教科書の流れを変える前に、その考えを理解をしてほしい

昨日の日記の続きです。

9年生の数学は若手の平方根の学習でした。
チャイムと同時に教室に入ってきた子どもがいました。授業者は「チャイムなっていますよ」と声をかけます。悪い対応とは言えないのですが、叱責ととらえることもできます。「間に合ってよかった」とポジティブな声かけをしたいところでした。

前時の復習をタブレットと電子黒板を使って行います。平方根の定義を授業者が自らしゃべります。この時間では平方根の値の大小を考えますが、そこで大切になるのが定義です。ここを子どもたちにきちんと押さえておかなければいけません。子どもたちは、授業者の説明をあまり集中して聞いていませんでした。
平方根は何個あったか続けて聞きます。ちょっと雑な表現です。「ある数の」平方根というべきでしょう。「2つ」というつぶやきを拾って、「すぐに正の方と負の方の2つあったよ」と授業者が引き取ります。正と負を授業者が足しました。中学校ではあまり強調しませんが、正の数の平方根は2つで、0ならば1つです。教科書も条件はきちんと書いてあります。中学校の試験で問われることはあまりないのかもしれませんが、ある程度ていねいに押さえておかないと、高等学校で同じことを再度学習する時に、中学校で学習したからと聞き流してしまいつまずく原因となってしまいます。
また、新しい記号として±を確認し、±を使って書くことができると説明しますが、「絶対値」が同じというところは押さえません。
問題の答を重視して、数学的なものの見方・考え方、論理性はあまり大切にしていないという印象を受けました。

電子黒板をフラッシュカードとして活用します。一人の子どもを指名してから授業者が「19の平方根は?」と問題を読み上げます。その子どもが考えている間に他の人も頭の中で考えるように指示します。先に指名してしまったので、他の子どもが考えていないことに気づいたようです。子どもが「プラスマイナスルート19」答えた後、口頭でルートの解説をします。続いて次のカードを表示して「9の平方根は?」と問いかけます。授業者は指名した子どもばかりを見て、他の子どもは見ていません。子どもの「プラスマイナス3」という答を再度口頭で確認して、「0.64?」と次の問を順番に示します。指名された子どもが答に困っている時、まわりの子どもが助けます。その時、最初に指名された子どもはもう当たらないと下を向いて手遊びをしていました。緊張と集中のないフラッシュカードの使い方です。
ルートの説明をするのではあれば、例題をていねいに全体で確認して行うべきです。それからフラッシュカードで練習をすればいいのです。授業者が問題を読み上げる必要もありません。カードに集中させて、全員、個人を上手く組み合わせ、テンポよく行うことが大切です。答えられない子どもがいたら、全員で答えさせてすぐにもう一度言わせたり、「後で当てるよ」と次の子どもを指名して答えられるまで、何度か指名したりして、集中を切らさないようにするのです。フラッシュカードの特性を活かすことをしてほしいと思います。

タブレットの操作に慣れていないのか、タブレットを見ながらしゃべるシーンが目立ちます。素早く操作してできるだけ子どもの様子を見るようにすることが必要です。

この日のめあては「平方根の大小を、不等号を使って表わす練習をします」と提示します。「表わす練習」という言葉に、授業が問題の答探し、答の見つけ方の手順となる予感がします。大切なのは、平方根の絶対値の大小が√の中の数の比較でできることの根拠です。ここを押さえた上での、解き方の学習です。
授業者は、まずワークシートを配ります。配られるとすぐに名前を書く子どもがいる反面、ワークシートを読んでいる子ども、ぼーっとして指示を待っている子どもも目立ちます。授業者が名前を書くように指示していますが、もう9年生(中学3年生)です。指示されなくてもすぐに動けるようにしたいところです。こういった動きの悪さ、緩さが目立つのもこの学校の特徴です。

ワークシートに書かれている課題の説明を授業者が読み上げます。授業者も子どももワークシートから視線が離れません。こういう場面こそ、電子黒板とタブレットの出番です。ワークシートを配る前に大きく映して、顔を上げて説明をします。子どもたちをよく観察して、理解できていることを確認してから配って、すぐに作業に移らせるのです。
課題は何組かの数の大小を、不等号を使って表わすというものです。その理由も書くようになっていますが、その話型が問題です。「……すれば、大きさが比べることができる」となっているのです。予想通り手順になっています。これを理由としてしまうと数学になりません。

机間指導しながら、いろいろしゃべります。「問題が難易度の順になっている」といった意味のない情報を与えます。空中を見ながら歩いている姿も気になります。子どもたちの何を見るために机間指導しているのかが明確でないのです。誰がつまずいているのか、どこで困っているのかを、全体を見ることと個別に様子を見に行くことを上手く使い分けながら知るようにしてほしいと思います。
「全然わからなーい」といって後ろの子どものワークシートをのぞき込む子どもがいます。それに合わせるかのように、いくつかの場所で子ども同士がかかわりだします。その時授業者は、一番前の端の子どもを個別に指導をしていました。教室全体が死角になっています。子どもたちのこのかかわりに気づいていたのでしょうか?ひょっとすると、先生が死角になっているので、動いたのかもしれません(考えすぎ?)。
とりあえずできた子どもは、手持ち無沙汰です。次の指示がないことが問題です。こういった子どもを遊ばせることは教室の雰囲気を緩めてしまいます。

作業を止めて、次の班での活動を指示します。どうにも子どもたちの顔が上がりません。次の活動への意欲が感じられないのです。班で意見を一つにまとめるように指示しますが、これも問題です。できなかった子どものグループでの存在意義が弱いのです。一つ間違えればわかった子どもの意見が書かれるのを見ているだけになります。「わからなかった子どもは、説明を聞いてもう一度考えてみて」「納得しないのに、引き下がっちゃだめだよ」「説明を聞いて、自分でもう一度解いて、理由をまとめて」といった活動を求めることが大切です。

代表が前にホワイトボードを受け取りに行っている間に、あるグループの男子が3人で勝手に相談を始めていました。これをよいこととらえるのか、よくないことをとらえるのかは難しいところです。このグループの人間関係が気になります。代表の女子はグループに戻った後、自分のワークシートに書き始めます。他の3人はそのまま話し続けました。その子どもの机が他の3人と比べて少し離れているのも気になります。しばらくすると顔を上げて3人の会話を聞き始めました。その場面に授業者が通りかかりましたが、何もせずに隣のグループに行き、そこで一人の子どもに説明を始めました。他の3人はそれを無視して話しています。グループでは、子ども同士のかかわりをまず大切にする必要があります。グループにうまくかかわれない子どもや困っている子どもを他の子どもとつなぐことを常に意識してほしいと思いました。

グループごとに問題を割り当てて発表させます。
「√の中の数を見たらわかる」という言葉が出てきます。それを受けて授業者は「ルートの中の数字?を見て決めました」とそのままスルーします。「a>0,b>0の時、a>b ⇔ a2>b2」はそれほど自明なことではありません。因数分解もまだの子どもたちに、きちんとした証明をさせることは困難です。このことと平方根の定義をきちんと押さえなければ、論理的に説明ができません。この授業で一番大切なところがここなのです。教科書は、正方形の面積を使って、何とか説明をしています。教科書の著者の工夫と苦労がよくわかります。しかし、授業者はここを無視してしまいます。また、数と数字が混乱していることも気になりました。

子どもたちは、有理数を√を使って表わして、ルートの中の数を比較すると説明します。それを受けて、授業者が細かく説明します。子どもたちが発表する意味がありません。どうしても、自分で説明しないと気が済まないようです。そのせいか、子どもたちは誰も発表者の方を見ません。先生が必ず説明するから、聞く必要がないのです。授業者が説明する代わりに他の子どもに説明させたいところでした。
負の数の大小を間違えていたグループがありました。説明する子どもが「逆で」と修正します。授業者はそれを受けて、すぐに書き直します。もったいない場面です。「何が逆なの?」「それってどういうこと?」と問い返し、「どういうことかわかった?」と他の子どもにつなぐことで、とてもよい復習ができたと思います。
√6の大きさを考えるのに、2乗して大体6になる数を考えると発表します。授業者は、「先生よくわからん」と上手くぼけました。子どもたちが反応して、つぶやきが出てきます。面白い場面です。子どもたちのつぶやきを拾ってつなげればよいのですが、授業者がしゃべり続けます。そのため、子どものつぶやきは消えてしまい、授業者と一部の子どもだけで進んでいってしまいました。
子どもから負の数の大小と2乗の関係が混乱して質問が出ます。質問を授業者が受けて、子どもに説明しようとします。ここは、その質問がどういうことか、他の子どもたちに理解させたいところですが、どうしても授業者は、全部自分が受けて説明しなければいけないと考えているようです。2乗しての比較は正の数同士でなければ、大小関係は維持されませんが、そのことを最初に押さえていないので混乱し始めたのです。

√7の√を外すのに2乗しなければいけないと説明します。あまりに乱暴です。勝手に2乗してよいわけがありません。論理ではなく感覚になってしまいます。結局、最後は授業者が平方根を含んだ数の大小を見つける手順をまとめて板書し、子どもたちが写して練習問題に移りました。根拠のない答の見つけ方の手順を教える授業になってしまいました。

数学として何が大切かをしっかりと押さえ、それを子どもたち自身が論理的に理解し修得するために、どのように授業を構成すればよいかを考えてほしいと思います。教科書の流れを変えるのであれば、まずは、なぜその流れになっているのかをきちんと理解してほしいと思いました。
授業者にはこのことを伝えたつもりですが、理解していただけたでしょうか?次回の訪問時に。どのような変化がみられるのか楽しみです。

この続きは次回の日記で。
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