愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午後の部)(その2)

愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午後の部)(その1)」の続きです。

2つ目の模擬授業は、豊田市立小清水小学校長の和田裕枝先生の道徳です。最初に子ども役全員と握手をします。その後で「これでみなさんと友だちになった気がします」と伝えます。この時子ども役のみなさんはうなずきましたが、一人だけ反応しません。和田先生はすかさずその子ども役に声をかけます。さすがです。子どもたちをよく見ているだけでなく、一人もこぼさずに対応するという姿勢を伝えます。この「友だち」という言葉は、この日の授業の内容につながるキーワードです。思わず、「上手い!」と声に出してしまいました。

資料を範読しますが、子ども役には資料を渡しません。顔を上げさせて、聞くことに集中させたいからです。題名を読む代わりに、「困った子の話を今から読みます。主人公の気持ちになって聞いて」とどんな話か子ども役に見通しを持たせておきます。和田先生は手元の原稿に目を落としながら読みますが、すぐに顔を上げて子ども役を見ます。子どもから目を離しません。常に子どもを見ようとする姿勢はぶれません。資料の中にフリーマーケットという言葉が出てきます。子ども役に知っているか確認しました。知らない言葉があるとそこで引っかかって先へ進めなくなる子どもがいます。ちょっと難しい言葉があれば出てきたその場で確認することは、道徳の読み物資料では大切になります。

話の内容は、みんなでフリーマーケットに行くことになったが、仲間外れになっている子どもを誘うかどうかで主人公が悩むものです。資料を読みながらポイントとなるところで止めます。「もやもやしたままだった」という気持ちを子ども役に想像させます。「何かと何かが戦っている気がした」という言葉がでてきます。ここで、主語の私が誰か混乱した子ども役がいました。いったん止めて確認し、「よく言ってくれました」とほめます。「わからない」と口に出すことはなかなかできないものです。ここでほめることで、子どもたちは安心して口にすることができるようになります。続いてその時の主人公の表情をかいた絵を「こんな顔をしています」と貼ります。面白い絵の使い方です。言葉ではうまく理解できなかった子どもでも絵から気持ちを想像できることもあります。うまい方法です。「さそいたくない」という発言を「いい言葉だね」と認めます。どんな発言もしっかりと受容してくれるので、発言しやすくなります。特に道徳では、子どもが自分の考えや思いを飾らずに発言してくれることが大切になります。和田先生は、子どもの発言を受容するだけでなく、価値付けもしっかりと行います。「原稿ないのに、よく聞いていたね。メモしてたもんね」とメモをしながら聞いていた子ども役の発言を受けて評価します。
「戦うとはどういうこと?」と焦点化していきます。「ぶつかりあうこと」「迷っている」「困っていること」とテンポよく次々に発言させ、考えを広げていきます。その上で全員に書かせます。「えらいな、もう鉛筆持っている」と素早く行動した子どもをほめて、よい行動を学級全体に広げようとします。「大体2分で書いてくれるといいなあ」と時間を指示します。「いいなあ」という文末の表現がなかなかです。「書きなさい」という命令ではなく、「実行すると『いい』と評価されるよ」というポジティブなメッセージを送っています。ちょっとした言葉づかいにも和田先生の授業観が見えてきます。
机間指導しながら、「理由を書こうと思っているんだね」と大きめの声でほめています。単に「こういうこと」だけでなく、「○○だから」という理由も書けるとよいことを、オープンカンニングで他の子ども役に知らせます。

鉛筆を置いて、全体での話し合いに入ります。動きの遅い子ども役に、「もう書き終ったんだね。鉛筆を置いたからね」と声を掛けます。ちゃんと見ているよというメッセージを伝えるとともに、次の行動を促します。
子ども役の手が一斉に挙がりますが全員ではありません。3人ほど手が挙がっていないのですが、これだけ手が挙がっているとつい指名したくなります。しかし、和田先生は指名を少し待ちます。ほぼ「全員」と思うのか、「あと3人」と思うのかで授業は大きく変わってきます。和田先生は全員参加を願っているので、あと3人の参加を待ちます。すぐに2人が追加で手を挙げます。そして、最後の1人の手が挙がったのを見届けて、挙手指名ではなく「全員に聞くよ」と順番に聞き始めました。子どもの状況によって進め方を変えます。

子どもの発言を受けて、「してあげたい」か「した方がいい」かと、自分の気持ちなのか道徳的な判断なのかを焦点化していきます。端的な言葉で焦点化するうまい返しです。「本当の気持ちは誘ってあげたいけど……」と返ってきます。ここでまとめようとせずに、次の子ども役を指名します。「男の子なので女の子の気持ちは難しい」という答えが返ってきます。子ども役はなかなかの役者です。和田先生は「別の言葉で……」と前の発言とつなぐことで言葉を出させようとしますが、「えー、出てこない」と反応します。ここで、「見つかったら教えてください」と次に移りました。一人の子どもにかかわりすぎても授業がだれてしまいます。あとでこの子どもを活かす場面をつくることにして、先に進んだのです。こういった瞬時の判断が見事です。

「どうして『けど』がつくんですか?」と「けど」にこだわることで、より深く気持ちを考えさせます。十分深めたところで、この資料の題名を提示します。「思い切って」と板書の手を止めて、「どんな題名?」と問いかけます。なるほど、この展開だから題名を読まなかったのかと納得しました。「やってみる」と声が返ってきます。ここから「言ってみる」という言葉につなぎ、子ども役の手を止めさせて一緒に読ませます。「思い切って言ったらどうなるの?」と迫ることで、子ども役が課題に入っていきます。仲間はずれにされている子どもが主人公に話しかけてきた絵を指さして考えさせます。主人公がまだ思い切って言っていない場面で一旦止めることで、子ども役がさらにぐっと入り込んでいきます。
「○○ちゃん(仲間外れを主導している子ども)に聞いてみる」と考えることからちょっと逃げている発表をする子ども役に対しては、「○○ちゃんにどう聞くか考えてね?」と正面から向き合わざる得ない質問を返します。こういったとっさの切り返しはなかなかまねができません。次々に指名していくと、「○○ちゃんに聞いてみて」「○○ちゃん、一緒に行っていいよね」「一緒に行こうよ」とだんだん自分の気持ちが強く出る言葉に変わっていきます。「〜けど?」「〜けど?」と聞き返すことで、「こわいけど」と言う言葉を引き出します。「せっかくだからみんなで……」という言葉が出てくると、「せっかくだから」という言葉をクローズアップして評価します。

「何を○○ちゃんに考えてほしい」ともう1回考えさせます。ここでも、「〜けど」という言葉が出てきます。和田先生が意図的に使った言葉です。状況に流されてしまいやすい時に、踏みとどまり思い切って行動してほしい。そのためのキーワードが「〜けど」になっていたのです。長々とした言葉で説明するのではなく、端的な言葉でねらいに近づける、達成する授業構成は見事でした。
最後に、仲間外れにされていた子どもの頭の中はどうなったかを絵で見せることで、思い切って行動した結果が素敵なものであったことを示して終わりました。

授業検討は岩倉市立岩倉中学校長の野木森広先生のコーディネートで進みます。このセクションでは、参観者が「よい」「疑問」と思ったところで携帯端末のそれぞれのボタンを押すとそれが記録され、どの場面で押されたかをグラフ化して見せてくれる「授業検討ツール」を使って行いました。昨年度のフォーラムで発表したものです。参観者の反応をグラフから読み取り、議論する場面を焦点化するツールです。場面を指定すると瞬時にその場面が映し出されます。
慣れていない方がこの端末を持って授業を見ると、途中から授業に見入ってボタンが押されなくなる傾向があります。ところが今回は、非常に多くの場面でたくさんボタンが押されていました。参観者が研究会の会員なので慣れていることもありますが、和田先生の授業にそれだけ見るべき場面が多かったということだと思います。どこを話題にするのか、あまりにグラフの山が多いので野木森先生もちょっと困った様子でした。グラフを見ながら話し合う場面を選びますが、おそらく野木森先生が授業の流れの中で話し合うとよいと思った場面を意図的に選んでいるのだと思いました。再生された場面を確認して意見を聞き合います。あらためて授業を映像で振り返ったあとで意見を聞くので、会場の参加者も納得度が高かったと思います。こういったツールで場面を共有して話を聞き合うよさを感じていただけたと思います。
検討会は、皆さんの意見と合わせて野木森先生が和田先生の意図を確認する場面がたくさんありました。おかげで、和田先生の一つひとつの行動の意図がよくわかりました。とても学びの多い検討会でした。

最後に午後の部のまとめを、コーディネーターと授業者に、津市の初任者指導員をしている元校長の中林則孝先生、大府市立南中学校の近藤肖匡先生そして私を加え、野木森先生の司会で行いました。若手が増える中、学校での授業検討はどうあるべきかと、「授業アドバイスツール」や「授業検討ツール」などを活用することで、どう授業検討が活性化できるかについて話しました。これらのツールについては、今後も研究会でブラッシュアップし、具体的な授業検討法と共に、普及させていきたいと考えています。

来年度の愛される学校づくりフォーラムは2月に研究会の地元である愛知県で行う予定です。詳細が決まりましたら、また案内させていただきたいと思います。
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