英語の公開授業から学ぶ(長文)

前回の日記の続きです。

英語科は授業改善を積極的に進めている方が多い教科です。GDMに取り組む方もずいぶん増え、そうでない方も独自の工夫をされている方がたくさんいます。今回公開にはなっていないのですが、個別に授業を見てほしいというリクエストもありました。うれしいことです。

今回の公開はGDMが中心でした。高校1年生のGDMは今年度から挑戦される方がほとんどです。いろいろと苦労されていると思いますが、定期的に学び合う機会を持って確実に自分たちのメソッドとして確立されつつあります。3学級を4つに分けての同時進行の授業を参観しました。
一つ目の教室では、授業者が笑顔で子どもたちをほめています。絵本を見せながら、”What do you see in this book?”と一人ずつ順番に子どもに問いかけます。子どもたちは、一生懸命答えようとします。指名されていない子どもも、自分のこととして考えています。
続いて、”What do you see on the table?”と質問を変えます。”I see ○○ on the table.”と、授業者が教卓の上にあるもの使って例を示します。子どもたちは一生懸命に答えようと聞いています。一人の子どもが、”I see an eraser.”と答えてくれました。授業者は”Very good!”とほめ、「聞きました?」と言って、”He sees an eraser.”と言い変えました。三人称単数現在の”s”の練習です。続いてすぐにペアで練習するように指示しました。それまで、全体では口を開くことができず、あまり参加できなかった子どもたちも一気に動き出します。子どもたちは意欲があっても、なかなか言葉にすることができなかったようです。よいタイミングでペアに切りかえたと思います。

別の教室では、子どもたちの動きはまた異なっていました。
よく理解できない子どもが個別の練習場面では動けません。また、ペアワークの時に下を向いて参加できない子どもがいました。自信がないのかもしれません。相手の子どもが上手くかかわれるといいのですが、なかなかそうはいかないこともあります。しかし、全体でのやり取りでは、そういった子どももちゃんと口を開けたりします。子どもがわかる、自信を持てるようになるためには、全体練習、ペア練習、個別の練習といったものをうまく組み合わせることが必要です。どの活動でわかるようになるのかは、子どもによっても違います。状況に応じて、活動を切りかえることが求められます。また、多くの子どもが理解できていない時には、その一つ前の活動に戻ってやり直すことも必要です。
授業者はシナリオ通りに授業をすすめることができるようになっています。次は子どもたちの状況に応じてシナリオをちょっと入れ替えるといったことにも挑戦してほしいと思います。

また、別の教室では、子どもたちの声がとてもよく出ていました。授業者は笑顔で子どもたちをとても上手にひきつけています。子どもの反応に対して常に受容的で、しっかりとほめることができています。個別の指名でも、全体に対しての問いかけでも、子どもたちが一生懸命に答えようとしているのが印象的でした。
困っている子どもも、友だちに助けられて参加できています。また、ペアでの練習もほとんどの子どもがしっかりとかかわれています。しかし、中には声をかけられても反応しない子どももいます。相方がちょっと困っていました。こういった場合は、授業者が声をかけて参加を促す必要があります。それで反応しない子どもが変化するかどうかはわかりませんが、声をかけた子どもに先生がこの状況をわかっていることを伝えることにはなります。授業者が常に見守っていることを知らせることが大切です。

最後の一つは、昨年度からGDMを経験している方が授業者です。
GDMの授業スタイルに慣れてきているのがわかります。落ち着いて子どもたちの様子を見ながら進めています。子どもたちにわかってもらいたい、わからせようという思いが強い方です。時として、そのためにテンションが上がり気味になることがあります。子どもたちの声を引き出そうと先導して声を出し続けてしまいます。最初だけは授業者の声で引っぱっても、すぐに声を落として子どもたち自身で言葉を出させるようにしたいものです。
なかなか声が出ない子どもも一生懸命わかろうとしています。何度も繰り返しているうちに、声を出せるようになっていました。この授業に限らず、どの授業でも子どもたちがわかろうとする意欲を感じる場面がたくさんありました。子どもたちにGDMが定着しつつあるようです。

高校2年生では、GDMと通常の教科書やテキストを組み合わせた新しいカリキュラムづくりに、日々挑戦しています。そのことを知っている先生も多いのでしょう、多くの方が参観していました。
1年生からの学習成果が感じられる場面が多い授業でした。全体での練習では、”situation”をしっかりと英語で表現しています。ちょっと不安な子どもも、ペアでの練習でしっかりとかかわりながら理解しているのがわかります。この日のテキストで必要な文法事項をまずGDMの手法で何度も練習をします。テキスト主体の従来の授業では、本文の例をもとに文法事項を学習しますが、文法事項を理解するには例文が少ないため授業者が解説したり、全く別の例文で練習をやり直したりします。そうではなく、最初からその文法事項を理解するのに最適な例でしっかり練習することで、定着を図ることをしています。テキストはその学習事項の活用という位置づけです。テキストを理解するために文法を学習するのではなく、学習したことを使ってテキストが理解できたという達成感を持たせるのです。
基本的に授業者は説明をしないので、子どもたちが英語を「話す」時間が圧倒的に多いことが目を引きます。言われたことの”repeat”ではなく、自分で”situation”を表現しているので子どもたちは英語を話している実感があります。そのことが子どもたちの意欲につながっていると思います。
“listening”や”reading”にICT機器を積極的に活用することで、子どもたちの顔がしっかり上がっています。ICTがムダのない密度の濃い授業につながっています。テキストを読むために必要な単語や語句の練習を、PCを使ったフラッシュカードで行います。こういった知識は知らなければ何ともできないので教えるのです。ただ、英単語と日本語の意味を1対1で対応させていることが気になりました。”root sense”をどう意識するか、もう一工夫が必要です。
この日のテキストはスティービーワンダーと人種差別に関する話です。スライド上で画像と音声を組み合わせたテキストをスクリーンに映すことで、上手く子どもたちの集中を引き出しています。全体とペアで”reading”を繰り返しますが、子どもたちは真剣に取り組んでいます。わかりたい、できるようになりたいという意欲が感じられます。
テキストの内容に関する問題が映し出されます。全体で答えさせますが、よくわからないために声が出ない子どもも目立ちます。しかし、ペアで答を確認し合った後に全体でもう一度確認をすると、かなりの子どもが答えることができていました。
子どもが困っている時には、関連する本文をすぐにスクリーンに映し出します。口頭でヒントを出すよりわかりやすく、ワイヤレスマウスを使ってスライドを戻すだけなので時間もかかりません。訳を写したり覚えたりするのではなく、英文の内容を理解することを大切にしている授業でした。
授業者が話す量が少ないので、丁寧にやっているようでテンポは速く、子どもたちの活動量はとても多くなっています。
子どもたちが英語をしっかり話せていることが、参観者の先生方には驚きだったようです。先生方の工夫で、子どもたちの持っているポテンシャルを引き出すことができることに気づかれたのではないでしょうか。よい刺激になったことと思います。
まだまだ完成形ではないでしょうが、確実に自分たちのカリキュラム、メソッドができつつあるのを感じました。

公開授業ではありませんが、2つの授業を見せていただきました。
一つは高校1年生の授業で、英作文に個別に取り組んでいる場面でした。苦戦をしている子どもが目立ちます。友だちと相談している子どももいますが、全体としては子ども同士があまりかかわれていません。授業者が個別に指導しますが、困っている子どもすべてには対応できません。子どもたちの集中力が切れてきました。隣同士で相談している子どもの間に授業者が割って入って教えます。一方の子どもは、今度は反対側の子どもと相談を始めました。先生が子どものかかわりをじゃまする形になってしまいました。授業者の指導は、何を参考にしたらよいかの提示程度にし、子ども同士のかかわりを大切にしてほしいと思います。子ども同士が相談しやすいように、個別の作業でもグループの隊形で行うのも一つの方法です。
下書きが書けたら、提出用の紙に書き直すように指示をします。子どもの作業を止めずにしゃべるので、子どもたちは聞いていません。「聞いて」と言った後、提出したものを添削して返すので、それを再度書き直すようにと指示をし直しましたが、徹底できたかよくわかりませんでした。鉛筆をいったん置かせて集中させ直してから、明確な指示をすべきでしょう。また、授業者が添削するのは悪いことではないのですが、子ども自身の手で修正させたいところです。子ども同士で見せ合って、指摘し合えるとよいでしょう。
課題に取り組ませて、個別に教師が正解を教えても子どもの力はつきません。英文が書けるようになるためには、どのような活動が必要なのかを考えて授業をつくることが必要です。このことに気づいてほしいと思います。

もう一つは高校2年生の授業で、問題演習の場面でした。
ペアで互いに正対するように机をくっつけて問題に取り組んでいます。授業者は自力でできなければペアと相談するように指示しました。
机間指導をしますが、子どもの手元をしっかりと見ているわけではありません。かえって子どもの集中を乱します。全体が見える位置から子どもたちの様子を見るようにするとよいでしょう。困っている子どもがいれば、そこに行って必要な支援をすればよいのです。子どもたちは集中して取り組んでいますが、相談する様子はあまり見られません。時間が経って体が倒れている子どももいるのですが、相談しようとはしませんでした。問題が解けてすることがないのかもしれません。
授業者は歩きながら、問題を解くには根拠が大切だとしゃべります。文章を読んで答える問題だから、できた人は文章の何行目に書いてあることから答えが出たかをメモするように指示しました。子どもたちの動きを止めずに説明するので、子どもの顔は上がりません。指示がきちんと通っているのか不安です。
子ども同士のかかわりが見られないまま時間が過ぎていきます。残り時間を1分30秒と切って、この時間は積極的に相談するように指示をしました。自分で解くことに集中していた子どもたちがここで体を起こして、ちょっと緩みました。子どもの声が聞こえ始めますが、全員が相談しているわけではありません。友だちに聞く必然性がないのかもしれません。
全体で答を確認していきます。授業者が簡単に問題の説明をしてから、子どもを指名し、答を聞いた後、どこに書いてあるかを確認します。4行目という答に対して「そうだな、4行目だな」と返して、その英文を読ませます。確認が終わると次の問題に進みます。指名した子どもとのやり取りはありますが、一問一答には変わりありません。
次の問題では、「”must”の意味がいろいろあったけど」と問いかけます。指名した子どもと、「しなければいけない」「その他には?」「”must not”で?」「していけない」「あと、もう一個、ポイント問題」「違いない」とやりとりをして、「ということは、○○さん、どういうことでしょう?」と問題の答を問いかけます。これでは、まるでパズルです。”must”の意味を覚えて、どれが当てはまるかを選ぶのです。”must”の”root sense”は「どうしても」「なければならない」という必然を動詞に付加するものです。日本語で「違いない」と訳しますが、”must”の別の意味ではないのです。”must”によってあらわされる必然という状況を自然な日本語に直しただけです。日本語と対応付けて理解するのではなく、原文の表わす”situation”を理解するようにしたいところです。
子どもが記号で答え、授業者が正解であることを判断して、その理由を説明し始めます。根拠を大切にするのはよいのですが、一方的に授業者が説明しているのが残念です。子どもが正解したのですから、子どもに根拠を聞きたいところです。
「普通、”for”の意味は何かな?」「何とかのため」「普通みんな、何とかのためというんだよな。実は今回はちょっと異なってくるんだな、知ってる?」と畳みかけていきます。子どもが考えたり調べたりする間がありません。知識を蓄えて素早く引き出せる訓練をしているようにも見えます。
英語をきちんと理解することができれば問題は解けるようになります。問題を解くことを目的とするのではなく、問題を解くことを通じて英語を理解できるようになることとして授業見直してほしいと思います。とても熱心な先生です。授業を改善する意欲も旺盛です。視点をちょっと変えることで大きく進歩するはずです。今後の変化を楽しみにしたいと思います。

この続きは次回の日記で。
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