主催者側、参加者側双方にとって学びの多いインターンシップ

2月に企業のインターンシップで授業と学び研究所のフェローとして講師を務めました。昨今は採用活動が本格化する前にインターンシップの形で、企業での仕事がどのようなものかを紹介・体験することが増えています。東京、大阪2回ずつ開催されましたが、参加した学生たちもとても真剣でした。

社長による会社の業務の紹介では、この企業の目指す姿が語られます。教員の世界は、だれもがよく知っているものであり、インターンシップに代わる場として教育実習もありますのでこういったことは必要ないのかもしれませんが、一般企業にとっては大切なことです。
ここで話されることは、その会社によい人材が欲しいので宣伝色が強いように思われますが、決してそうではありません。採用活動にかかわらせていただいて強く感じるのが、会社のことをよく知って選んでほしいという姿勢です。いくら優秀な人材でも、思っていたのと違う、私に合わないとすぐに辞めることになっては、企業にとっても学生にとっても不幸です。そんなミスマッチがないように、できるだけどのような会社なのか、どのような業務なのか、どんな夢が描けるのかを伝えるのです。
ユニークなのが採用担当役員による、就活についてのお話しです。就活そのものと言うよりも、これから社会人として生きていくための視点と言ってもいいものです。学ぶことを楽しむ姿勢が大切であり、一生学び続ける人が求められていること、就活を通じて新しい自分を発見してほしいといった内容です。こういった学ぶことの本質を参加した学生に伝えようというところが、学校をフィールドにしている会社らしいところです。

メインのプログラムは、授業と学び研究所のフェローが講師となって進めますが、大切にしているのは、参加した学生に「学ぶ」とはどういうことかを具体的に理解してもらうことです。そのため、知識を一方的に教えたり、マニュアル的な方法論を伝えたりといった一方的な講義はありません。
最初は先生の仕事についての神戸和敏先生のプログラムです。
参加者は子どもの側からしか先生を見ていません。先生の仕事を知っているようで実はそのほんの一部しか知りません。先生はどんな仕事をしているのかを参加者に考えさせながら、先生方の仕事が多岐にわたり多忙であることと、子どもの教育に直接かかわることに時間を使うことが大切であることに気づかせます。この会社の成功が、ICTを使って先生を楽にさせるのではなく、その先にある子どもたちの教育のために何ができるかを考えている結果だということが、最初の社長による会社紹介と合わせてわかっていただけたと思います。

後半のプログラムはコンサルティングの体験ということで、小中学校の校長から学校の課題を聞きだすというヒアリングのロールプレイです。神戸先生ともう一人玉置崇先生に校長役になってもらい、私が進行役で行いました。
最初にコンサルティングとは何をすればよいのか、何が大切なのかを考えてもらいます。相手の課題を知ることが大切だと気づいてもらったうえで、課題を提示しました。グループでどのような質問をすればよいか、どのように進めていけばよいかを相談してもらい、1回目のロールプレイに挑戦です。課題を聞きだそうとして、用意した質問をすることに意識がいってしまいます。中には「学校の課題は何ですか?」と直接聞く学生もいますが、人間関係もできていないのにそのような質問に答えてもらえるわけもありません。どの学生も会話がつながらず、1回目はほとんど何も聞き出すことができませんでした。ヒアリングではまず相手の言葉をていねいに聞くことが大切です。そこから学校の課題につながることを見つけ出し、焦点化して詳しく話をしていただくことが必要です。校長役は、学校の課題やこれからやりたいと思っていることを実にうまく会話の中に織り込んでいますが、そのことになかなか気づけていません。一人ひとりのロールプレイを振り返りながら、具体的な場面で何が起こっていたのかを考えてもらいます。自分たちだけでそのことに気づいてもらいたいのですが、時間の関係で私が少し誘導して、解説しました。
もう一度グループでどうすればいいのかを考えてもらい、2回目のロールプレイです。優秀な学生たちなのでしょう、驚くほどの進歩を見せてくれます。先ほどの互いのロールプレイから多くを学んだようです。相手の話を聞くことの大切さを意識していることが、聞く姿勢に現れています。校長にまた相手をしてもよい思わせるヒアリングになっていました。

最初、参加した学生たちは、どうすればよいのかを教えてくれるものだと思っていたようですが、このインターンシップを通じて「現実の社会では正解はなく、自分たちでよりよい答を導き出さなければならない」「他者と相談することで、よりよい答に近づける」ことに気づいてくれたようです。また、「コミュニケーションの基本は聞くこと」と頭でわかっていても実際にはとても難しいことです。相手の言葉を受けて、その場で次に何を言うべきか考えるといった経験はとても新鮮だったようです。手前味噌ですが、学生たちにはとてもよい学びなったことと思います。このインターンシップを通じての学生たちの変容から、私たちも多くのことを学べました。主催者側、参加者側双方にとって学びの多いインターンシップでした。
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