みんなで考えることをねらった授業研究

私立の中学校高等学校で授業アドバイスと授業検討会の助言を行いました。この日は高校2年生のキャリアを意識したコースの先生方と子どもたちの授業の様子を参観しました。

高校2年生になると選択教科が増えます。自分がやりたい教科を選んでいるので、子どもたちの意欲の高さが感じられました。情報処理の授業では私たちの存在に気づかないくらい、パソコンでの作業に集中していていました。外国文化の学習場面では、もともと興味のある子どもたちばかりということもありますが、とてもよい表情で子ども同士がかかわり合っていました。いつもはあまり学習に積極的でない子どもも、前向きに取り組んでいるようでした。自分たちで活動していても、授業者がしゃべりだすと自然に前を見て集中します。授業規律もしっかりしていました。漢字の学習を選択した子どもたちも、ペアでよくかかわり合えていました。子どもたちのよい姿をたくさん見ることができました。
別の時間の選択授業の英語のスピーチでは、発表者だけでなく聞いている子どもたちの真剣な表情が印象的でした。スピーチが終わるとすぐに質問の手が挙がっていました。秘書検定を目指す授業では、授業者の問いかけに対して子どもがよく反応していました。残念だったのが、自分の考えをワークシートにきちんと書けるのに、進んで挙手、発表しなかったことです。挙手はしなくても反応はする子どもたちなので、すぐに授業者が説明せずに、子どもの反応を受容、共有し、価値付けするようにしてほしいと思います。安心して発言できる雰囲気をつくることで、子どもたちの積極性をより引き出してくれることを願います。
選択の授業と比べて、通常の必修教科の授業ではエネルギーの低い子どもも目に付きます。指示されたことや作業にはきちんと取り組みますが、選択教科に比べると表情が乏しく受け身の時間が多いように思います。先生方は、おとなしい子どもたちが多いと思っているかもしれませんが、選択教科で見せてくれたように、潜在的な学びに対する意欲は高い子どもたちです。おとなしいからと先生が一方的な説明をするのではなく、興味関心を持たせる工夫をすれば、高い集中力を発揮して学習に取り組み、大きく成長すると思います。
子どもたちが持つよさ、ポテンシャルを引き出すことを学年全体で意識することをお願いしました。

授業研究は4つの学級で行われました。今回は、子どもたちを見てほしいということで、従来教室の後ろに置いてあった椅子も取り払いました。その効果もあってか、先生方がよく動き、あらかじめ割り当てられた授業以外も積極的に参観されていました。

高校3年生の世界史の授業は授業者が一方的に説明をし続ける授業でした。「○○の所で話したように」と、過去の学習内容を振り返るのも常に授業者が中心で、子どもが考えたり、参加したりする場面がありません。言葉づかいも上から目線で、子どもたちと関係ができていないように感じます。そんな授業でも子どもたちが聞こうとする姿勢を見せてくれていたのが救いでした。
検討会で授業者は、「教育実習と初任の時以来の研究授業で、初心にかえることができた」というコメントを残しました。言葉通り初心にかえって自分がどのような授業を目指したいのかを今一度考えてほしいと思いました。

高校2年生の英語は、幼稚園児に英語で紙芝居を見せるという課題の発表場面でした。
子どもたちは、内容やせりふに変更を加えたりして自分たちのオリジナリティを出そうとしていました。発表前はどのグループもいっぱいいっぱいなのか、時間を惜しんで練習しています。だからといって、表情は悪くありません。緊張しながらも明るく取り組んでいました。これだけ発表準備に集中していると、他のグループの発表の時にちゃんと聞く余裕があるのかちょっと心配でしたが、発表が始まると、どのグループもすぐに練習を止めて集中しました。発表者も真剣ですが、聞いている方も真剣です。しかし表情は双方ともにとても楽しそうでした。発表が終わった後、評価シートをものすごい勢いで記入していたのが印象的でした。
授業者は受け身ではなく、自分事として活動を楽しんでもらうことを今回の授業の目標にしていました。その点では成功だったと思います。ゴールを明確にし、自由度を与えたことがよい結果につながったようです。この活動で英語の力がついたのかという疑問も出されたようですが、そのことは授業者も最初から気にしていました。しかし、今回は子どもたちに楽しませたいことを優先したのです。英語力については、子どもたちが主体的に取り組むようになった上での次の課題と考えています。この後授業がどのように進化していくのか楽しみになりました。

高校1年生の国語は、「水の東西」を題材に学習した後、自分たちで東西の文化について小論文を書く活動でした。
書き上げた文章を各自のiPadに配信して読み合います。グループの隊形になっていますが、個別に読むので特にかかわり合いは起きません。早く読み終った子どもは所作無げにしています。かなり時間が経ってから読み終った子どもへ指示していましたが、最初にしておくことが大切です。
子どもたちは自分がよいと思った作品に対してどこがよかったかコメントします。授業者は分析ソフトを使って子どもたちが書いたコメントからキーワードを抽出してスクリーンに映しました。ところが子どもたちの記述が具体的でないため、キーワードとしてソフトが抽出するのは、「よかった」といった抽象的な言葉です。授業者はこういった事態を予想していなかったので、ちょっとあせってしまったようです。時間も迫っていたので、自分で子どもたちの作品やコメントを評価してまとめてしまいました。スクリーンではなく、自分のiPadで友だちのコメントをいろいろとみている子どももたくさんいます。焦らずこういった子どもたちに意見や感想を言わせるとよかったでしょう。
確かに授業としては反省点が多かったかもしれませんが、ICTを活用した新しい授業に挑戦したことは大いに評価したいと思います。この授業を通じて、多くの先生がICTの活用について考え、学べたと思います。この経験を活かして次の授業を工夫していけばよいのです。ICTを活用する授業はこれだというものはまだまだ見つかっていないのが現状だと思います。だからこそ、こういった挑戦を学校全体で共有することが大切だと思います。

中学3年生の数学の授業は、アダプティブラーニングを紹介して、これからのあり方を考えてもらいたいと、指名ではなく授業者の希望で行われたものです。この意欲を買いたいと思います。
2学期に試験的に導入したAIを利用した個別対応の演習ソフトを授業の一部に取り入れていました。授業の課題が終わったあとは、子どもたちは自由にソフトに取り組みます。使い始めてまだ2か月余りですが、子どもたちは見事に使いこなしています。鉛筆で書くよりも早く、画面で問題を解いています。子どもたちにこのソフトがあっているのでしょう、それぞれがよいペースで問題に取り組んでいます。紙ベースで演習していた時よりもはるかに密度の濃いものになっています。このソフトが今後メジャーになるかどうかはわかりませんが、問題演習や知識の定着は、こういったものに置き換わっていくことは間違いないと思います。だからこそ教室でどのような学びをするのかが問われてきます。先生方は、今回具体的な活用場面を全体で共有することで、これからの学校教育の課題を実感できたと思います。授業者はよい機会を提供してくれたと思います。

今回面白かったのが、検討会の進め方です。授業後、あらかじめ準備されていた授業を見る観点毎に記入欄を設けたフォームにコメントを記入し、その内容を共有してからグループごとに話し合いました。効率的に全体の意見を把握することができ、すぐに話し合いが焦点化していったようです。直接話すよりも、フォームに記入する方が忌憚のない意見が出てくることもわかりました。全員参加のより深い話し合いになったと思います。
よい授業ではなく、みんなが考える授業をすることが意識された授業研究でした。こういった経験が積み上がって、学校全体の授業改善が進んで行くことと期待します。
学校が進化していくために必要なことが見えてきた気がします。
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