子ども同士の関係がよいことで満足しない

以前に「子どもとの関係がよいことで満足しない」と書きましたが、では「子ども同士の関係」がよくなればそれでよいのでしょうか。子ども同士の関係がよくなってくると、学習への参加意識は高くなり、互いに聞き合いながら学ぶようになります。では、それに比例して子どもたちの学力は高くなるのでしょうか?
一般的には、下位の子どもたちが授業に参加できるようになるので、彼らの学力は確実に高まります。上位の子どもたちも、友だちに教えることでより深く理解できるようになります。当然全体で学力は向上していきます。子ども同士の関係がよくなり、互いに聞き合う関係ができるようになれば平均的な学力は向上するはずです。私の知る限り、学力テストなどでも検証できているように思います。しかし、ある程度の効果がでたあとは、そう簡単には伸びてはいきません。壁にぶつかるのです。

子ども同士の関係がよくなってきたからといって、それだけで学力がつくわけではありません。「わからないから教えて」と聞けるという関係は大切です。しかし、誰かが必ず答を持っているわけではありません。解決のための方法を知らなければ解決できない問題はたくさんあります。子どもたちが問題解決の方法を学んでいくことが必要です。
たとえば、歴史を学ぶことを考えましょう。教科書や資料集を調べて、書かれていることを抜き出せば学力がつくわけではありません。書かれていることを覚えれば知識はつくかもしれませんが、それだけで学力がついたとはいえません。調べたことをもとに、原因や結果などの関係を整理したり、それぞれの立場で考えたりといったことが必要です。こういう学び方をして初めて本当に学力がついてきます。教師が意図的に、問題解決の方法や学び方を身につけるような働きかけをする必要があるのです。

課題を解決する過程で子どもたちが気づいた方法を共有化する方法もあります。課題をスモールステップで解決することで、解決の手段を意図的に経験させ、次第にステップを大きくする方法もあります。もちろん、解決方法そのものを教師が整理して教える方法もあります。
いずれの方法をとるにしても、子どもたちが自分で解決する経験を積むことが大切になります。そのためには、子どもたちが孤立していては一部の子どもしかその過程は経験できません。多くの子どもは誰かが解決した後、その結論を受け身で聞かされるだけになります。そうではなく、たがいに過程を共有化しながら学び合うことで、どの子どもも自分の経験として身につけることができるようになるのです。これは、子ども同士の関係がよく、学び合いが成立していないと難しいことです。

もう一つ大切なのは、課題そのものの質です。子どもたちに学び合う土台ができていれば、どんな課題でも子どもたちは互いに相談しながら集中して課題に取り組みます。教師はその姿を見てよく学んでいると満足します。しかしその課題に取り組んだ結果、最終的に子どもたちに何の力がついたのかわからない。残念ながら、そのような授業に少なからず出会います。子どもたちに学力をつけるためには、目指す力がつくような質の高い課題を提示する必要があります。

教師と子どもとの関係がよくなり、子ども同士の関係がよくなることはよい授業をつくるためのインフラです。そこからが本当の勝負になります。子どもが自分たちで学べるようになるためにはどのような力(メタな力)が必要なのか、学力をつけるためにはどのような課題であるべきなのか。学びの本質を問い、教材研究をすることが必要です。教師自身の学ぶ力が求められるのです。
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