授業改善に真剣に向き合っている先生

私立の中学校高等学校で授業アドバイスを行ってきました。

この日は主に新しくこの学校に勤務することになった方と一緒に、授業中の子どもたちの様子を見て回りました。
子どもたちは全体的に集中して授業に取り組んでいましたが、一部の授業で子どもたちの集中が落ちていました。そういった授業で共通しているのが、授業者が一方的にしゃべるばかりで子どもたちへの問いかけすらないことです。また、授業者が子どもたちに視線を落とさず、アイコンタクトを取らないことも共通です。一緒に回った先生方には、この事実を自分の授業を改善するきっかけにしてほしいと思いました。
また、グループやペアの場面を見てもらいたかったのですが、あまり見ることができませんでした。子どもたちと先生方との関係もよく、子どもたちが落ち着いて先生の話を聞いてくれるので、以前の授業形態に戻っているのかもしれません。ちょっと気になりました。

子どもたちがかかわり合い、学び合う授業について一定の知識のある方もいらっしゃいました。しかし、高等学校ではなかなかよい実践例を見る機会がありません。知識だけでは、具体的な授業に落とし込むのは難しいものがあります。話をうかがっていると、今までの授業の在り方からなかなか抜け出せていないように感じました。
答や結果でなくその過程や考え方を学ばせたいと思っている先生でも、子どもたちに気づかせるのではなく自分が教えてしまうことが多いように思います。何を教師が教えて、何を子どもたちに気づかせるのかを考えるだけでなく、そのための具体的な手立てが必要になってきます。子どもたちの実態によっても「教える」と「気づかせる」のバランスや、手立ては変わってきます。特に高等学校では、学校毎に子どもたちの層が大きく変わりますので、一概にこうすればいいということはなかなか言えません。ですから、目の前にいる子どもたちと真摯に向き合い、授業を改善し続けるしかないのです。正解がないからこそ、学校の実態に応じた教育メソッドをつくり、改善し続けることが大切です。
うれしいことに、この学校独自のメソッドがいくつかの教科でできつつあります。また、今年度から導入するタブレットの活用という新たな視点からも新しい授業の在り方が見えてくるのではないかと期待しています。

中学校2年生の理科の授業を見てほしいとお願いされました。授業は実験の次の時間の考察の場面でした。
最初に点数で評価した前回の実験のレポートを一人ひとりに返します。特によかったものを読み上げ、そのよかった理由を説明しますが、説明のスピードがちょっと速く、子どもたちにはよく理解できなかったように思います。評価理由がよくわからないこともあってか、子どもたちは誰が書いたのかに意識が行ってしまいました。手本となるレポートを価値付けするのはよいことなので、ちょっと残念でした。名前を隠し、筆跡から誰だかわかると困るのであればワープロで打ちなおして、一人ひとりに印刷して配るとよいと思います。教師が書いた物であれば模範解答と思いますが、友だちの物であれば参考にしようとして見るはずです。時間が少しかかりますが、自分のものとどこが違うか、どこがよいのかといったことを考えさせて、子どもたち自身に価値付けさせるとよいと思います。
子どもたちが落ち着かず、視線が集中していないのに説明を始めることがありました。子どもたちはしばらくすれば聞くようになるのですが、一度きちんと集中させた方がよいでしょう。また、集中していない子どもを指名することが何度かありました。まわりの子どもも、本人もチェックされたと気づき、先生は私たちをチェックしているのだなと思うようになります。できれば、「そばにいる子どもを指名して気づかせる」「集中を戻して顔を上げた時にほめてやる」といった方法を試してほしいと思います。
この学級では先生との距離が近い子どもがかなりいます。授業者の問いかけに、そういった子どもがすぐに反応します。それを拾って授業者が説明をするというパターンが目につきました。よく反応する子どもの陰に、結論だけ聞けばいいと考えている子どもの姿も見えます。つぶやきを拾うにしても、「みんな、○○さんの意見を聞こう」「ちょっと、みんなに聞かせてくれるかな?」というように公的に発言させ、「今の意見について、どう思った」と他の子どもとつなげるようにするとよいでしょう。
この日は、質量保存の法則について考えるのですが、授業者はどうしても、自分の求める答を誘導するように質問します。一問一答で進めますが、子どもたちは友だちを見ようとはしません。授業者の説明を待っています。
化学反応式からこういったものが出ているはずという説明は、分子説や質量保存を前提としたものです。その化学反応式が正しい、成り立っているということはどうして言えるのでしょうか。法則や原理といった知識を前提として考えることも大切ですが、その知識はどのようにして私たちが得たのかといった、知識を得る方法を知る、見つけることも科学的な見方・考え方として大切にしなければなりません。実験はその最たるものです。「この実験から、何がわかるのだろう?」「実験の結果から、どこまでのことが言えるのだろう?」「もしこの法則が成り立っているのなら、どんな実験をすると確かめられるのだろう?」といったことを子どもたちに考えさせることを大切にしてほしいと思います。
グループで、実験の結果をもとにいくつかのことについて考察を行いますが、子どもたちの動きが遅いことが気になりました。何をしてよいのか今一つよくわかっていないのかもしれません。よくしゃべっているグループもあれば、ほとんどかかわれていないグループもあります。しゃべっているグループもテンションが高すぎるように思いました。先生と関わりたい子どもたちのグループは授業者と盛んにやり取りをします。子どもたちが話しかけてくるのはうれしいことですが、グループ活動の時にはかかわりを促す程度にして、あまり説明したり話したりしないようにする必要があります。それよりも、うまくかかわれていないグループがいないか、全体を見て必要な支援をすることが大切です。
最後の課題についてはグループで1台タブレットを使うことができるのですが、気になったのがどのグループでも個人で検索していることです。タブレットを囲んで頭を寄せ合っている姿が見られないのです。タブレットを使っている子どもは、それまでのグループ活動でも、他の子どもたちとかかわっていなかった子どものように思います。一見すると明るくよく反応する人間関係のよい学級に見えるのですが、実は人間関係がうまくいっていない可能性があります。学級経営に注意が必要に思いました。

授業者は、とても素直で基本的な力もある方です。これまで自分が授業を変えようとしていなかったことを認めて、今真剣に授業改善に向き合っています。
タブレットを使ってみると、子どもたちがすぐにネット上で答を見つけてしまい、かえって使わない方がよいのではないかといった疑問も持ち始めています。とてもよいことだと思います。こういった疑問や課題を見つけることが、新しい授業をつくる出発点です。
ネットで答を見つけても、本当にわかったことにはなりません。答を見つけさせてから、考えを深める活動をすればよいのです。ネットの活用で浮いた時間を考えることに使うのです。ゴールを今までの授業よりも高いところに持っていくのです。
自ら授業の課題をみつけそれを解決しようとすることが、授業の改善につながります。新しいことにチャレンジしているからこそ、上手くいかないことや疑問がたくさん出てくるのです。今は苦しいこともあるかもしれませんが、こういった課題や疑問と真剣に向き合うことで、必ず素晴らしい授業スタイルをつくり出せると思います。今後の変化をとても楽しみにしています。
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