首にかけます。組み合わせを変えながら何度も会話をします。スムーズに進んでいました。ネームプレートに仕掛けがありました。先ほどのピクチャーカードのアイコンが表に印刷してあるのです。その役で使う文型がわかるようになっています。裏面には英文で書かれています。最初の活動とうまく連動させています。課題の連続性が意識されています。とはいえ、そのヒントを使っている子どもはあまりいませんでした。ヒントを見なくてもちゃんとできるようになっていたからです。
ツアーコンダクター役は大活躍です。自分がつくった紹介パンフレットを手に、自分で考えた文を一生懸命話します。話し終わると満足そうな表情を浮かべます。対する観光客役は “Bye.”で終わる子どもいます。その間、出番のない出国審査官役は手持ちぶさたです。ハンコで遊んだり、雑談をしたりしています。全体のテンションはやや上がり気味になっていきましたが、コントロールを失うほどにはなりませんでした。ツアーコンダクター役や出国審査官役の場所が決まった位置に固定されていたので勝手な動きができなかったことが影響しているのかもしれません。
今回事前に参加者に対して、特に子どもたちの活動量を意識して見るようにお願いしました。参加者はこの子どもたちの様子をどうとらえたでしょうか。検討会が楽しみです。
子どもたちは英語を話すことをとても楽しんでいました。苦手な子どももしっかり話せて大満足の様子でした。苦手な子どもたちは始業前や放課に、先生のところに練習にいっていたようでした。子どもたちを意欲的にするよい課題だったということです。

検討会は3グループでおこなってもらいました。発表では、ツアーコンダクターの活動量に対して、他の役割の話すことが少ないことが指摘されました。それに対して、出国審査官役は話す量は少ないけれど、相手の話す内容に応じて言葉を変えていた子どもがいた。しっかりと聞いていた。聞くことも立派な活動ではないかという意見が出てきました。「聞く」というキーワードが出てきたところで、今回の検討会で私が目指したことは達成されました。「聞く」ということを活動として意識することはとても大切です。発表者は一人です。聞くことが活動して意識されなければほとんどの子どもは活動の機会がないということです。しかし、ただ聞いているのと先ほどの出国審査官役との違いはどうすればわかるのでしょうか。このことをもう一度グループで考えてもらいました。おそらく今回の参加者の多くは今まで聞くことをあまり意識していなかったのでしょう。言葉がなかなか出てきません。しかし、真剣に考えていることはよく伝わります。グループ活動で本当に子どもたちが考えている時には、テンションが上がらないことがよくわかっていただけたのではないでしょうか。ある方が「振り返りを書かせれば、それを見ることでわかる」と答えてくれました。確かにその通りです。しかし、このやり方ではリアルタイムには判断することはできません。この考えは使えないのでしょうか。そうではありません。大切なことは、子どもに出力させることなのです。出力させなければ判断できません。声に出さなくても、納得すればうなずく、わからなければ首をかしげる。子どもに外化を求めるのです。また、聞くことに価値を持たせることも大切です。聞いた内容をもう一度話させる。友だちの意見に納得したかどうかを問う。どこで納得したかたずね、よく聞けたことを評価する。こういう活動と評価を授業の中に組み込むことが必要になるのです。
この視点でもう一度この日の授業を見なおせば、話すことが中心で、聞くことに意識がいっていなかったことがよくわかります。子どもたちの自己評価は、話せたかどうかなのです。外国語活動はコミュニケーションが大切です。コミュニケーションは一方的に話すことではありません。伝え合うことです。そこには、聞くこと、理解することが含まれています。授業における価値、評価の規準を「話すこと」から、「聞くこと」「理解すること」、つまり伝わったかどうか、わかり合えたかどうかに変える必要があるのです。このことは、外国語活動には限りません。言語活動を意識した授業であれば、すべての授業で求められることです。
授業者はとても勉強家です。いろいろな勉強会にも積極的に参加しているそうです。でなければ、このようなたくさんの工夫がみられる授業はできません。この視点を意識することで、大きく進歩することと思います。

検討会終了後、授業者と話す時間をいただけました。今まで「話すこと」しか意識していなかったことを話してくれました。とても素直な方です。また、少しでもリアルな教材を子どもたちに提供しようと、ファミリーレストランの英語のメニューを教材として使えるように交渉したこともあるそうです。行動力もあります。リアルという視点では、子どもたちの身近なところにあるものを使うとリアリティが増します。校区内で使われている英語を見つけ、それを写真にとって教材としても面白いことをお話しました。
また、教育論文にも挑戦しているそうです。今回の研修が役に立てば幸いです。

工夫が多く、子どもたちが意欲的な授業だったので、私を含め参加者全員が多くのことを学べた研修だと思います。次回の研修が今から楽しみです。
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30