体育の授業で考える

前回の日記の続きです(「学習規律の次にくるもの(長文)」参照)。授業研究は1年生女子の体育、バスケットボールの授業でした。

授業を見て最初に目についたのは集合した時の子どもたちの視線です。全員まっすぐに授業者を見つめています。集中していることがよくわかります。
ボールを取りに行く、カラーベストを班ごとに着る、班の活動場所に集合する、シュート練習の準備をする、といった一連の動きが指示されました。授業者は指示の確認をしましたが、求めたのは「はい」という返事だけで、内容の確認はしませんでした。この後の子どもたちの動きが楽しみです。授業者が駆け足でボール置き場に向かうと係の子どももいっしょに素早く駆け足で移動します。しかし、残った子どもたちはカラーベストを着用した後、ゆっくりと移動します。ボールが届いてもドリブルをしたり話をしたりしてシュート練習の体制にはなりませんでした。授業者が笛を吹いて動きを止めた後、指示をすることでスムーズに動き出しました。この日のメインの活動である5対3でのオフェンスの練習でも似たことが起きました。他のグループと合同で練習するかどうかを相談で決めて、練習をするように指示しました。10分間の練習時間が与えられましたが、子どもたちが練習を開始できたのは2分半ほどたってからでした。
子どもたちが自分で考え、自律的に動けるようになることを授業者が目指していることはとてもよく伝わります。しかし、1年生のこの時期ではまとめて指示をして動かすのはまだ難しそうです。また、相談させるならその時間をまずとり、その上で練習の指示をするというように活動を分ける必要がありそうです。一つひとつが素早く確実にできるようになってから、まとめて指示を出したり、子どもたちに判断させたりするようにするとよいでしょう。目指す姿に至るためのスモールステップを意識することが必要です。

シュート練習を見て驚いたのが、とても1年生とは思えないほどシュートが上手いことです。部活動の経験者ばかりかと思うほどでした。授業者は、シュートが入らなければ子どもたちは面白くない、ゲームとして成り立たないと考え、シュート練習の時間を多く取ったということです。ただ時間を取ればうまくなるわけではありません。最初はゴールに近いところで動かずに打つことから始め、次第に動きを入れるといった工夫をしたのだと思います。見事な指導だったに違いありません。

この日の活動について、まずシュートを狙う、次にドリブルでボールを前に進められないか判断する、ドリブルがダメならパスを考えるという、行動のポイントを伝えます。声を出すことも指示しました。グループで考えてプレーすることも伝えます。しかし、実際にはただやみくもに練習している感は免れませんでした。原因の一つは指示が漠然としていることです。たとえば、シュートを狙うという指示を現実のプレーに置き換えるのはちょっと経験したくらいではなかなかできません。スモールステップで伝えることが必要です。声を出すといっても、「ナイスシュート」「ドンマイ」といった精神面での声出しはできても、「広がろう」「パス出して」「シュート」といったプレー面での声出しはそれほど簡単ではありません。実際にプレーをさせ、ポイントとなる場面を笛で止め、どうプレーすればよいか、どういう声出しが必要か具体的に考えさせるといったことが必要になります。グループでプレーをどうするか考えるにしても、いったん活動を止めて考える時間が必要でしょう。先ほどの指示と同様、最初の内は活動の中にその時間を組み込んでおかなければなりません。
また、プレーしていない子どもが他のメンバーのプレーを見にくいことも気になりました。オールコートでプレーをするため、オフェンスはメンバーと反対側のコートでプレーします。これでは、外から声かけもできません。順番を待っている間はだらけてしまいます。子ども同士のかかわり合いが生まれにくい状態でした。体育では子どもたちの活動量が問われますが、体を動かす以外の活動ももっと意識してほしいと思いました。(体育で大切にしたい活動参照)

子どもたちは一生懸命活動をしていますが、活動したことで満足しています。バスケットボールの課題の評価が何か、明確ではなかったからです。授業者が全員を個別に評価することは難しいことです。だからこそ、自己評価できる目標を与えることが大切です。もちろん団体競技ですからグループの目標も必要です。子どもたち自身で評価できる目標を与えることで、最後の振り返りもより意味のあるものになります。

また、課題の連続性も気になりました。この日の活動で、まずシュートを狙うということがポイントとして上げられていました。バスケットでシュートを狙うためには、まずゴールを見ることが必要です。ドリブルを止めてボールを持つ時、パスを受け取る時、まずゴールに体を向けることが大切です。この日の課題のねらいを考えると、シュート練習の時にゴールを向いてパスを受け取る練習を組み合わせておくことが必要です。課題に取り組む前に、その練習を思い出させることで、連続性が出てきます。この日のシュート練習は、ゴール下からのパスを受けてのものでした。少なくともこの日のメインの活動ではこのような場面はまずありません。連続性がなかったのです。
課題の連続性を意識するのは、体育だけに限りません。どの教科でも意識してほしいことです。単元の中だけでなく、単元を越えての、学年をまたいでの連続性も大切です。教材研究がとても大切になるのです。

検討会では、技能教科における子どもたちのかかわり合いについて、他の技能教科の取り組みが発表されました。
技術では個人での作業が中心です。なかなか共通の課題をもってかかわり合うことが難しい教科です。そこで、まずは作業に取り組ませてから、うまくいかないこと、困ったことを発表させる。子どもたちから出てきた課題に対して、どうすればいいのかを全体で考える。このようにしているそうです。参考になるやり方です。
音楽では合唱など、いきなり全体で話し合うことが難しいので、まず隣同士で意見を聞きあうようにするそうです。その上で、どんな意見が出たかを、意見を聞いた子どもの方に発表させるというのです。聞くことを大切にするやり方です。さすがにベテランは基本を外さないと感心しました。出た意見の中から全体で考えるべき課題を見つけていくというのは、技術と同じです。共通の考え方が見えてきました。
このやり方の有効性は、技能教科に限りません。他の教科でも十分に応用が聞くものです。とてもよい学びができたと思います。

この授業に関して私からは、子どもに考えさせるための場面を設定することが必要であったことを話しました。活動中に自然に考えることができれば理想ですが、最初はしっかりとその時間を確保して、考えるとは具体的にどうすることかを教えることが必要なのです。「考えて」という言葉では考えることができるようにはなりません。どうすることが考えることなのかを教えなければいけないのです(「考えて」では考えられない参照)。
また、課題の連続性と関連して、課題解決のために何が必要か意識することもお願いしました(考えるための足場をつくる参照)。

検討会で話題になった、振り返りで何を書かせるかについても少し話をしました。「感想」「まとめ」「振り返り」の違いを意識することが必要です。「感想」は、「頑張った」「面白かった」といった学びと直接関係のないものになりやすいので、あまり重視しない方がよいでしょう。一方、その日学んだことを自分の言葉で「まとめる」のは意味のあることです。教師のまとめを写すのではなく、自分でまとめることは学力をつけるためによいことです。しかし、まとめる力がなければなかなか手がつきません。次の時間に子どもたちの中からよいまとめを紹介するなどして、どうまとめればよいのかを教える必要があります。「振り返り」のポイントは、自分の進歩を意識させることです。この日何ができるようになった、何がわかったと自己評価をすることで、自身の成長を意識し自己有用感を持つことができます。自己評価ができるためには、子どもにわかる目標、評価基準が必要になります。その時間の課題の評価も大切ですが、教科の共通の目標も大切になります。たとえば数学であれば、「共通の考え方を見つける」といったものです。教科の見方・考え方につながるものと言ってもいいでしょう。このことを明確に意識させることが、子どもの学びをより深いものにします。

検討会終了後、体育の先生方と懇談しました。私の出会った先生の中で、授業が上手い方は体育に多いことを話しました。指示がきちんと通らなければ事故が起こる。分かれて活動するので、常に全体を把握することを求められる。子どもの技術が上達したかどうか明確にわかる。このような現実を厳しく突きつけられるからこそ、授業が上手くなるのです。体育の教師としての基本がしっかりしていれば、それだけで立派な教師なのです。
体育は、教室の授業では目立たない子どもが活躍できる教科です。だからこそ、運動が得意でない子どもも活躍する授業を目指してほしいことを伝えました(体育で大切にしたい問いかけ参照)。

この日の体育の授業は、授業者が子どもたちどうあってほしいと思っているか明確な授業でした。だからこそ、多くのことに気づくことができました。いつものことですが、特に体育の授業からは学ぶことが多いと思います。できた、できていないが子どもたちの姿からはっきりわかる体育だからこそ、他の教科の先生方も多くを学べたのです。とてもよい授業研究でした。
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