自分の問題と自覚することから成長が始まる

学校で授業アドバイスをさせていただくようになって10年以上になります。その間学んだことの一つが、指摘すれば直る、教えればできるようになる訳ではないということです。お恥ずかしい話ですが、最初のうちはこのことをちゃんと意識できていなかったように思います。指摘しても直らないのは本人の資質の問題だと思っていたのです。しかし、授業に置き換えて考えてみれば、「ちゃんと説明しているのにできないのは子どもが悪い」と言っているようなものです。どんなによい指摘やアドバイスでも、相手が聞こう、わかろうとしなければ意味をなしません。

この当り前のことに気づいてから、短い時間で話を聞いてもらえる関係をどうつくるか意識するようになりました。一番効果的だと思ったのが「笑顔」でした。教師時代には子どもに対しては笑顔を大切にしていましたが、大人に対しては特に意識はしていませんでした。笑顔で、相手の言葉を受け止める。よいところを見つけて認める、ほめる。このことを大切にするようにしてから、よい方向に変わってくれる先生方が増えたように思います。私のストレートな指摘も受け止めてくれるようになりました。

また、アドバイスの視点も変わってきました。まず、子どもと教師の人間関係をつくることからアドバイスするようにしたのです。どんなに教材研究をしてよい発問を考えても、子どもが先生の話を聞こうとしなければ話になりません。特に、若い先生にはこのことを伝えなければ、おもしろいネタ集めに走るなど、違った方向にエネルギーを使ってしまうことになってしまいます。もちろんネタも大切です。教材研究なしではよい授業はできません。しかし、まず人間関係をつくれなければ、他の努力も意味をなさないのです。
伝えることは、私自身がアドバイスをするときに意識していることと同じです。「笑顔」で「うなずき」、「なるほど」と「認め」、できないことを叱るのではなく、「できたことをほめる」。このことができるようになれば、教材研究したことがどんどん活きてきます。ここからが、教師としての力量アップの本番です。うれしいことにたくさんの先生がこの場所に到達してくれました。

先生方が私のアドバイスを聞いてくれなかったことは、私の伝え方が悪いという無言の抗議だったのです。そのおかけで私も成長することができました。教師と子どもの関係も同じです。子どもが話を聞かない、授業に参加しないのは、教師への無言のメッセージです。それを自分の問題だと自覚することから教師の成長が始まるのです。
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