愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午前の部)(その4)

愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午前の部)(その3)」の続きです。

第4のテーマは「授業における『真のICT活用』とは」です。国際大学(CLOCOM)の豊福晋平先生が提案者です。
日本における学習者のICT活用は、国際的に見ても低い水準にあります。モデル先進校での1人1台のタブレット環境での活用が報じられても、学校現場では明るいこととしてとらえられていません。「先生方、しんどくありません?」と豊福先生は問いかけられます。いわゆる「授業ICTの不都合な真実」として、次のようなことを挙げられます。

・教師の負荷の大きさ
・指導力を高めないと使えない
・教育効果が上がるのか

その上で、「先生方はやるべきことはやっているのでしょうか?」と迫ります。今行われている学習者が受け身の短時間、単純操作のICT活用では本当に効果があるのか疑問です。一斉指導型のICT活用は非効率ではないでしょうか。
今私たちの日常では、旧来のメディアがデジタルで統合されることで扱うことのできる情報量が格段に増え、情報がデジタル中心になっていくというデジタルシフトが進んでいます。しかし、一斉指導の授業を行なっていても、子どもたちのデジタルシフトは起こりません。次のような活用することで、デジタルシフトを子どもたちの学びに活かすことができるはずです。

・学習者中心
・自己調整と協働
・ピンポイントから学習者の日常へ

子どもたちが授業者の指示に従って教具的に使うのではなく、自分たちの道具として使いたい場面で自由に使うというように、「教具から文具へ」とICTを変える必要があるのです。
さらに、この先、学校が子どもたちの多様な学びの一つとなってもよいのではないかと締めくくられました。

この「教具から文具へ」という話題は、研究会でも何度も議論されていますが、なかなか結論の出ることではありません。
ここからの進め方が、コーディネータの玉置先生らしいところです。登壇者と豊福先生の考えの隔たりを見える化します。豊福先生を舞台の上手に立たせ、考えの隔たり登壇者に立つ位置で表わしてもらいます。舞台の下手には小中学校の先生が固まります。豊福先生のそばには、一般企業に勤める方や大学の先生が集まります。中には、豊福先生のさらに右側に立って、より過激な考えであることを示される方もいます。
先生方は、「いきなりそこに行くことは現実的にできない」と主張します。「1人1台のタブレットやBYOD(Bring Your Own Device)といった環境はまだまだこれからである」「現場は学習指導要領に基づいて授業をする。子どもたちに教えるべきことが決められている中で、豊福先生のおっしゃるような授業を組みこむことは難しい」「たとえ『教具』であっても、子どもたちに学力をつけるのに有効な手段であるならば積極的に活用すべきだ」といった考えです。一方、「子どもたちはすでにICTを自在に使うことができるようになっている。その力を前提にした学び方、問題を解決する力を身につけなければ、これからの時代を生きていくことはできない。学校がその力をつける場であるべきだ」といった意見も出てきます。

どちらの主張も説得力があり正しいように見えるのに、これだけ立ち位置に隔たりがあるのはなぜでしょう。観客の皆さんはどのように感じられたのでしょうか。私は、先生方は豊福先生の考えることを決して否定していないと思います。豊福先生の示すような授業をできればしたいと思っているはずです。しかし、今の時点ではとても難しいのです。橋のない川の向こうからこちら側においでと言われているようなものです。泳いで渡るには流れが急すぎます。向こう側に行くには橋が必要です。しかし、橋を架けろと言われても、先生方にはその技術も時間もありません。泳ぎに自身のある方が力任せに泳いで渡ろうとしても、普通の方はついてはいけません。みんなが渡れるように誰かが橋を架ける必要があるのです。
「教具から文具へ」の移行の道筋が示されていないのが、この隔たりの原因だと思います。目指すべき姿を実現するための環境整備やそのための予算、指導要領の改訂といった行政側の施策も必要になります。教育行政を動かせる立場にない者での議論の限界なのかもしれません。この議論は、「『教具から文具へ』を実現させるためには、行政が何をすべきか」「それを実行させるために私たちはどのような働きかけをすべきか」といったところへ行き着くのかもしれません。この討論会を聞きながらこんなことを考えました。

午前中は4つのテーマをもとに議論する公開討論会でしたが、冒頭に玉置先生が話されたように、モヤモヤしたものが残るもスッキリしないものだったかもしれません。これをきっかけに、そのモヤモヤについて皆さんにも考え続けていただけたらと思います。私も、折に触れこの公開討論会を思い出しては、このモヤモヤと向き合うことになると思います。

午後の部は、「楽しく、手軽に授業改善しよう」というテーマで、2つの模擬授業と「授業アドバイスツール」「授業検討ツール」を活用した検討会です。これについては、「愛される学校づくりフォーラム 2016 in東京(午後の部)(その1)」で。
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