子どもたちが考え、評価する場面が大切(長文)

前回の日記の続きです。

授業研究は、6年生の家庭科で夏を涼しくさわやかに過ごすための工夫をする授業でした。
授業開始前の子どもたちの様子を見ていて、笑顔が多いのが印象的でした。授業中も子どもたちの明るい声をたくさん聞くことができました。
この日の授業のめあては、夏を涼しく過ごすために自分たちで実践できることを考えることです。授業開始からめあての提示までに1分ほどしかかっていません。導入がムダに長い授業もよく目にしますが、すぐに本題に入ったのはよかったと思います。

ワークシートを配って名前とめあてを書くように指示します。しばらく待って、書けた人は顔を上げるように指示をします。顔を上げた子どもに対して授業者の目線が落ちません。子どもたちが指示に従ってくれているので、目を合わせて笑顔を見せてあげたいところでした。授業者はほぼ全員の顔が上がったと判断してしゃべり始めました。一言、子どもたちが顔を上げてくれたことを評価し、これから話すので集中してほしいと伝えるとよかったと思います。
実物投影機とディスプレイを使ってグループ活動のやり方を説明します。自分が考えてきた夏を涼しく過ごす方法を発表し、その付箋を工夫分析シートに貼ります。同じような内容であれば付箋を重ねることで、効率的にグルーピングしようというアイデアです。教科の枠を越えて、いろいろな場面でこういった情報を整理する経験をさせることはとても大切だと思います。
ICT機器を使っていることもあり、子どもたちはしっかりと顔を上げて集中して聞いていました。

4人グループになって、工夫分析シートが配られたグループから活動を開始します。子どものテンションが最初から高いのが気になります。付箋をどこに貼るかで声が上がっているようですが、その根拠をあまり深く考えていないので大きな声になっているようです。大きな笑い声もよく聞かれました。
授業者は「時間が余っていますが、みんながてきぱきとやってくれたので、次の説明に移ります」と話を始めました。活動を一つずつ区切ることは悪いことではありませんが、子どもたちには一連の活動に見通しが持てません。次にやることを意識しないと、単純な作業の時には考えることがありません。このことが、先ほどテンションが上がった要因にもなっているように思います。今回のようにいくつかのステップに分けて活動するのであれば、どのような流れで進めていくかを最初に示しておくとよかったと思います。

今度は、先ほどの付箋を実践しやすさの順に並べ替えます。「意見が合わない時は、みんなが納得できるように話し合ってください」「実践しやすい、しにくいと思った理由も書いてください」と説明しますが、明確な根拠があるものではないので、結論はつきにくいと思います。先ほど同じようにテンションが上がるのではないかと予想しました。やはり活動が開始されると、先ほど以上にテンションが上がりました。説得しようと主張する強い言葉がよく聞こえてきます。うっかりすると子どもたちが活発に活動していてよい場面に思ってしまいますが、あまりよい状態ではないのです。子どもたちが話をすることではなく、聞くことを意識できるようになってほしいと思います。

1グループだけ5人のところがあります。やはり、お誕生日席の子どもがどうしてもかかわれていません。授業者は机間指導の時に、そのグループと工夫分析シートの内容について話をしたのですが、その子どもの状況には気づきませんでした。子ども同士がかかわれているかではなく、グループの作業の進み具合が気になっているようでした。意識しないと子どもの様子は見えないということです。
また、授業者が一人の子どもと話ししている時に、他の3人で話し合いを続けている場面がよくあります。授業者が子ども同士のかかわりを切っていることに気づいてほしいと思います。
作業が終わりに近づいても子どもたちのテンションは高いままです。授業者が「まだ時間がほしい班?」と聞くと、いくつかのグループが手を挙げます。勢いよく手を振ってアピールする子どももいます。ここで時間を与えるのはあまりよい判断だとは思えませんでしたが、授業者は少し時間を延長しました。
子どもたちは、まとめに入りましたが、ペンを持つ子どもがその場を仕切っています。まとめに入ったことで子どもたちのテンションは少し落ちましたが、まとめの内容が決まったのか、しばらくするとペンを持っている子どもに後をまかせて、他の子どもの集中力が落ちてきました。グループでまとめるという活動はどうしてもこうなる傾向があります。できれば、最後のまとめは個人の考えで書かせたいと思います。

グループの工夫分析シートを黒板に貼り、授業者が「みんないろいろな視点で見て考えてくれた」とコメントしてから発表させますが、ちょっと気になる言葉でした。この時点での視点は、実践しやすいかどうかだけのはずです。実践しやすいかどうかの判断の視点という意味で使っているのならよいのですが、エコであるといった視点はそれとは異なるものです。こういった視点も出してほしかったのであれば、そういったことを明確にしておく必要があったと思います。
他の班の発表をよく聞くようにと言葉を足し、「同じものでも理由が違っていることもある」と聞く視点を与えます。個別に発表させるとどうしても時間がかかりますし、内容が拡散するので焦点化がしにくくなります。全体を眺めながら、似たものをピックアップし、それについて各グループに聞くと焦点化しやすくなります。ある程度授業者が意図的に、発表すべきものをコントロールするのです。
発表の時には、黒板からシートを外して実物投影機で映します。こういった使い方は手慣れていると感心しました。この市で中心になってICT機器の活用を進めている学校の実践が広がっていることを感じます。だからこそ、全体をまず眺めて、似たような考え、真逆のもの、異なるものと、みんなの意見を整理するといった、全体で比較できるように黒板に貼ったよさを活かしてほしいところでした。

子どもたちは友だちの発表を楽しそうに聞いています。お金がかからず簡単にできる工夫を一番に選んでいるグループの後で、エアコンは費用がかかるけれど簡単ですぐに実践できると一番に持ってくるグループを発表させました。意図的につなごうとしています。こういった判断は大切です。エアコンを一番に選んだグループの発表に対して、授業者はお金がかかるけれど効果があるとまとめます。子どもの発表には「効果」とう言葉はありません。授業者が勝手に足してしまいました。お金がかかるからよくないのか、効果を優先するのかと授業者が焦点化するのですが、ここは子どもたちの言葉で進めたいところです。工夫としてエアコンを取り上げた他のグループに、エアコンをどう評価したか聞くべきだったと思います。授業者は、「自分ならどっちにするか考えてください」と投げかけて、次のグループの発表に移ります。
自分たちが実践しにくいと子どもたちが考える工夫におもしろいものがありました。「グリーンカーテンは時間がかかる、枯れるかもしれない」「ハッカ油を使うという工夫は、どこにあるのかわからない、つくり方もわからない、お金がかかる」「冷たいものを食べる、熱いものは食べないという工夫は、メニューは親がつくるから自分の思うようにできない」といったものです。大変だけれどもやろうとすればできることもあります。「自分たちで実践できるということ」と、「簡単」は対立することではありません。このことを考えさせたいところでした。
授業者は他の学級ではエアコンは環境に悪いという意見があったと紹介します。冷たいものを食べるという意見もたくさんあったけど、身体への影響はどうかを考慮して、それでも効果があるから食べるのか量を減らすのかもう一考えるように話します。子どもの言葉をつないで出させるのではなく、いきなり授業者から結論めいたことが出てきます。子どもたちで考えを深める場面がありませんでした。

自分できそうな工夫を選んで、今年の夏これを実践するとワークシートに記入するのが次の課題です。すべての班を発表させなかったので、見たい人は前に出て聞きて見てもよいと指示します。3/4ほどの子どもたちが立ち上がります。授業者は歩きながら前の方を向いて「自分だったらこれがいいなというのを選べばいいからね」と付け加えます。「自分にできそう」から「これがいい」に変わっていきます。「実践すること」と「実践の価値」の2つの視点を子どもたちに持たせたいと考えているようです。そのため、やや強引に「価値」を子どもたちに考えさせようとしているように思いました。子どもたちは教師の意図を汲み取って書こうとしているようにも見えました。
挙手で発表を進めますが、数人しか手が挙がりません。発表が終わると子どもたちが拍手をしますが、形式的になっています。続いて授業者がコメントをします。常に評価者は授業者です。子どもたちの聞く姿勢もあまりよいものではありません。聞く側の役割がないのです。
結局3人発表して終わりでした。ほとんどの子どもにとっては、評価の場面がない授業になっていました。
最後にこの日の振り返りを書かせますが、子どもたちは書くことに慣れているようです。どの子もしっかり鉛筆が動いていました。

「実践できること」と「実践することの価値」の両面を意識させたいのであれば、子どもたちが考えた工夫のよい点悪い点をまず出させて、「エコ」「費用」「手軽」といったキーワードで整理しておくとよかったでしょう。「自分で実践できる」を軸にしたために、「簡単」という視点の影響が大きくなっていました。ちょっと手間でもやれる、やる価値のあるものといった視点を子どもたちから出させたかったと思います。
グループでの活動、全体での活動を通じて「聞く」という視点が弱いことが課題だと思います。聞くことに意味を持たせることが必要です。授業者がすべて評価するのではなく、友だちの考えを受け止めて、「子ども同士が評価する」「子どもが価値付けする」ような場面をつくることを指揮してほしいと思います。

授業検討会は学年ごとのグループでの話し合いが行われました。事前にいくつかの視点が与えられていましたが、それぞれの発表は異なった視点がたくさんありました。授業を見る視点の多様さを感じました。
私からは、皆さんの意見をもとに、「授業規律」「聞くことの価値」「授業者がまとめるか子どもがまとめるか」「評価・価値付け」「発表のあり方」「ICTの活用」などについて、簡単に話をさせていただきました。

検討会終了後、今回授業を見せていただいた若手と座談会のような形で勉強会を持たせていただきました。どんな子どもを育てたいか、姿を見たいかということを一人ひとりから聞きました。どの先生も自分の目指す子どもの姿がはっきりとあったことをとてもうれしく思いました。目指す姿が明確であれば、毎日の授業の積み重ねが力となっていきます。必ず進歩していくからです。1年を通じて授業を見せていただくことになっているので、これからの彼らの成長が楽しみです。
勤務時間が過ぎるのを見越して、校長がケーキと飲み物の差し入れを用意していました。こういった心遣いを先生方もうれしく思ったことでしょう。もちろん、勤務時間の割り振りもきちんとされています。
この日一日、校長の様々な心遣い(私に対しても職員に対しても)を感じることができました。おかげでとても充実した時間を過ごすことができました。ありがとうございました。
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30