先生方の工夫から学ぶ

前回の日記の続きです。

3年生の英語の授業は”listening”の場面でした。
入試を意識しているのでしょう。試験の形式で進んでいました。子どもたちは一生懸命に聞いているのですが、全く手がつかない子どもの姿が見えます。聞き取りの後、相談する時間をつくります。手がつかなかった子どもも参加するのですが、他の子どもが聞き取った内容を聞いても聞き取りの力がつくわけではありません。しかし、聞き取ったこと聞き合うことで内容の理解は進み、問題に正解することには近づきます。この活動に意味はあるのですが、”listening”の力をつけることには直接つながりません。なかなか難しいところです。
また、指名した子どもの答を聞いてもそれが正しいかどうかの確認もできません。一問一答になりがちで、一部の子どもだけで進んでいくことになってしまいます。頭出しが難しいといった問題があるのですが、何人かに答を聞いた後でもう一度聞き直して、聞き取れなかった子どもに確認するといったことをしたいところでした。

3年生のもう1つの英語の授業も”listening”の場面でした。
授業者はベテランですが、毎回新しい試みを見せてくれる方です。今回は”listening”の進め方についていろいろな工夫がありました。
T2が書いたという英語の作文を読むことを伝えます。何について書かれているのか簡単に伝え、聞かせた後にする質問を事前に伝えておきます。”situation”をはっきりさせることで、聞き取りはずいぶん違ってきます。また、通常は聞き取った後に初めて質問がわかるので、長文の聞き取りの場合、ある程度聞き取れたことでも質問された時に「あれっ?」となってしまうこともあります。しかし、今回のように事前に質問がわかっていると、話の流れを追うところと集中して聞くべきところを意識できます。なかなか面白い工夫だと思います。
気になったのが、作文はその時に書かれたことなので時制は現在になります。しかし、この作文がいつ書かれたことかを明確にしておかないと、質問や答の時制がはっきりしません。日本語と違って英語は時制を明確に区別するので、その意識を持たせるためにはっきりさせたいところでした。
子どもたちは集中して授業に参加していました。互いに聞き取れたことを確認した後に再度聞き直す機会があるからでしょうか、しっかりとかかわり合えていました。
子どもたちは内容を聞き取れていても、答の英文をきちんと作れるとは限りません。単語レベルの答になることもよくあります。”listening”で内容がわかることと、きちんと英語で答えられることは違うのです。質問で使われる英文の受け答えについて、”listening”の前に復習しておくといったことも必要になります。子どもたちが一連の学習活動でできるようになるために必要なことは何か、それをどのような形で押さえておくかが大切になるのです。

1年生の英語は少経験者ですが、色々新しいことに挑戦しています。
今回は単語や句と対応した絵が描かれた小さな”picture card”を活用していました。与えられた英文をオウム返しで言ったり、単語を置き換えて英文を話したりするのではなく、”picture card”で与えられた”situation”を英語で表現させようという試みです。ペアの一方が英語の語順に従ってカードを並べます。他方がそれを英語に直して表現します。カードの絵を見て理解した”situation”を英語に直すことで、”situation”と英語の表現がつながっていきます。子どもたちは集中して取り組んでいました。しかし、ペアによっては”picture card”を正しく並べられなかったり、時間がかかったりしています。ここをどうするかが課題です。困った時に参考となるように、いくつかの文例を黒板に貼っておくといったやり方もあります。子どもたちが黒板をよく見るようであれば、まだ定着していないことがわかるというよさもあります。
ペアでなく4人グループで進めるという方法もあります。ペアに対してそれぞれにバディをつけて、困った時に助けてもらうのです。
取り組みの方向性はとてもよいので、もう一工夫することで素晴らしいものになると思います。今後がますます楽しみです。

初任者の3年生の国語の授業は助動詞の学習でした。
例文のどれが助動詞かを問いかけ、続いて、「そうだ」にどんな意味があるか書くように指示します。「どんな意味」という言葉では、何を答えていいのかよくわかりません。一問一答に慣れている子どもは、教科書に書かれている用法を答えてほしいのだと、授業者の意図を読みますが、それではあまり意味はありません。
「助動詞が付加されることで……」と助動詞を説明しますが、これで理解することは難しいと思います。助動詞をつけた文と、つけていない文を比較することが大切です。比較することで、助動詞の持つ機能や、個々の助動詞がそれぞれどのような意味や働きをするのかがわかってくると思います。
「れる・られる」には4つの意味があるとまとめます。意味の覚え方を教えますが、あまり意味のある活動とは思えません。確かに試験の時に素早く答を出すためには覚えておくとよいのかもしれませんが、子ども自身が日本語の意味から答を導き出せることで十分だと思います。「自発」「尊敬」「可能」「受け身」という言葉の意味が正しく理解できていれば、分類することはさほど難しいとは思いません。
子どもたちにどのような力をつけたいのかが、少しずれているように思います。おそらく自身がそういう授業を受けてきたのだと思いますが、そこから早く脱却してほしいと思います。
また、寝ている子どもを指名したことも気になりました。指名された子どもは当然答えることができませんので恥ずかしい思いをします。さらし者にしていることに気づいてほしいと思います。まわりの子どもに声かけてもらうような動きをしたいところでした。

1年生の国語の授業は、本文を音読する場面でした。
子どもたちに1文ずつ音読させますが、なぜこの場面でこのやり方をするのでしょうか。子どもたちは何を目標にして音読するのでしょうか。こういった活動のねらいがはっきりとしていないことが気になります。漢字を読めなかった子どもに対して、他の子どもに助けるように「大きな声で言ったげて」とうながします。助けてもらう子どもにすると、「大きな声」で言われるのはちょっと恥ずかしいものです。「まわりの人、助けてあげて」と近くの子どもとのかかわりを活かした方がよかったかもしれません。
子どもたちは「女中」が読めません。「女中」という言葉そのものを知らないようです。読み方だけであれば、音読みは「想像」できますが、意味までは想像できません。また、「繕う」も読めませんでした。これは訓読みなので、「想像」では読むのは難しいでしょう。「修繕」という言葉を知っていれば意味はわかるかもしれません。少なくともどうすれば読み方を調べることができるのか、意味を知ることができるのかを確認をしたいところです。結局どちらも授業者が教えて終わりました。その場で調べさせるか、チェックだけにしておいて後で時間をとるのか、それとも、事前に調べさせてから音読させるのか、いずれにしても、子ども自身で調べさせたいところでした。
読んでみた感想を聞きますが、何のためなのかがよくわかりません。感想を書かせておいて、「この単元の学習が終わった時にもう一度書いてもらうね。授業で読み取りをすることで、どう感想が変わるか楽しみだね」というようにして、目的意識を持たせたいところでした。
国語では音読をするのはごく普通の活動です。だからこそ、この単元のこの場面で音読するのは何をねらっているのかを明確に意識してほしいと思いました。

今年度の現職教育のまとめの時間に話をさせていただきました。
この学校は、入学した子どもたちが3年間で必ず見事に成長していきます。3年生になると「どんな先生の授業でも前向きに集中して取り組む」姿を見せてくれます。あたりまえのことのように思えるかもしれませんが、「どんな先生でも」というのはそう簡単なことではありません。先生だけでなく、上級生が下級生によい影響を与えていることも大きな要因です。このことが伝統となりつつあるのを感じます。
子どもの発言をしっかり聞ける先生が増えており、先生と子どもの関係も良好です。しかし、子どもが先生の話を聞いてくれるので、先生のしゃべる量が増えてきたように思います。また、子どもを受容することはできるのですが、子どもの発言や行動をポジティブに評価したり、価値付けしたりする場面が少ないように思います。
一方の子ども同士の関係は、基本的にはよいのですが、うまくかかわれずに輪に入れない子どもの存在が気になります。友だちの話は笑顔で聞けるのですが、自分の考えを話すことには苦手意識がある子どもも多いようです。先ほどの先生の子どもへの評価の問題とも重なりますが、学習場面で自分が友だちから評価されている、認められているという実感が低いように感じます。
こういったことから、次年度の課題として、子どもを評価することを大切にしてほしいとお願いしました。先生が価値付けすることを意識するだけでなく、友だちが評価する場面もつくってほしいと思います。子どもは間違えて恥をかきたくないので、正解を求めてばかりではどうしても発言に消極的になります。一問一答的なことを問いかけるのではなく、互いに聞き合うことで深まる、解決するような課題を設定することが大切になります。何に困っているかを問いかけて、わからないことに価値があることを伝えることが必要です。まずは、先生がどのようなことに価値があるかを教えることから始め、その上で、子ども同士が認め合う場面をつくっていくようにしてほしいと思います。正解したことを評価するのではなく、進歩したことを評価する姿勢を忘れないこともお願いしました。

今年度もこの学校で授業アドバイスをさせていただくことになりました。ずいぶん長期になりましたが、先生方の前向きな姿勢や授業に対する工夫を見せていただくおかげで、いつも新鮮な気持ちで授業を見ることができます。今年度も多くのことを学ばせていただけると楽しみにしています。
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