子どもたちの変化を見る

昨日は中学校の学校訪問に同席しました。研究指定を受けている学校で、午前中は公開授業、午後からは授業研究でした。
前回訪問から1月あまりの時間が経っています。子どもたちの変化の様子が気になります。

3年生は、以前と同じく人間関係のよさが感じられる場面が多くありました。子どもたちの笑顔もたくさん見られたように思います。
前回授業研究をされた英語の先生の授業です。飲み物や食べ物を勧める文を中心としたグループで会話文をつくるという、前回と同じような場面で、子どもたちのテンションが落ち着いていたことに気づきました。習っていない文も自分たちで調べながらつくろうとしています。いろいろな飲み物や食べ物がたくさん例として用意されています。その場面を直接見た訳ではないのですが、おそらく子どもたちは例から選べるので、会話の中身をつくることに時間をかけずに、英文をつくることに集中できていたのではないかと想像します。自分でつくれない文があるとまだ先生に質問する子どももいますが、授業者は自分で調べるように促していました。明らかに前回の授業研究が活かされていることがわかります。「アレルギーがあるから食べられない」というような文を自分たちで調べて発表してくれたグループもあったそうです。授業者も手ごたえを感じていました。
また、社会科の人口ピラミッドをもとに人口問題を考える授業で、ある子どもが「老人の医療費をカットすれば、老人の数も減る」といったことを発表しました。ちょっと怖い発言です。授業者はそれでも、まず受け止めて、「・・・してきた人たちだけど、それでもカットする」と返しました。子どもは「しない」と自分で発言を訂正しました。教師が否定するのではなく、その子ども自身に訂正させたのはとてもよい判断です。次は、授業者が直接返すのではなく、他の子どもにつないで、友だちの意見で考えを修正することを目指してほしいと思います。友だちの考えを受け入れて考えを変えたことを評価することで子ども同士の関係もよりよいものにすることができます。
また、このような倫理的にちょっとと思うような考えが発表できるというのは実は素晴らしいことです。受けねらいというわけでなくこのような発表ができるというのは、安心して発表できる学級だということです。教師を含め学級の人間関係もちゃんとできているということです。授業者は「子どもたちがまとめを『ガリガリ』書いてくれる。たくさん、しかもていねいな字で」とうれしそうに話してくれました。ありがとうという言葉をたくさん使うように心がけてきたそうです。子どもたちがしっかり応えてくれるようになったと語ってくれました。
お二人ともベテランです。にもかかわらず、他者のアドバイスを受け入れるその姿勢は、見習うべきものです。いつも言うことですが、ベテランだからこそちょっとしたことを意識するだけで授業が大きく進化するのです。お二人の笑顔がとても印象に残りました。

3年生に共通することですが、グループ活動でかかわれない子どもが依然見受けられます。またそれとは別に、授業のじゃまはしないのだが参加しない子どもが各学級で目立つようになってきました。授業内容がわからない、ついていくことをあきらめた。そのように見えます。このような子どもが目立つようになるのが中間考査の終わった時点というのは、少し早いように思います。授業だけで何とかしようとするのは難しいかもしれません。個別に1・2年生の復習、やり直しの課題を与えるといった対応が必要でしょう。

1年生は、子ども同士の関係もよく、よい雰囲気で授業が進んでいきます。前回の訪問時と比べて子どもの表情が柔らかくなっているのが印象的でした。聞く体制ができるまで待ってから話すので、子どもたちの集中力もなかなかのものです。ただ緊張感が薄れたのか、集中するまでに少し時間がかかるように感じます。柔らかさが緩さにつながっているのかもしれません。このよい雰囲気を残しつつ、素早く切り替えができると素晴らしいと思います。
また、このよい人間関係が学級活動や行事でつくられているのではないかと感じさせる場面がありました。グループ活動やペア活動で作業が終わった、活動が止まったときに、授業と関係ない雑談をしている姿が目につくのです。友だちと和んでいるといってもよいかもしれません。日常の班活動と同じメンバーがグループになっていることと関係があるように思います。授業中、特定の友だちとだけでなく、学級のだれとでかかわり合えるようにすることを意識してほしいと思います。

昨年度授業アドバイスをした若手は以前よりしっかり子どもたちを見ていました。投げかける言葉も細かいところまで意識しています。子どもたちがしっかりと集中して授業に参加していることが廊下の反対側からも見て取れます。指摘されたことを素直に実行し続けていることが、子どもの姿からよくわかります。この教師に限らず、子どもたちが授業に真剣に取り組むようになってくると教科としての課題や活動内容が問題になります。この時間、この教材を通じて子どもたちにつけたい力は何かについて、もっともっと明確にする必要があると思います。ねらいが明確になれば、自然と評価も明確になります。授業が終わった時点での子どもの姿、振り返りの内容で授業がどうであったかよくわかります。そこには次の授業の改善へのヒントがあります。毎日地道に繰り返すことで教科力がついてきます。同じ教科の仲間で学び合うことで向上するところでもあります。全体での授業研究と平行して力を入れてほしいところです。

2年生は、ごく一部ですが、授業中に教室から出て行くような生徒がいるため学年全体が落ち着かないと感じました。先生方は怒鳴ったり、力で押さえたりしようとはしていません。そのため、教室の雰囲気が決定的に悪くなるような事態にはなっていません。先生たちがチームワークで頑張っていることがよくわかります。子どもたちも集中して課題に取り組むなど場面場面でよい姿を見せてくれます。とはいえ、どうしても集中力が続かないと感じることが多くなります。特に教師が説明して子どもが受け身になるような場面では、顕著です。こういう場面で授業の内容に直接関係ないことで子どもが声を出します。彼らも息を抜きたいのでしょう。高めのテンションで教師に声をかけます。子どもっぽい行動ですが、教師と関係が悪くないので起こる行動です。ここで無視をすると、エスカレートしていくことを知っているのでしょう、教師はその言葉に反応します。こういうことをきっかけに学級全体のテンションがおかしくなっていきます。こういった光景が目につくのです。また、教師の方からムダな話を振ることもあります。子どもの目先を変えて集中力を回復させたいという思いでしょう。しかし、一度上がったテンションを下げるのは難しいことです。この学年に限らず、この学校の生徒はテンションが上がりやすい傾向があります。テンションを上げることよりも、積極的に取り組める活動を増やすことで集中力を持続させるようにするとよいでしょう。テンションを上げ気味の生徒に対しては、ちょっと落ち着いた瞬間をとらえて「おっ、落ち着いたね。いいよ」とほめる、ペアレンタルトレーニングの手法が有効でしょう。

今回授業を参観して学校全体で感じたことは、個人での作業にこだわりすぎることです。まず個人で作業をしてから、グループやペアの活動に入るという形を取っているのです。自分の考えがなければグループ活動でも積極的に参加できないからという理由も想像がつきます。しかし、個人作業の段階で手がつかない子どもはその時間のうちに集中力を失くしてしまう恐れもあります(個人作業にこだわりすぎない参照)。
授業を見ていると、友だちの手元を見たり、相談を始めたりしています。子どもたちは、自分から相談できるようになっています。であれば、「どうしてもわからなければまわりの人に聞いてもいいよ」と相談することを許可したり、最初からグループの隊形で個人作業を始めて、相談しやすくしたりすることも視野に入れた方がよいと思います。

グループ活動では、子どもが考えるために必要な知識や情報は何かが意識されていない課題が多いように感じました。一部のグループが行き詰って活動が止まっているときに、教師がヒントを出しに行ったりしていますが、そうすると、結局安直に教師を頼るようになってしまいます。必要な知識や情報が意識されていれば、グループ活動に入る前に、見通しを持たせておくこともできます。途中で一旦活動をやめて、どのように取り組んでいるか過程を共有することで、必要な知識や情報を整理することもできます(グループ間格差をどうする参照)。
また、特定の子ども(班長?)が場を仕切っているように感じることがよくあります。わかっている子がこうだと一方的に教えている、説明している場面が目につきます。「わかれ」という説得型の活動です。そうではなく、「教えて」と聞く方が主体となって「わかろう」とする、納得型の活動を目指すことが必要です。「わからせる」ことではなく「わかろうとする」ことにより大きな価値を見出すのです。うまく説明できた、教えることができたということよりも、友だちの説明で理解できた、わかったことを高く評価するのです。

子どもが学び合うための土台が少しずつできてきたように感じます。土台をより強固なものにすると同時に、その上に何を立てるかという教科の課題や目標が問われるフェイズになってきました。これからが、本当に先生方が知恵を絞り工夫をするときです。学校のこの後の変化が楽しみです。

授業研究については日を改めて(授業研究から学ぶ)。
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