子どもが安心して意見を言えるからこそ、教師の対応が大切

昨日の日記の続きです。

5年生の理科は再結晶の実験でした。
前時までにミョウバン、食塩を水に溶かす実験をしています。物質や温度によって溶け方が違うことを穴埋めで復習しました。ほぼ全員の手が挙がりますが、挙手しない数名の子どもが気になります。今回の授業では教科書やノートは使わないようなので、確認する手段がありません。ほとんどの子どもの手が挙がっているからこそ、手の挙がらない子どもを参加させることを考える必要があります。まわりの子どもとちょっと確認・相談する時間を与えるだけで子どもの動きは違ってくると思います。

前時で使った溶解度曲線のグラフを黒板に映して、ミョウバンは冷すと取り出せるかと問いかけます。「取り出せる」という言葉がいきなり出てくることに違和感を覚えます。なぜ「取り出せる」かどうかが課題となるのかが子どもたちにはよくわかりません。「温めると溶けたけれど冷えたらどうなる?」と素朴に疑問をぶつけるような問いかけもあります。

ワークシートを配り、ミョウバンと食塩について「取り出せる」「取り出せない」を考えさせます。ここで問題になるのは、前提を明確にしていないことです。飽和水溶液(または、冷したら過飽和になるもの)を使わなければ、再結晶はしません。どのくらい溶かしたものかを伝えずに考えさせているのです。これで授業を進めると子どもたちは、温度で溶解度が大きく変わるものは無条件に冷やすと再結晶すると覚えてしまう可能性があります。小学校では特に定性面を重視するので、その危険性が高まります。ミョウバンが溶け残っている水溶液を温めて完全に溶かすのを見せてから、問いかけると言ったことが必要です。また、このことを逆手に取る方法もあります。ミョウバンの濃度が異なるものを用意してグループによって実験結果が異なるようにし、「どういうこと?」と考えさせるのです。

授業者はよい姿勢の子どもをほめたりして、子どものよい行動を増やす形で授業規律をつくっています。グループで意見を聞き合うように指示をすると、素早く動くことができます。
「疑問があれば質問する」「同じ考えには下線を引く」「いいなと思ったらメモをする」といったルールが明確になっています。意見を聞く視点が意識できるのでよいと思います。しかし、子どもたちが自分のワークシートに書いたことを読んでいるのが気になります。聞いている子どもたちの顔も上がりません。「ワークシートを見ずに話す」「話し手の顔を見て聞く」「聞き終ってから質問をする」「最後にメモを取る」といった流れを指示してもよいかもしれません。また、班長がいることもちょっと気になります。少人数のグループなので、自然にかかわり合いながら進めることができるのではないかと思います。

全体で考えを聞きます。ここは、グループで相談して意見が変わった子どもの考えを聞いてみたいところですが、授業者は特にそういった条件なしに指名します。子どもたちの考えは思った以上に分かれます。
「溶けてもなくなっていないから取り出せる」という意見が出ます。また、「塩は海水に溶けていて、取り出せる」と海水から食塩がつくられているという知識から答を出している子どももいます。こういった意見が出てくる背景には、ワークシートが「取り出せる」かどうかだけを答える形になっていることが挙げられます。前提となる「冷して」がきちんと押さえられていないので、「なくなっていないのだから取り出せるはずだ」という考えにつながったのです。「なくなっていないから、取り出せそうだね。冷せば取り出せそう?」と「冷やす」を強調して、再度考える時間を取ってもよかったかもしれません。「逆のことをすると取り出せる」という言葉も出てきます。可逆性を考えるとてもよい発言ですが、授業者はその言葉を取り上げることはしませんでした。「それってどういうこと?」「逆のことってどういうこと?」と聞き返すとよかったと思います。
「食塩は水に溶けやすいから」といった言葉も出てきます。溶解度曲線のグラフの高温のところを指さして「ミョウバンはもっと溶けやすいよ」と揺さぶるといったことをすると、子どもから言葉が足されるでしょう。

グラフを使って説明する子どもがいました。飽和水溶液という前提がはっきりしない中、グラフの溶解度の差で説明します。溶解度は溶ける量の最大ですが、このことが押さえられないまま説明が進みます。これでは中学校で再度溶解度について学習する時に混乱する恐れがあります。授業者はこの子どもの説明だけは、時間をかけて全員に理解させようとしています。この説明が正解だと暗に教えることになっていました。
理科は、どんな説得力のある説明でも実験結果がそれを裏付けなければ意味がありません。子どもたちの考えを一通り聞いてから、「いろいろな意見や説明があったね。実験するとどうなるかな?」とまず実験を行い、その結果を元にもう一度理由を検討した方がよかったと思います。

いよいよ実験ですが、実験の方法を授業者は言葉で説明します。理解できずに間違えてしまった子どもが何人かいました。実験方法は具体的に見せることも大切です。
子どもたちの実験に対する意欲はあまり高くはありませんでした。先ほどの説明で結果が想像ついたからでしょうか。驚きや感嘆の声が上がりませんでした。時間がないため、結果の考察は次時に持ち越されました。

子どもたちからは、多様な意見が発表されました。これは、どんな意見でもバカにされない安心な学級づくりができている証拠です。だからこそ、その意見をどうつなぎ、深めていくのかが問われますが、子どもたちの意見のうち都合のよいものを取り上げて、最終的には授業者が説明してしまいました。一人ひとりの考えの共通点や相違点を明確にして焦点化し、相違点を意識して実験に取り組ませることが大切です。その結果を受けて子どもたち自身で納得するような授業であってほしいと思います。
理科の授業では、「根拠をきちんと説明し全体で共有すること」「その考え(モデル)が正しいかどうかはどのような実験をすればいいのかを考えること」「その考え(モデル)を使って他の事象を説明したり、別の実験の結果を予想したりすること」が大切です。こういった授業の構造をきちんと意識できていなかったことも残念でした。また、「この課題を通じて理科としてどのような力をつけたいのか」、そして「それをより一般的な力にどうつなげていくのか」、このことを事前にしっかりと考えておくことも必要です。このことが子どもの考えを評価・価値付けすることにつながっていきます。
これらのことは一朝一夕でできることではありません。焦らずに、こういったことを意識することを少しずつ心がけていただきたいと思います。

この続きは明日の日記で。
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