全員参加と全体の場での活動を意識した指示が大切

前回の日記の続きです。

授業研究は4年生の国語の説明文の授業でした。

前時の復習として、中の部屋(構成)は何段落から始まったかを全体に問いかけます。子どもたちからは、「2段落から」「2段落から7段落」と元気な声が返ってきます。明るく元気な学級です。
授業者は第2段落だけ抜き出したものを黒板に貼り、それをワークシートにしたものを配って音読をさせます。子どもたちの声はよく出ていますが、下を見て読み上げる子ども、手にワークシートを持って読み上げる子どもとバラバラです。教科書と違ってワークシートは薄いので、手に持って読もうとしている子どもはやりにくそうでした。全員での音読では声を出しているかどうかの確認は声の大きさだけでなく、口元を見ることが大切になります。大きな声であっても、全員が声を出しているとは限らないからです。顔を上げさせること意識してほしいと思います。
授業者は「まず、音読をしようか」と言って音読を始めたのですが、この場面では大きな声を出すといったいつもの目標以外にも意識させたいことがあるはずです。明確にしてから音読させた方がよいでしょう。

音読を終わって、段落の最初の文は何かと問いかけると、一人の子どもがその場で素早く読み上げます。それを受けてすぐに授業者は「筆者が走り方に工夫をし始めたきっかけについて書いてあるね」と答えました。続いて「きっかけは何?」と問いかけると、数人の子どもがすぐにその場で「大きな動作で走ることに疑問を持ったのだ」と読み上げます。授業者はそれを聞いて「なるほど、これが筆者が疑問を持ったきっかけだった」と説明を始めました。
この後も授業者の問いかけに同じ子どもたちがすぐにその場で答えてしまい、その発言をもとに授業者が説明するということが続きます。このやり取りにほとんどの子どもは参加していません。一部の子どもとの一問一答の授業になっていました。すぐに答える子どもを制して、他の子どもたち考える時間を与えたいところです。その上で、複数の子どもに答えさせ、全員に考えを共有させることをしてほしいと思います。

筆者の疑問を確認して、この日のめあて、「筆者がどうやって疑問を解決したのか考えよう」を提示しました。考えようという言葉が気になりました。正しく「読み取る」ことが最初の課題だと思います。その上で直接書かれていないことを文脈から合理的に解釈することを「考える」と分けると活動が明確になるように思います。

めあてを書かせた後、再び疑問を確認しますが、また同じ子どもがその場で答えます。ワークシートに自分で書くようにと子どもたちに指示し、しばらくして「何で疑問を感じたんだ?」と次の質問をします。しかし、ほとんどの子どもはまだワークシートに書いている途中です。答えるのは作業の速い、いつもの子どもだけになります。「400m走ると苦しくなる」という子どものつぶやきに対して、授業者は「400m走ると苦しくて、最期まで力が続かない」と言葉を足しました。子どものつぶやきを拾って、子どもの言葉を活かして授業を進めているように見えますが、都合のよい言葉を拾って、結局は授業者の言葉で説明しています。一部の子どもとのやり取りだけで進んでいることと合わせて、課題として意識してほしいと思います。

2段落で感じた疑問を3段落で解決していくと授業者が説明します。説明文では段落の関係を子どもが考えることが大切になりますが、そこを一言で説明してしまいました。
3段落に文がいくつかあるかを問いかけますが、本文を見ないで答えるのですから、根拠があるわけではありません。一人の子どもが声を上げると、続いて何人かの子どもが声を上げます。無責任に発言できる問いかけですから、子どもたちのテンションが上がります。授業者は正解の「4」がでると、即座に「そうそう4」と返しました。当然すぐに子どものテンションは下がりました。
正解かどうかは本文で確認させるべきですが、この日の課題は4つの文を正しい順番に並べ替えることなので見せるわけにもいきません。こういったことを考えると、この問いにはあまり意味はないように思いました。

4つの文を黒板に貼って、筆者が疑問をどうやって解決していったかわかるようにグループで並べ替えるようにと指示しました。グループにしてから細かい指示をしますが、子どもたちはまだごそごそしていて、視線は授業者に集中していません。指示はグループになる前にしておくということを原則にするとよいでしょう。
前時で一度全文を読んでいるので、順番を覚えている子どももいます。そのため、「どうしてこの順番になるのか考えてほしい」と追加の説明をしました。根拠はとても大事なのですが、なぜ大事なのかを子どもたちが意識することが必要だと思います。説明文を書く時に、筆者は接続語で文と文の関係を明確にするなどの工夫をしています。並べ替えることでそういった工夫に気づけるような展開を考える必要があると思います。決め手となった言葉に線を引くといった指示の方が、後の展開が楽になるかもしれません。

子どもたちは躊躇なくこれが最初と並べ替えを始めます。テンションがすぐに上がりました。並べ替えるのはわかりやすい作業です。一部の子どもが活動を引っぱって、大きな声で自分の考えを主張しています。グループの活動が説得型になっています。このことには注意が必要です。聞く側が主体となって、相手の考えを納得するような活動を意識してほしいと思います。グループで一つの答にまとめるのであれば、一つひとつみんなが納得するまで聞き合う、相談するということを、ルールとして徹底しておくことが必要だと思います。グループで考えるが、結論は各個人で出すのであれば、自分の考えを変えたところ、その理由といったことを全体で聞き合うことを前提に行うとよいでしょう。こうすることで、安直に他者の答を写すことを抑制できます。

いくつかのグループで結論が出るころには子どもたちのテンションがかなり上がっていました。相乗作用でどんどん声が大きくなっていきます。一度活動を止め、まだ活動を続けるのであれば、終わったグループに次の指示をすることが必要でしょう。

各グループの結論が黒板に貼りだされます。グループごとの相違点を簡単に確認してから、理由を聞きます。最初に発表したグループは「話がつながるから」という言葉ばかりが出てきます。「忘れた」という子どももいます。日ごろから具体的な言葉や文で根拠を説明することを習慣づけておくことが必要でしょう。このグループの説明にばかり時間をかけるわけにはいきませんが、どこか1か所を入れ替えて、「これでは話はつながらない?」と問いかけたいところです。理由を説明させると並べ替えの根拠が明確になってくると思います。
授業者は並べ替えた文を読ませて、「これで話がつながったからだそうです」とまとめました。それに対して他のグループの子どもたちがつぶやいたり話しかけたりしています。これはとてもよい場面です。授業者はすぐ次のグループの発表に移ったのですが、口を開いた子どもたちに何をしゃべったのか聞きたいところです。順番に全部のグループに発表させようとする先生が多いのですが、私はよほど時間に余裕がある時以外は勧めません。それよりも、子ども同士をつないで、補強する意見や反対意見を出させて、考えを深めることが大切だと思います。論点を焦点化して再度グループに戻すことも有効だと思います。

次のグループからは「よくわからない」という言葉出てきます。授業者は「迷った?」と聞き返し、「どこで迷った?」と問いかけました。なかなかよい返しだと思いますが、その子どもはうまく答えることができませんでした。「他の3人は?」と同じグループの子どもにつなぎますが、「わからん」と言う言葉が出てきます。最後に「話がつながっている」と先ほどのグループと同じ言葉を出しました。「話がつながった」という曖昧な答を認めたことが影響しました。結局焦点化できないまま、次のグループに移りました。
今度は「グループで話し合った時に出たことを教えてくれるかな」と問いかけますが、「忘れた」と返ってきます。活動の始めの「どうしてこの順番になるのか考えてほしい」と言う指示がうまく機能していないことがよくわかります。言葉は消えていきます。それを固定化するために、具体的な言葉や文と根拠を紐づけておく必要があるのです。話の内容そのものを再現させたければ、なるほど思ったこと、順番が決まった時の意見をワークシートに書くというように具体的に指示し、過程を残すことを習慣づけていかなければなりません。
多くの時間を割いて子どもたちが話し合ったことは全部消えて、並べ替えた結果だけが残った授業でした。

子どもたちはよい表情でグループ活動をしていましたが、野口芳宏先生がよくおっしゃるところの、「息抜きの時間」になっていたようです。グループの活動の後に共有して深めたいことを意識した時に、どのような指示をしなければいけないのかを考えることが大切です。今回の例で言えば、並べ替えた結果はなくその根拠を共有したいのですから、根拠や話し合いの過程が残るような指示をする必要があったということです。
また、ユニバーサルデザインを意識して板書でのチョークの色を変えていますが、その色を子どもたちが意識することが大切です。授業者が色を決めるのではなく、「これは何色で書いたらいい?」と子どもに選ばせることで、内容を構造化できるようになると思います。

子どもたちをよく受容して、雰囲気のよい教室をつくり出せています。課題として、「全員参加」「深めるための活動を意識した指示」「意見の焦点化」を意識してほしいと思います。
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