個別最適化学習について考える

個別最適化学習という言葉が一人一台のPC環境整備の議論と共に語られることが増えています。多くの方は個別最適化学習という言葉に対してドリル型のソフトの活用を思い浮かべているのではないでしょうか。AIやビッグテータを活用してきめの細かい、精度の高いものになったとはいえ、発想は40年以上前のCAIと大きくは変わっていないように思います。個別の習熟度に応じたドリル学習=個別最適化学習と考えることに違和感があります。

ドリル型ソフトを否定するわけではありませんが、子どもたちにつけるべき力のゴールはその先にはありません。個別指導の学習塾が人気だそうですが、それと似たものをドリル型ソフトに感じます。個別指導塾ではわからないことをすぐ聞け、その場ですぐに教えてもらえ、ストレスなく効率的に試験対策ができることが魅力だそうですが、そこには誰かに答や解き方を教えてもらう受け身な子どもの姿が透けて見えます。ドリル型ソフトはその個別指導の教師がAIに置き換わっただけのように感じます。
教師時代先輩から、「個別にていねいに教えることが最善ではない。あなたが一生その子どもたちの面倒を見られるわけではない。あなたがいなくても学び続け、自分で問題解決ができる力をつけることがあなたの仕事です」と厳しく言われたことを思い出します。
どのように学ぶかも含めて自己決定する力をつけることが大切だと思います。教師やAIの指示に従うのではなく、例え指示にしたことをやるにせよ、自分でそれを積極的に選ぶという判断をしたかどうかが問われます。

個別最適化学習は、一人ひとりが自分に応じた学びを続けることをゴールにするべきだと思います。ハンディキャップを持った子どもたちや何らかの理由で登校できない子どもたち、そんな子どもたちを含めすべての子どもたちが、学校だけでなく、家庭や地域も含め自分に適した学びのありようを見つけて学び続ける、そこを目指すべきなのです。そのために有効な基盤となるのが一人一台のPC環境だと思います。
個別最適化学習についてどのようなドリルソフトを導入するかではなく、どのような学びの選択肢を用意すればよいのかをまず考えてから、一人一台のPC環境整備に取り組んでほしいと思います。

オンラインでの授業研修

私立の中学校高等学校で、事前に送っていただいた授業ビデオをもとに、オンラインの授業研修を行いました。
オンラインでの講演ではスライドを共有すると相手の顔が見づらくなるので、モニター用にもう一台端末を準備しました。しかし、今回は会議室に先生方が集まって1対1でテレビ会議システムをつなぐ形だったので、残念ながら先生方の個々の反応を見ることができませんでした。

本年度から本格的にICTの導入が始まる学校なので、これまであまりICTを活用して来なかった先生を意識した授業研修を目指しました。そこで、ICTに堪能な先生ではなく、最近使い始めた先生に授業をお願いすることになりました。授業の一場面を切り出した動画で見ていただき、ICTの活用をメインにその場面のポイントとねらいどころを解説するという形で進めました。切り出したのは、「大きく映す」「スクリーンに書き込む」「板書とスライドのすみ分け」「活動を前にポイントを確認」「個別に机間指導」「ていねいな説明」「生徒に考える時間を与える」といった場面です。

「大きく映す」
スクリーンに映すことで板書する時間を節約できますし、子どもたちの顔を上げて教師の話に集中させることができます。子どもの反応を見やすくなるので、それをどう活かすがポイントになります。

「スクリーンに書き込む」
スクリーンに映したものに書き込むことで、タイミングよく必要な情報を付加することができます。ただ、子どもたちは書き込まれたものを写そうとするので、話を聞かせるのか写させるのかを意識して進める必要があります。子どもたちが後から書かれたものを見て思考の過程を振り返れるような書き込みを意識することが大切です。

「板書とスライドのすみ分け」
子どもとの対話でアクティブに変化するものは板書が有効になります。一方、予め決まっている流れに沿って示すのであれば、スライドにして順番に映すことで十分です。子どもたちは板書されたものは写そうとしますが、これから一人一台のPCの時代になれば、スライドや板書は配信か写真に撮るのが主流になります。手を使って写す意味のある板書かどうかを意識することが大切です。

「活動を前にポイントを確認」
活動前に子どもにポイントを確認し発言を求めることで参加意識が高まり、見通しが持てます。しかし、発言したり反応したりしなかった子どもはポイントを理解できているかどうかわかりません。全員に確認することを意識することが大切です。何度確認するポイントはスライドにしておいて、「いつもの」と映し出してすぐに思い出させるようにしておくとよいでしょう。作業中にずっと映しておいて、いつでも確認できるようにすることも一つの方法です。

「個別に机間指導」
子どもをほめる言葉かけは重要ですが、できたことをだけをほめるのではなく途中までできていれば部分肯定する姿勢が必要です。また、「正解です」とノートを見て先生が正誤を判断すると子どもたちは先生に判断を委ねてしまうようになってしまいます。正解かどうかを自分たちで判断する力を育てることが重要です。机間指導しながら子どもたちの困り感をすくい上げ、学級全体で共有しながら自分たちで解決していくことを意識することが大切です。一人一台のPC環境になれば、オンラインで困り感を共有することも可能になります。今後、何を共有するのかが授業のポイントになっていきます。

「ていねいな説明」
作業の手をきちんと止めさせて、話を聞く姿勢をつくることが大切です。子どもたちの取り組みで、上手くいかなかったものを取り上げることで、困っていた子どもの参加意識を高めることができます。ただ、すぐに上手くいく方法を説明するのではなく、「どこで行き詰った」「その後どうした」と試行錯誤の過程を全体で共有する時間をとることが必要です。間違いを修正する経験を積むことが、問題解決能力を身につけることにつながっていきます。先生が無駄のない正しい道筋を与えると、子どもたちは自分で考えることをすぐに諦めて教えてもらうのを待つようになってしまいます。教えてもらうのではなく、自分たちで解決することを学習の基本にする必要があります。

「生徒に考える時間を与える」
例をもとに類推させるといった時間をとることは思考力をつけるのに有効です。その活動をもとに、考えたことを抽象化・一般化して整理することがより思考力を育てることにつながります。まとめは先生ではなく子どもたちにさせて、全体で共有する時間をとることが大切です。

授業をもとにこのようなことをお話しし、最後に一人一台のPC環境のもとでの授業の方向性について説明しました。
これからは「対話」を伴わない説明や解説は動画に置き換わっていくでしょう。子どもたちは自分のペースで納得いくまで見ることができるようになります。教室は子どもたちの疑問や困ったことから出発し、仲間とかかわりながら自分たちで解決する場となることが求められます。授業観が変わるとともに先生方に求められる能力も変わっていくのです。

会場からは、「子どもたちの考えをつないだり、焦点化したりといった力がこれからの教師には必要になるのですか?」との声が上がりました。その通りだと思います。ただ、それだけではなく、どんな課題や環境を与えれば子どもたちが主体的に活動し、考えを深めていくのかといった、学びの場をプロデュースする力(教材研究の力)も必要になります。このことをお伝えしました。

オンライン研修のノウハウが、まだまだ私に不足していると感じた1時間でした。こういった機会を活かし、今後研修をより一層効果的に進められるよう精進したいと思います。
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