機器の説明会で外部をどう活かすか考える

昨日、私立の中高等学校の個人端末の説明会に参加しました。

この学校では生徒全員に授業や家庭での学習に使うiPadを貸与することになり、3学級を1単位として2日間かけて在校生に配布し、基本的な事項の説明を行いました。
概要説明は先生が行いますが、機器の確認や操作については納入業者やソフトの開発会社の担当者が行いました。
今回の先生の説明で気になったのは、禁止事項ばかりが強調されたことです。ルールを伝えることは大切なのですが、あれもダメ、これもダメと言われると気持ちが萎えてしまいます。こういった説明会では子どもたちにどういう気持ちになってほしいのかを考える必要があります。今回は、説明終了後、「さあこれからiPadを使って積極的に学習するぞ」と前向きになってもらうことを意識してほしいところでした。入室時には子どもたちから期待を感じたのですが、退出時には興味を失くしているように感じました。「○○してはダメ」という言い方よりも「△△するために、○○しないようにしましょう」といった方が前向きな気持ちになります。こういった表現も選択肢に入れることで伝え方の幅が広がると思います。

外部の方による説明は、残念ながらこれでは上手く伝わらないだろうというものでした。子どもたちはiPadなどの操作はできるという前提で、「○○をフリックして」「次に右にスワイプして」と言葉だけで伝えようとします。確かに「フリック」「スワイプ」といった言葉は、今の子どもたちには通じやすい言葉かもしれませんが、中にはこういった言葉はよくわからない子どももいるかもしれません。せっかくプロジェクターとスクリーンが用意してあるのですから、こういったものを活用して操作の様子を見せて、視覚に訴えて伝える工夫も必要です。
また、全体を構造化して説明することも大切です。機器の確認であれば、最初にこれから何をするのか、スライドで先に示すとわかりやすくなります。「本体の確認」「附属物の確認」「書類の確認」「ソフトの確認」といった流れを示してから個々について指示するだけでもずいぶん見通しが違います。
ソフトについても、一つひとつの指示をしながら操作させ、その合間に何の操作かを説明するので、自分たちが何をしているのかよくわかりません。「ソフトの全体像」「主な機能」「基本的な操作方法」「各機能の説明」「機能毎の操作例」というように構造化して説明をし、それから実際に操作を体験させるとよくわかると思います。全体像が見えているので、こまかい操作は類推してできるようになるはずです。たとえ教えることは素人でも、これらのことは一般的なプレゼンテーションにも共通することです。こういった場に立つのであればもう少し勉強しておいてほしいと思いました。

外部の方に子どもたちの前でお話ししていただく機会は意外と多いと思います。先生方はあれこれ注文を付けるのは失礼だと思って、おまかせということが多いようですが、そうではなく、内容や進め方について事前にしっかりと打ち合わせをしてほしいと思います。主導権を先生が握って、外部の方と対話的に進めたり、子どもたちと問答をしたり、時には先生が「よくわからないのですが」と質問したりすることで、より伝わることもあると思います。単に司会進行だけでなく細かい内容も含め、全体を先生がコントロールすることを心がけてほしいと思います。

今回最後の学級では、ネットワークのトラブルでソフトを操作できない端末が多数出てきました。そこで、急遽パスワードの設定などのオフラインでできる設定作業に内容を変更しました。対応された先生は、急なことにもかかわらず的確に指示をして滞りなく進められました。授業力のある先生にとっては、こういう事態も授業と同じように対応できることをあらためて感じました。

説明会を通じて感じたのは子どもたちの態度のよさでした。あまり上手ではない外部の方の説明もしっかりと聞こうとしていましたし、ネットワークのトラブルにも不満をあらわにせず、落ち着いて待つことができていました。子どもたちのこの姿を大いにほめてあげたいと思いました。

1人1台の端末を持たせる場合、校内のネットワークの構築と外部との接続について技術的に難しい問題がたくさんあります。この学校ではこういったインフラに課題がかなりあることがわかっています。当面厳しい状況の中での運用ですが、できるだけスムーズに進めるようにお手伝いさせていただくつもりです。

子どもたちに教科でつける力を考える

前回の日記の続きです。

高校1年生の数学は統計の代表値の学習でした。
復習として三角比の小テストを行っています。0°≦x≦180°の三角比の値を埋めるのが問題です。驚いたのは、だれも単位円を使って値を求めようとしていないことでした。三角比の値は覚えるような物ではありません。定義がわかっていればその場で確認すれば済むものです。それを小テストとして何度もやっているようですが、0°の時は、30°の時はと覚えている子どもがほとんどなのです。問題を解くのに覚えていれば少しは早くできるかもしれませんが、数学的には意味のあることではありません。授業者が数学とはどのようなものと考えているのか、疑問を感じずにはいられませんでした。
小テストの後、代表値の学習に入ります。中学校でも平均などの代表値は学習しているので、教科書を見て自分たちで問題を解かせました。子どもたちはやることが明確なので、積極的に取り組みます。しかし、ただ与えられたデータをもとに計算をするだけ、新しい気づきや考えることはありません。答が出れば互いに笑顔で確認をする場面も見られ、よい雰囲気の学級でしたが、子どもたちは問題の答を出すことが数学の学習だと思っているようでした。解けてしまった子どもはすることが無くて手持ちぶさたです。単なる作業の連続で数学の学習にはなっていません。
標本数が偶数の資料の中央値の問いは、「教科書の何行目を読むと……」と説明します。天下りでこうだと教えるのではなく、どうするとよいだろうと合理的に考えさせることが数学的な見方・考え方につながります。この考えを発展させれば連続的に分布する場合の中央値も自分たちで定義できます。社会に出れば定義を考える場面はたくさんあります。そういった時に数学の学習がとても役に立つはずです。現実の世界と数学の世界を自由に行き来できる子どもを育ててほしいと思います。
代表値の学習では、「平均値」「中央値」「最頻値」と代表値は何種類もあるけれどどうしてなのか。ある事象を考える時に有用なのはどの代表値だろうといったことを考えることが大切です。こういったことを考えずにこの値を求めなさいと言われても、表計算ソフトなどがこれだけ普及した現在、子どもたちにその必然性はありません。計算できることよりもその意味がわかることの方がより重要です。
授業者が、まず教材の意味を理解していなければ子どもたちがそのことに気づくことは困難です。数学とは子どもたちどんな力をつける教科なのかをしっかりと考えてほしいと思います。

来年度から言語技術の学習を取り入れようと動き始めています。このことについて相談を受けました。こういった新しい試みに関する相談が増えています。担当者はどのように進めてよいか不安で、どうしようかと悩む日々だと思います。学校全体でコンセンサスを取ることもなかなか容易ではありません。ご苦労のほどがうかがえます。しかし、この経験が教師としての力を伸ばすことにつながります。校長や私のような者がこうしなさいと指示することは簡単です。そうではなく、自分で考え悩み、時には失敗もし、そこから学ぶことで、足が地についた実践となっていきます。こうした先生方の努力が学校全体の力となっていきます。側面からですが、私もできるだけの支援をさせていただきます。皆さんの成長を楽しみにしています。

先日行われた、来年度の中学校入試の適性検査の問題の報告を受けました。どのような子どもに育てたいか、学校の目指すものが伝わるような問題でした。「資料を見る力やそこから疑問を見つける力」「教科を横断して考える力」「プログラムのようなアルゴリズムや問題解決の視点を見つける力」などを見る問題でした。もちろん、まだまだ改善点もあると思いますが、先生方の思いがしっかりと観て取れました。抽象的な理念も大切ですが具体的な例を挙げることで、学校の目指すものがより多くの方に伝わると思います。問題をホームページで公表するとともに、その意図を説明するようにアドバイスしました。学校がよい方向に変わっていくエネルギーを感じました。
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