手順を子どもたち自身が考えるためには視点が必要

前回の日記の続きです。

8年生(中学2年生)の家庭科の授業はスナップの縫い付けの実習でした。
授業者は活動のねらいや家庭科としてどのような力を子どもたちにつけたいかが明確になっている方です。指示や提示の仕方などがいつも工夫されています。

チャイムが鳴り終わる時に一人の子どもが遅刻して入ってきました。その子どもは授業者に頭を下げて「すいません」と謝ります。他の子どもは立ったまま挨拶を待っています。「みんな待っててくれてるよ。みんなに謝ろう」と授業者ではなく子どもたちに謝らせて、仲間を待たせているという意識を持たせるとよいでしょう。こうすることで、待たされている子どもも、その子どもに悪感情を持たなくて済みます。この学級の子どもたちは、遅れてき子どもを見て笑い声で迎えますが、バカにしたような笑いでありません。友だちの失敗を笑えるよい人間関係があります。
授業を開始する前に、授業者が「○○さんと△△さんが(実習用具を)全部配ってくれたんです」と伝えると、子どもたちからありがとうの声が上がります。こういったところにもこの学級のよさが感じられます。

各グループの机に配ったスナップの縫い付けの見本を子どもたちに見させて、日常生活の中でどのようなところで利用されているのかを確認します。実物を見ているので、どのようなものかがよくわかります。何人かがつぶやきますが、それをすぐに拾うのではなく、挙手するようにうながします。私的なつぶやきを公的なものにするよい対応です。
子どもの発言を他の子どもに復唱させたり、「見たことがある人?」とつなげたり、子ども同士をかかわらせることが意識されています。筆箱という答が出てきますが、何のことを言っているのか他の子どもたちはわかりません。「筆箱の?」とどの部分かを問い返しますが、うまく言葉が返ってきませんでした。その子どもは実物を持っていなかったのですが、自分の筆箱を見せながら「ここのところに」とどのようなものかを手で示します。「あー」という声が上がりました。その説明でわかった子どもがいたようです。すると、スナップのついている筆箱を持っている子どもが、カバンから取り出してくれました。それを見せてもらって、全員がどのようなものか納得しました。一人の子どもの発言を大切にして、子どもたち全員がつながったとてもよい場面だと思いました。

利用されている例を具体的に確認した後、授業者はスナップが取れたらどうするかを子どもたちに問いかけます。「つけます」というつぶやきに、「だれが?」と返し、「お母さん」という答に「そうか」と受け止め、「自分でつける人は?」と再び全体にたずねました。手を挙げた子どもに対してうれしそうに、「あー、えらい」と声をかけ、「もう中学生だから自分でつけられるようになってください」「とれたら直して使う」と言葉を続けました。押しつけかもしれませんが、こういった思いを伝えることも大切なことだと私は思います。

手元の見本を見て、特徴を調べてみましょうと次の指示をします。日ごろの授業の中で、特徴とはどのようなことを言えばよいのか、何のために特徴を調べるのかをきちんと理解させているのか気になります。
グループで意見を交換させますが、あまり言葉が出てきません。発表を求めますが、手が挙がるのは1グループだけです。「裏から縫い目が見えない」という意見に、「同じ意見が出たグループ」とつなぎますが、手が挙がるのはもう1グループだけです。授業者は「いいじゃないですか」とほめますが、すぐに「他に?」と次にいきました。ここは、見本を確認させ、本当にそうなっていることを全員に納得させたいところでした。

子どもたちから手が挙がらないので、「じゃあヒント」と言って、「縫い始め、縫い終わり」と続けました。ヒントという言葉を使うと答探しになってしまい、「縫い目が見えない」は授業者が求める正解でなかったのかと思ってしまいます。
授業者はちょっと間をおいて、「はい、わかった人?」と問いかけますが、もう少し待って、見本の縫い始めと縫い終わりを見つける時間、考える時間を与えることが必要だったと思います。
指名された子どもはわかっているようなのですが、うまく説明できません。授業者は「助けてくれる人?」と子どもたちをつなごうとしますが、多くの子どもは見本を手にして眺めているだけです。縫い始め縫い終わりがが、まだ見つかっていないのです。
授業者は「どこから縫っているかわかる?」と質問を変えますが、なかなか反応が出ません。「縫い始めと縫い終わりは何と何?」と続けて、「玉結びから始まって玉止めで終わる」という言葉を何とか引き出しました。この後かなり時間を取りましたが、子どもたちはうまく説明できません。結局ヒントを出しても子どもたちが説明できないので、またヒントを出すという悪循環に陥ってしまいました。一部の子どもから発言を引出しながら、結局、授業者が最後に説明をすることになりました。子どもたちは先生の考える正解があるから、それが出てくるまで待とうとしているようにも見えました。
ヒントを言わなくても子どもたちが気づけるような課題や発問の工夫が必要でしょう。「見本と同じように縫うには、どのようにすればよいのか?どこに注意したらよいのか?」といった課題にして、過去の経験と対比させるとよいでしょう。例えば、「ボタンつけではどのようなことを注意した?」と問いかけ、「縫い始め」「縫い終わり」「順番」といった視点を出させるのです。
また、スナップを「どうやってつけよう?試しにやってみて」と、説明せずに少しやらせてみてもよいでしょう。そうすれば自然にどこから縫い始めようかと考え、見本の縫い始めを探すと思います。

スナップを縫い付ける手順の動画を子どもたちに見せます。注意してほしいのは、動画は情が流れて消えていくので、なんとなくわかった気になるだけで、頭に残りません。「見終わった時にポイントを聞くよ?」と視点を与えておいて、個人またはグループでまとめさせるとよいでしょう。子どもたちが動画を見る時に自然にメモを取るようになってほしいと思います。
動画を見終わった後、黒板の前に子どもたちを集め、紙でつくった大きな模型を使って、授業者がていねいに実演してみせます。子どもたちはとても集中して聞いていますが、また受け身で聞くだけです。ここは、一つひとつ問いかけながら、子どもたちの声に従ってやって見せるといった、双方向の活動が必要な場面だと思います。

グループに戻って、各自で作業を開始します。参考になるように、動画をBGMのように流しますが、知りたいところにすぐにアクセスできませんので、こういう使い方にはあまり向いていません。単純な静止画の方がかえって使いやすいこともあります。

これだけていねいに説明をしても、混乱している子どもが散見されます。先生に教えてもらおうと声をかけますが、「どうだったでしょうか?グループのみんなを信じて聞いてみましょう」と他の子どもにつなぎます。学び合うことがよく意識されています。
1グループ3人ですが、男女市松の形になっていることもあって、子ども同士が聞き合っている姿がよく見られました。子ども同士のよい関係がつくられてきています、
スナップの凸と凹を逆につけている子どもがいました。指摘された時に、「どちらでもよくない?」と返します。凸と凹の特性の違いを理解していないので、このような反応をしたのです。手順を教える時に止める側が凸になる理由をキチンと考えさせることが必要でした。
途中で間違えている子どもたちのために、再度前で説明しますが、多くの子どもたちは自分に該当することだと思わず、作業に手一杯で聞く余裕がありませんでした。

手順の説明が終わるまでに時間の多くを使ったために、最期まで作業を終えることができた子どもはいませんでした。しかし、この日の最低ラインの目標である凸の方をつけることができた子どもはかなりいました。全員が最低ラインに到達できているグループを確認しましたが、ありませんでした。そこで、2人ができているところ確認して、素晴らしいですねと評価します。個人作業ではありますが、グループで助け合うこと、みんなができることを大切にしていることを伝えようとしています。
「苦しみながらもだいぶコツがわかったから、次回はすぐにできると思います」と前向きな言葉でまとめました。最低ラインの目標をクリアできなかった子どもへの配慮もしっかりしています。子ども目線で授業をつくることを大切にされていることが、端々から伝わります。
実技教科ですので、手順を教えることが必要ですが、授業者は子ども自身に気づかせる、考えさせることをしたいと願っています。このことをこれからも大切にしてほしいと思います。そのためには、「過去の経験を基にする」「どうなるとよいのかというゴールを意識する」といった、気づくため、考えるための視点が重要です。このことを意識して授業を組み立てるとよいと思います。

授業者はこの1年間、新たな工夫をいろいろされていました。多くの点で授業が進化したと思います。私のアドバイスがこういった工夫のきっかけになったと、授業者からうれしい言葉をいただきました。子どもの姿を基に、謙虚に授業改善を続ける方です。これからも、どんどん授業が進化していくと思います。
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