自力で授業技術を磨く

昨日は中学校の音楽の授業アドバイスをおこないました。講師経験が3年ある初任者です。言語活動を意識した合唱の授業でした。

笑顔の素敵な明るいキャラクターで、子どもとの人間関係もとても良好です。終始高めのテンションでしたが、子どもたちはよく集中していました。子どもたちの発言をよく受容し、同じ考えの子どもに挙手させる、話し合いの後の問いかけは「どんな話をした」と子どもが発言しやすいように気を使う。子どものあいまいな発言を聞き返すことで明確にしていくこともできます。また、教師の問いとずれた発言もしっかり受け止めた上で、上手に本来の発問に戻します。子どものつぶやきもうまく拾います。若手とは思えないほど、いろいろな授業技術を持っています。
聞けば、ふだんからよく子どもをほめ、子どもの振り返りに対しても、必ずポジティブなコメントを全員に書くなど子どもとの関係づくりを意識しています。授業がよい雰囲気なのもうなずけます。

しかし、授業の流れとこの授業技術の間に何か違和感があるのです。これだけ子どもを活かそうとしているのに、最初の数分間は先生の説明ばかりで、子どもの発言はありません。問いかけをしてもほとんど間をとらずに次に進んでいきます。
録音した自分たちの合唱を聞いて自己評価する場面では、子どもの発言をきちんと評価しほめているのですが、復習の場面では評価が薄いと感じることもあります。これだけ人間関係ができていれば、言葉ではなく表情やうなずくだけでもよいのですが、どうもそうではなさそうです。
子どもに「相談して」と言って子どもが動きだすと、すぐにピアノでヒントをだす。ヒントが終わるとすぐに指名して答えさせる。時間がなかったのかもしれませんが、かなり無理があります。
また、子どもからいろいろ意見を引き出すのですが、具体的にどう表現して歌うかについては授業者が説明します。子どもの発言への切り返しも、やや誘導的です。子どもたちはこの先生のことが好きなので、先生の意図するところを汲み取って答えようとしています。
最後に子どもたちが話し合ったことを意識して歌ったのですが、明らかによくなっていました。しかし、それは子どもたちが話し合ったことが生きたのか、授業者が最初のときと違って、指揮をしながらたくさん指示をしたからなのか、私にはよくわかりませんでした。話し合いをしなくてもこれだけ教師のかかわり方に差があれば大きく変わると思えるからです。

いろいろな疑問を持ったまま、授業者へのアドバイスが始まりました。
最初に、彼女のキャラについて素ですかと聞きました。答は「作っています」でした。大したものです。本人いわくもっと暗いそうですが、授業中は意図的に子どもたちに好かれるようなキャラクターを演じていたのです。であれば、間をとるなり、テンションを意図的に下げることは意識してできるはずです。要は何が大切かを意識すればいいのです。
次に一番気になった疑問を聞きました。受容の仕方、切り返し、つなぎ方などの授業技術をどうやって身につけたかということです。これもびっくりしました。彼女は講師時代からこの学校にいるのですが、私が先生方に以前全体で話したこととまわりの教師からの情報だけで身につけていったのです。この学校では、個別のアドバイスが中心で、全体への話はこの2年ほどは全くしていません。また、彼女にアドバイスをするのはこれが初めてです。これで多くの疑問が解けました。授業技術を一人で磨くことで、場面場面で使う技術は身についているのですが、授業構想や流れについては学びきれていなかったのです。全体構想の中でこの場面は何を大切にする。だから、こういう活動をする。その活動をうまく進めるためにこの技術を使う。こうではなく、場面ごとに使える技術を使っていたというわけです。だからといって彼女を責めるわけではありません。それどころ、よく自力でここまでの力をつけたと感心しました。ただ、バランスが悪かっただけなのです。今回を機に、きっと授業全体の流れやポイントと授業技術の関係を意識してくれることと思います。

管理職の先生から、私が個別にアドバイスしていることも、情報として先生方に伝わるよにしていることをうかがいました。先生同士でも学び合っているようです。アドバイスを学校としてどう活かすかをしっかりと考えていただけていることをとてもうれしく思うと同時に、その責任の重さをあらためて感じました。また、今回の授業者のように間接的な情報でもしっかりと力をつけてくれる方がいることはとても新鮮な驚きでした。学ぶ気持ちがあればどのような環境でも人は進歩するということを教えていただけました。今回もよい勉強をさせていただきました。
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