若手からもベテランからも刺激を受けた1日(長文)

昨日は終日授業参観の後、ミニ講演をおこなってきました。これまでの2回の訪問は若手中心でしたが、今回はほぼ全員の先生の授業を見せていただきました。

全体的に子どもは落ち着いていましたが、子どもの集中力が持続しない学級が多いように感じました。当然のことですが、教師が話している時間が長くなるほど集中力が下がる傾向にあります。また1問1答形式の展開も多く目にしました。他の子どもの発言を聞く必然性がないので、聞くことができていない子どもが目立ちます。一方、個々にはとてもよい場面や興味深い場面がいくつもありました。

5年生の社会科で、子どもたちが商店街をつくるという課題に取り組んでいました。班ごとに「老人を大切にする」「エコな商店街」といったテーマを掲げ、模型を作っていました。この時間は子どもたちが互いに他の班の作品を見て気づいたことをメモして発表する場面でした。テーマを元に考えさせることに授業者がこだわって授業を進めたことがよくわかります。作品を見あう場面の指示でも、「テーマ」にそって工夫をしたことで気づいたことを書くように何度も強調します。
残念なことは授業者の思いが強いためか、多くの指示と注意点、ポイントが整理されないままに何度も繰り返されたことです。子どもたちは早く見に行きたいのですが、なかなか話が終わらないので集中力を失くしていきます。最後に今から始めるけど大丈夫かと確認します。質問はとたずねると、1人の子どもが手を挙げました。全体で取り上げる必要のないものだったようなので、授業者はその子どもに対して説明をします。全体の場で話をするのなら、まず全員に質問の内容を共有させてから、全体で説明するなり解決する必要があります。そうでなければ、後で個人的に説明すればいいことです。せっかくやる気を出していたのに、出鼻をくじかれました。そのあとすぐ始めるかと思ったのですが、もう一度いくつか確認をしました。不安であれば、説明した後に板書しておくといった工夫をして、話す量を減らせばよかったと思います。
子どもたちは模型作りに意欲的に取り組んだのでしょう、他の班の作品をだれもが真剣に見ています。テーマにこだわらせたことがよい方向に作用していると感じました。ただ、気づいたことを後で発表させることは伝えられていましたが、その発表の目的がはっきりしません。発表の前に示されるのかもしれませんが、子どもたちはこの時点では意識しないまま他の班の作品を見ています。発表の仕方も含めて明確にしておくべきでしょう。自分たちの発表が他者によい影響を与えるような目的・目標を設定することが大切です。このことを意識して活動を組み立てると素晴らしい取り組みになると思います。

6年生の2学級は算数の比の場面でした。たまたま同じ課題に取り組む場面だったので、その違いをとても興味深く見ることができました。
1つの学級は教科書にあるつばささん、みらいさんの2つの考え方の意味を友だちと協力して読み解くという課題でした。教師ができるだけ説明せずに、子どもたちの説明で進めようという試みです。子どもたちは友だちの説明を一所懸命聞いています。とても集中していました。教師も余計な説明は加えません。協力してということで、何人にも説明させます。ただ気になるのは、発言が必ずしも前の子どもの説明とつながっていないことです。教科書の解き方を理解することと友だちの説明を理解することは必ずしもイコールではありません。わからない子どもは、友だちの説明を理解しようとしているうちに、異なった説明に出会うのでかえって混乱する可能性があります。「○○さんの説明」を補足するのか、「異なった説明」なのか、明確にして指名する必要があります。1人の説明をできるだけ多くの子どもが理解することを目指し、確認をしたうえで、「じゃあ、他の説明できる人」と問い直す必要があると思います。
授業者は、子どもの説明に対してできるだけ介入しないようにしていました。とてもよい姿勢です。しかし、時には「ちょっと待ってね」と途中で止めて「ここまで納得できた」と確認したり、「この数は図のどこにあるの」と問いかけたりして子どもの考えを整理することも必要になります。ポイントはどこかを明確にし、そこを子どもたちの説明で理解させるためのかかわり方にどのようなものがあるかを考えておくことが求められます。これも大切な教材研究です。もちろんかかわる必要がなければそのまま子どもに任せておけばよいのです。
また、授業者は、友だちの説明に対してうなずいたり、首をかしげたりして反応するようにうながしています。子どもに外化をうながし、聞く姿勢を育てることはとても重要なことです。まだまだ子どもたちの反応は少ないのですが、だからこそ、反応した子どもを見つけて「今、うなずいてくれたね。ありがとう」とほめたり、「それって、どういうことか聞かせて」と活躍させたりする場面をつくって評価し、よい態度を強化することが必要です。
何人目かの説明で多くの子どもは納得したようです。自然に拍手が上がりました。とてもよい場面です。だからこそ、ここですぐに次に進むのではなく、「どこがよかった」「どこでわかった」と何人かの子どもに聞く必要があります。拍手という評価をより具体的な評価に置き換え、価値づけをすることが大切です。また、中にはまだわからなかった子どももいるかもしれません。理解できたかどうかを確認した上で、彼らがわかるための活動が必要なのです。授業者は、拍手のあと自分でまとめました。できれば子どもの説明だけで納得させて終わりたいものです。もし、まとめるのであれば、できるだけ、「○○さんが言ってくれた・・・」と子どもの言葉をそのまま使うことを意識してほしいと思いました。
今回は、教科書の子どもの考えを理解するという課題だったので、子どもたちの説明がそれでよいかどうか確認する相手がいないのが難しいところでした。学級の子どもの中から出てきた考えを他の子どもが理解する活動であれば、より子ども同士のかかわりが深くなったと思います。
とはいえ、このような授業に挑戦しているというのはとても素晴らしいことです。挑戦するからこそ、新しい課題が見つかっていくのです。この授業者の意欲と向上心にはいつも感心させられます。私にとっても学びの多い授業でした。

一方もう1つの学級は、2つの考えを別々に取り組んでいました。2つ目の比の値を使う考え方を扱う場面を参観しました。準備段階として、まず2:5=□:10、2:5=4:□といった問題(数字はうろ覚えですが)を教師の主導で解いていきます。比の値2/5を5の下に書き、2と5を線で結びます。2/5の左に×と書いて向きはどっちかと問いかけます。2に2/5をかけると5になるのか、5に2/5をかけると2になるのかを聞いているのです。比の値の基準になる5に2/5をかけると比の一方2が出てくることを意識させようというわけです。矢印を5から2に向かうように付け加えて、反対側の辺にも同じ矢印と×2/5を書きます。これを元に□を求めます。比の関係を表わすことができれば、「与えられた数×比の値=□」という形か、「□×比の値=与えられた数」か、どちらかのより簡単な問題に帰着できます。算数・数学的に汎用性のあるよい考え方です。
1つひとつのステップを授業者が子どもに確認してから、□を求める。続いて説明なしで、自力で解かせる。スモールステップを意識しています。自力で解かせる問題は2:5=□:15です。本時の中心となる課題は、砂糖と小麦粉が2:5で、小麦粉150グラムのときの砂糖の量を求めるものです。よく考えて数も決めています。教材研究をしっかりしていることがよくわかります。
ただ、「×比の値」のところを、もう少していねいに説明してほしいと思いました。比の値は後ろの数を基準に考えて、前の数を後ろの数で割ったものが定義です。そのことから「基準×比の値」で前の数が出ることを意識させたいのです。この後で学習する速さは、進んだ距離とかかった時間の比の問題と考えることができます。時間を基準にしたときの比の値が速さなので、比の応用的な問題と考えることができるのです。比の値の定義と基本的な式の関係を意識しておさえておくことで、うまく比と速さをつなぐことができると思います。
子どもの手があまり挙がらなかった場面がありました。一般的には、挙手の数が少なければ、まず相談させてから再び聞くことが多いと思います。しかし、授業者は1人を指名して答えさせた後、隣同士で相談させました。子どもたちは発言をよく聞いていたのでしょう。しっかりと話し合っていました。また、先に隣同士で相談させてから、挙手させる場面もありました。この時は、多くの手が挙がりました。授業者はそれぞれの場面でどのようなことを意図して進め方を選んだのでしょうか。直接聞くことはできませんでしたが、興味のあるところです。
先ほどの授業とはアプローチは全く違いますが、この授業もとてもよく考えられた、授業者の意気込みが感じられるものでした。
このような授業を比較して見られる機会はめったにありません。とても幸運でした。この2人は、きっと互いに高め合う関係になれると思います。今後の成長が楽しみです。

ベテランの1年生の担任の、国語の授業のことです。好きなものとその理由を話型に従って書くという場面でした。授業者は終始柔らかい表情で、子どもたちをとてもよく見ています。授業者がつくった例文を、はっきりした声でゆっくりと、文節と句点ではしっかり間を取って読みます。お手本のような読み方です。子どもたちが理解する時間をおいてからもう一度読みました。1年生ですのでこのぐらいていねいにする必要があるのでしょう。子どもたちがしっかり聞き取れていたことがこの後よくわかりました。授業の目当てを板書し、続いて話型を書いた紙を黒板に貼ったあと、先ほどの例文では空欄に何が入るか問いかけました。例文を聞いた後に、目当ての確認という別の活動が入ったため、子どもの記憶は薄れる可能性があります。こういう場合はもう一度例文を確認してから問いかけるのが普通です。しかし、子どもたちは、「先生」は「うさぎ」が好きです。「小さくて、かわいい」からです、と大きな声で言えました。授業者はよく覚えていたと子どもたちをほめました。授業者の例文の読み方がよかったから、しっかり理解されて子どもたちの記憶に残っていたのです。
この後続いて、子どもたちに好きなものとその理由を言わせます。発表を子どもたちは集中して聞いています。授業者は子どもの発言をしっかりと復唱します。子どもを受容すると同時に、学級全体に発言を共有させていました。ある子どもが、うさぎが好きだと答えました。その理由は小さくてふわふわしているからでした。授業者の例と同じうさぎであることを共感しながら、その理由の違い「ふわふわ」をしっかりと押さえました。とてもよい対応です。理由をうまく説明できない子どもに対しては、復唱しながら言葉を整理させていきました。さすがベテラン、見事なものでした。
たまたま同じうさぎが出てきた時に共感してみせましたが、「○○さんと同じ△△が好きな人はいる?」と意図的につないでもよかったでしょう。子どもの聞く姿勢もよかったので、そのことをほめたり、よく聞いている子を活躍させたりする場面をつくってもよかったでしょう。
面白かったのが、授業者が黒板の方を向いている時に子どもの集中力が明らかに落ちることです。1年生なので特にその傾向が強いのでしょう。教師が子どもをしっかり見ることが子どもの集中力に影響があることがよくわかります。

6年生の音楽の授業で、全体で次々に曲を変えながら歌うこととリコーダーの演奏とを切り替えていく場面がありました。子どもはよく鍛えられていて、テンポよく進んでいきます。必要に応じて的確な指示が具体的にされます。指導技術の高さがうかがえます。ただ、曲の変わり目や、歌うことからリコーダーの演奏に切り替わるときに、遅れてしまう子どもがいます。全員の準備が整うまで、間奏を続けることをしてもよいのではと思いました。この授業者ならできるはずです。
この場面の前に鑑賞の場面がありました。何人かの子どもに発表させて終わるのですが、発表者の気づいたことに気づけなかった子どももいるはずです。できれば、友だちの気づきを全員が共有できるように、もう一度聞く機会があってもよいと思いました。
残念だったのは、授業者の表情がかたかったことです。私たちが見ているので授業者も緊張していたのかもしれません。子どもたちが緊張気味だったことと授業者の表情との間に何らかの相関性があるように感じました。この授業者が笑顔で授業している場面を見たいと思いました。

ICTを活用している場面で、いくつかの面白い場面がありました。
1つは、副読本を子どもたちに広げさせた後、そのページを実物投影機で映している場面です。地図上の施設を探させるのですが、子どもは自分の手元を見ます。「ここにある」と授業者がスクリーンで示しますが、子どもの顔はあまりあがりません。授業者は見つけたら指で押さえるように指示しましたが、この活動のねらいが今一つよくわかりませんでした。自分で見つけることを大切にしたいのであれば、スクリーンに映して答を示すのではなく、指で押さえて隣同士で確認し合えばよいでしょう。見つけることよりも確認することが大切だと思うのであれば、副読本を開かずに全員に顔を上げてスクリーンを見させた方がより集中できたと思います。
一方、全員に教科書を閉じさせてから、スクリーンに映している授業もありました。子どもたちの集中度が一気に高まったのがわかります。ICTのよさがよくわかる場面でした。
もう1つは、実物投影機を使って作業の手順を説明する場面でした。見事だと思ったのは、手元をほとんど見ずに子どもの方をずっと見ながら、作業を進め、説明していたことです。実物投影機を使い慣れている方でも、なかなか手元を見ずに使うことはできません。そもそも子どもを見ることをよほど意識していないと、手元を見ずに使おうとは思わないものです。ベテランの方でしたが、授業に対する姿勢がそこに現れていると思いました。そのあとすぐに子どもたちは教室の外で活動しましたが、教室での授業場面をもっと見たいと思わせるものでした。

この日は、若手の頑張りとベテランの素晴らしさをたくさん見ることができました。とても刺激的で学びの多い1日でした。
ミニ講演については、日を改めて(「予定外の形になったミニ講演(長文)」)。

伸びる先生の条件(その3)

以前に伸びる先生の条件について書かせていただきました(伸びる先生の条件伸びる先生の条件(その2)参照)。「素直」「謙虚」「向上心」といった資質や「目指す教師像」を明確に持つことが大切であることをお伝えしました。私の授業アドバイスや授業研究をきっかけに伸びる先生は、先ほどの条件を満たしていることはもちろんですが、そのほかにも共通していることがあります。「非日常を日常に変える役割」でも書きましたが、私のアドバイスや授業研究は非日常です。それをきっかけに、指摘されたことを意識して毎日の授業をおこなっていることです。非日常を日常に変えているのです。

わずかな期間で授業がよい方向へ変わった先生に、どのようなことに気をつけたかを聞くと、多くの場合、ほんの1つか2つのことだけを意識したと返事が返ってきます。たとえ「子どもの言葉を否定しない」「いつも笑顔を忘れない」「指示は必ず確認する」といった基本的なことであっても、たくさんのものが上がってくることは稀です。今自分に必要なこと、やれそうなことを地道に毎日続けているのです。
複数の先生方に同時にアドバイスしても、何が残るかは人によって異なります。大切なことは何が残るのかではなく、続くかです。指摘されたことを全部「よし、明日からきちんとやるぞ」と意気込んでも3日坊主では何も変わりません。続けられそうなことに絞って、やり続けていくことが大切です。
意識しておこなっていることもやがては習慣となり、無意識におこなえるようになります。無意識にできるようになれば、次のことを意識しておこなう余力が生まれます。こうして少しずつ、しかし確実に進歩していくのです。

もう一つ共通していることは、子どもをよく見ているということです。意識しておこなっているからといって、実行することが目的ではありません。その先に必ず子どもの姿があります。彼らはどのような子どもの姿を見たいかも意識できています。人は、見たい、見ようと思っていないことには気づけません。漠然と子どもを眺めていても何も情報は入ってきません。意識して見ることが必要なのです。
最近よく例に出すのが信号の赤は右か左かです。これに即答できる人は意外と少ないのです。生まれて今まで何千回と見ているはずなのにです。しかし、意識して見れば誰でもすぐにわかります。子どもを見るということもこれと似ています。おこなっていることと見たい姿が対になって、子どもが見えるようになるのです。子どもを集中させたいと思って顔を上げるように指示したのなら、子どもが集中しているかどうか意識して見ます。集中していることがわかれば、自分の対応はよかったのだと自信がついてきます。集中していなければ、どこがいけなかったか、どうすればよいかを考えます。新たな工夫を自然にするようになります。子どもを見るというのはこういうことなのです。

授業では「一時に一事の原則」と言われるものがあります。指示はいくつかをまとめるのではなく、1つ1つに分けて、できたことを確認してから次の指示をするというものです。教師の成長もこれと似ているのかもしれません。自分にやれることを1つずつ地道に取り組み、確実にできるようにしていく。このことの積み重ねです。伸びる先生は、非日常で得たことを意識して日常に変え続けているのです。
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