多様な意見を活かす難しさを感じた授業

2学期末に小学校を訪問しました。市内の全小中学校での授業アドバイスの一環です。この日は少経験者を中心に4人の授業アドバイスを行いました。

初任から2年目の2年生の担任の授業は算数の九九の授業でした。
子どもたちと授業者の関係は良好です。子どもたちはよく集中して参加していました。この日の授業は九九の表からきまりを見つけることが課題です。九九の表にはかける数、かけられる数とかかれています。授業者は表を見せて、かける数、かけられる数の確認をします。ここで、指名した子どもが間違えてしまいました。授業者は否定せずに、上手に受け止めます。授業者は本人に修正させようとしますが、なかなかうまくいきません。これは知識ですので考えて修正できるものではありません。「2に3をかけると2×3」と説明し、「だから、かけているのは?」と日本語で考えさせるという方法もあります。また、九九の表の意味の確認を兼ねて、表の段と数字を指さして「にさんがろく」と読ませるといった活動を事前にすることで整理させておくという方法もあります。いずれにしても、ここは子どもが混乱しないように知識としてきちんと押さえることが必要です。

この日の課題は「2つの表から九九のひみつを見つけよう」というものです。
九九の表と式表示の表が書かれた2枚のワークシートを子どもたちに配ってから、活動について指示をします。この時子どもたちはどうしても手元のワークシートを見てしまいますので、配る前に指示をすることを心がけてほしいと思います。気になるのが、「ひみつ」という言葉です。ワークシートには「きまり」という言葉もタイトルに使われています。「ひみつ」という言葉は意欲的にさせる言葉ではあるのですが、何を答えたらいいのかわからなくなることもあります。授業者は「何でもいいからね」と言いますが、これではよくわかりません。こういった時には、過去の経験を思い出させて視点を与えたり、全体で一つ「ひみつ」を見つけて、どんなものを見つければいいのかを具体化したりするとよいと思います。
個人でひみつを見つける活動に取り組みますが、手が止まっている子どもが目立ちます。ここは、予定した時間にとらわれずに早目に作業を止めて、他の子どもとかかわらせたり、全体でいくつか発表させたりするとよいでしょう。

授業者は活動を止めてペア活動に移る指示を出します。子どもたちに指示内容を復唱させて確認をするといったこともできます。しかし、指示が「もっとないかペアで相談しましょう」と言った後に、「自分の考えを互いに言いましょう」と順番が逆になってしまいました。授業者はすぐに気づいて修正しましたが、子どもたちは混乱してしいるようです。また、ワークシートには「友だちが見つけたひみつ」を書く欄があるのですが、このことについても指示がありませんでした。ワークシートの作業についてもよくわかっていないようでした。ちょっとしたことですが、指示の順番や確認はとても大切なことがよくわかります。
子どもたちはこういった相談に慣れているようで、よくかかわれていました。「ほんとだ」と言った声が聞こえてきます。個人作業と違って、子どもたちの手がよく動いています。
授業者は「表を指さして説明している子、わかりやすいね」とよい行動を広げようとしています。こういった評価はとても大切です。この活動では、表のどこを見たのかを明確にすることを指示しておくとよかったでしょう。表を指さすことを含めて、根拠となるものを意識させることで説明の力がつきます。
互いにかかわり合うことで、子どもたちの気づきは想像以上に多様なものになっています。とてもよいことなのですが、全体での発表ではどう整理して、焦点化し、価値付けしていくのか授業者の力が問われます。

全体追求の場面は、子どもたち全員が鉛筆を置くのをきちんと確認してから始まりました。こういった授業規律もしっかりとできていました。
子どもたちから出てくる意見は、授業者の想像を少し超えていたようです。「全部2個ずつあった」という発言がありあます。これは交換法則につながる発言です。しかし、授業者は2個ずつあるということを確認して次にいってしまいます。とっさにどう対応すればいいのかわからなかったようです。「全部?」「必ず?」「じゃあ、これと同じのは?」と表を指して問いかけていくことで、交換法則に気づくことができます。
表の右上と左下に同じ9があるのに、左上と右下は1と81で違うことをいう子どもがいます。面白い気づきです。しかし、授業者はその事実を確認して次の子どもを指名します。つないだり、深めたりすることができません。「本当だね。同じようなことに気づいた人はいない?」とつないだり、「左下の9の式は?右上は?」と返したりすると、交換法則や表の対称性につなげていくことができたはずです。
「1×1、2×2は答が一つ」という意見を発表する子どもがいますが、どういうことか上手く説明できません。子どもからは「ああー」という声も出てきますが、授業者が自分の言葉で説明してしまいました。本人はその説明に今一つ納得できていないようです。ここは、「ああー」と言った子どもに説明させて、本人に確認させていきたいところでした。この「答が一つ」というのは交換法則で同じ答のものがあるが、2乗しているものは同じだからないということを言っています。左上から右下を結ぶ線に対して九九の表は対称になっていることにつなげることもできます。
「かける数とかけられる数を反対にしてもいっしょ」ということが出てきます。「ああ、なるほど」と受けて、このことを子どもたちに確認します。こういった予定している発言に対しては、子どもたちに返すといったことができていますが、多くの子どもの発言が点のままでつながっていないのが残念です。
表のかける数のところを見て、「1つずつとばすと2の段ができる」という意見もでてきます。子どもたちの発想は実に豊かで面白いものです。「2つとばしだと?」と聞いても面白いですし、「1つとばすといくつ増える?」と聞き返してもいいでしょう。かけ算と足し算の関係に気づくことができます。これを受容だけで終わらしたのはもったいないと思いました。
最後に出てきた発見がとても面白いものでした。「9の段を縦に見ると18を反対にした81があって、27を反対にした72があって、……」というのです。その説明を聞いて子どもたちから「おー」「すげー」という声が上がります。授業はすごいということで終わったのですが、せめて「他の段でも成り立ちそう?」と返して、「9の段だけだね。9の段にはすごいひみつがあったね」と9の段に固有の性質であることを押さえておくと、学年が進んで9の倍数の性質についての問題を考える時に役立つかもしれません。また、「9の反対はないの?」と返して81の次は「90」になることに気づかせても面白かったかもしれません。

最後に「わかったこと」を書かせて終わりましたが、この授業では「こうやって表を見たんだ?」「こういうことを調べたんだ?」と視点や考えの過程を評価したり価値付けしたりする場面がありませんでした。確かに子どもたちは色々なことに気づきましたが、意見を発表し聞き合うことでもう一つ上のものに昇華することができませんでした。
子どもたちはよく育っていて、互いにかかわり合い多様な意見が出てきます。そこで終わらずに、それを価値付けして再現性のある力に変えていくことが大切です。その日の課題を通じてどのような力をつけたいのかを意識し、子どもたちの発言に対してその場で対応することが必要です。事前に子どもたちの発言を予想していても、思わぬものも出てきます。それに対応することは、ベテランでもそう簡単なことではありません。毎回の授業で、子どもたちの発言にたいしてどう対応すればよかったのかを振り返りながら経験を積むことが必要です。まだ2年目の授業者にそれを求めるのは酷ですが、逆に言えばこのことを意識しなければいけないレベルに力をつけてきているということです。これは素晴らしいと思います。これからどのように成長していくのかとても楽しみです。

この続きは、明日の日記で。
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