第3回授業深掘りセミナー(その2)

第3回授業深掘りセミナー(その1)」の続きです。

野木森先生の模擬授業は小学校6年生の「ものの燃え方」の実験です。まさに理科の王道を行く授業でした。
前時に行なった(ことになっている)実験の結果を確認します。一斗缶の中で薪を燃やした時に、穴をあけたり、うちわであおいだりしたらよく燃えたことを発表させます。ここで「穴をあける」「うちわであおぐ」という2つの行為が燃焼を助けることを押さえておくことが、この日の実験での子ども役の活動を支えます。

この日の課題を示すのに、まず実験を見せます。通常は前で実験をしてみせるのですが、これが意外と時間を取られます。子どもがポイントを見落としていても、何度もやり直すのは大変です。そこで、野木森先生は動画で実験を見せます。あらかじめこの日子どもたちが使うのと同じ道具を使って実験をし、それを撮影してコンパクトな動画にしておくのです。こうすることで、短時間でとてもわかりやすく提示することができます。何度も見せることもできますし、動画を止めてポイントを説明することも簡単にできます。今はスマホでも簡単にハイクオリティな動画を撮影できますので、とてもお勧めの方法です。
透明な燃焼実験箱に上下左右4つの穴があけられています。それぞれ栓でふさげるようになっていますが、そのうちの1つだけをあけてローソクを燃やすと、やがて消えていきます。消えていくのを見ると、子どもはどうしても消えないようにしたくなります。やりたいこと、試したいことが出てきて、ワクワクします。そこで、この日の課題「ローソクが燃え続けるのはどんな時か説明しよう」を提示します。最初に、穴を1個の場合を確かめてといった細かい手順は指示しません。「自由に実験してください」と子どもたちに任せます。子どもたちはやりたいことがあるので、盛り上がらないわけはありません。とはいえ、火を使う実験ですから、注意すべきポイントや指示はあります。それをコンパクトにまとめてスクリーンに表示し、実験中にいつでも見られるように表示したままにします。これも、さすがの使い方です。

ペアで実験開始です。試してみたいことがあったのでしょう、すぐに実験を始めます。これは大人でも変わらないようです。穴を2つあけた時に、燃え続ける時と消えてしまう時があります。その組み合わせを確かめているペアもあります。どのくらい経つと消えるのかと時間を測っているペアもありました。子ども役が大人なので、上手くいっても次の課題を考えていろいろ活動しますが、子どもたちであればどうなのでしょうか?この点については、野木森先生は机間指導を使って子どもに次の課題を考えさせます。うちわや線香が用意されていて、「使いたいものない?」「他にやってみたいことはない?」「どんなことがわかった?」「どうしてそうなるのかな?」と声をかけます。前時の実験を確認したことがここで活きてきます。こうして、うちわで風を送って上手く燃やそうとするペア、線香で煙の動きを確認するペアと活動が多様化していきます。そこで、野木森先生は、途中でペアを交換して互いの発見や考えを交流させます。子ども役は、ある程度の結論得たのでしょう、いろいろと試しますが、テンションが上がっていきます。こういうところは子どもたちと同じです。野木森先生は子ども役の間を回りながら、思考を深めるための言葉がけを行っていて、全体を見る余裕が少しなかったようです。

実験を終わって、子ども役に「見つけたこと?」を問いかけます。少し曖昧な問いかけです。消えずに燃焼させる方法を答えればいいのか、空気が流れなければいけないといった考えたことを答えればいいのかよくわかりません。逆に、少し曖昧だからこそ、子どもから多様な言葉を拾うことができます。何を答えればいいのか少し曖昧な問いかけは、子どもの言葉をつなぐ力のある先生が使えば考えを広げたり、深めたりする一つの方法です。しかし、そういった意図なく使うと、発言が拡散して焦点化が難しくなることがあります。野木森先生は「思ったこと?」といった問いかけもしました。これも同様です。「上だけ、下だけあけた時に空気が流れない」という意見に対して、「どうしてわかった?」と返します。「線香の煙を吸わせたりして、……」と答えが返ってきます。ここで、「なるほど」と受け止めて終わったのですが、もう少しこの空気が流れるということについてつないでいきたかったところでした。
この後、空気が流れて燃え続ける動画を見せて確認し、この実験から言えることは「新しい風を入れた時に……」とまとめました。ちょっと気になったのが「新しい」という言葉でした。酸素を意識した言葉なのですが、「空気が流れる」ということが、「新しい空気」につながるには、ちょっとギャップがあるように思いました。「空気が流れた時と流れなかった時では、ローソクのまわりの空気は違うの?」といった問いかけをして、「新しい空気」という言葉につなげるといったことも必要だったように思います。

子どもが思考しながら活動する、とても素晴らしい授業提案でしたが、私には少し不満がありました。このことが、深掘りトークセッションで話題になります。
私は、挑戦的に「これはまだ理科の授業になっていない」と発言しました。子どもたちは試行錯誤しながら、ローソクが燃え続けるための条件を見つけたり、何が起こっているのか空気の流れを確認したりしています。しかし、それらの活動の結果を論理的に再構成して整理する場面がありませんでした。例えば、「必ず上下の穴が空いてなければいけない」という結果と、「下の穴しか空いてなくてもうちわであおげばうまくいく」という結果から、何が言えるかと考察させたり、逆に実験の途中で「下の穴しか空いてない時は絶対に消えるの?」と問いかけて、新たな課題を提示したりといったことが必要だったのではないかと思います。理科は事実を論理的に解釈したり説明したりすることが大切です。その時間がなかったので、理科の授業としては不十分だったと思うのです。
それに対して、野木森先生は反論します。「子どもたち、それぞれが実験の中で疑問を持ったり、次の課題を見つけたりして新たな実験に取り組んでいる。これこそまさに理科の活動である。実際に子どもたちでやった授業でもそうなった」という主張です。なるほど、確かに個の場面ではそういったことがたくさん起こっていたのだと思います。そこには、机間指導での野木森先生の言葉がけや支援が有効に働いていたと思います。しかし、それを学級全体で整理し共有する場面がなかったのです。子どもたちが頭の中で、なんとなく考えていることをきちんと論理的に整理をし、他の場面でも活用できるようなメタな思考に昇華させることが必要なのではないでしょうか。これは子どもの実態によって変わってくることなので、小学校6年生では難しいことなのかもしれません。先生の個別支援ではなく、とりあえず燃やし続けることができた時点でいったん実験を止めて、結果を共有しながら「どうして、この場合はダメで、こちらの場合はいいのかな?どんな実験をしてみるとわかりそう?」といった問いかけを全体でしてもよいかもしれません。子どもたちに考えを言わせ、どれがよいといった結論は出さずにまた実験をさせ、「どうしてそのような実験をしたのか?」「その結果何がわかったのか?」をまとめさせて、最後に共有するのです。
簡単に結論づけることではできませんが、理科の授業をどのように考えてつくっていくかについて、深掘りできたように思います。ちなみに、この実験器具は野木森先生の研究授業を見てあるメーカーが商品化したものだそうです。それだけその授業が素晴らしかったことがわかります。

「教育情報知っ得!コーナー」については、「第3回授業深掘りセミナー(その3)」で。
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