公開教科部会で新課程への対応が進みつつあることを感じる

私立の中学校高等学校の公開教科部会に参加しました。新課程対応の振り返りと課題の共有が主な議題です。多くの方が参加できるように開催時間をずらし、3日に分けて行いました。どの先生も最低一つは担当教科以外の教科部会に参加することになっていますが、それにしても、どの教科部会も他教科の先生がたくさん参加していることに驚きました。他教科から学ぼうという先生方の意識の高さを感じました。

家庭科の教科会では実習における評価のことが話題になっていました。製作物の評価では、あらかじめ生徒に示しておいた観点で振り返りをさせ、それをもとに評価をするといった工夫をしていました。家庭科では高校1年生を4人で担当しているので評価基準の調整についても話題になりました。コミュニケーションを取りながら評価の視点を明確にしていくことが大切だと思います。友だちの振り返りをそのまま写したのに、その友だちより評価が低いと不満を言う生徒がいたという話には思わず笑ってしまいました。評価に対する考え方が歪んでしまっているのは、小中学校で評価のあり方が彼らに正しく伝わっていなかったということだと思います。評価を本来あるべき姿に戻しながら、生徒の意識を変えていくことが必要だと感じます。

社会科は学習活動をどう改革していったかについての話題が中心でした。
歴史総合では、グループワークと個人学習のバランスを意識した授業デザインを学年共通で進めていました。授業の進め方は単元にかかわらず1年を通じて共通で行っています。学年でテーマも進め方も統一することで教科担任のカラーが出せないことが課題としてあげられていました。この点に関して、私はそれほど心配する必要がないのではと考えています。子どもたちとのやり取りやファシリテートに自然に個性が出てくる、出せるからです。先生方は授業の進め方で上手くいかなったところは、年度途中で変更しました、なぜ変更するのかを生徒にもきちんと説明したそうです。生徒の理解を得ることを大切にした、柔軟な対応が素晴らしいと思います。
先生方は生徒に疑問を持たせることを大切にしていましたが、せっかく立てた問いを探求する時間が持てなかったことを次の課題としていました。1科目、1年間で完結しようとするのではなく、科目を越えた3年間の連続した活動で生徒を育てるとよいと思います。
公共では生徒に提示する課題や設問を考えるのが楽しいという声が先生方から上がっていました。一方、課題を考えるのが自転車操業になると辛いという声もあります。授業を創造する楽しみと苦しみです。
対話を大切にした授業に取り組んでいますが、同じやり方でも学級や生徒の特性によって上手くいったりいかなかったりします。目指すところは共通にし、そこに到達するための手法は担当者個人の裁量を大きくして、そこで生まれた多様な実践を互いに取り入れながらこの1年間進めてきたようです。先生方は生徒の対話を成立させることに苦しんでいたようですが、柔軟に対応しようとしていることがうかがえます。対話を意味のあるものにするためには、他者の意見を受けて、自分の考えがどう変化したかを振り返らせることが大切です。振り返りの視点として大切にしていただけたらと思います。
地理総合では、体験的な学習を大切にしていました。夏休み前に体験活動の事前授業を行い、夏休みに現地調査を行うといったカリキュラムが組まれていました。地理的な見方・学び方を身につけさせることを優先し、網羅的に教科書を扱うのではなく、重要なところをピックアップして扱うように学習内容を再構成していました。教科書を順番にすべて教えるという発想を捨て、教師がカリキュラムをしっかりと組み立ていることが印象的でした。
評価に関して、資料に色を使ってわかりやすくしているといったテクニカルなことも評価対象にしていることが話題になっていました。教科の本質からずれているのではないかという悩みです。何のためにそのテクニックを使っているのかという意図と合わせて評価するとよいのではないかと思いました。

英語科の発表は、新課程以前から教科で取り組んでいたことがしっかりとした形になってきたと感じました。生徒たちが社会に出るころには今よりもずっとAIが発達して、英文を読んだり書いたりするだけでなく、会話もAIの力を借りて苦労なくできるようになると考えられます。英語科ではそんな時代を見据えて、学校で英語を学ぶ意味何かを考え続けています。現時点では、英語そのものを「学ぶ」のではなく、「ツール」として活用できすることを目指しています。「英語で情報をとり、自分で考え意見としてまとめ、英語で伝える」ことができるようになることが目標です。
新課程の1年生では英語は2単位の減単になっています。そこで、家でできることと学校で仲間と学ぶことを明確に分けた学習活動を組み立てました。クラウド上にプリントを用意し、生徒はそれをダウンロードして学習します。模範解答もアップされているので、音読練習用のアプリを合わせて活用することで、授業に必要な知識やスキルを家庭で学習することができます。家庭学習を前提に、学校では、ペアでの会話、グループや全体でのプレゼンを通じて、自分の考えを英語で伝えることが活動の中心となります。しかし、家庭でのプリントの学習は強制していないので、中にはサボる生徒も出てきます。英語が好きと感じる、授業への期待感を持つ生徒を増やすための工夫が求められています。
英語科では生徒が自分の考えを深めていく過程を次のように構成しています。
・題材文の大意を把握⇒根拠を見つける
・題材文の主題を把握⇒要点をつかむ、本質をとらえる
・様々なツールを使った情報収集⇒生きた英語に触れる、リアリティのある学び
・疑問を持って調べる習慣⇒考えを深め広げる
最終的、与えられたテーマに関して英語で考えを書いたり、プレゼンしたりすることが目標です。また、日常的に英語で表現する習慣をつけるために、日々の出来事を日記風に書いて生徒同士で見合うこともしています。
単元の試験では、例えば「SNSはあなたにとってよいツールですか?」という問いに関して自分の考えを英語でまとめるといった問題で構成されます。考えをマッピングでまとめる過程も記録させ、その部分も評価の対象としています。評価が難しい部分もありますが、思考の課程を大切にしているのはとてもよいことだと思いました。英語で「考え」を伝えるために必要な力を意識して評価しているのです。
生徒の考えを深めることを大切にしようとすると、教師のファシリテーターとしての力量が問われます。それに対応しようと先生方が前向きに取り組んでいることが立派です。また、生徒に深く考えさせようとする取り組みからは、英語の学習の枠から飛び出るような活動が生まれつつあります。社会科の課題を英語の資料をもとに考え、最終的な意見や考えを英語で発信するといった教科横断的な学習活動が今後期待できそうです。
この学校独自の英語学習のメソッドが高いレベルで完成しつつあると感じました。今後どのように進化していくのかとても楽しみです。

数学科は英語同様、高校1年生は減単でしかも採用教科書が以前のものより内容が深いものになっているので、これまでの教師が一方的に説明する授業スタイルでは授業時間が不足することは目に見えています。そこで授業スタイルを全面的に見直しました。生徒同士で考える時間、聞き合う時間を増やし、教師の説明時間を減らす。教師の説明場面はスライドを活用して無駄な時間を減らす。教科書の練習問題についてはクラウド上に解答を配信して自学自習ができるようにする。単位数が減ったことをきっかけに、従来の教師主導の授業から180°スタイルを変えたのです。この結果、何よりも驚いたのが、生徒たちの姿が変わったことです。授業評価アンケートを見ると数学で問題を解くのが楽しいといった自由記述をたくさん見ることができました。まだまだ課題はたくさんあると思いますが、今までなかなか変わることのできなかった数学科が変わり始めたことを素直に喜びたいと思います。
問題を解くことだけでなく、長期休業の時間を活かして、言語力・論理力、学んだ思考方法を活用する「数学を学ぶ意味やメリット」を実感できるような課題に挑戦することも考えられています。今後の展開が楽しみです。

国語科は、単元や授業で身につけさせたい力を明確にすることが授業改善につながったようです。生徒の目線でゴールが明確になることで授業デザインがしっかりし、生徒の活動時間が増えた結果、生徒も教師も授業が楽しくなったのです。
長文を書かせる機会が他の教科も含めて増え、先生方は文章術の基礎を早い時期に指導する必要性を感じています。中学校で行っているLanguage Artsのような教科を越えた取り組みを考えるべきかもしれません。
試験を今までの一斉に行う定期試験ではなく、学級ごとに行う同一問題の単元テストに変更しました。同時に行えないので、他の学級の試験が終わるまで答案の返却もできず、実施時期の調整が難しかったようです。担当者間での進度の連絡などの情報交換はTeamsを使うことで対応したようです。こういったところでもICTが活躍しています。
観点別の評価については、従来型のペーパーテストは知識・技能に割り切って、他の2観点は長文を書かせることや発表、毎時間の振り返りをもとに行っています。振り返りなどは見る側の負担は大きいものの、生徒の成長が感じられ、教師にとっても励みになるものとなっています。評価に関する負担をどう減らしていくかの工夫が今後の課題です。

今回参加した教科部会からは、先生方のエネルギーを感じるとともに、その向こう側に生徒の学びに対する前向きさ、というより単純に学ぶことを楽しんでいる姿が透けて見えました。
新学習指導要領でねらっていることが実現できつつあることを感じました。
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