ねらいを実現させるための場面

前回の日記の続きです。

今年異動してきたばかりの若手の先生の体育の授業研究は1年生の跳び箱でした。
感心したのが子どもたちの動きのよさです。授業者がせかさなくても子どもたちは素早く行動し、集合すると全員が授業者の方に顔を向けています。体育だけでなく、学年全体で意識して指導していることを感じます。

子どもたちが活動をしている時に授業者が大きな声で指示を出すことがありました。しかし、残念ながらそれは子どもたちには届きません。誰に対する指示かがわかりませんし、一生懸命にやっているからこそ、聞こえないのです。全員に対する大切な指示であれば、事前にしておくか、いったん活動を止めることが必要です。個別の指示であれば、大きな声ではなく、近くに行って対象となる者の注意を引きつけてから行う必要があるでしょう。

この日の活動についていくつかの確認を子どもに問いかけて行います。指名した子どもが答えるとすぐに授業者が説明します。ポイントとなることは全員に徹底しておきたいので、何人も指名したり、隣同士やまわりと確認したりすることが大切です。
大切な役割としてグループで補助者をだすことを指示します。補助のやり方については実際に子どもを指名して一緒にやって見せますが、ポイントが子どもたちに理解されたかはよくわかりません。時間がもったいないかもしれませんが、グループの代表一人ずつにやらせて確認するといったことも必要でしょう。また、この授業では跳んだ人にアドバイスすることが大切な課題でした。アドバイスの視点は授業者が複数与えます。視点を教えることは悪いことではありませんが、子どもたちがそれでアドバイスできるようになるかは別です。具体的に誰かが跳ぶのを見せて、どこをアドバイスすればよいかを考えるといった場面をつくってもよいかもしれません。

授業者はアドバイスをする人はローテーションするように指示しました。その後子どもたちはグループに分かれますが、すぐに活動に入れません。どのようにローテーションすればよいかよくわからないからです。一つのグループが跳び始めると、次第に他のグループも活動を始めましたが、ローテーションのやり方はバラバラでした。ローテーションというだけでなく、具体的なやり方を指示する必要があったようです。跳び終えた子どもがすぐにアドバイスを受け、続いて次の子どもにアドバイスする役になるというパターンのグループが多かったのですが、これは効率が悪いやり方です。アドバイスが終わらなければ次の子どもが跳べないからです。グループを2つに分けたりバディを組ませたりする方がよいかもしれません。
最初の内はアドバイスの声かけがみられましたが、「よかった」「いいよ」といったものばかりで、具体的なものはほとんどありません。よかったにしても、どこがよかったかを言わなければ意味はありません。その内だれも声をかけなくなりました。うまく跳べなかった子どもに対して何をアドバイスすればよいのかよくわからないのです。また、全員が跳べるグループでは補助の子どももいなくなってしまい、ひたすら跳び続けているだけになってしまいました。

授業者は跳べない子どもたちを集めて個別対応していますが、全体の様子が見えていません。補助がいなくなっていることに気づいて体育館の端から全体に注意をするのですが、授業者のすぐ横のグループは最後まで補助がいないままでした。
跳べない子どもに「もうちょっとでできる」と励ましの声をかけていましたが、これはあまり意味のあることではありません。「もうちょっと」とは具体的に何をすればよいのかわからないからです。何ができているのか、何がもうちょっとなのかを伝えることを意識するとよいでしょう。

授業の最後に、役に立ったアドバイスがあったかとたずねましたが、誰の手も挙がりません。当然だと思います。そこで授業者は、「アドバイスをした人?」と問いかけ、どんなアドバイスをしたかをたずねました。何人かの手が挙がり、指名して発表させますが、あまりよい対応とは思いません。アドバイスする側に視点が当たると、どうしてもできる子ども目線になってしまうからです。しかも、実際に役に立ったと言ってもらえていないのですから、独りよがりの可能性もあります。
授業者が、子どもたちにただ跳ぶだけでなく、他者とかかわりながらうまくなってほしいと思っていたのはよくわかりますが、そのための手立てをきちんと組み立てられていなかったのです。視点を複数与えただけで、「アドバイスしなさい」ではできないのです。
複数の視点を同時に見ることは大人でも難しいことです。視点を絞らせることが大切です。どの視点を意識して跳ぶかを決めて、そのことをアドバイスする人に伝えてから跳ぶだけでも様子はだいぶ違ったと思います。自分が意識する視点を決める参考にするために、最初に一人ずつ跳んで、どこがよかった、どこがもう一歩だったかをグループ全員で話す時間を取ってもよいでしょう。
ねらいを実現するために、どのような場面が必要かを考えることが大切です。

授業後、参加していた体育の先生方がすぐに集まり、跳び箱の前で話合っていました。体育教師のチームワークのよさを感じました。この集団の中にいれば互いに大きく成長していくことと思います。
次に授業を見る機会が楽しみです。

この続きは次回の日記で。
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