問いかけや説明の言葉にこだわってほしい(長文)

前回の日記の続きです。

5年生の算数は合同な図形同士の対応を考える授業でした。
前時の復習で教科書を閉じさせます。教科書を机の左上に置くように指示しますが、指示に従えない子ども、動きの遅い子どもがいます。しかし、授業者はすぐに質問をします。子どもたちは、当然に質問に意識が行くので机の上の状態はバラバラです。
前時に何を学習したかを全体で言わせて、「合同とは何ですか、覚えている人は手を挙げてください」と続けます。これでは、子どもたちは「覚える」ことが学習のように感じてしまいます。算数・数学の定義は文言を覚えることではなく、その概念を理解することが大切です。単純に「合同って、どういうことだった?」と聞けばよいのです。そうすることで、自分の頭で学習したことを再構成します。こういうことを何度も経験することで概念が定着するのです。
この問いかけでは、覚えていない子どもは参加できません。教科書やノートを開いて思い出す場面が必要です。そうでなければ、覚えていない子どもは結論だけを与えられるので、考える力は育ちません。

指名された子どもが、「2つの図形がぴったりと重なることです」と答えると、お約束の「いいです」のハンドサインです。「授業者は完璧に覚えていますね」と「覚えていること」をほめます。授業者の学習観が気になります。「ぴったりと2つの図形が重なり合うことを合同と言います」とすぐに説明します。ここは「ぴったりと重なるってどういうこと」とこの定義を子どもたちの言葉で咀嚼させることが必要です。また、「完璧です」と言っていますが、合同は、正しくは「2つの図形がぴったり重なる時、この2つの図形は合同であるという」と図形同士の関係を表わす言葉です。このことを授業者は意識できていないようです。この場合、合同な図形を指さして「この図形とこの図形は?」と問いかけ、「合同」と答えさせるといった活動を通じて、合同が2つの図形の関係を表すことを押さえることが大切になります。

授業者が「じゃあ今日は合同について……」としゃべりながら用意した三角形の紙を取り出して黒板に貼ろうとすると、子どもがごそごそしだします。ノートを開いて書く準備を始めたのです。授業者はこのことが気にならないようです。子どもの視線が下を向いているのですが、しゃべり続けます。
「ぴったり重なるために必要なポイントが3つある」と授業者は説明を始めます。「えっ」という声が子どもから上がりますが、授業者は取り上げません。
「場所だけヒント出すね」と頂点を指して、「わかる人?」と問いかけます。続いて辺を確認します。「最後こういう部分のことどうなる」と角の内側を弧の形になぞり、子どもを指名します。指名された子どもは「角度です」と答え、子どもたちは「いいです」とハンドサインを出します。さあ、授業者はどう修正するのかと楽しみにしたのですが、「はい、いいです。角度と言います」と答えました。授業者は「角」と「角度」の違いをわかっていないのでしょうか。それとも、区別しなくてもよいと思っているのでしょうか。子どもたちがだれも否定しなかったところをみると、最初から間違えて教えているのかもしれません。算数・数学は国語と同じように言葉を大切にしなければならない教科です。言葉をていねいに使ってほしいと思います。また、角を示す時に辺をなぞってからその間を示す必要があります。そうでなければ三角形の内部は全部角です。この辺とこの辺でつくられている角であることを意識させる必要があるからです。

ここまで、すべて一問一答とハンドサインです。子どもたちから疑問や課題が出てくるのではなく、すべて授業者からの天下りです。これはもう教科観、授業観の問題のようです。

「合同な図形で頂点、辺、角度を調べていきたいと思います」と言ってから、めあてを黙って板書します。余計なことをしゃべらないのはよいのですが、その間かなりの時間黒板に顔を向けたままです。子どもたちは素早く鉛筆を持って写し始めました。子どもたちとめあてをつくるのでなければ、リアルタイムにめあてを書く意味はあまりありません。あらかじめ準備したものを貼って、子どもたちが写す様子を見ているようにするとよいと思います。
続いて、図形を印刷した紙を配ってノートに貼らせます。子どもたちは「はい、どうぞ」「ありがとうございます」と後ろに紙を送ります。よい光景でした。
めあてを書き始めてから、めあてを全体で確認するまで4分30秒かかっていました。もう少し早くするような工夫がほしいと思います。

「合同な図形で重なり合う頂点、辺、角を見つけよう」というのがこの日のめあてです。ここでは、角度は角に正しく修正されています。子どもたちはこのことに疑問を持たないのでしょうか。こだわりすぎと思われるかもしれませんが、とても気になります。
このめあてと、先ほどの「合同な図形で頂点、辺、角度を調べていきたい」という言葉がうまくつながりません。「ぴったり重ねることができない時、どうすればいい?」「どこを調べる?」といったことから、めあてにつなげたいところです。

黒板に貼った2つの合同な三角形(向きもいっしょ)で、「頂点Aと重なる部分はどこでしょう?」と質問します。子どもたちの挙手は半分くらいです。指名された子どもは、間違えてしまいました。次に指名された子どもは正解でした。「いいです」とハンドサインが上がりますが、反応の遅い子どもが目につきます。おそらく腑に落ちていないのでしょう。そもそも発問が雑です。頂点Aは点ですからどこの頂点にも重なります。「対応する」という概念を育てる場面ですから、丁寧に伝えなければいけません。「この2つの三角形は合同なんだけど、合同に見える?どう?」「合同だったら……?どうなる」「ぴったり重なる」「本当?どことどこがぴったり重なるか見える?」といったやり取りをしてから、問いかけるとよかったと思います。
一問一答で進んで行きますが、子どもたちのハンドサインはあまり上がりません。にもかかわらず授業者は、すぐに正解と言って説明をします。子どもたちが、考えたり納得したりする場面がありません。大人にはすぐにわかるように見えても、子どもにとってはそうではありません。透明なシートを使って重ねて見せたりしたいところでした。

対応する辺の示し方について、「辺ABと言った時に、EDではまた変わってくるので、同じ流れでABときたらDEというように書くようにしてください」と説明しますが、あまりにも雑です。明確にルールとして根拠を示しながら伝えることが大切です。
「ぴったり重ねた時に頂点Aと重なるのは?」と問いかけて、重なるものが同じ順番になるように書くようにすることを押さえたいところです。
言葉の説明だけで進んで行くことが多いのですが、できるだけ具体的な図と対応しながら子どもたちに考えさせることが大切です。

教科書についている図形を切り取るように指示します。「ノートの図も使って、どこが重なるのかチェックをして、重なり合う頂点、辺、角、3つを探してください」と、前の座席の子どものノートを手に取って見せながら、これからの作業の指示をします。しかし、多くの子どもはまだ教科書の図形を切り取ることをしているために顔が上がりません。作業をきちんと止めて、子どもたちと目を合わせて話すことを意識してほしいと思います。

子どもたちは思った以上に手がつきません。「実際に図形を重ねて対応を理解する」、続いて「重ねなくても対応するものが見えるようにする」というスモールステップが必要なのですが、授業者は先ほどの練習で「実際に図形を重ねる」ステップをとばしてしまいました。そのため、切り抜いた図形をどう使うのかもわかっていない子どももたくさんいます。この状態で作業を続けることは意味がありません。いったん作業を止めて、もう一度重ねるところからやってみることが必要でしょう。

「頂点Bとどこが一緒になる?」と問いかけます。「一緒になる」と言葉が変わっています。こういう言葉の揺れは子どもたちの混乱のもとです。算数・数学の概念をきちんと意識して言葉を選んでほしいと思います。子どもたちは半分ほどしか手が挙がりません。指名された子どもの発表に対して「いいです」とハンドサインが出ますが、手のついていなかった子どもはハンドサインも上げません。授業者はそれでも、答を復唱するだけです。頂点、辺、角とわかった子どもだけで授業が進んで行きます。できた子どもに「見事に正解です」と称賛の言葉をかけますが、それが正解であることを授業者が判断するだけで、根拠はここまで何も示させません。
最後になって、「みんな、どういう風に合同ってわかったの?」と問いかけます。合同な図形であることは授業者が再三言っています。因果が逆転しています。素直に考える子どもは、わけがわからなくなってしまいます。これにすばやく反応する子どもは、授業者の意図を読もうとする子ども、読める子どもです。これでは、わからない子どもがわかるようになりません。
指名した子どもは、「重ねると同じところにあります」と説明しますが、目で見ただけでは確かめられません。これでは説明にならないのです。「本当にそう?」「どうやったら確かめられる?」といった問い返しが必要です。合同な三角形をつくってそれを重ねるといったアイデアが必要です。こういった問いかけが、重ねなくても合同かどうかわかる方法、つまり合同条件へとつながるのです。
授業者は、ずらすと重なると説明しますが、実際にずらして重ねることをしたわけではありません。四角の紙に書かれていて、本当にぴったりと重なるかどうか確かめることはできないのです。結局のところ、感覚でしかないのです。

今度は互いに反転した三角形を考えます。「授業者はそのままずらしたら合同じゃない」と、また、おかしなことを言います。合同なものは合同です。「そのままずらしても、ぴったり重ならないね。これ本当に合同?」といった言葉で揺さぶらなくてはいけません。
途中で授業者は「重なり合っているものを対応するという」と唐突に説明します。これでは言葉足らずです。「合同な図形で、ぴったり重なりあう頂点や辺、角を互いに対応するという」と説明して、「対応」という言葉を使う練習をする必要があります。先ほどの結果を使って、「この2つの合同な三角形で点Aに対応するのは?」「辺ABと対応するのは?」「角Aと対応するのは?」と問いかけたり、「点Aと点Dは?」「対応している」と何人にも言わせたりして、定着を図る場面が必要でしょう。
授業者は対応の説明を終ると、すぐに個別に作業をさせます。最初から手のつかない子どもがいますが、全体を見ずにすぐに机間指導をするので見落としました。その子どもは大分時間が経ってから板書を写しています。授業者はその横を通るのですが、手が動いているからでしょうか、困っているのを見落としました。
全体で確認をしますが、指名した子どもが前で対応するものを示しながら答を発表するだけです。授業者は発表者ばかりを見ているので、一生懸命黒板を見ているのに理解できず、ハンドサインもだせない子どもに気づけません。わかっている子どもたちが答を確認し合っているだけになってしまいました。
次の図形を配りますが、わからない子どもは完全に集中を失くしていました。

作業している途中で、ペアで自分の考えを説明するように指示します。子どもたちの作業を止めずに指示したこともあって、子どもたちがなかなか互いにかかわれません。自分の作業を継続している子どもが目立ちました。
全体で確認をする時に、今まで手の挙がらなかった子どもの手が挙がりました。見ている私もうれしくなります。しかし、授業者はその子どもを指名しませんでした。どういう基準で指名しているのか不思議です。
最期まで、対応するものを見つけるだけだったのですが、「合同な図形は対応する辺の長さや、角の大きさが等しい」とまとめました。これでは、子どもたちは授業者の示す結論を覚えるしかありません。子どもたちが思考する場面や、わからない子どもがわかるようになる場面がまったくありませんでした。

子どもたちにこの授業で何を考えさせなければいけないのかが意識されていませんでした。また、教材理解というか、言葉の意味や定義もあやふやです。教科書をしっかりと読み込んで、「用語として何を押さえるのか」「どういう流れで子どもたちが考え、理解し、納得するのか」「定着させるためにはどのような活動が必要なのか」といったことをしっかりと考えておく必要がありました。授業で大切なのはどのようなことなのかをもう一度整理してほしいと思います。

この日は、前回と今回の2日間授業を見せていただいたことをもとに、全体に対してお話しする時間をいただきました。

授業規律をよい形で徹底するには、できたことを笑顔でほめる、喜ぶことが大切です。できない子どもを注意して減らすのではなく、できる子どもをほめて増やす発想で接してほしいと思います。
一問一答形式でハンドサインによって授業を進めることにも注意してほしいと思います。子どもたちがまわりの空気を読んで「いいです」を言っているのに、そのまま進めてしまえば、ハンドサインは先生が授業を進めるためのアリバイづくりの道具となってしまいます。子どもたちの中には、ハンドサインでは指名されないと思って、無責任に「いいです」と言っている者もいます。「いいです」だけで進まずに、ハンドサインを出している子どもにもう一度説明するように求めるといったことが必要です。
また、ハンドサインを全員が出していないのにそのまま進めていることにも注意が必要です。子どもが反応できていないのであれば反応を促したり、よくわかっていないのであれば、どこがわからないのかをきちんと聞いて、つまずきを解消する場面をつくったりすることを意識してほしいと思います。

子どもの発言に対して子どもたちのハンドサインだけが評価となっている授業が多いのですが、先生が子どもの発言をしっかりと受容して、ポジティブな評価をすることが必要です。残念ながら子どもたちはハンドサインの「いいです」を自分に対する肯定的な評価だと感じていません。また、「いいです」のハンドサインが上がらなければ否定されたと感じます。どんな発言をしても認められる、バカにされないという安心感を持たせることが大切です。
また、挙手した子どもへの指名で授業が進んで行くと、一部のわかった子ども、できる子どもだけでしか参加しないことになります。そうではなく、常に全員参加を目指ししてほしいと思います。そのためには、安心感を持たせるだけでなく、挙手しない子どもを参加させる工夫が必要になります。まわりと相談させてから挙手させれば子どもは自信をもって手を挙げます。「わかった人?」と問いかけるのではなく、「困っている人?」と問いかけることで、手が挙がらない子どもを参加させることができます。こういったことを試してほしいと思います。

特に算数では、答だけが共有される授業が目立ちました。どうしてそうなるのかという根拠を子どもたちが共有することが大切です。わからない子どもは答だけを聞いても、写すしかありません。なぜそうなるのか納得する場面が必要なのです。「こうなる」と説得するのではなく、「こうなるのか」と子どもたちが納得する授業を目指してほしいと思います。

このようなことをお伝えしました。あと1回訪問する予定です。先生方にどのような変化がみられるか、とても楽しみです。
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