道徳の研修で学び合う

夏休みの市の研修で、講師を務めました。2、3年目の先生が対象の道徳の研修です。小中学校それぞれ2グループずつで指導案の検討を行い、全体で模擬授業をするというものです。授業者は、昨年度2年目で研修を受けた先生の中から事前に指名された4人です。教材を選び、指導案を準備して研修に臨んでくれました。

授業者が選んだ教材は、どれも授業をつくるのが難しいなと思うものばかりです。聞いてみると、「自分がやってみて上手くいかなかったのでリベンジしたい」「2学期に扱おうと思っているがどう展開しようか迷っている」ということでした。みんなの前で授業するのですから、無難な教材にしようとするのが普通だと思います。チャレンジ精神に感心しました。

グループで指導案をもとに検討をしますが、どのグループも難航しています。なかなかすんなりと授業の展開が決まりません。道徳は多様なアプローチが考えられますので、どうしてもアイデアが拡散して、これといった決定打が出てこないようです。また、目の前にしている子どもの状況によって、最適と思われる進め方は異なります。どのような子どもたちを想定するかでも意見が分かれます。道徳の難しさを感じたようです。こういったことに気づけて、道徳の指導案を複数で検討することのよさを感じた方も多かったようです。最終的には授業者が納得した意見を取り入れて模擬授業に臨んでくれたようですが、それだけに思いの強い授業ばかりだったように思います。

「子どもたちにこうなってほしい」「こういうことに気づいてほしい、考えてほしい」という思いがどの授業からも感じられました。逆に思いが強いために、なかなか思うように進まないことに苦しんでいました。先生方は子どもの発言を活かそうとするのですが、どうしても考えが広がるばかりで焦点化できません。気づかせたい、考えさせたいというのはわかりますが、そこに焦点化していくためには、他の子どもとつないで行くことが必要です。似た考えの子どもをつなぐことも大切ですし、そうでない考えの子どもにつなぐことも大切です。友だちの考えに「なるほど」と思っても、「でも、・・・」と考える子どもがいます。そういう子どもにつなぐことで、考えるべきことが焦点化され深まっていきます。子どもたちのどの発言を元に焦点化していくかを判断するためには、具体的な授業のゴールが明確になっていることが必要です。「振り返りでこういう言葉が出てほしい」「これからはこうしようと思ってほしい」など、具体的になっていると、どの発言を取り上げてつなげていくか、どう返すかといったことも判断しやすくなります。
模擬授業のレベルが高かったので、授業検討も非常に高いレベルになったと思います。具体的な場面にそって、実際につなぎ方や子どもの発言の受け方、切り返し方の例を見せながら一緒に考えることができました。子ども役の発言を上手く引き出せていたからこそ、その次のステップの話をすることができました。

何年も続けている研修ですが、ここ数年参加者のレベルが上がってきていると思います。子どもの言葉を聞こう、受け止めようという姿勢がどの先生にも見られます。この市が学び合いを重視した取り組みをしている成果が若い先生に現れているようです。
参加者の感想を送っていただきました。「仲間で教材研究するよさを感じた」「模擬授業をもとに具体的に授業の進め方を考えたことで自分の引出しを増やせた」「2学期からの授業が楽しみだ」といった前向きな言葉がたくさん並んでいました。先生方が研修に手ごたえを感じてくれたことがとてもうれしいです。

全員参加を目指してほしい

先日、市の初任者対象の研修を行ってきました。ここ何年かは初任者に模擬授業を行ってもらい、それを元に私が解説をする形式で行っています。今年は小学校5年生の算数の授業をグループで教材研究してもらい、その中から2チムーの代表に模擬授業をしてもらいました。

共通して感じたのは、どの先生も子どもの発言を大事にしようとしていることです。ペアやグループで相談する場面も作ろうとしています。子どもたちの活動場面をきちんと授業の中に組み込もうとしていました。模擬授業からも、日ごろからよい表情で子どもたちとのコミュニケーションを取れる先生方だと感じました。
しかし、一人に発言させるとすぐに自分で説明をするか、逆に次々答えさせるだけになっています。子ども同士をつなぐことができません。「同じ考えの人?」とは聞きますが、挙手をさせるだけで発表はさせないのです。同じ考えといっても、説明させれば何か足されていくかもしれません。また、挙手しなかった子どもに「じゃあ、あなたの考えを聞かせて?」と問いかけるといったことも必要です。結局、一部の子どもの発言だけを受けて、肝心なところは自分で説明してしまうのです。挙手をしない子どもは、友だちの意見を聞かなくても先生の説明を聞いていれば困りません。授業者は全員参加を願っていますが、結果的には参加する必要のない授業になっていました。
ペアやグループで相談させた後、挙手で結論を発表させようとしますが、先生が子ども役でもすぐに手は挙がりません。「答は?」と聞けば、自信がなければ挙手できません。「どんなことを話したか」と過程を大切にして聞く必要があります。

授業のねらいも気になりました。1000円より高いものと安いものを合わせて2000円で買えるかというのが課題です。実際に計算させてから、別の方法を見せてその考え方を説明させ、そのよさに気づかせようとしています。しかし、子どもたちが筆算で計算して答がわかれば、特に見積もる必要はありません。子どもたちは先生が説明しろというので考えますが、自分で説明したいとは思いません。やり方も示されているので、基準との差を差し引いて見積もるという方法を知ることがねらいとなっています。そうではなく、その考え方を子どもたちに自身で気づかせ、説明できることをねらってほしいと思います。
例えば、1000より高いものを2つ提示して、「2000円で買える?」とテンポよく聞き、「買えない」と何人にも言わせ「理由は?」「説明して?」と問いかけます。続いて今度は1000円より安いものを2つ提示して同様に問いかけます。ここで、本時の課題の数値で、「2000円で買える?」と問いかけるのです。子どもたちに即答を求めて次々指名します。中には計算を始める子どももいるでしょう。そういう子どもがいれば「計算しているね、どういうこと?」と問いかけます。子どもから、「1000円より高いのと安いのだからできない」という言葉を出させてから、「本当?できない?」と返して、そこからスタートします。こうすることで、子どもたちが自分で考え、説明しようとしてくれると思います。子どもたちに疑問や課題意識を持たせることが主体性につながるのです。

授業技術のヒントになるように、できるだけ先生方に問いかけ、つなぎながら解説を進めました。アンケートでは、「一問三答やこどもの話を聞くときの目線や場の雰囲気のつくり方など、早く実践したてみたい」、「2学期が始まるのがとても楽しみです」といった感想をいただけました。先生方のエネルギーに少しでもなったのならとてもうれしいことです。私も参加者から多くのエネルギーをいただきました。
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