子どもたちが考える道筋を授業に組み込むことが課題

前回の日記の続きです。

8年生(中学2年生)の理科の授業は、発熱反応の学習でした。
これまでの復習で、化学反応について問いかけます。子どもたちからは酸化、還元といった言葉が出てきます。授業者はそれを拾って説明しますが、一部の子どもの反応だけで授業が進んでしまいます。つぶやいた子どもに全体に向かってしゃべらしたり、その用語の説明を他の子どもに求めたりといったことが必要です。用語ばかりで、酸化とはどのような化学反応なのかといったことがきちんと押さえられていないことも気になりました。
燃焼を熱や光を出す酸化という説明をしますが、子どもたちは熱については感覚的にしかわかっていません。熱と温度の関係をある程度理解していないと、この日の実験の意味はわかりません。

授業者は温かいものと冷たいものを混ぜた時の温度変化を例にして、熱が移動したという説明をします。以前と比べて子どもたちはよく授業者に集中しています。子どもたちが集中するまで話を始めないといった基本的なことができていることが大きいと思います。
温度が上がるということを熱の移動で説明しますが、もう少し温度との関係を押さえておきたいところでした。中学校の範囲では熱については詳しく学習しないので、難しいのですが、物体の熱の量が増えると温度が上がる、減ると下がるといったことだけでも明確にしておくことが必要だと思います。
今回の実験は、直接熱量を測るのではなく、物質の温度を媒介にして、熱量の変化を見ます。このことも意識させたいところでした。理科の実験では、直接測定できないものをそれと関係のある別のもので測定することが一般的です。重さを測ってその値から質量を得ることなどが典型です。無重力状態では重さゼロですが、質量は元のままです。天秤では質量の違いはわかりませんが、同じ力で動かせば、速度の違いで質量の違いがわかります。こういった視点を育てることが重要です。

この日の実験のためのワークシートを配りますが、中身は白紙です。自分で必要なことを書かせるという発想はよいと思います。そこに何を書いたかを後から聞いて、視点を全体で共有するとよいと思います。

使い捨てカイロを見せて、どうしてあったかくなるのかを子どもたちに問いかけます。子どもたちは、よく反応してくれます。その言葉を拾うだけでなく、ちょっとまわりと相談させる、子どもに説明させて納得するか問いかけるといった、子どもをつなぎ、広げる活動も必要に応じて組み込みたいところです。

授業者はこの日の実験の手順を説明しますが、子どもから「何が目的なの?」と言う声が出てきます。とてもよいつぶやきです。授業者がこの言葉を拾うことができなかったのが残念でした。
「使い捨てカイロが温かくなるのはどうして?」「どこから熱が来るの?」と問いかけ、どうやって調べればよいか考えさせることが必要です。温度を調べるというのであれば、どこの温度を測ればよいのかを考えさせます。熱がどこかから来るのであれば、そこの温度は下がるはずだということを事前に押さえておけば、何か所かを測るべきだと思うはずです。
疑問や仮説を持たせずに指示に従って実験をさせるので、「何が目的なの?」という言葉が出てきたのです。

使い捨てカイロと同じ原理で、鉄と炭を混ぜ、食塩水を垂らして、その温度を測ります。なぜ食塩水かについては、海では鉄がよく錆びるといった子どもたちの経験と結びつけてやりたいところでした。
単純で地味な実験ですから子どもたちの集中が続くか心配でした。しかし、熱中しているということはないにせよ、思ったよりも落ち着いた状態で温度計の目盛りを読んでいました。グループでの人間関係も悪くありませんでした。だからこそ、子どもたちに疑問や仮説を持たせておけば、もっと集中して実験に取り組んだと思います。

実験の結果、温度が上がったことを確認して、「温度が上がったということはどういうことでしょうか?」と問いかけます。熱と温度の関係を明確にしていないので、子どもたちは何を答えてよいのかわかりません。「熱?」というつぶやきが出たのでそれを拾って「熱が?」と返して、「熱が移動してくる」という言葉を引き出しましたが、どうしても一部の子どもとのやり取りで進んでしまいます。ここはまわりと相談させるとよい場面です。
「では、どこから?」と言って考えさせます。
子どもたちが考えている間に、ここまでのことを黒板に書き始めます。子どもたちは行き詰まっているので、考えることをやめて板書を写し始めました。ここは板書を我慢すべきだったでしょう。
板書を写し終ると再び考え始めましたが、考える糸口がありません。子どもをミスリードするために、わざと熱の移動にこだわっていたのですが、そこから抜け出せずにいました。
「炭」「塩」「空気」「酸素」といろいろ出てきます。これは実験する前に問いかけても、出てきたはずです。であれば、どうやれば測れるだろうかと考えて、何とかこれらの温度を測らせたいところでした。
授業者は「これはおかしいというものをないか?」と問いかけますが、子どもたちは考えようとしていても手がかりが見つかりません。「空気から熱が移動したのなら空気の温度は?」と続けますが、調べていないので反応できません。グループで相談させれば、声が出たかもしれませんが、全体で進めたので言葉が出てきませんでした。
結局授業者が「化学変化で熱が発生した」と説明をしました。

子どもたちは真剣に授業に参加しています。子どもたちが考えるための糸口を準備してあれば、自分たちなりの結論を出せたはずです。
熱の移動でミスリードしようとしたのが、結果的には失敗でした。「温度が上がるということは熱が加わった」「温度が下がると熱が奪われた」「一方の温度が上がって他方が下がれば熱が移動した」と整理しておいて、「使い捨てカイロの熱はどこから来るのか?」という問いで、何か所かの温度を測らせて考えさせたいところでした。
実験の前後を比較して「温度が上がっている」「熱を奪われたものはない」「変化したものは鉄と酸素で、これらが結びついて酸化鉄になった」という事実を整理して、そこから「熱はどこから来たと考えられそう?」と問いかけたいところでした。

授業者は落ち着いた話し方で、子どもたちの言葉をよく聞き、大切にしようとしています。子どもたちも真剣に授業に取り組んでいます。だからこそ、子どもたちが考える道筋をうまく授業の中に組み込む必要があります。子ども同士をつなぐことと合わせて、次の課題が見えてきました。簡単なことではありませんが、意識して授業を考えることで、きっとできるようになると思います。

この続きは次回の日記で。
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