愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午後の部)(その1)

愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午前の部)(その4)」の続きです。

午後の部は2つの模擬授業と授業検討です。最初に会長の小牧市立岩崎中学校長(当時)の石川学先生からの趣旨説明が行われました。愛される学校づくり研究会でこの数年間、授業検討法の研究に取り組んできました。若い先生も増え、校内での授業研究の重要性が高まっていますが、なかなか活性化しないということが現実です。それを何とかするために授業検討のやり方を工夫しようというわけです。その成果として、研究会で考えられた授業検討法とそれを活かすために企業会員と共同で試作されたICTを活用したツールの紹介がされました。

1つ目は、授業と学び研究所フェローの神戸和敏先生による小学校算数の発展的な学習の模擬授業です。このセクションでは、ベテランの先生が若手に授業アドバイスをする形での授業検討を想定しています。アドバイザー役に新城市立作手小学校長(当時)の小西祥二先生、若手役に岐阜聖徳大学教育学部の玉置ゼミの学生をお願いしました。
模擬授業は、トイレットペーパーを見せて何を考えるか、子ども役に疑問を問いかけるところから始まります。何を答えてもいいし、何を答えていいかわからない問いです。神戸先生は子ども役からでてくる、どんな発言もしっかりと受容します。どんな答も受容されること、何を答えても安心であることを伝える場面になっています。子ども役からでてきた厚みという言葉が何を意味しているか、「厚みとは何だと思いますか?」と他の子ども役に問いかけます。「何回使えるか」という答に、「1回しか使わない」とぼけて見せます。より詳しく伝えようとさせるための返しです。他の子ども役が、「何回分のトイレになる」と足してくれます。「そういうことか?」と聞き返し、「今の(説明)なら大丈夫?」と全体に確認します。神戸先生は自分が説明するのではなく、子ども役の言葉を重ね、それでよいかの判断も子ども役にさせます。子ども役の「厚み」という言葉から、「何回(使える)」⇒「何巻」として、これを課題として考えることにしました。子ども役から出てきた言葉から課題が導き出されます。子どもが自ら課題を見つけだすということはそれほど簡単ではありません。こういった子どもとのキャッチボールは、子どもに疑問を持たせて課題につなげる方法の一つです。

トイレットペーパーの外径、内径、全体の厚さ、長さ、シングルといった情報を与えて考えさせます。子ども役は、大人なので知識がじゃまをするのかもしれません。だんだん半径が大きくなるからと、手詰まりです。どこで困っているかを共有して、相談させます。
子ども役から、「トイレットペーパーの外径と内径の平均で考える」というアイデアがでてきます。それを受けてすぐに説明したりはしません。子ども役の反応を見ます。今の説明を聞いて納得したかを他の子ども役に確認すると、「本当に平均で計算していいのか不安」という声が返ってきました。「どこに疑問を感じていましたか?」と他の子どもにも確認し、「平均でなぜいいの?」と問いかけます。それに対して、「2巻だとわかりやすくなる」という意見が出てきます。ここで、「どういう風にわかりやすいのかな」と返します。こういった切り返しで考えが明確になり、全体で共有しやすくなります。「実際に確かめたらいい」と確認の方法が返ってきます。このように、すべて子ども役の言葉やアイデアで授業は進んでいきました。こうして、1巻の長さを、内径と外径の平均を半径とする円周の長さと考えて、トイレットペーパーの全体の長さをその長さで割ることで何巻か出せそうだということになりました。
最後に、日常ちょっとしたことに疑問を持つことの大切さやそこに算数が活かされることを話され、「あれっと思える人生」になるといいと締めくくられました。実はこの授業は、神戸先生が現役の校長時代に6年生への最後の授業として行われたものだったのです。

この授業の検討は、「授業アドバイスツール」を使って行われました。このツールは授業をタブレットや携帯端末で録画し、アドバイザーが気になったシーンで画面をタッチするとその時の静止画と時間情報が記録され、後からそのシーンを簡単に呼び出して動画を再生することができるというものです。
小西先生は実際のアドバイスを意識して、まず神戸先生の授業から学んだことを若手役の学生に問いかけます。とにかく驚いたのが、学生のコメントがとても的確だったことです。

・情報の一部を隠すことで何だろうと興味を持たせていた。
・大切なことを子どもに言わせる。「同じ」といってもその同じをもう一度言わせる。
・子どもの発言内容の補足を、発言者ではなく、あえて他の子どもに問いかけて子ども同士をつなぐ。
・挙手ではなく、表情を見て意図的に指名している。
・全体での意見交換で行き詰ったところで、まわりと意見交換するように戻した。

といったことが続きと出てきます。まさに、「びっくりぽん!」です。私のまわりの先生方も、自分の学校の若手教員でもここまでは気づけないだろうと感心しきりでした。指導教官の玉置先生はさぞ鼻が高くなったことでしょう。
小西先生もアドバイスがしづらかったでしょうが、そこは見事につないでいきます。学生が指摘した場面だけでなく、小西先生がチェックした場面を再生して見せて、そこで何が起こっているかを一緒に検討していきます。「授業アドバイスツール」のよさが伝わる場面ですが、どうにも学生のコメントのインパクトの方が強かったように感じてしまいました。
今回、開発企業がこの授業アドバイスツールを希望者に貸し出すという案内をしたところ、想像以上にたくさんの方に興味を持っていただけました。たとえメモしていたとしても、授業後その授業場面を的確に説明することは難しいものです。その場面を瞬時に呼び出して授業者と共有することができる「授業アドバイスツール」には、やはりそれだけの魅力があったということです。開発にかかわらせていただいた私たちにとってもうれしいことです。

この続きは、「愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午後の部)(その2)」で。
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