技能系教科の公開授業から学ぶ

前回の日記の続きです。

技能系の教科の授業はそれぞれの特性を生かした工夫を感じられるものでした。

中学1年生の家庭科の授業は、ポーチの製作実習の場面でした。
男の子も楽しそうに裁縫をしています。子どもたちは、わからないことがあるとすぐに先生にたずねますが、先生の体は一つです。すぐに対応することはできません。しかし、そんな時も子どもたちはまわりの友だちに聞くことができています。授業者は、子どもから聞かれても「できている人がいるから、聞けばいいじゃん」と子ども同士をつなごうとしたりもしています。よい姿勢です。明るい雰囲気に、実技教科のよさを感じることができました。授業者は忙しく教室の中を動き回りながらも、笑顔を崩しません。こんなところにも雰囲気のよい理由があると思います。
裁縫のことに関して聞き合っている言葉の合間から、雑談も聞こえてきます。しかし、手は動いています。昔の主婦が繕い物をしながら雑談をしていた様子が思い出されました。授業者は上手に子どもたちの活動のバランスをコントロールしているように感じました。

高校3年生の家庭科は、調理実習でした。
黄身返し(ゆで卵の黄身と白身が反転したもの)をつくります。こういった題材は子どもたちを惹きつけるよいものだと思います。子どもたちはそれなりに意欲があるのですが、つくり方の指示が文章中心なので、わかりにくいようです。相談してもよくわからないので、困っています。授業者は子どもたちの作業中、個別に、全体にと指示をし続けることになっていました。手が止まる場面が多いために子どもたちはどうしても集中を失くします。雑談が増えざわつきますが、それに対応して授業者は、指示を通そうとテンションを上げていきます。すると子どもたちもテンションが上がって、悪循環になってしまいます。こういう時は、逆にテンションを下げてしゃべるとよいでしょう。
黄身返しでは、通常の料理ではありえない過程があります。想像がつきにくいので、実際に子どもたちが使う道具を使って動画をつくり、ICTを活用してポイント見せるとよいと思います。また、指示をして後は任せるのではなく、チェックポイントをつくって調理の流れをコントロールすることで、よりスムーズに進むと思います。
子どもたちの状況に応じて進行をコントロールする方法をいくつか持つことを意識するとよいと思います。

高校1年生の男子の体育の授業はバスケットボールの授業でした。
子どもたちにまかせて準備運動をしていますが、ちょっとだらだらしている子がいます。そこで授業者が一声かけると子どもたちの様子は変化します。子どもを見て必要な対応の取れる方です。
スクエアパスの練習を行います。前回もやっていたのでしょう。あまり指示をせずに進めます。スクエアパスは動き方がわかりにくく、学校の授業では上手くやれないことが多いものです。ここでは、通常行われるものではなく、単純化したものでした。それでも、子どもたちはポイントがよくわかっていないように感じました。授業者は活動させながら、うまくできていないことをワンポイントで指示します。指示するごとに子どもたちの動きは確実によくなります。事前に指示をしても、徹底することは難しいので、まず経験させてから修正するという方法を取っているようです。なるほどと思いました。体育館という比較的狭い場所で、指示が届きやすく、集合させるのにも時間がかからないという環境を活かした手法です。
授業者は、このあと少しずつ条件を付け加え、やり方を変えることで通常のスクエアパスをできるようにしたようです。スモールステップを意識した授業構成でした。子どもたち自身も、ステップがはっきりしているので達成感を味わいやすかったのではないでしょうか。よい学びをさせていただきました。

高校3年生の体育の授業はテニスでしたが、雨のためコートが使えませんでした。
使える場所が狭く、柱などの障害物があり、全体を見通すこともできず、環境的に苦しいものがありました。授業者は笛を使ったりして子どもの動きをコントロールしますが、動けない子どもも目立ちます。ラケットを使う場面になれば子どもの意欲が上がるかとも思いましたが、思ったほどではありませんでした。環境が大きく影響したようです。ちょっと残念でした。別の機会に授業を見せていただく機会を持ちたいと思います。

高校1年生の美術の授業は、彫刻の鑑賞の授業でした。
まず、日本の彫刻の作品4点を示し、個人で制作年代順に並べ、その後グループになって答を一つに統一するように指示します。通常、考えを一つにさせるのは難しいのですが、思ったほど意見は分かれなかったようです。どのグループもすんなりと決まったようです。
作品がいつの時代かを確認してから、次の課題に移ります。それぞれの作品に対して、「材料」「モチーフ(テーマ)」「感想」「好感度(好きか嫌いか)」を書きます。グループごとに作品の大きな写真を配ると、子どもたちの集中度が上がりました。手元に物があるということは、こういった活動では大切な要素だということがわかります。あまり友だちとかかわらずに自分の考えをまとめることに集中する子どももいれば、友だちとしゃべりながら自分の考えをまとめる子どももいます。いろいろです。高校生ぐらいになると、個でやることにこだわる子どもが増えてくるように思います。こういった子どもを無理やり参加させる必要はありませんが、まわりの子どもが「聞かせて」と言ってかかわるような場面をつくれるとよいと思いました。
ただ感想を言わせるのではなく、作品を見る視点を与えることで、個々の意見の違いや感性の違いが明確になります。ちょっとしたことですが、よい工夫だと思います。

高校3年生の情報処理の授業は、情報処理検定の受験直前ということで、実践問題の演習を行っていました。
子どもたちは端末に向かって個別に問題を解いています。授業者は机間指導をしながら個別に対応をしていますが、対応しきれません。まわりの友だちに教えてもらっている子どももいますが、手が止まっている子どもが目につきます。確かに本番の試験ではだれにも頼ることはできませんが、授業者が個別に教えるのであれば、相談することも積極的に許してよいのではないかと思います。
また、子どもたちが困っていることは共通のことも多いと思います。途中で活動を止め、困っていることを共有して、できた子どもにどこがポイントかを説明させることをしてもよかったと思います。
授業者がポイントを解説する場面があったのですが、端末に向かって作業を続けている子どももいます。ディスプレイから視線を外させて授業者に集中させることが必要でしょう。こういったことが何度かあると、子どもは授業者の話より問題を解くことを優先してよいと判断するようになります。ヒドゥンカリキュラムです。こういったことにも気をつけてほしいと思います。

全体での検討会は、公開授業の教科ごとに分かれて、授業から学んだことを話し合いました。その教科以外の人が意見を言うことで、教科を越えた共通の視点が浮かび上がってきます。「全員参加」「子どもの姿」「意欲」「声かけ」「見せ方」「指示」「安心て間違えることができる雰囲気」「子ども同士の教え合い」「子ども同士の聞き合い」といったキーワードが各グループから出てきました。
先生方が、互いの授業から学べていることがよくわかりました。
授業研究の進め方も進化しています。授業改善の大切な要素です。私からは、先生方の努力や工夫が子どもたちのよい姿につながっていることを、お伝えして終わりました。
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