研修講座のスタッフを務めることから学ぶ

先週末の2日間、算数・数学の授業力アップの研修講座にスタッフとして中学校の部会に参加しました。

受講生同士で模擬授業をおこない、それに対してコメントをもらい翌日再挑戦して進歩を見るというものです。
今回の課題は3年生の平方根(無理数)同士の掛け算でした。初日の模擬授業は計算の過程、やり方にスポットを当てているものばかりでした。計算の1行1行のやり方を丁寧に子どもの言葉を活かしながら追おうとするのですが、なぜそのような変形をするのか、この計算はどこに向かっているのか意識されていませんでした。一つひとつの問いかけが点でつながっていかないのです。
同席したW先生とのお話の中で、「どうしたいかという意思が見えない」という言葉がでてきました。「この計算はどうなるといいの」「どうして、こうしようとしたの」という言葉に置き換えるとわかりやすいかもしれません。数学的な方向性と言ってもいいかもしれません。

半数の方が模擬授業を終えたあとのコメントで、「みなさんの授業は数学の授業ではない」とかなり厳しいコメントをしました。学校でのふだんのアドバイスではまずこのような言い方はしません。自ら休日に自腹を切って参加される方だからこそ、あえてこのような言い方をしました。急にこのようなことを言われたので、後半の方は戸惑いながらの模擬授業でした。

1日目の最後に、K先生が模範授業をしてくれました。
まず、結果だけを確認して安心させたうえで、計算のやり方を聞いていきます。「こんな風にやっていいの」揺さぶりながら根拠を確認、共有化します。√の中を簡単な数にしてから掛けるやり方と√の中同士を掛けるやり方を並行して見せ、素因数分解を印象付けます。答のルート10に対して、「これ以上簡単にならないの」と聞き、「分数の約分と同じだね」と既習の考え方につなげ、数学ではできるだけ簡単にな答えにするという基本的な考え方を押さえます。
この授業を見ることで、受講生の方は再度自分の授業をつくり直すことができたようです。

翌日の模擬授業は、扱う場面も課題の前後で好きに選ぶようにしたこともあり、前日とは打って変わったものでした。借り物ではない、皆さんの普段の授業スタイルが伝わってくる、いきいきとしたものでした。この日の私の役割は、受講者、コメンテイターによるコメントの後、模擬授業のビデオを見ながら個別に一人ずつアドバイスするというものでした。ビデオをなかなかうまく活用できなかったのですが、受講者は私の指摘する場面をきちんと覚えていて、その場面を再生しなくてもきちんと理解していただけました。

全体的な傾向として、計算のやり方をパターンとして分ける傾向が強いと感じました。

・ルートの中を簡単にしてから計算する(最後に必要な場合はもう一度ルートの中を簡単にする)。
・ルートの中は簡単にならないが、ルートの中を素因数分解してから計算する。
・ルートの中を掛け算してから、素因数分解をして簡単にする。

このような場合に分けて考えている方が多いのです。
しかし、どのやり方でも、

・式を計算するということはできるだけ簡単にすること。
・ルートは2乗があれば、有理数(簡単)にできる。

この2点を押さえて、

・2乗を見つけるには素因数分解をすればよい。

と整理すれば、要はいつ素因数分解をするかだけの問題になるのです。細分化するのではなく、できるだけ整理統合してシンプルなものにすることが大切です。

=で結ばれるということは、同じということです。計算をしていくということは、ある方向性をもって等号関係を進めていくことです。その方向性の基本は自分にとって都合のよい形にするということです。これを、数学的な意思と言ってよいと思います。今回で言えば、できるだけ簡単にすることです。
因数分解や展開はこの方向性が明確に表れる例です。2次方程式を解くために因数分解をする、解の公式を使うために展開して整理する。こういう考えです。

このような考え方をベースに皆さんのスタイルを活かすことを意識してアドバイスさせていただきました。一人ひとりに特化することができるので、私としてもとても手ごたえを感じることができました。翌日からの授業に少しでもお役に立てば幸いです。

今回とてもうれしく思ったのが、東京から参加されているある先生の進歩でした。今回で3回目の参加ですが、わずか2年余りでとても雰囲気が変わっていました。子どもを受容しようとする姿勢。間違いでも明るく受け止める。子どもたちは授業が楽しくなるに違いありません。子どもとの人間関係が間違いなくよいと感じる模擬授業でした。自らいろいろな研究会や勉強会に参加して積極的に勉強されています。伸びようとする教師は、確実に伸びるのです。
また、2日目にコメンテイターを務めてくれたY先生のコメントも素晴らしいものでした。古いつきあいですが、この何年かの伸びは本当に素晴らしいものがあります。柔らかい雰囲気で、ユーモアも交えながら、よいところをうまく見つけ、課題の指摘もネガティブにならないように上手に伝えています。もちろん、授業を見る視点も確かです。私に欠けている部分をたくさん持っておられて、とても参考になりました。

今回はスペシャルプログラムとして、1日目の最後に、T先生、W先生2人の授業名人の模範授業があり、T先生の授業解説をさせていただきました。このお話は明日にでも書きたいと思います。
多くの方の模擬授業を見てそのコメントを聞く、アドバイスをする。また、教材についても深く考えることで、スタッフである私にとっても、とても有意義な2日間でした。
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